闇の陸
結局、全員にプロポーズ?の後、二人(主にクラウディア)にこの世界の一般常識などを教えてもラう事になった。その中で重要な事…いや、重要なことだらけなのだが、主にすぐ必要になりそうなことは
1.貨幣は、良く分からない鉄貨を1ロミーとし、銅貨が100、銀貨が1万、金貨が100万と解り易く100倍となっている。問題は、鉄製とかじゃらじゃら持ってたら重そうだなって事か?
2.法律に関しては犯罪ダメ!だけの緩い感じだった。自警団みたいな町会人がいるとは言え、上手くやれば完全犯罪が可能そうな感じだ。もちろん、俺の個人的な感想なので口にはしなかった。
3.生活レベルについては、水道などの設備は整っているので思った以上に良い物だった。話を聞いて可能性が高そうだと思ったのは、俺たちの前にすでに転移者が来ていて改革を行ったのではないかという事だ。更に、時間の管理も地球の暦にかなり類似している点からも、ほぼ間違いないだろうと思われる。ただ、表立って転移者がいたと言う話はないと言う話だから、異世界関連の話は他者の前では禁句とした。
4.魔法については分からない事が多いようだ。様々な魔法を使う者が現れ、使える魔法に応じて○○魔法使いと呼ぶようだ。ただ、魔法使いは職業ではないらしい。もちろん、ギルドの職業に就く時は優遇される。まあ、俺が良い例だな…
5.魔物については分からない事も多いが、分かっている事をまとめると大体こんな感じだ。
魔物は、魔源泉と呼ばれる泉から出るとされる魔素が原因で発生する、人間を害する生物全ての総称らしい。つまり、魔物と一言で言っても色々いるという事だ。
しかし、一番多いのはその魔源泉からまさに湧き出してくる生物の事らしい。そして、魔源泉によって浸食された土から生まれた植物などから汚染された動物なども魔物と化す。つまり、魔源泉が元となって多くの魔物が増えるという事だ。
厄介なのは、魔源泉が出現する要因が分からない事。つまり、いつどこに現れても可笑しくないという事で、運が良いからなのか何か原因があるからなのかは分からないが、現在まで街中に突然出現したことはないと言う。
そして、魔源泉から湧き出た魔物は、魔源泉から大きく離れることはないらしく、魔源泉を中心とした魔物の活動範囲全てを総称して魔元と呼び、許可なく入る事を禁止している。だが、範囲が刻一刻と変わってしまう事があるらしく、正確な線引きが出来ずに被害が出る事もあるようだ。
これは俺の勝手な推測だが、魔法使いの魔法も、この魔源泉が原因ではないかと思っている。と言うのも、魔源泉が原因で動物が魔素に侵されると魔物となるようだが、人間の魔物化は確認されていない。つまりは、そう言う事だと俺は思っている。ある程度聡い者ならば、この推測をすでに立てていると思われる。同時に、言わない理由も分かるので、公にしていないだけかもしれない。魔法だしな…
これらの情報から考えても、俺たちがこの世界にやって来たその場所が、魔元の真っただ中だったのは間違いないだろう。俺に能力が無ければ、魔物の餌か何かになっていただろうな…
とりあえず、細かい事はまだまだたくさんあるが、後は必要な時に考えれば良さそうだ。当面は、運が良い事にこうして拠点を手に入れられたのでゆっくり考えて行こうと思う。
クラウディアの話を聞いていたら遅くなったので、件の大部屋にて昨夜は寝る事になったのだが、実は俺は寝ていない。目を瞑りつつダークアイで森を探索していた。因みに、俺たちのいた魔元の森は「ガジュームの森」と言われていて、その名の通りガジュームと言う魔物が主として住んでいるようだ。このように、魔元は一番多い魔物と、地形を合わせた名で呼ばれることが多いようだ。
ガジュームの見た目は、象以上の大きさの犀と言えば良いか?もちろん、細かい見た目は違うが、一番近いのがそんな表現だ。余談だが、その皮膚は弾力が凄く切れ味の良い刃物以外は寄せ付けないらしい。ダークウォールの前では無力だったが…素材としての価値は高めなのでまだ収納にあるなら買い取りたいとクラウディアに言われた。
