豚が乱入してきました。
※追記 現在大長編制作中。前編と後編で分けるか、それとももう繋げてしまうか迷っています。
「――――ェル――――きて。――――エルってば、―――ねぇ―――」
穏やかな朝の陽ざしと、耳にタコどころか鼻にマングース出来るくらい匂ってくるいつもの香り。
夢の中なのだろうか。
そう思ってしまう程、その声はキルエルの住む村の住人によく似ている。甘い香りと花の香り、そして謎にスパイシーないつもの匂い。―――そう、ミルの匂いだ。
声もいつも通り、キルエルを起こしに来るときの最大限までデレデレした防御力0に等しい甘々な声だ。
夢にしては出来過ぎかな・・・・。
そんなことを疑問に思っていると、眠っている僕を良いことに細い指がキルエルの頬に触れ、そのまま前髪を愛でるように撫で始める。
「ん~~~、いい子いい子。ふふっ、キルエルの寝顔可愛いな~~~」
声の主はそう言いながらもう片方の手でキルエルの首元を締め付けるように撫でる。ぐはッ!くすぐったいやら苦しいやらでいつも通り過ぎる。
「そろそろ起きようよ~~、キルエルってば~~~!」
ぎゅぅッ!!と、彼女の両手が意識の乏しいキルエルの首に纏わりつく。どうやら、コレは本気で起きないとマジでHP減らされそうだ。・・・・旅行前日にはHP1まで減らされたからな。
ある意味彼女の首絞めで僕もキルエルも早起きが習慣になっている節がある。・・・嫌な癖だ。さて、起きるか・・・・。
キルエルはまだ意識の中で眠りこけているみたいでうんともすんとも言わない。
仕方がないので、僕が彼に代わって起きるとしようかな。
僕は眠たい瞼をこじ開け、入ってくる陽ざしにぼんやりとしながらも僕の目の前で横になっている声の主を見る。
声の主は日の光で顔は良く見えないが、僕が起きたことを確認するととてもいい笑顔になった。
相変わらず、彼女は可愛いな。キルエルの将来の嫁と言うだけあってとても綺麗だ。
だから僕もまた目の前の彼女に微笑みかける。
「おはよう、―――ミr」
彼女の名前を口ずさもうとしとき、日差しの入る窓から風が入り、その風に押されてカーテンが揺れる。バサッと広がるカーテンに日差しが遮られる。
光が遮られたことによって、隠されていた彼女の笑顔が露わになった。
黒く色濃く輝くまっすぐとした髪に、左右黒と灰色のオッドアイ。肌色の素肌が見え隠れしており、その上半身は筋肉質な裸体。
ソレはどう見たってミルとは天使と青汁くらいの差がある人物、――ジォス=アルゼファイドだった。
彼を視界に入れてしまった時、僕はなんとなく察した。
―――あぁ、もしかしてキルエルのミルへの想いが幻聴を呼んだんじゃないかな、と。
ジォスが僕の隣で寝ているのはある意味ホラーだが、ミルの幻聴が聞こえ始める方が現実的過ぎて怖い。
そんなことを考えていると、ジォスが片目をつぶって頬を少し染める。そして、災いの口が開かれた。―――ソレはソレは、とてもミルに近いデレデレ甘々な声音だった。
「そろそろ起きないと、朝ご飯間に合わないよ?・・・それとも私と二度寝して夢の中でデートしちゃうことをご所望で?・・・・・キルエルなら、良いんだよ・・・・?」
その声が耳に入り脳が理解した瞬間、僕の微笑みは物理的に凍った。
その後、ノゥアの屋敷の一角で大絶叫と共に何かが破裂するような破壊音が響いた。
S S S S
ノゥアの屋敷の食堂にて。
僕らは三人で仲良く?朝食を取っていた。
今回の朝食はノゥア産ではなく、れっきとしたシェフ産のモノであり、決して自ら動くことはなかった。
ノゥアは料理が動かないことについては何の関心も持っておらず、僕とジォスを交互に見ながらパンを貪っている。
「なにか、あったんですかキルエル君・・・・。ジォス君の頬に赤いビンタの跡が付いてるんですが・・・・。もしかして、ジォス君。・・・・我慢できなかったんですか?」
「いやッ、今回の事は俺へのご褒美だしッ!!そもそも俺は紳士だからな。相手の意志を尊重してから物事を致すプライドがあるッ!!!」
「穢れたプライド背負って太平洋に沈んで来い変態紳士」
バンッとテーブルを叩いて反論するジォスに対し、僕は辛辣な言葉を返す。お前が例え紳士だったとしても、お前は”変態”と言う名の紳士だろうが。後、何がご褒美だ馬鹿。そんな、世界を救ってきたんだ!みたいな目でコッチ見てくるのやめろ。
僕の隣の変態紳士はさも当たり前かのように僕のベッドに侵入し、どうやって出したのかは全く分からないがミルの声を出して僕の眠りを妨げてきたのだ。
まったくどうして、僕は最初この声の主がジォスだということに気が付かなかったのだろうか。今考えてみると本当に謎が謎を呼んでパーリナイだ。僕は今旅行中だというのに・・・。
「と言うか、何でジォスが僕の好きな人の声出せるんですか・・・?」
僕の記憶が正しければジォスとミルに接点なんて無かったはずだ。じゃなんでそんな声が出せるのか?ソレがとても謎でならない。このトリックだけは知っておかないと気になり過ぎて一日15時間は寝ていられる。
僕の侮蔑を含んだ眼差しと問いにジォスは意気揚々と答えた。
