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闇の伍

この世界に名前はない。いや、現状で出会った者は知らないだけなのかもしれない。そんな世界だが、この町、ラグリムの上には国と言うものがある。その名前は、バランドア。


 国の中心となる大きな町は4つ。北のザラメル、南のメドルス、東のゲマニー、西のマザイラ。その中の一番大きな町であるザラメルは、国王が住んでおり、ダンジョン産業を主とし繁栄して来た。さすが異世界、ダンジョンがあるってだけで気分は爆上がりだ。おっと…


 次にメドルスは、優秀な職人が多く、そう言った者たちを育成する学業を中心として成り立ってきた。その特色上、平均年齢が低く、出会いを求めて若者が多く集まり、その結果、若者向けの商売が賑わっている。


 そして、ゲマニーは近くに魔物が現れる森などが多く、必然と狩人の数も多くなり、戦闘面で優れた町となった。現在の町ラグリムも、ゲマニーに位置が近い事から傾向も似通ったのだと言う。因みに、ダンジョンに入るにはそれなりの力を示せば職業など関係なく入ることが出来るようだ。


 最後に、マザイラは主に食品関連の発展で栄えて来た。美味しい物や、長期保存が効ものなど、色々な食べ物がこの町から出回って行く。言わば、この国の台所のような場所だ。いつか行ってみたいと情報源が目をキラキラさせていた。…もう良いか?


 他にもいくつか分かった事があるが、俺自身に特に意味のある内容は、


1.ギルドに所属する者には、功績によってランク付けされる。職業によって功績となる業務は異なる。ランクはギルドバッジの色で示されており、下から、白、青、緑、赤、銅(黄)、銀、金、虹(少なくとも7色以上を使っている)となっている。


2.ギルドは各町にあり、それぞれが連携はするが、功績によるランクはそれぞれの町で違う。ギルドカードは存在するが、他の町では身分証にしかならない。もちろん、ランクによって知名度は変わるので、ある程度は優遇されることはあるが、各町のギルドに一任されているようだ。


 他にもためになった話は多々あったが、それは生活レベルの事も多いので割愛して置く。そして…



「ほう、ここが我が城となる建物か」


「そうなのだ!私たちの愛の巣なのだ!」


「その私たちには、私も入っているんですよね?」


「クラウディアは、小姑枠なのだ!」


「プライベートタイムなので、その冗談は受け入れられませんよ?」


「ひぃぃい!?夜叉が現れたのだー!助けてーなのだー!!」


「あ!ずるいですよ!!」


 そんな感じで、俺に両脇から抱き着いて来るフェルテとクラウディア。そして、二人を射殺さんばかりに睨みつけているぱいんと、隣で便乗しようと狙っている美乃梨。更にその後ろで、他の7人が当惑した顔で俺たちを見守っている。


 現在、日が落ち暗くなり始めている。どうしてこのような事態になったのかは、今日のギルドでの出来事を振り返らなければならないだろう。説明などをギルド長室で受けた後の事だ。






「ギルド長と人気受付嬢を娶るに当たって、力を示して欲しいのだ!」


「わ、私は別に力など気にしていないのですが…」


「え!?私だけ悪者にする気なのか!?酷いのだー!!」


 いや待て、何で二人ともすでに俺の妻になる気満々なの?もしや、暗黒王子のキスって洗脳効果あるんじゃないか?


 例のノートに書かれた内容を必至に思い出してみるが、そんな事を書いた記憶はさすがにない。…はず


「分かった、力を示して余計な摩擦を抑制するって事だな?」


「そ、そうなのだ!さすが、私の旦那様なのだ!!」


「そこまで深く考えているようには見えませんでしたが…」


「そ、そんなことないのだ!クラウはいつも、私をお子様扱いし過ぎなのだ!!」


 腕を振り上げて威嚇?しているが、全然怖くない。むしろ、余計におこちゃま具合が上がっているだけだ。


「大体、うみもうみなのだ!!こんなにお嫁さんがいるなんて、町の上役でも聞いた事がないのだ!!」


 そりゃそうだろう?俺自身が信じられない位だからな!何て言えないが…


「魅力的過ぎる女性が多い世の中が悪いんだ」


 はい、回答終了。暗黒王子はブレないんだよ…


「良く分からないけど、凄い自信なのだ…」


 うむ、暗黒王子の9割は、自信で出来ているんだ、多分。


「それに!私が11番目とか納得いかないのだ!!クラウ!せめて10番目を譲るのだ!!」


 キスの順番からすると逆なのだが、フェルテの乱入がなければ絶対に逆になっていたのでこういう順番に独断でした。いや、別にクラウディアの視線が何か怖かったとかないよ?


「ギルド長の命令でもそれは聞けませんね。絶対に譲りません」


 バチバチと二人の間で火花が散る。女性同士の険悪?な空気を、放っておく我らが暗黒王子ではない。先に言っておく、俺はただ二人を止めたいだけだ。


「自分の妻同士が言い争うのは嫌な気分だ。それ以上騒ぐと、その口を封じてしまうよ?」


 そう、こうなってしまう。しかも、口調が凄く優しくなるおまけ付き。でも、言っている事は色狂いだと思うんですよ、ええ。


「「受けて立つのだ(立ちます)!」」


 この世界の女性は強気の人が多いのかもしれない。だが、暗黒王子相手にそれは悪手だ。


 その後、当たり前のように二人をノックアウトし、さらに私も!と寄って来た全員をノックアウトした。俺、この世界に来てから女性をキスで手籠めにしかしてなくないか?後は、ちょっと魔法を使っただけで…いや、これからなんだ!きっと!




