変身しました。
声が聞こえた直後、僕の視界は暗闇の底とは大違いな明るい世界に出た。
「此処はッ!?」
『・・・・』
新たな驚きが脳を支配して状況を理解しようとするのが困難な矢先、下の方で悲鳴が聞こえた。
「やめろ!キルエルを喰うなら俺を喰え―――ッ!!ってなんだ!?急に暗くなってって、ギャアアアアアアアアァァァァァァッッ!!!??」
下を見ると、今さっきまで僕が居た位置。ソレも顎の閉じたツルの中からジォス君の絶叫が聞こえた。
「―――えッ!?えええぇッ!!?どうゆことッ!?」
今さっきまで僕があそこに居たはずなのに・・・、何故ジォス君が僕の代わりに喰われているんだ?
ジォス君のことはさておき(さておきではないが)、僕は生命体の三つ目の頭に乗っていた。三つ目も鳥頭も龍の頭も突然の叫び声に動揺を隠せないでいるようで、目が見開かれている。
一体何が・・・・?とジォス君が食われるという中々お目にかかれないシュールな光景に唖然としていると、ゲーム君が説明してくれた。
『ダルマオ持つスキル『シャッフル』は、味方全員の位置をランダムに入れ替えるスキルだ。この場合、キルエルの場所にジォス、ジォスの場所にダルマオ、ダルマオの場所にキルエル、って感じだろうな』
淡々と、人が食われているのにまったくもって意に返さないような説明っぷりに僕は少しゲーム君が怖くなった。いつものことなのに・・・・。
でも、ゲーム君の説明がそうだとしたら今絶賛咀嚼され中のジォスの容体が心配になってしまう。ソレなのにゲーム君、そしてダルマオさんも冷めた目でツルを見ていた。ジォス君を喰ったツルはもっちゃもっちゃとその顎を動かしている。顔が無い癖に非常に美味しそうに食べている。
「助けなくてi」
『良いんだよ。助けなくっても』
「な、何故・・・・!?」
『『シャッフル』は入れ替え直後味方全員を『無敵』状態にする。だからジォスはダメージを受けない』
「は、はぁ・・・・なるほど」
『ついでに言えば、喰われたのがジォスだからな・・・・。なんか大丈夫な気がする。というか絶対大丈夫だ』
「あ、――――不覚にも分かる気がする」
ゲーム君の言う通り、喰われたのはジォス君だ。深海から水面に向かってプルプルゲッペイガニ投げたり、穴掘ってガラシアに帰ったり、精霊界へ物理的に入れたりするジォス君だ。大事なことなので二回言いますが、喰われたのはジォス君だ。
大丈夫、彼ならなんか喰われてもピンピンしてそう。
『ゴキブリよりも高い生命力だからなアイツは。ガチムチアグレッシブ世紀末野生児の実力は伊達じゃねぇ』
ゲーム君がそう言うと、その言葉に反応したかのようにジォスを食したツルが内部から爆散する。そしてその中から一人の野生児が現れた。
その少年は「あー、びっくりだぜ」と言いながら突如、その姿を消す。
ソレを皮切りに、全てのツルが背中から根っこ事抉られるようにくり抜かれて、その全てが跡形もなく吹き飛んだ。
そして気づけば鳥頭のくちばしに乗っていた。
「はっや・・・・ッ!?というか、大丈夫なんですか?バックリ逝かれてましたよねぇッ!?」
僕が目を剥いてジォス君に尋ねると、当の本人は「あー」と頬を掻きながら何でもないかのように答えた。
「気づいたら全身針治療?・・・牙治療されて血流が良くなった。最初は驚いたけどなー」
「牙治療ッ!?・・・・その効果がツル一掃ですかッ!!言いたくないんですけど、いつから人間をやめたんですか!?」
「いや、ツルの内部にある遺伝子構造を魔力の念を送って強制的に書き換えたら連鎖して全部チリになったってーだけだ。特別なことは一切してねーよ」
「遺伝子構造?・・・いったい何の話を・・・・・」
「あぁ、その通りだ。キルエルが考えてる通りであのツルども、遺伝子そのものが無かった。・・・なんつーか、魔力を凝縮して作った身体みてーでな。結局は魔力の内部の素粒子の結合を崩壊させて無理やりツルを引っぺがしたんだ」
「話が通じないな――ッ!!あー、もうッ!!」
話の中身が異次元過ぎる。絶対僕の時間軸とジォス君の時間軸はずれてる!質問したら数パート飛んだ回答が出てくる!!