「まず最初にキルエルに出会ったときにキルエルから醸し出される香りから男性ホルモンによるモノと女性ホルモンによって出されるモノの区別をする。で、実際に俺も色々試行錯誤して男性ホルモンを減らして女性ホルモンを増やし、少しずつその女性ホルモンに似せるように調整を行う」
「――――――」
「――――――」
聞いたのが間違いだったと言わんばかりの人間卒業レベルの解説をするジォス。僕とノゥアは目が点だった。
「その後はキルエルが好きそうな感じの声音を分析して、声帯を変える。キルエルの首についてる手の跡から(かなり難しかったが)キルエルの好きな女子の身体情報を分析して、ソコから出た声帯情報を元に130%同じような声帯を作る様に調整を加える。コレでキルエルの好きな女子の香りから声まで完全再現って訳だ」
「簡潔にまとめると、『ジォスだから』ってことだな?」
「私も流石にソコまで進化はしてませんからね。・・・ぐぬぬ、負けたくないわ・・・・」
「くッ!!」と唸りながら拳を握るノゥア。君は一体何に勝とうとしてるんですかね?煩悩とかですかね?だったら一回大きい頭の病院行っておいで。
「ソレにしても、ソコまで出来るなんてジォス君は本当にキルエル君が好きなんですね?」
「あー、俺はキルエルを男友達としてではなく、一人の魅力的な男性として見ているからな。・・・・・勿論冗談に決まってるだろー、やめろ、武装すんな」
僕がゴミ未満を見る目でフォークを握りしめた辺りでジォスが前言撤回をする。流石にヤバいと感じたらしい。遅いんだよ。
だがノゥアは別だ。
「ソコまでキルエル君の事を・・・・・。同じキルエル好きとしては負けていられませんね」
負けてくださいお願いですから。キルエル好きを特殊性癖の1つみたいに言うのやめてくれませんかね?
ジォスをライバル視するノゥアはさておき、ジォスが何かを感じたかのように立ち上がり、そのまま食堂の扉の方へ向かう。食事中かと思いきや、よく見ればジォスの皿は空っぽ。もう既に食べ終わったからトイレにでも行くのかと思っていた。
「どうしたんだジォス。WCにでも行くのか?」
此処は腐っても食堂。決してトイレとか便所とか汚い言葉は使わないように心掛けた結果、日本人たるジォスでも分かるトイレの別称『WC』を採用した。
だが、ジォスはフィと首を振ってノゥアに問いを投げた。
「ノゥア、今日誰か客人でも来る予定あるのか?」
「うぅん、まったくないけど。ソレがどうかしたの・・・?」
「やー、ちょっとな。素粒子の動き見てもらえれば分かるんだが、・・・・来てるんだよコッチに」
素粒子の動きねぇ・・・・。確かになんか変な動きをしているというか、って分かるかそんなの!?
僕が目を剥いていると、ジォスは僕には全く持って分からない気配に若干の不快感を感じたようで「けッ!」と吐き捨てるように言う。
「この気配は絶対よろしくねー男子だ。《ピー》の香りがプンプンしやがる・・・・」
「《ピー》ってなんだ・・・・?」
聞きなれない言葉に意味を問うと、ジォスは「ファッ!?」と眼を見開く。
「知らねーのかよキルエル・・・・」
「あぁ、恥ずかしながら。まったくもって、その単語は初めて聞いた。モザイク音がかけられているところを見ると恐らく下いネタなのだろうが。女性前で説明できる言葉なら教えてほしいが、違うならまた今度で構わない」
流石に下ネタの意味をノゥアの前でするのは衛生上よろしくない気がする。僕がどうかと聞くと、ジォスは難しい表情をしながら「う~ん」と唸る。
「いや別に《ピー》は今の意味で言うと下ネタなんだが、俺の言った《ピー》は昔の方の意味だからなー。うーん、どうなんだろーなコレ。此処は日本じゃねーから青少年育成法案件とかには抵触しねーし、いやーでもキルエルの質問だから素直に答えるべきなんだろーがよ。――――まー、見てもらった方が早ーよな」
「?」
「?」
《ピー》の内容について行けずに首をかしげるノゥアと、「見て貰った方が早い」という急展開過ぎる台詞が理解できずに首をかしげる僕。
そんな話について行けていない僕らを置いて、ジォスは「そろそろ来やがるな」と呟くと扉の前で腕を広げる。
「一体何を・・・・」
僕がなんの準備をしているのかと聞こうとすると、閉じられた扉の奥からけたたましい足音が聞こえる。なんだカバでも突進してきたのか?そう思えるほどのドッスンドッスンと地鳴りのような足音が此方に近づいてきて――――、
「ボキにわざわざ会いに来るなんてノアはなんてイイ子なんdごびゃッッ!!?」
ほぼ弾丸のような突進と共に野生に還った一匹の豚、・・・・いや、人間が扉を粉砕して侵入してきた。そしてそのまま止まることのできない巨体は顔面からジォスの腕に突っ込み、その運動エネルギーが斥力に変換され逆に後方にぶっ飛ばされる。
養豚場から脱獄してきた豚は鼻水と涎と、なんかよく分からない汁をまき散らしながらクルクルと宙に放り出され、顔面で着地する。汚い。
そのままピクピクと体を痙攣させる豚を目の前にジォスが指を指して言った。
「コレが俺の言っていた《ピー》の模範的例えだ。キルエルは絶対にあんなのにはなるなよー」




