『進化』しました。《2》
生命体の燃えカスを晩御飯として僕らの夕食は終いになった。
食堂に戻るとノゥアさんが手を振りながら笑顔を向けてきて、美味しかったかどうかを尋ねてきた。勿論、美味しかったとは到底言いづらいモノを喰らわされ、挙句の果てには第二の太陽を生み出す結果となり僕としては「ふざけるなッ!!」と怒鳴っているところだったが、戦闘での疲労と燃えカスの違和感にお腹いっぱいだった。それゆえに僕は「あぁ、ちょっと僕には多かったな・・・」と「美味しい」とはほど遠い感想を残して自室に戻った。
ちなみにジォス君は「男漁りしてくる」と言って、厨房に入ったきり出てこなくなった。時々厨房内からシェフらしき人たちの叫び声?が聞こえてくるがあまり気にしないでおこう。・・・触れたくない。
ダルマオさんは「ひとっ風呂浴びてくる」と言い残してアヒルの玩具を脇に抱えて廊下を疾走していった。・・・せめて廊下では服は着てほしいと願った。
僕は自室に戻って装備を脱ぎ、ステータスプレートを確認する。変にHPが減っていたら回復するためだ。
そして、ステータスプレートを開けた瞬間、僕とゲーム君は驚きに目を見開いた。
キルエル=ヴェルモンド レベル50 男性
HP1602 攻撃力1582 防御力1677 素早さ1788 魔力1633 精神力-531 運3
スキル:『身体強化』
加護:『渡り人の加護』
属性:闇 無
なんと言う事だろうか!―――レベルが上がっているのである。
『まさか、あの暗黒生命体倒したときに経験値でも入ったってのか・・・!?上限MAXじゃねぇか!』
『あり得ねぇ!!』と驚きと喜びを全面から溢れさせるゲーム君。確かに以前の僕と比べると若干強くなっている気がする。ただ同時に現時点でのコレ以上の強化は出来ないと肌で感じる。その証拠として、僕のステータスプレートのレベルを表示する部分が青色に点滅している。
「レベル50が限界。・・・・つまり久々に『進化』が出来る訳ですね」
『そうだ!『進化』における肉体の再構築、思っていたよりも速い速度でのレベルアップだ。レベル上限における『進化』の概念が無かったら、あの戦闘だけでも300~500くらいは裕に上がるだろうによ』
喜びつつも世界の理に歯噛みするゲーム君。確かにレベルの上限がいちいち決められていて、そのたびに『進化』するのはとても面倒くさいことだと思う。
だが、だ。
「『進化』をして、さらにノゥアさんの作る生命体(※料理)を倒していけば、普通にモンスターを倒して経験値を稼ぐのよりもずっと効率的ではないかな・・・?」
『確かに、ソレは言える。・・・・だが、あんなヤベェ奴と戦うのを毎回繰り返すのは結構辛いぞ。経験値めちゃウメーけどさ』
「・・・そうだよね・・・。アレレベルのバケモンを毎回毎回相手にするのは骨が折れる。―――でも、ソレでも、そうしなきゃいけない理由が僕にはある」
そういうのも僕の現在の状況が原因である。
僕の精神力の低さが招いた厄災のような状態異常『全ステータス大ダウン』。コレのせいで、僕は常時ステータスが1/2だ。つまり、僕のステータスは全面的に800に近い数値になっている。この状態では戦力がほとんどないと言っても過言じゃない。ゲーム君談では村を襲う悪魔のステータスは下級でも3000に近い数値になっているとのことだ。―――今の僕では到底歯が立たない相手だ。
「アイツらを倒すためには最低でも、推定レベル80の2倍以上・・・。少なくともレベル170ちょっとは欲しい。そうじゃないと、・・・・ミルを守れない」
『・・・・・・・・・』
彼女の為になるというのなら、僕はいくらでも生命体を倒しレベルを上げよう。
彼女の為になるのなら、僕は世界すらも敵に回す。
彼女の為になるのなら、僕は血にも泥にも傷にも埋もれて見せよう。
ソレほどの、ソレ以上の大いなるモノを持って此処に来たのだ。毎日暗黒生命体(※料理)と戦うくらいで弱音を吐けるわけがない。辛いかもしれないが、その辛さは彼女を救った後にでも吐き出せばいい。
僕の信念の在り方をゲーム君は最後まで見届けて、言葉を紡ぐ。
『とりあえず、さっさと『進化』してしまおう。話はそれからだろう?』
「あぁ、・・・・そうだね」
僕はステータスプレートをいじり、『進化』の画面をタップする。
タップした瞬間、身体のあちらこちらに重力の重りでも付けたかのように動かなくなり、まともに喉から言葉をはじき出せなくなる。
・・・・久々だけど、やっぱり慣れないモノだなぁ・・・。
そのまま僕は突き飛ばされたのようにベッドに倒れこみ、視界が暗転して、―意識が無くなった。
S S S S
軽く厨房内の男たちを漁った後、俺は自室に戻った。風呂に入ろーかなと思ったが、キルエルの寝顔を見た瞬間その考えがぶっ飛んだ。
まるで天使のような純白の素肌に柔らかな寝息が、キルエルの前歯を通り抜けてベッドのシーツを濡らしている。一呼吸を打つ度に俺の心臓がシンクロしているのかと思わせるほどに強く高鳴った。髪は乱雑にあしらわれており、質が良ーのかしっかりとした生え方をしていてとても「生きている」感じがする。そしてその黒髪の間から見え隠れするのはキルエルの耳。とても可愛らしい、童の頬のような柔軟な質感を漂わせながら俺の視線を釘付けにしてくるのだ。
・・・・全く、相変わらずだがキルエルはずるい。
何故こんなにも人の心を掴んでくるのに、ノンケなのだろうか。
こんなにも人の心を高ぶらせておいて本人は俺のことを友人としてしか見てくれないのだろうか。
こんなにも俺の夢と理想を体現しているのに、何故俺は彼の理想になってあげられないのだろうか。
俺は自身の高鳴り続ける熱い想いと裏腹に、心の奥底に宿る嫉妬にも憤怒にも成しえない黒い感情を抱いていることに自分への裏切りを感じた。
俺はその気持ちをひた隠すかのように振り払い、倒れるような格好で寝ているキルエルをお姫様抱っこして、ちゃんと全身をベッドの上に乗せた。
まるで羽毛で創られた大天使のような軽さ、そして月明かりに光るキルエルのまつ毛。光が黒いまつ毛を流れては消える。そう、まるで流星群が空を駆けていくような光景に俺は《ピー》の唸りを感じた。
その生物的な現象にいち早く脳が察知して、理性の垣根を越えようと俺の悪心に甘い囁きを噛ましてくる。
・・・・よし、襲っちゃうかッ!!襲っちゃおうよ!!こんな機会滅多にないよッ!!起きる前にキルエルを君色に染め上げちゃいなよ。二度と取れなくなって癖になる様にさぁッ!!