「何か満たされたので、とりあえず力を示して貰うのだ!!」


 と言う今いる所は、ギルド内の私闘が出来る唯一の場所らしい。ギルドに所属する6大課のギルド職員が一名はいる事を必須条件とし、更にお互いの合意があれば決闘が許されているのだそうだ。


「それは構わないんだが、相手はあれか?」


「あれとは言ってくれるな?こう見えても、俺は銀ランクの狩人なんだぞ!!」


 そう言って、銀の鷹?のような鳥が描かれたバッジをかかげてみせた。いや、そんな事をしないでも見えていたんだが…


 ただ、見た目がやられ役まっしぐらなマッチョの大柄な男性だったからやめておいた方が良いと言いたかったんだ。これが女性なら、女に甘い暗黒王子だからワンチャンあったんだがな…


 俺は、ため息を一つついてから闘技場の中央に歩み出す。


「時間の無駄だ。さっさと始めてくれ」


 この俺の意見に対し、俺の未来の妻たちからは声援、見学している男性陣からはブーイングが飛んで来た。中には、殺せ!とか過激なのがあるけど、殺すのありなのか?と思い、クラウディアを見てみると


「殺すのはダメですよ?貴重な銀ランクの狩人なので加減してあげて下さいね?」


「ああ、分かった」


 この言を受けて、更にヒートアップしている銀ランク狩人。うむ、美人から信頼されているとかイラつくのは分かるよ。俺も逆だったら、熱くなっていただろうからな…


「それでは、開始なのだ!!」


 空気も読まずにいきなり開始するおこちゃま、もとい、フェルテ。しかし、そこはさすがの暗黒王子。いきなり始まって相手が突っ込んでこようが、余裕でかわして見せた。


「くっ!?思ったよりはやるようだな!!」


「御託は良いから、本気を見せてみろ」


「言われずとも!!」


 そうやって始まった戦いだったが、実に一方的だった。相手は、木剣を振り回して攻撃してくるが、俺としては子供がおもちゃを振り回している程度にも脅威を感じなかった。かわし、いなし、受け止める。その度に、まだやるのか?と問いかけるが中々諦めないマッチョ男。


 周りも、余りの展開に野次を飛ばす事すら忘れて見守っていたくらいだった。そして、


「おい、もう十分だろう?」


「はぁはぁはぁ、ま、まだだぁ!!」


 そう言って、木剣を振り下ろしてくるが、ほとんど自重で振り下ろされる一撃など軽くかわせる。そして、かわされた後の対処すらする余裕がなかったマッチョ男は、地面に豪快に木剣を叩きつけて自滅して倒れた。


「ぐうぅ…」


 腕を痛そうに掴んで倒れ伏している相手に、暗黒王子は止めの一言を言い放つ。


「まだやるのか?」


「か、かわす事しか出来ない奴なんかに!!」


「そうだったな?力を示さないとだった」


「へ?へぼぉふ!?」


 変な声を残して、マッチョ男は数十メートル先の壁まで一直線に飛んで行った。いや…めっちゃ手加減したつもりだったんだけど…ただのボディブローですよ?しかし、意識していないのに今の打撃の重心移動は完璧だった気がする。インパクトからのちの重心移動から相手を飛ばすまでの…って、そんな事考えている場合じゃないな。こんなに飛ぶなんて思わなかったのだよ…暗黒王子はやはりチート過ぎませんか?


「しょ、勝者うみ!!って、やりすぎなのだ!!!」


「すまん、手加減したつもりだったんだが、相手が弱すぎたな」


 やれやれと言う感じで首を振ってみせる。だが、内心では殺してないか気が気ではなかった。だって、半分訓練みたいなものだろ?自分でもやり過ぎてしまった感満載ですよ。しかし、そんなことはおくびにも出さずに、しぶしぶな感じでマッチョ男の傍まで歩いて行った。


「し、死んでませんよね?」


「ああ、生きているな」


 俺が、頭に手を置いて確認してみると、生命反応があったので生きているのが分かった。まあ、結構やばそうな感じで弱っているが…これは、仕方ないか。


「す、すぐに医務室へ!!」


「その必要はない、ダークヒール」


「え?ま、まさか回復まで…?」


「ああ、簡素なものだがな」


「はっ!?俺は、一体何を…」


 目を覚ましたマッチョ男は、きょろきょろと辺りを見回した後俺を見た。そして


「勝負はまだ着いて」


「着いただろ?」


 そう言って、後ろの壁の大穴を指し示す。すると、マッチョ男もその壁の穴を見て顔色を変えた。恐らく、吹き飛ばされた事を思い出したのだろう。


「降参します!!」


「最初の問いかけの時にそうしてくれ」


 そう短く答えてから中央に向かって歩き出す。ちょっとカッコイイ良いかも知れない!まあ、目的は達したし、これでやっかみによる妨害などは減るだろう。多分だが…


「終わったぞ、これで十分だろう?」


 俺は、ギルド長であるフェルテに報告した。何かもう、別のギルド長を見つけるべきだと思っているんだが、一応な…


「さ、さすが私の旦那様なのだ!惚れ直したのだー!!!」


 そう言って、飛びついて来たフォルテを軽々と抱き止めると、彼女からぎゅぅっと抱き着いて来た。これに黙っている未来の妻たちではない。ずるい!私も!と次々と俺に群がって来て、あっという間に身動きが取れなくなってしまった。