話が逸れたが、俺が森を必至に探索しているのには勿論理由がある。それは、谷口と、いる可能性が高い、磯貝と女子3人の捜索だ。あの状況で、磯貝たちだけがこちらに飛ばされなくてラッキーだと楽観視出来るわけがない。
つまり、早く発見出来なければ生存率は下がる一方だろう。一緒にいる女子たちもその辺りは思い当たっているだろうけど、何も言わない。恐らく、俺一人に負担が行くのが分かっているからだろう。だからこそ、俺はこっそりと探索している。
だが、もし森にまだ居るのなら生存は絶望的だと言わざるを得ない。何故なら、ダークウォールで処分する魔物の数が凄い事になっているからだ。それでも諦められないのは、彼らが死んだ証拠など、何も出ていないからだ。もしかすると、すでにこの町に辿り着いている可能性も否定出来ないが…シュバルドの反応からすると普通に町に入った可能性はかなり低い。
もちろん、様々な可能性がある都合、町の中も探索しなければならないだろう。だから、今日は街中を中心に探すつもりだ。だが、ダークアイを街中に飛ばすのは避けたい。昨日も、暗いから平気だろうと思い飛ばしたら、危うく見つかるところだったからな…人間の直感力は意外と侮れない。
しかし、暗黒王子は反則だな。昨日は眠ってしまったが、こうして起きていても、動かずにじっとしているだけで身体に活力がみなぎって来るのを感じる。恐らくだが、睡眠をとる必要がないのかもしれないな…
そんな事を考えていると、もそもそと起き出す気配を感じた。現時刻は不明だが、まだまだ火が出ていない時間だ。みんなの希望で、とてつもなく大きなベッドで全員一緒に寝ている。もちろん、俺の能力を無駄に使って作った巨大ベッドだ。幸いにも、この屋敷に夜襲をかけて来る輩はいなかった。まあ、まだ敵を作った覚えは…ほとんどないしな。っと、それよりも
「クラウディア、どうかしたのか?」
「あ、起こしてしまいましたか?」
「いや、起きていただけだから気にしないでくれ」
そう言ってから、隣に寝ているぱいんと向日葵を起こさない様に注意しながら身体を起こした。
「えっと、朝食を作ろうと思いまして」
「そうか、手間をかけるな」
「いえ!私、料理が好きですし」
少し大きな声を出したクラウディアに対して、人差し指を口に立てて静かにと合図を出すと、後半は声を潜めてくれようだ。なるほど、この合図はこちらの世界でも通じるんだな。
「それなら、俺も手伝おう」
「わ、私一人でも…」
「手伝わせてくれないか?ただ、簡単な事しか手伝えないのが心苦しいが…」
「そんなこと!?ないです…そう言って貰えるだけでも嬉しいので」
第三者がいたらいちゃついてんじゃねぇ!とか言われそうだな。そんな事を考えながら、そっと抜け出して、クラウディアと連れ立ってキッチンへと向かった。
「ふんふんふーん♪」
「クラウディアは、本当に料理が好きなんだね」
「はい♪それに、うみさんに食べて貰えると思うと…その…」
真っ赤になってモジモジしているクラウディアは可愛いけどな…
「すまない。照れているクラウディアは、可愛いからずっと見ていたいけど、今は料理に集中しようか」
「あ!?ご、ごめんなさい…可愛いって…そんな…」
ちょっと照れが残ってる感じだけど、料理には影響しない程度の様なので口を閉ざす。暗黒王子様が口を開くと、クラウディアを困らせるだけみたいだからな。
それから、二人(ほぼクラウディア一人)で料理をしたが、匂いにつられるように人が集まって来て、出来上がるころには全員が食卓となる場所に集まっていた。
クラウディアとフェルテにも、いただきますの概念を軽く説明してから、全員でいただきますと言ったのち朝食を食べた。
こちらの世界の食事だから、多少は警戒したが、見た目は多少見慣れない色合いのものがあったが、今回の料理は受け付けないような形などの物はなかった。味は勿論、美味しかったな。間違いなく、クラウディアの料理の腕が良かったからだろうな。
「食べ終わったようなので聞いて欲しい。今日、この後の予定について何だが…」