『いやもう諦めろキルエル。ジォスとの会話が成立しないのは今に始まったことじゃぁない。・・・ソレにジォスの発言でいくらか検討がついた。というか、弱点に関する的確さが増したと言った方が良いか・・・・』
というと・・・?
『ジォスの発言は素で考えると意味分からんが全部本当のことだ。その仮定を踏まえた上で言わせてもらうなら生命体の討伐方法は、足の滅却だ』
「・・・・やはり、そうですか」
「ん?どーしたキルエル。何一人で納得した顔してんだ?」
「あぁ、いえ。ジォス君の発言から弱点のアテが見つかった気がしましてね・・・」
苦し紛れに答える僕にジォス君が目を見開いて驚愕の表情を浮かべる。流石にゲーム君の存在を言う訳にはいかない。頭オカシイ奴扱いされるからな。
「弱点なんてあったのか・・・。ある程度、回復できる量に限界があるのかと思ってたがよー、何処だその弱点って?」
ジォス君が思っていたよりも良い食いつきを見せてくる。
「僕は今さっき足から順に攻撃をしていった訳だけれども、ソコで少し違和感を感じたんd」
「ソレ、私にも聞かせてくれないかな?」
僕が説明を始めると同時に、全身変態装備のダルマオさんが龍の頭に乗って輪に入って来た。なんかもう突っ込むのも疲れたので構わずに話を進めることにする。
「樹木の足、あの部分だけ回復が他の部位と比べて遅いんだよ。ソレに、僕の使ってるこのマガツに宿る『一撃必殺50%』を喰らって回復しなかった幹もある。体表や腕、頭、ツルは攻撃してもすぐ回復する癖に、足だけは何故か回復しない。・・・・コレで導き出される答えは一つ」
「足を粉砕するんだなつまり」
ジォス君が納得したように手を打った。
ダルマオさんも「ほうほう・・・」と頷いている。
「足か・・・。確かに考えてなかったなソコは。生物学的に考えて、弱点は首、頭、心臓だとばかり思ってたが、よくよく考えてみればノゥアの作った料理だ。そんなこともあるな・・・」
すごいな。どんな謎でも”ノゥアさんが作った料理”と言われると納得してしまう・・・。
ある意味凄まじいノゥアさんの威光を肌で感じているとダルマオさんが「よしッ!!」と立ち上がる。
「早速、ジォス君とキルエル君で足を集中攻撃しようッ!!」
「おーう、分かったぜ。なら先に仕込みをしねーとな」
「仕込み・・・・?」
ニヤッと笑って立ち上がるジォス君の台詞に首をかしげていると、突然僕の視界がブレて浮遊感に襲われた。
「!?」
気が付くと僕は倉庫部屋の地面に立っていた。
『――――――ッ!!?』
「一体何が、・・・えぇッ!?ええぇぇぇッ!!?」
ふと上を見上げると生命体が足以外の全ての部位を爆散させた。突然の瞬間移動と、突然の生命体の爆散に理解が追い付かずに居ると隣にジォス君が舞い降りた。
「とりあえず邪魔されないように上半身にデコピン撃っといた。コレで攻撃する暇が増えるぜ!」
「お、おぅ・・・・」
デコピン一発の威力で上半身消し飛ばすとか、レベルアップするごとに人間からかけ離れていくな。
『ジォスの場合見た目も第二段階入ってるけどな』
アレは、元々そういう(野生児の)格好なので今更ですよ。見た目完全にゴリラのソレですけどね。
軽く冗談も交えた話をして息を整えていると、ジォス君が意気揚々と樹木の足に突っ込んでいった。
「うおるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!――――って、いって―――ッ!硬すぎるんだよオイ!」
思い切り拳を振りぬき、樹木の足に叩きつける。直後、拳を中心に雷でも落ちた様な爆音が響き渡る。どう考えても穴が開いてもおかしくない威力なはずなのに幹にはかすり傷一つもついておらず、むしろジォス君が手を痛めるという結果に終わった。
「クッソ、感覚的にはダメージ1だッ!!コイツの防御力絶対300000は下らねーだろ!!キルエルの剣みたく俺にも『一撃必殺』あったらなーッ!!」
「防御力30万って、ソレは流石のジォス君でも攻撃が通りませんね・・・。どうすればいいでしょうかゲーム君」
『おぅ、僕も今ソレを考えてるところだ。―――って、ソレどころじゃねぇぞッ!!』