 これで確信したが、完全に真美も暗黒王子ハーレムに加わってしまったようだ。迷いなく抱き着いて来た。そして、唯一止める可能性があったクラウディアも混ざっているとか最早どうにもならない。


 周りの連中も、さっきの戦闘光景を見てしまったために大人しくなっていた。しかし、このままでは彼女たちの誰かが怪我をしても可笑しくないのでやんわりと止める事にした。


「後で忘れられない思い出を作ってやる。それまでは、我慢してくれ」


 うん、自分で何言っているのか分からない。しかし、彼女たちは止まったのだった…これで良いのだろうか?彼女たちの期待値を上げ、周りの男性陣のヘイトを上げる、そんな言葉だったのは間違いない。



 その後、自分の壊した壁をダークリペアで修復した後にまたギルド長室へと戻った俺に、フェルテが軽い調子で告げた。


「ディルガメールの買い取りはこのギルドでは無理なのだ!よって、ギルドの管轄している大きな屋敷と交換という事でよろしくなのだ!!」


 内容が酷いのも、大きな声を出すのにも慣れて来たが、それにしても酷すぎないだろうか?会話をする気がないのだけは確かな気がするけども…いや、何も考えてないだけ?もしや、高度な策略か?


「ギルド長、きちんと説明しないと通じないと思いますよ?すみません、うみさん。提出して頂いた時にも言いましたが、ラグリムギルドではあんなに状態の良いディルガメールを丸ごと買い取る資金などないのです」


「確かに、そんな事を言っていたな」


「はい。ですので、ギルドで管理している大きな屋敷があるのでそこを見てもらい、良ければ交換とさせて頂けると助かると言う話です。因みにですが、ラグリムギルドが貧乏という事ではありませんよ?こんなに状態の良いディルガメールが持ち込まれる事など過去なかったので、どれほどの値が付くのか見当もつかないと言う事情もあります」


「そんなに珍しい事のか?」


「珍しいなんて物ではありませんよ!ディルガメールと言えば、その硬さから死闘が約束されたような魔物なのです。命のかかった場面で、獲物の状態など気にする余裕なんてありません。勝つためにあらゆる手段を用いた結果、その死体の損傷が激しくなるのは必須と言うものです」


「なるほど、そんなものか」


 すみません、そんな魔物の姿をカオスワールドから出した時に初めてまじまじ見たりしました。なんせ、ダークアイ+ダークウォールの自動撃退システムであっさりやっちゃいましたからね。やはり、どう考えてもチートすぎるぞ、暗黒王子。


 俺にとっては、硬さよりも素早さの方が厄介だと思うんだよな。ダークウォールにはまった瞬間、勝ち確定みたいなものだし…まあ、今はまだ黙っておこうか。


「それで、いかがでしょうか?もちろん、うみさんに主導権がありますので断って頂いても良いのですが」


「可愛い妻二人のお願いじゃ無下には出来ないな。よほど酷い物件じゃなければ、交換で問題ないさ」


「えっと、まだ見てないのにそんな事を言って宜しいのですか?」


「クラウディアが薦めてくれた家が、酷いはずないからな」


 そう言って笑いかけると、照れたように伏せながら、ありがとうございますと返して来た。やはり、男性に対する免疫はなさそうだな。狩人課は荒くれ者が多そうだから、男のあしらい方とか慣れていそうなものなんだけどな?


「男に動じないクラウも、惚れた相手では話は別というわけなのだな?」


 うんうんと頷いて一人納得しているおこちゃま。それを睨みつけているけど、羞恥心を隠しきれずに真っ赤になっているクラウディア。彼女は、何か可愛いんだよな…って、本当にこんな短時間で俺に惚れたのか?理由が全く分からないんだが…?


「と、とりあえず!これから、その屋敷のご案内しますので、実際に見て貰って決めるという事でよろしいでしょうか?」


「ああ、これから住むことになる屋敷とやらが、どれほどのものか見せてもらおうか」


 うむ、暗黒王子的にはすでにそこに住むことに確定してますね。まあ、俺としても今日寝るところが確保出来るのは助かるんだけどもさ…まずは、みんなの意見も聞かないとな?


「反対の意見はあるかい?見る前に反対はないと思うんだけどね」


 優しい口調で問いかける俺。いや、ご機嫌伺いとかじゃないよ?結局、妻を増やしてしまった負い目とかじゃないんだ…多分。


「私と海が一緒に寝られるベッドがあれば問題ないよ」


 そう言って、腕にしがみ付いてくるぱいん。うむ、実に平常運転ですね。


「私も!ううん、全員で寝られるベッドがあった方が良いと思います!」


 そう言って、逆側にしがみ付いてくる美乃梨。申し訳程度にみんなの事を考えているだけ彼女の方がマシなのか?まあ、二人が同時に暴走しないことを願おう…


 その後、全員の了承を得られたので向かう事になったのだが、その前にお二人さんは仕事大丈夫なの?と問いかけたら、問題ない(フェルテの方は問題ありだがこっちの方が大事と引かない)との事なので、移動する事になった。