「私たちはここに残って話し合う事にしたからね」
俺から提案をする前に、ぱいんがそう告げて来た。彼女の独断とは思っていないが、一応全員を見渡すと同意のようなしぐさが見られた。
「海は、これから色々な事をするんだと思うけど、全員でついて行くのは色々動きが制限されてしまうと思うの。だから、私たちで話し合って海について行く人数を絞ろうと思ってるんだ」
「なるほど…」
俺も、全員を連れて歩くのは難しいとは思っていた。ただ、守ると言う観点から見れば連れて歩くのが一番ではある。しかし、俺にはダークウォールをはじめとしたチートとしか言えない能力があるわけだ。だから、ここに居てもらった方が逆に安全なのかもしれないな。もちろん、何人か連れていくくらいなら全く問題ないだろうと思っている。
「それに、今後ずっと私たちも何もしないでいるわけにはいかないからね。家の中で出来る事とか検討しようと思ってるの。料理位は出来るようになりたいし…」
そう言って、ぱいんは食べ終わった食器類を見た。恐らく、俺に手料理を食べさせたいとか思ってくれているのだろう。…違ったら恥ずかしいな!
「正解です!海さんに、手料理を食べてもらいたいとみんな思っているんですよ!あ、因みに私は料理は得意です!ただ、こちらの食材の事や、調理器具の事も、習わないといけませんので…」
ちょいちょい思考を読まれるのは女子の能力と思って良いのだろうか?まあ、それはともかくとして…クラウディアの負担が大きそうで心配ではあるな。
「クラウディア…」
「好きな人に手料理を振舞いたいと言う気持ちは凄く分かります!出来る限り協力しますよ」
にっこり笑いながら協力を申し出るクラウディア。いや、天使だな…
「料理は教えてもらうけど、海を独占はさせないからね?」
「そうです!それだけはさせませんよ!!」
「そんなつもりないですよ!?そんな事考えていませんからね!?」
わたわたしているクラウディアも可愛いな。む?手の締め付けが少し強まったな…嫉妬か。俺が、クラウディアに一々見惚れているのが気に入らないのだろうな。気を付けようにも、こればっかりは不意打ちだからどうにもならないんだ、すまん。
お詫びも兼ねて、腕に抱き着いて来たぱいんと美乃梨を抱き寄せた。すると、胸に顔を埋めて来たのだが、それが他の女子の嫉妬の引き金になってしまった。
まさか、出掛ける前にみんなを満足させることになるとは思わなかった。内容は、一人ずつお姫様抱っこして、胸に顔を埋めさせながら頭を撫でると言う何とも気恥ずかしいものだった。お陰で、お昼くらいになってしまったいたとか、笑い話で良いのかね?
「やはり、ギルド長ともなると忙しいんだな」
「当たり前です。昨日もサボったみたいなものですし、連行されても仕方ないですよ」
「はは、確かに連行されていったようにしか見えなかったな」
そう、朝食の途中でフェルテは、ギルド員に拉致されていったのだ。仕事が溜まり過ぎてどうにもなりません!!と必死な形相で訴えられては、さすがのフェルテも行くしかなかったのだ。まあ、俺に手を伸ばして助けを求めていた気がするのは、気のせいと言うものだろう。
「普段はあんな感じですが、ちゃんとギルド長としての職務は全うしているんですよ?私と一緒の時は、すぐに頼ろうとしてきますので、そうは見えないかもしれないですが…」
なるほど、クラウディアに頼ってしまいたくなる気持ちは分かる。彼女は何か…頼りたくなるような凛々しさも兼ね備えているからな。だからこそ、照れたり慌てたりすると、余計に可愛く見えるんだろうけども。
現在、自分の家を出てギルドへと向かっている。もちろん、ギルドに用事があるからだ。そして、クラスメートのみんなが付いて来ないという事は、必然的にクラウディアと二人きりという事なんだが
「クラウディア、そんなに嬉しいのかな?」
「は、はい!だって…大好きな人と手を繋ぎながら歩くなんて…一昨日までの私には夢のまた夢でしたから…」
そう言って、俺の方を熱っぽい眼差しで見つめて来るクラウディア。やばい、抱きしめたくなるから止めて下さい!?