「そーだなッ!!今が絶好のチャァンスッ!!!一回くらい俺も味見wって、良ー訳ねーだろーが馬鹿ッ!!!・・・・危ねー危ねー。何がチャンスだ馬鹿!!理性、仕事しろッ!!」
ハッと我に返った俺は息をしていない良心、もとい理性を無理やり蘇生して悪心の横っ面をぶっ叩かせる。
馬鹿悪魔は良心のハリセンに吹っ飛ばされ地平線の彼方まで飛んで行った。
俺は息を整えてベッドに寝かされたキルエルを見る。うん、大丈夫だ。理性が欲望にフィルターかけてくれている。
掛け布団をキルエルに被せてキルエルの顔がひょっこりと覗かせる状態にする。
「生まれたてのヒヨコみてーだな。・・・・守りたくなっちゃうぜ・・・ぐへへ」
白い掛布団からキルエルの体がくっきりと浮かんでいて、まるで卵の殻に見える。そしてその殻から顔を覗かせるキルエルの寝顔はコレだけで一つの作品。生きる人間国宝と化すのだ。くッ!・・・破壊力が凄すぎる。なんて純粋な寝顔なんだ・・・・。やんごとなし、アーメン。
キルエルの寝顔はおそらく神からの贈り物。むしろ神から顔だけ貰ったようなモノだ。こんな顔を拝めるのは日ごろの俺の行いが良かったことなのだろう。ありがとう、神様。今度神界に行ったときは神殿壊したりしませんから・・・・。
感動に胸を打たれ、月明かりが刺しこむ窓に向かって2回程手を叩いて神様に感謝をする。
そんな時だった。
「ギギギギギギギギギギギギ・・・・・・」
耳障りな機械音、ソレが十数もの数で森を徘徊している音が俺の耳を触った。
不思議な音に顔をしかめて窓の方を見ると―――――、
3㎞先の山、その木々の中から此方を見る黒色の感情無き眼と俺の眼が交錯した。
「雄だな・・・・。視線から察して、何だ?コレ。機械?・・・いや生きてはいるな。心音が聞こえる。・・・・何だ?見たことねーなあんな変なの・・・・」
視線の主はまるで生きているモンスターに無理やり体を機械にしたよーな、生きているのか生きていねーのかあやふやな奴だということが分かった。
勿論、俺はこの世界線とよく似たゲーム『Brave☩Innocent』リメイク版をプレイしていたゲーマーでもある。だから大抵のモンスター(雄に限る)は覚えている訳だが、アレっぽいのが出てくるのはまさにそう、――――ストーリー上でジャウール教が使う生物兵器、ソレだった。
ソレが分かった瞬間、俺は窓を開けて手を出す。
「・・・・・大丈夫だ。一応、結界は傷一つねー。・・・・距離は、3㎞先から丁度2,5㎞ってところか。連携を取ってるみてーで、四方八方を3体ずつが担当。24体と予備隊で4㎞先に10体。全体的に結構速い速度でコッチに詰め寄ってきてるな・・・・」
空気の流れ、原子の振動から敵の数を完全に把握した後、俺は窓を全開にする。
その理由はただ一つ、
「お世話になってる家に迷惑はかけさせねー。この家には、俺にとって大事な男子が、キルエルが居るんだ・・・。此処でそいつらの行動を見過ごす訳にはいかねーんだよ」
俺は窓の縁に足を掛ける。そのまま一気に飛び出して奇襲をかけるために、空気抵抗のベクトルを強制的に捻じ曲げる。
そして、一気に飛び出す前に後ろに居る可愛い寝息を立てる、俺の王子様に一言。
「すぐ、戻るぜ。キルエル・・・・だからぁッ!!」
そのまま俺は2,3㎞先に居る生物兵器めがけて音速の480倍の速さでぶっ飛んだ。
「帰ってきたらご褒美に俺も添い寝をさせてくれえええええ―――――ッッッ!!!!!」