 で、二人がくっついている現状って訳だ。思い返しても、さっぱりわからない。まあ、唯一分かっている事は、暗黒王子様のせいという事だな。今後、このペースだととんでもない勢いで婚約者?が増えていくんじゃ…いや、さすがに無いだろう…多分。


「とりあえず、中に入ってから今後の相談でもしようか」


 全員肯定の意を挙げたので、そのまま中へと進む。鍵を開けてもらい中へと入ると、いや…外装もさることながら、内装もかなりのものだった。町で見た建物と比べても…いや、ギルドと比べても立派な造りだと思われた。俺の様な凡人から見ても、かなりの金額をかけて建てたものだという事は感じ取れるくらいだった。


「今更だが、この建物は何故ギルド管理になったんだ?誰かが管理しきれなくなったのか?」


「ええと、そのですね…」


「馬鹿なギルドの上役が、汚い金を蓄えて建てた物なのだ!没収したのだ!!」


 あ~…何と言うか、折角ぼかしながら説明しようとしたクラウディアを遮って、フェルテが堂々と答えましたな。いや、正直に言ってくれた方がこちらは助かるし、暗黒王子としては気にしないんだけど…フェルテ、クラウディアに迷惑しかかけてないんじゃないか?ギルド長なのに、高度な駆け引き何て出来るとは到底思えないんだが…


「そうか、俺は気にしないが、みんなは平気か?」


「海の傍に居られれば問題ないよ、海の傍に居られれば…」


「今はこの場所は私の場所なのだ!譲らないのだ!!」


 何故か、俺の質問が二人の小さな少女たちを戦へと駆り立ててしまった。睨み合う、ぱいんとフェルテ。いや、何か微笑ましく見えてしまったが、止めないとまずいか?


「お二人とも、うみさんが困っていますよ?その位で止めた方が良いと思います」


「そうですよ、海さんを困らせてはだめですよ」


「「「いつの間に!?」」」


 説明しよう。クラウディアが、二人の仲裁に動いた僅かな隙を見て、美乃梨が俺の横を陣取ったのだ。俺以外の近くに居た3人が驚きの声を上げたのは仕方ない事だろう。俺も驚いているが、暗黒王子は外面は完璧なんだよ、うん。


「とりあえず、みんなで座りながら話さないか?無駄に大きな部屋もありそうだからな」


「そ、そうですね」


 ちらちらと美乃梨を見ながらそう答えるクラウディア。どうやら、俺の隣をとられたのが気になっているようだ。まあ、これから座るんだからそこまで気にしなくても良いと思うんだが…



「で、そろそろ話を始めたいんだが…」


「えっと…その…は、はい」


「そんな動かれると、さすがの俺も意識を持っていかれるくらい刺激的なんだが?」


「ひゃ、ひゃい!そ、そんな事言われても…ですね…」


「代わるか?」


「ダメです!!あ・・・せ、折角勝ち取ったわけですから…その…」


「じゃあ、頑張って話し合いに集中して欲しい」


「は、はい…」


 そう答えつつも、未だにもじもじ動いている。どうしたもんかね?


 現在、無駄に大きな応接室?のような場所の大きすぎるソファーに、向かい合わせで6:6で座っている。もちろん、座る前にいざこざがあったのは言うまでもない。そう、俺の隣を巡って。


 クラウディアとフェルテは、説明することを理由に俺の隣に座る事を主張し、他は外では気を使って我慢していたんだから中では譲らない!と主張した。


 そこで、俺は闇魔法?を無駄に使ってあみだくじを実施し、席を決めたのだが…諦めの悪いフェルテは、俺の膝の上に知識量の多い自分かクラウディアが座るべきだと謎の主張。


 それに、クラウディアが何故か賛同(恐らく、恥ずかしがって譲って貰えるとフェルテは考えていた)。そして、じゃんけんによる厳選な勝負による結果、現在俺の膝の上にクラウディアが座っていると言う感じだ。


 しかし、そこまで恥ずかしいなら止めておけば良かったのに、女性の思考はやはり謎である。とは言え、女性らしい体つきのクラウディアが、俺の膝の上に乗っている現状が、実に俺の理性に刺激を与えて来る。正直、暗黒王子と言う外面が無ければ暴走していても不思議ではないくらいだ。しかし…


「そんなに動くと、落ちてしまうよ?」


「ひゃ、ひゃい!ごめんなさい!!」


 そう言いつつクラウディアは固まってしまった。何故なら、ずり落ちそうになった彼女を、俺が後ろから抱きしめてしまったからだ。やばい…めっちゃ柔らかいっす!!