「そうか、それは俺も嬉しくなってしまうな」
「・・・ぁぅ」
真っ赤になって俯いてしまった、変な事を言ったか?まあ、暗黒王子様耐性が一番低そうだからな、クラウディアは。
その後、他愛のない会話をしながらギルドに着き、中に入る。すると…
「旦那様!助けてなのだー!!みんなが、私を監禁しようとするのだー!!」
と、必死にこちらに走って来るフェルテが出迎えた。そして、躊躇なく俺に飛びついて来た。俺は、仕方ないので軽く彼女を抱き留めてから、追って来た人達へと向き合った。
「詳しく聞いても?」
「監禁なんてとんでもありません!我々はただ、ギルド長に溜まった仕事をして頂こうとしているだけです!!」
「それが監禁なのだー!!もう、嫌なのだー!!旦那様と一緒に居たいのだー!!」
なるほど、俺の傍に居たいから仕事したくないと?オッケーと言いたいところだが、さすがにそれは彼らが可哀そうだろう…
「クラウディア、フェルテしか出来ない仕事はそんなに多いのかな?」
俺は、抱き留めたフェルテを優しく撫でながらクラウディアに質問した。
「そうですね、ここ数日サボっていらしたので今日一日は真剣に取り掛からないと目途が立たないくらいには多いですね」
「な、何の事か分からないのだー」
と言いつつ、目があちこちに泳いでいるフェルテ。なるほど、自分でためたつけに苦しめられていると言う事か…それなら、
「フェルテ、今日はしっかりと頑張って仕事をしてみないかな?」
「だって…旦那様と…」
「頑張って仕事を終わらせられたら、夜はゆっくり膝の上で頭を撫でてあげるよ?」
「!?が、頑張るのだー!!ほら!早く仕事を終わらせるのだ!みんな、ついてくるのだー!!!」
よほど撫でられるのが好きなのか、凄い勢いでギルド員たちを引き連れてフェルテは去って行った。
「凄い効果ですね…」
「俺が一番驚いたよ。さて、魔物の素材の換金をお願い出来るかな?」
「はい、全部はさすがに無理でしょうけど、大分進んでいるはずです。狩人課まで向かいましょう。そこで、清算いたしますので」
そう言って、先を進むクラウディアについて行き、魔物の一部らしいが、その素材の買い取り報酬を受け取った。何と、金貨15枚…1500万ロミー以上と言う恐ろしい金額だった。金貨が一番上の硬貨であるので分かるように、この金額は俺たち全員が10年は遊んで暮らせる金額と言う話だ。しかも、まだこれで半分も解体作業が終わっていないと言うから笑うしかない。
「ギルドの資金は大丈夫なのか?」
「はい、即金ディルガメールが丸ごと売れましたので、当分は安泰かと」
金額を聞きたいが止めておこう。平々凡々に暮らして来た庶民には、計れないほどの金額だと思われるからな。
「ディルガメールの件は、本当にありがとうございます。実は、あの屋敷の件でギルドがかなり圧迫されておりましたので…」
聞けば、あの屋敷の所有者であった元ギルド員のせいで、相当なお金が飛んで行ったらしい。信用を取り戻すためのあれこれや、他の怪しいギルド員の調査などに。だが、一番はやはり被害者への補填だったようだ。恐ろしくて詳細など聞けないが…
「まあ、お役に立てたようでなによりだ」
そう言ってにかっと笑うと、ありがとうございますと返事をしながら照れてしまっていた。真っ赤になっている彼女を見てしみじみ思う、本当にピュアな娘やなぁ。
「それじゃあ、俺はこれから町を探索するから、夜にまた」
短く話して去ろうとしたが、やはり彼女は付いてくる気だったようで
「それなら、私が案内を」
「大丈夫だよ、クラウディアも仕事がたまっているんじゃないか?見たところ、君はみんなに頼られているみたいだし」