ゲーム君が無理やり僕の視界を操作してジォス君の真上に焦点を当てる。ソコには回復した上半身の背中から生えた何十本というツルが顎を開いてジォス君に襲いかからんとしていた。
「回復はっや!?・・・じゃない。ジォス君、戻ってこい!!」
僕が慌ててジォス君を呼び戻すよう声を上げる。ジオス君なら喰われても大丈夫だろうとか言う人外論は頭からすっぽ抜けてた。
ジォス君は僕の慌てっぷりから状況をいち早く察知し、幹を蹴りつけて後ろにバックステップしてきた。
「たでーま!」
「おかえり!・・・・上半身復活してるんですけど!?」
「あー、・・・キリがねーな。もっかい潰すか。・・・でもどーせ復活するしなー」
ジォス君にしては珍しく舌打ちを噛まして、もう一回飛態勢になる。だが、ジォス君が飛んだ瞬間にまたもやダルマオさんのスキルが発動する。
「『シャッフル』!」
「んなッ!?」
今度は僕がダルマオさんの位置に、ダルマオさんがジォス君の位置に、ジォス君が僕の位置に移動させられた。上半身を吹き飛ばそうとしたジォスが驚きの声を上げて、空高く転移したダルマオさんを見る。
そして当の見た目遊び心満載の不審者、ダルマオさんは此方を見下ろしてグッと親指を立てる。
「上半身は私が引き受けた!キルエル君とジォス君は引き続き足の迎撃を頼むよッ!!」
高らかにそう叫び、アヒルのおまるから出た足をピンと伸ばし、傘とゴム製玩具を持った両腕を広げる。まるでその姿は太陽に向かって飛ぶイカロスの様だった。そのあまりの凄惨さに僕は顔をしかめる。・・・・ダルマオさんの下半身スカートだから嫌でも見えてしまうのだ。
『キルエル、お前のせいで僕の記憶の中にオッサンのパンチラが永久保存されちまったじゃねぇかどうしてくれるッ!!?』
仕方ないじゃん!!不可抗力だったんだよぉッ!!何が悲しくて良い歳したオッサンのパンツ、この目に焼き付けなきゃいけないんだよッ!!
僕の心が悲しすぎる中、宙を飛ぶダルマオさんは「シュワァァァンッ!!」と、奇声を上げながら空気を蹴って生命体に急接近した。
そして――――、
「このキラキラぱやぱやしたこの大天使、ダルマオ・トシが世界の正義に代わってお仕置き申し上げるッ!!―――覚悟しなさいこの悪者め☆私のプリティー可愛い力で世界をハッピーラッキーイヤッホゥ!で包みこんでぇ、ア・ゲ・ル♡」
「「『・・・・・・・・・』」」
「・・・・・・・・・・・・・」
僕にゲーム君、ジォス君が言葉を失い、ついでに生命体も若干引いた表情を見せる。
「私の娘への愛に満ち溢れたパワー!キュルルンルンに変えてあげる!スマイルクイーン『ダルマオ』にぃぃぃへ~~んし~~ん♡」
傘と玩具を持った手でダブルピース(てへぺろ追加)をするダルマオ。そんなえげつないヘンタイを巨大な光が包み込む。
そしてその光の中から姿を出したのは、4つの黒い頭を持つ巨大な体躯。いくつもの魔法陣の描かれた巨大な翼を携えて、左右の腕はその体躯にしては繊細な掌を持つ。3本の巨大な尻尾に生命体の足が矮小に見えてしまう程のずっしりとした脚。まさに混沌を招く禁断の魔龍。その名も、
『『混沌の支配龍アジ・ダ・ハーカ』だとッ!!!?』
ゲーム君が感激の眼差しでそのドラゴンを見る。え、コレダルマオさんなの!?
僕の驚きはゲーム君の即答でかき消される。
『そうだ。従えているモンスターに一定時間なることが出来るスキル『変身』の効果だ!まさか、此処でこんな大型モンスターに出会えるとは、・・・感激だね』
「あのオッサン、モンスターになるスキルでも持ってたのかッ!?すげー、まさかのアジ・ダ・ハーカじゃねーか!俺がゲームで倒すのに苦労したモンスターの一角じゃねーかよ!!スゲーッ!!」
隣に居るジォスも感動の言葉を口にしていた。
「そんなに凄いモンスターなのか・・・・」
むしろジォス君でも苦労するレベルのモンスターを従えているダルマオさんにビックリだ!うわぁ、すごいや。こんな目を背けたくなる変態の癖してアホみたいな強さを誇るモンスターに変身できるなんて。
相変わらず世の中は広いなぁ、と思いました。