 何て、内心では思いつつも、外面完璧な暗黒王子なので、他から見れば全く動揺してない様に見えているだろう。良いのか悪いのか…


「「ああ~っ!!?」」


 うん、二人が大声を上げたけど、誰だか分かりますね?その二人は、クラウディアをこれでもかとずっと睨みつけていたけどね。それに、他からも嫉妬の視線を感じていた。まあ、クラウディアとイチャイチャしていたから仕方ないけど…やっぱり、膝の上はお断りするべきだったか…いや、もう引けないか。


「二人とも、今度乗せてあげるから女の子同士で争うのはやめてくれないか?」


「「「は~い!分かりました~!!」」」


 おう、めっちゃ現金だな。俺が今度膝に乗せてやると言ったとたんに二人の態度が変わったよ。こんな所に乗っても楽しくないと思うだけどなぁ?それに、何故か一人追加で返事しているし…誰だかは敢えて言わないけども。


「さて、話し合いを」


「ひゃう~!?」


 おいおい、抱きしめて離さない俺も悪かったけど、耳元で話されたくらいで目を回しそうなほどテンパっているよ、クラウディアさん。免疫なさすぎじゃない?いや、それだけ純粋なのかもしれないけども…


「これくらいで目を回していたら、これから身がもたいないよ?」


「ひゃっ!?!?きゅぅ~…」


 あ、やりすぎた。どうやら、耳元で囁いたのは失敗だったようだ。わざとやってるのか気になったのもあるけど、調子に乗って少しやりすぎてしまったようだ。…完全に目を回した?いやぁ…本当に純粋な人だったようだな。


「ずるい!今の、わたしにもやってくれるんだよね?」


「わ、私にもお願いします!!」


「もちろん、私にもやるのだー!!」


 私も私もと、全員が声を上げる。…一人くらい、引く娘がいても良いと思うのですがね…


「そのまま食べられる覚悟はしておいてくれよ?」


 はい!と言う返事が全員から上がった。言った自分も自分だけどさ…いや、マジで暗黒王子の能力な気がして来たな…


「あれ?私…っ!?」


「そのまま気を静めて?クラウディアが望んだ席だろう?このまま話すよ?」


 そんな感じで優しく話しながらも、後ろから抱きしめたままの姿勢だったりする。鼓動がバックバクかと思いきや、暗黒王子仕様なのか平気だったりする俺。まあ、内心はすっごく動揺してますけどね?こんなに長時間美人を抱きしめるとかハードルが高すぎでしょうよ。


 とは言え、暗黒王子的にはこれくらいの事で動揺すら出来ない。とにかく、彼女が落ち着くまでゆったりと待った。


「はい、もう大丈夫です。鼓動は止まりませんけど、いつまでもこうしていたいほど心地良いものになったので…」


「そうか、それなら安心だね」


「っ!?でで、でも、加減して貰えると…助かります」


 俯きながらはにかんだクラウディアがとても可愛かったので、思わず抱きしめている手に力が入ってしまった。そのせいで、彼女から抗議の声が挙がってしまったようだ…反省しよう。


「それじゃあ、まずはこの屋敷とも呼べる家の部屋数などについて教えてもらえるかな?」


「はい…調理室などの他の目的で使う部屋以外で個室として使えそうな部屋は、全部で15部屋あります。全部が広い作りになっていますので、4人は同じ部屋にも住めると思います」


「なるほど」


 となると、部屋の問題は解決だな。今、俺を含めて12人いるから全員に部屋を割り当ててもまだ余る計算だ。


「ね~ねぇ~?折角さ~?海様の横を勝ち取ったのにさ~?私には興味持ってくれないの~?」


「これだけ可愛い娘がそばにいるから慣れてしまったんだろうけど、私たちにも何かしてくれていいんだよ♪」


 あみだくじで俺の両隣りを勝ち取った二人、美海実と花恋が俺を誘惑してくる。流れ的に、部屋割りをする流れだと思うだけどなぁ?それに、両手はクラウディアを支えるので使ってしまっているし…


「見ての通り手がふさがってしまっているから、君たちから抱き着いて来てくれても良いんだよ?」


 彼女たちに話し掛ける時、自然と口調が柔らかくなる時があるけども、これも暗黒王子の能力なのか?分からないことだらけだよ、本当にな…


「それじゃあ、遠慮なく~♪」


「私からしろだなんて、エッチだね?海ってば~」


 反応は違うが、しっかりと両脇から抱き着いて来た二人。うむ、くるしゅうない。って、俺は何様だよ?暗黒王子様だったな…って、一人でアホな事を考えている場合じゃないっての。


「それじゃあ、早速部屋割りを考えるか」


「はい!私は、海と同じ部屋が良いな!!」


「私もだ!旦那様と同じ部屋以外は認めないのだ!!」


「私も、海さんと同じ部屋が良いです!!」


 ぱいんから始まった俺と同じ部屋が良いと言う意見は、結局全員の意見となった。まさか、クラウディアまで小さな挙手で主張してくるとは思わなかった。しかし、これだけ部屋があるのに俺と同じが良いって…流石に、12人同じ部屋は狭いだろ?


「みんなの意見は尊重したいが、全員同じ部屋に暮らすのはさすがに狭いんじゃないか?」


「ずっとくっついていたいから問題ないよ?むしろ、ウェルカム!」


「私も同じなのだー!!」


「ぱいんと同じ意見です」


 またもぱいんが最初に答え、全員が一致の意見となった。これ…ぱいんが誘導してるんじゃないよな?しかし、腕の中で照れながら小さく主張してくるクラウディアが可愛すぎるのだが、理性君頑張ってくれ給え!!