さっきから、クラウディアに話し掛けたくて仕方ないと言う表情をしたギルド員が多数見受けられた。その人たちの、クラウディアがついて行くと言った時に見せた絶望の表情と言ったら…可愛そうになるくらいだった。
「その代わり、クラウディアも俺の膝の上で良かったら撫でてあげるから頑張ってな」
と、他に聞こえない様に耳打ちしたら、彼女は分かりやすく真っ赤になった。
俺は、わ、私は別に…嬉しくないわけではないのですが…ともじもじしているクラウディアに、行って来るよと声を掛けてギルドを後にした。ちょっと強引だったかもしれない。
それから、町を見て回った。隅々まで見て俺は確信した、この町にも闇があると。一見、素晴らしい街並みだ。発展し、活気がある。だが、その分貧富の差が出てしまうのは必然なのだろう。裏町…スラムに近い区域があった。全てを諦めた目をした者、ひたすら下手に出て物乞いをする者、こちらの隙を伺い奪おうとする者。そして…様々な悪事を企む者。
色々な理由から、恨み妬みなどの負の感情に捕らわれる。俺だって、そう言った感情を持ったことはある。だが、自分の安全がある程度保障されている日本とは違うのだ。命に対する倫理観は、そんな日本とは比べるべくもないだろう。つまり、スラムで起こっているであろう日本で言う所の犯罪は、こちらでは日常的な事で済まされている可能性があるという事だ。
もちろん、ある程度は表沙汰になって裁かれるだろう。だが、多くは気付かれもしない。もしくは、気付かれても裁けない、返り討ちにあうなどの理不尽な事も多々あるだろう。だからこそ、俺は妻になる予定のみんなを、絶対にそんな理不尽から守り抜く。
そして、一緒に居ない5人も守ってやりたいと思っている。自分が力を得たからこんな考え方をしているんだとは思っている。だけど、いや、だからこそ、それを貫いてみたい。今まで、こんなに何かを成そうとしたことはなかったんだ、今度こそ最後まで貫けるように頑張りたい。例えこの考えが、暗黒王子としての思考に引っ張られていたとしても…
残念ながら、町での散策では何も得られなかった。裏町をぱいんたちには歩かせられないという事が分かっただけでも収穫としておこう。何故か?2回ほど襲われたからだ。まあ何だ、相手にもせずにやり過ごしてやったがな。どうやってか?ダークウォールで数瞬目隠しし、ダークゲートで移動しただけだ。
ダークゲートとは、簡単に言うとどこでも○○みたいなものだ。中学生の俺が考えたんだぞ?在り来たりですいませんだ。単純だからこそ破格な能力なんだけどな。ただ、俺専用なのが問題だな。途中でカオスワールドを通過する都合、無事で済むのは俺だけになってしまうからな…
それにもう一つ問題がある。カオスワールドに一度行くせいだと思うが、多少自分の想定と違う場所に出てしまうという事だ。二回目の移動は、危うく人に見られるところだった。よって、カオスゲートを常に我が家につなげておこうと言う結論になった。常に一ヶ所でも出口を用意して置けば、そこから出るだけならずれる事もないからな。
そして、5人の捜索については今日も進展なしだと思われた夜の事、夕食後の雑談の何気ない会話が、俺に嫌な予感として衝撃を与えた。
「奴隷…?この国…この町では奴隷が認められているのか!?」
俺の余りの剣幕に、フェルテが硬直した。フェルテは悪くはない、ただ一つの知識として奴隷制度の話をしていただけだ。落ち着け俺…
「すまない、フェルテ。俺たちの世界では、奴隷など過去の遺物なんだ。倫理的に、到底認められない制度なんだよ」
「そ、そうなの?私が怒らせたわけじゃないですよねぇ?」
「すまない、もう怒鳴らないから許してくれ…」
「は、はいぃ…」
現在、俺はフェルテを膝枕していた。正確には、ソファーに座っている俺の膝の上に、ソファーに寝転んでいるフェルテの頭が乗っている感じだ。そして、叫ぶ前から彼女の頭を撫でていたのだが、叫んでしまったお詫びも兼ねて優しく撫で続けている。