「安心するのだー!!前の家主の意見なのか、すっごく大きい部屋があるのだ!そこにみんなで住めば問題ないのだ!!」


 なるほど、怪しいな…前に住んでいたダメなギルドの上役さんとやらは、女性を連れ込んで好き勝手やっていたんじゃないのか?まあ、内容的に問題があるから聞きはしないけどな。


「そうだな。まずは、みんなで大きな部屋とやらに住んでみて、問題が出て来たら考える事にしようか?」


 俺の意見に、全員が賛成した。何かざっくりし過ぎて問題しか起こらない気もするが、休める場所が出来ただけでも良しとするか。


 さて、さっきまでの移動やらでこの建物に潜んでいる生物はいなかったが、念のために建物の強化を行っておこう。壁や地面など、この建物に攻撃するにあたって通る事になる道筋全てに、ダークウォールを展開して置く。


 ダークウォールは異次元の扉であり、俺にとっては手を動かすような気軽さで扱える絶対防御の魔法だ。これだけでも、この世界で生きていけると思えるほどの優れものだが、問題もある。まず、加減が難しい事だ。


 このダークウォールを通じて行ける世界であるカオスワールドは、その名の通り混沌そのものだ。俺以外が侵入すれば、すぐに精神を浸食され人格崩壊、つまり、魂の消失となるだろう。だからこそ、扱いには注意しなければならない。


 実は、今こっそりとカオスワールド内を調整しているが、実験をするにはどうでもよい被験体が必要となる。だが、魔物では意識確認が難しそうなんだよな…人並みに知能のある魔物とかいるのかね?っと、余り黙っているとみんなが心配するか。


「とりあえずの暮らしを確保出来たと言う事で、ここからが本題だ。まず、みんなに確認したい。俺と」


「もちろん結婚するよ!私が正妻だからね!!」


「ま、待つのだ!ここは、ギルド長である私が正妻になるのが筋なのだ!!」


「名前負けしているギルド長では筋は通りませんね」


「クラウ!何で味方しないのだ!?」


「してもらえると思っていた事実に、驚きですけど…」


「ここは、間を取って私何てどうですか?」


「しれっと割り込まないで!私が一番に海と愛を確かめ合ったんだから!!」


「すぐに私とも確かめ合いました!!」


「じゅ、順番じゃないのだ!どれだけ愛し合っているかが大事なのだ!!」


「良い事を言っているつもりかもしれませんが、確認するのが難しい事なのを分かっていますか?」


 いや、俺とずっと一緒に居てくれるか?と聞こうとしたのに、何故か誰が正妻になるかの争いになってしまったぞ?いや、正直全員を妻にする覚悟はあるんだが、誰が一番とかそう言うのは決めたくないんだよな…こうなると分かっていたから。


 ここは一つ、暗黒王子として仲裁するしかないか。


「みんな、落ち着いてくれ。俺は、順番何てつけるつもりはないよ?みんな、俺にとっては大事な人だからね」


 そう言って、にっこりと笑い間を空ける。正直、自分でもあれな事を言っている自覚はあるけど…敢えて無視しよう。


「俺が問いたかった内容はそうじゃないんだ。ずっと、俺について来てくれるかどうか、そう問いかけたかったんだよ」


 意外とまともな事を言ったな。いつもならもっと…いや、まあ良いか。


「確認されるまでもないよ?ずっと、離れないからね!」


「私もですよ!絶対に離れません!!」


「私も、もちろんなのだ!!」


「わ、私だって!」


 最初に答えたぱいんが無理に抱き着いて来たのを皮切りに、全員がまたおしくらまんじゅう如く抱き着いて来た。前も思ったが、無理があると思うんだよな…って、落ち着いている場合じゃないだろ!?


「ありがとう、絶対にみんなを幸せにするよ」


 そうだな、こんなみんなまとめてなんて感じで、ざっくり済ますなんて許される事じゃないか…みんなに離れてもらい、もちろん、膝に居たクラウディアには降りて貰った。


「ぱいん、君が好きだ。これから先、一生君を守らせてくれないか?」


 俺は、少し屈むようにしてぱいんの両肩に手を置いて、真剣に彼女に問いかけた。


「もちろん!一生そばにいるからね!!途中でキャンセル不可能だよ!!」


 そう言って、俺に強く抱き着いて来たので抱きしめ返したついでに、耳元でありがとうと囁いた。すると珍しく、ぱいんは恥ずかしそうに俯いた。可愛いな、おい。


 その後、ぱいんをそっと放した後、次に問いかける相手に向かう。それはもちろん、


「美乃梨、君が好きだ。これから先、一生君を守らせてくれないか?」

「もちろんです!もうついて来るなと言われても、ずっとそばにいますからね!!」


 俺の問いかけが終わるや否や、凄い勢いで抱き着きながら返答して来た。思わず、力強く抱きしめ返してしまったら、あんとかえっちぃ感じの声を出して来た!?いや、胸に意識いくから止めて欲しいんですけど…これから後の相手にも影響が出そうだからね!!


 しかし、ぱいんと美乃梨にはこれから振り回されそうだな。まあ、それが楽しそうだと思っている時点で俺の負けなんだろうけど。などと自分自身の思考に苦笑しつつ、彼女にもありがとうと囁いてから解放した。次は…


「萌奈香、君が好きだ。これから先、一生君を守らせてくれないか?」


「もちろん!離れないからね!!」


 彼女も、俺の問いかけを待ってから返事の勢いのままに抱き着いて来たので、抱き留めそのまま抱きしめた。そして、同じくありがとうと囁くと、こちらこそありがとうと返された。やはり、順番待ちするほど対応力が上がるんだな…やる意味なくならないよな?


 真美を飛ばした時点で分かったと思うが、キスを交わした順番で一人ずつ確認をする事にした。つまり、次は


「咲耶、君が好きだ。これから先、一生君を守らせてくれないか?」


「は、はい…ずっと貴方のそばにいます…」


 ちょぉっ!?まさか、返事しながら泣かれるとは思わなかった。彼女はちょっと純情過ぎるな…可愛いけどな!!


 もちろん、泣いてしまった咲耶に近づいてそっと抱きしめた。彼女は、ぎゅぅぅっという擬音がつきそうな感じで抱き返して来た。少しだけ長めになってしまった抱擁だが、許されるよな?


 そして、ありがとうと囁こうとしたら、咲耶に片手で口に手を当てられる事によって遮られ、こっちのセリフだから…と言われて、真っ赤な顔そのままに離れていった。くっ…贔屓しない様に気を付けないとだな…


「桔梗、君が好きだ。これから先、一生君を守らせてくれないか?」


「はい。因みに、そうは見えないだろうけど初めてだからよろしくね?」


 次は桔梗だったので、同じように肩に手を置いて問いかけたら、返事ととも抱き着きながらまだ爆弾を落として来た。この娘、俺を翻弄したいのか?因みに、最初の返事以外は小声で俺にしか聞こえない様に話している。更に、抱き着き方がわざとだろうが胸を押し付けるような感じだ。


 彼女だけ抱きしめないわけにもいかないので、抱きしめてみたら…まあ、ある部分の感触がさらに増してしまった。彼女は、わざとらしく熱い吐息を吐き出した。いや、彼女は絶対に魅了術を使っているに違いない!間違いない!!俺だけだったら翻弄されっぱなしだったろうな?しかし、


「桔梗には特別に、忘れられない体験をさせてあげるよ」


 そんな恐ろしい事を彼女に耳打ちしつつ解放した。暗黒王子は、決して主導権を渡さないのだ。…いやいや、ハードルが上がりすぎだろ!?大丈夫な気が全くしないんだけども…桔梗は、何故かさっさと離れていったので、俺の言葉に彼女がどんな反応を示していたのか見る事が出来なかった。マジで受け取ったんだろうな…


 き、気を取り直して、次は…


「向日葵、君が好きだ。これから先、一生君を守らせてくれないか?」


「わーい♪よろしくね~♪」


 向日葵は、肩においていた手をすり抜けて俺にタックルよろしく抱きついて来た。頭が腹の辺りにあって抱き返し難かったので、彼女の腕を外してから屈んで抱きしめた。うむ、最初からちゃんと屈んでおけばよかったな。


「やっぱり、ずっとこうしていたいな~?」


「可愛いおねだりを叶えてあげたいけど、また今度で許してくれないか?」


「はーい!向日葵は良い子だから待っててあげるね♪」


「ありがとう、これからもよろしくな」


 自ら離れた向日葵の頭を撫でてあげてから次の娘の所へ向かう。


「花恋、君が好きだ。これから先、一生君を守らせてくれないか?」


「返事はベッドの中で何てどう?」


 花恋も一筋縄ではいかないな…まさか、この流れで誘惑してくるとは。しかし、暗黒王子が反撃しないわけがないのだよ。


「すぐに返事してくれないと、この場で乱れてもらう事になるかもしれないよ?」


 彼女は、俺の言葉にびくっと反応した後、何かを想像したのか頬を抑えてモジモジしたのち、


「不束者ですが、よろしくお願いします」


 そう答えてから、そっと抱き着いて来た。うん、彼女の中でどんな葛藤があったのか気になるな。しかし、敢えて押し殺して抱き返した。彼女からちょっと吐息が上がったのは、思わず抱きしめる手に力が入ったからだったのだろう。


「良い子にしてくれたから、ちゃんと満足されてあげるよ」


 と囁いてから彼女を解放した。いやいや、何言ってるんだ?俺は、ただ引いてくれたからお礼を言おうとしただけなのに…全員に見栄を張り過ぎだろ、暗黒王子!


 ま、まあ、次に…


「私の番だよ~!!」


「おっと、相変わらずやんちゃさんだね」


「やっぱり、簡単に持ち上げちゃうんだね!私、ここを定位置にしたいかも~?」


「そう言ってくれるのは嬉しいけど、そうすると他のみんなを抱きしめてあげられないから他の事で許してくれないかな?」


「それじゃ、美海実をずっとそばに置いて欲しいかも~」


「もちろんさ。でも、それは俺がこれから言うはずだった台詞なんだけど…ね」


「海様も自分で言いたい派なの?美海実も、自分で言いたい派です~!じゃあ、海様もどうぞ~?」


「この流れで言うのも変な感じがするけど、仕方ないな…美海実、君が好きだ。これから先、一生君を守らせてくれないか?」


「もちろんさ~♪」


 そう言って、ぎゅぅっと抱き着いて来る美海実。因みに、彼女が飛びついて来たのを受け止めた後、床に下ろそうとしたら何故か嫌がったので、現在はお姫様抱っこをしている。その状態で、先ほどのやり取りをした後に、抱き着いて来たのだ。つまり、抱き返したいけど出来ないので、彼女を支えている腕を引き寄せる感じで応えている。


「ここまで~!これ以上甘えると、他のみんなが割り込んで来そうだからね~?」


 そう言われて周りを見ると、なるほど、ぱいんが暴走寸前だった。さすがに、密着し過ぎたようだ。まあ、美海実から来たので無実…何て、言い逃れ出来ないんだろうな…気を付けよう。