「奴隷についてはぁ…そのぉ…私も良い事だとは思ってないんですよぉ?でもぉ、そのぉ…昔から認められている事だからぁ…それでぇ…」
言いたいことは分かる。もし、日本にも奴隷制度が合法化されていたとしたら、俺はそれを受け入れてしまっていただろう。結局は、育った環境によるモラルの問題だ。まあ、だからこそ俺には受け入れることが出来ないわけだが…
それに、さっきから感じている嫌な予感は何だ?こんな胸騒ぎ、生まれてからこの方、感じた事がない。奴隷と言う言葉を聞いてから、全く心が落ち着かない。もしかして・・・
「フェルテ、奴隷を扱っている場所を知っているか?」
「えぇ?も、もしかして全員を解放するつもりなんですかぁ?流石に、全員を買うとしたらお金が足りないと思うんですけどぉ…」
買う…か。その言葉自体がずれてはいるけど、さすがにそんな事はしない。ただ、もしかしたら…
「実は、俺たちの世界から来た人間がそこに売られているかもしれない」
「えぇ!?で、でもぉ…奴隷はぁ、犯罪者かぁ、お金が無くて売られた者しかぁ…あぁっ!?」
「気が付いたか?俺たちと同じようにお金なんて持っていない状態でこっちに来たんだ。食べ物を得るために、犯罪に手を染めて捕まった可能性がある。でも、それ以上に可能性が高いと思っているのは、身なりの良い格好をした人間を捕らえて売りさばこうとする者に、捕まってしまったのではないかという事だ」
「・・・その可能性はあると思いますぅ。情けない話だと思うけどぉ、町の全てをギルドが管理するのは到底無理なんですよぉ…」
「いや、それは当たり前だ。これだけ繁栄している町に、闇が全くないはずがないからな」
申し訳なさそうな表情をしているフェルテを、優しく撫でて諭す。安全な国だとされている日本ですら犯罪はなくらないんだ。こんな世界の町で、完全に犯罪をなくすとしたら、それはまさに魔法にでも頼らなければ無理だろう。俺の能力なら犯罪をなくすことは出来るかもしれないが…やりたくはないな。
「奴隷を扱う店へのガサ入れ…違反売買をしていないかの確認はやっているのか?」
「は、はいぃ。一ヶ月に一回は必ずやっているんですけどぉ…」
「行っているのは同じ人物じゃないよな?」
「それはさすがにないですよぉ。問題があるとすればぁ、監査日が漏れている可能性がある事ですかねぇ?」
「そうか…何か対策は?」
「監査する対象が多すぎてぇ、全てに手をかけられない状況なんですぅ…ごめんなさいぃ」
「いや、すまない。別に、ギルド長であるフェルテを責めているわけじゃない。大体、何とか出来る環境でもなさそうだから仕方ないさ」
フェルテを撫でながら考える。それは、この世界にやって来たであろう残りのメンバー全員が奴隷落ちしている可能性だ。俺のこの胸の内から来る不安が確かなら、かなり高いと思われる。もちろん、杞憂である可能性もあるが、今日の同時進行でやっていた森の探索も全く進展がなかった。つまりは…
「フェルテ、明日は抜き打ちで奴隷商へ訪問を行わないか?」
「それってぇ…」
「いや、フェルテには場所を教えてもらうだけで良い。…それとも、何か奴隷を買うための条件などあるのか?」
「な、ないですけどぉ…そのぉ…うみの同郷の人が売られていても冷静でいられますかぁ?」
「心配してくれてありがとう。大丈夫だ、俺にはフェルテを含めた可愛い妻たちを守り続けると言う大事な使命があるからね。無茶なんてしないさ」
にっこりと笑いかける俺を見つめ続けるフェルテ。そして、見つめ続けた末に
「絶対に無理しないって約束してくださいぃ…」
とても真剣な表情でそう言って来た。しがみ付くように俺の服を握る手が、本当は行って欲しくないと語っているようだった。しかし
「もちろんだ。もし、怪我でもして帰って来たら、フェルテのお願いを何でも聞いてあげるよ」
「それではぁ、絶対に戻って来るって言うお願いを聞いて欲しいですぅ…」
それはお願いになるのか?すでに戻って来た後の話なんだけど…いや、それだけ真剣に考えてくれているって事だろう。何か、過去にあったのかもしれない…大事な人が、帰ってこなかった…とか?…流石に、まだ聞く勇気はないな…
「心配するな、と言っても聞けないんだろうね?それじゃあ、心配してくれた分、戻って来てからたくさん撫でて安心させてあげるよ。だから、俺を信じて待っていて欲しい」
「…分かりましたぁ、うみを信じますぅ」
うん、我ながら精神論しか出て来ませんね。まあ、俺だから仕方ないな?それにしても、口調が自分で言ってるのにモヤッとするな…
「ありがとう」
そう言って、フェルテにキスをした。いや、キスまでする必要あったのか?
「は、はいぃぃぃ…」
ほら、フェルテが恥ずかしそうに…
「はい、アウト!!」
おわぁ!?照れたフェルテを見ていたら、いきなりぱいんの顔が割り込んで来た!?
「アウトって何だい?」
「アウトはアウトだよ!!膝枕で撫でるまでは、約束みたいだから許したけど、キスまではやりすぎだよ!レッドカードだよ!!」
レッドカードっすか…いきなり退場はきつくないか?
「と言うわけで、私にも膝枕で撫でながらキスを所望するよ!拒否権はないからね!!」
「次は私でお願いします!!」
ぱいん、美乃梨と続き、更に全員が膝枕で撫でながらキス権を主張して来た!?いや、何するにも全員にしないとダメなのか?これは、暗黒王子様に自重して頂きたい問題だな…身体が持たないと言う事態に発展…しないか?暗黒王子がタフすぎて逆に困るな…
大方の予想通り、全員に同じ事をすることになった。まあ、拒否権なかったしな?その後、クラウディアにも膝枕しながら頭を撫でたが、暗黒王子が暴走しないように非常に気を使った。まあ、相変わらず外面は完璧だったけどな…
その日も俺の隣を巡る熾烈な争い?が起こった以外には特に何もなく就寝となった。まあ、俺は寝ずに夜の作業に移っただけだがね?
そうそう、ぱいんたちの話し合いは結構難航しているそうだ。まあ、正確には様々な順番が決まらないのだとか。全員が納得するにはもう少しかかりそうだとか…俺からは何にも言えない、全部俺の生だからな…
それはともかくとして、今日はフェルテから聞いた奴隷商を下見する事にしたが、中までは覗かなかった。正直、中を見てしまったら全てを更地にしてしまうかもしれないからだ。それくらい、俺の中では奴隷に対する禁忌感がある。
だから、場所を確認しただけで我慢した。正直な所、こうしている間にもクラスメートが酷い目にあわされているかもしれないと思うと気が気ではないのだが…
憂さ晴らしではないが、森の探索が捗った。もう、カオスワールド内の魔物が凄い数になっている。これ、お金に困らない仕様となってますな。暗黒王子は金持ちだ…チート過ぎて冒険出来ないな…
しかし、最後に少しだけ奴隷商への確認をチラッとだけしようと覗いた時、予想外の情報が入ってしまった。俺は、それを聞いてクラスメートの女子だと何故か確信してしまった。その内容…外に出て来た数人の男の話はこうだ。
肌艶の良い若い女性が今回の奴隷オークションの目玉になるだろう、と。
俺の中で、奴隷オークションへの参加が確定した瞬間だった。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。遅れました、申し訳ない。投稿返済が終わるのはいつになるのか?そして、中々進行しないのは仕様です!はい、何とかしないとですね…