「お姫様抱っこについては、今度みんなにもしてあげるから我慢してくれないか?」


 はーいとみんなから返事が上がる。いや、美海実も返事するのか…まあ、それ以上に全員が返事したのが怖いところだ…腕が痙攣するまでやらされないよな?今の身体なら平気でやり遂げてしまうかもしれないが…


「次は私なのだー!!」


「いえ、私ですよね?」


「譲ってくれてもいいのにー!ケチンボなのだー!!」


「順番を守るのは大人として当然の事ですよ?」


 二人でああだこうだと口論?が始まってしまった。いや、二人にももちろん確認はするけど…その前にやる事があるんだよな。


「二人とも聞いて欲しい」


「「二人まとめて!?」」


 違います、そういう話ではない。


「その話の前に、二人には大事な話があるんだ」


 そう言って、元クラスメートのメンバーを見渡す。全員、俺が言いたいことは理解したようだ。それでも、止めようとしない所を見ると、任せられているのだろう。それなら、


「大事な話ですか?」


「なんなのだー?」


「俺…いや、俺以外のみんなも全員、異世界から来たんだ」


「へ…?い、異世界!?そんな冗談…じゃないみたい?」


「海さんは、そんな冗談を言う方ではないでしょう?でも、にわかには信じられない話ですね…」


「そうだろうな。だから、異世界…地球の日本と言う国の話をしようと思う。とりあえず、黙って聞いて欲しい」


「分かりました」


「わ、分かったのだー」


 クラウディアは、真剣に効くつもりのようだが、フェルテは戸惑いの方が強いみたいだな。まあ、ここまで来たら引けないよな…



 それから、俺は分かる限りの日本を伝えた。その過程で、俺自身の話を結構してしまったせいで、クラスの女子メンバーも真剣に耳を傾けていたようだ。ちょいと恥ずかしいな…


「作り話にしては設定がしっかりし過ぎていますね。しかし…いえ、もしかするとそう言う事も無いとは言えませんね。世の中の全てを知り得るなど人の身では不可能でしょうから、うみさんの言う事ですし、もちろん信じますよ」


「うみが私を信用して話してくれたんだもん、私は全部信じるよ」


 どうやら、クラウディアとしては信じ難い話だけど、自分が全てを知り得るわけがないので、俺を信じてくれるようだ。まあ、知識人っぽいクラウディアだからこそ複雑なのだろう。


 逆に、戸惑っていたフェルテは、俺を全面的に信じる事にして吹っ切ったようだ。考えるのが面倒だったのかもしれないが…とりあえず、驚きの余り口調が素になっているけどな。


「ありがとう、クラウディア、フェルテ。フェルテは、その口調のままでも可愛くて良いと思うよ?」


「え?あ!?ええと…あの…わ、私が可愛いのは当たり前なのだー!!」


 そんな事を言った後、真っ赤な顔のままそっぽを向くフェルテ。分かりやすい娘だこと…


「あの…」


「クラスディアももちろん可愛いから安心して欲しいな?」


「あああ、ありがとうございますぅ」


 自分が望んだ言葉だろうに、真っ赤になって俯くクラウディア。いや、やっぱり可愛すぎないか?


「そんなわけで、この後にこの世界の事を基本的な事から色々と更に詳しく聞きたいわけだけど、その前に…」


 そう言ってから前にすすに、俯くクラウディアの肩を掴んで顔を上げさせた。


「クラウディア、君が好きだ。これから先、一生君を守らせてくれないか?」


「は、はい…これからの時間を、共に過ごさせてください」


 目に涙を溜めながら真剣な表情で俺を見つめて来るクラウディアを、我慢出来ずに抱きしめた。クラウディアは力の限り抱き返してくれているのだろうけど、一部分を強調するだけの結果となっている。気を逸らせ俺…しかし、異世界の話の後なのに全く迷いなかったな。


 視線を感じて見てみると、フェルテがすっごく羨ましそうな視線をこちらに向けていた。仕方なく、クラウディアを解放してフェルテの前に歩み出る。そして、屈むようにして彼女の肩に手を置いた。


「フェルテ、君が好きだ。これから先、一生君を守らせてくれないか?」


「もちろんなのだ!・・・一生離れないから」


 最初はいつもの勢いと口調で答えたフェルテだったが、俺の真剣な表情を見た後に小さな声で言葉を付け加えて来た。その時の真剣な表情と声、そしてほんのわずかな不安を宿した瞳を見て、またも堪えられずに抱きしめてしまった。


 とは言え、ここにいる誰よりも小柄な彼女を力いっぱい言うわけにはいかない。しかし、少し苦しいかな?くらいは抱き締めさせて貰った。多少は思いが伝わったのか、彼女もしっかりと抱き返して来た。


 どうやら、結構な時間を抱きしめ続けてしまったようで、ぱいんにそこまで!とダメ出しされてしまった。軽く抱きしめてごめんと言ったら許してくれたけど、他の女子の不満が溜まった気がする…今後、大変そうだな…自分で蒔いた種何ですけどね…

 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


 年末年始の慌ただしさに身を任せていたら、2ヶ月くらい過ぎていました…お待たせした方、申し訳ないです。まとめ能力がなく、毎度の事ですが、長くなるのはご愛敬だと思って頂けると助かります。


 更新が滞った分は、いずれ返済する予定です…頑張ります。

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