覚悟を伝えました。
「本当にごめんなさい!!」
顔面が擦り切れるがごとく、渾身のスライディング『土下座』をお見舞いした。
「え・・・!!??えぇぇぇッ!?ど、どどどどいうコト!?」
ミルが驚く声が聞こえる。顔を上げるにはまだ早い。
「ミルが僕のことを大事に思ってることに気が付かなくて、毎日自身を鍛えていました。そのせいでミルと話す時間が減って、ミルを追い詰めてしまいました。その結果、木剣が無くなってしまいました。どれも僕の行動が原因です。ミルの気持ちに気づけなくて、ごめん・・・・」
「・・・・・・っ」
僕は顔を上げる。ミルは苦虫を嚙みつぶしたような表情で顔を下に向けていた。手はぎゅっと寝間着を握っている。
「ミルが僕に怪我してほしくないっていうのは分かります。僕をすごく好きでいてくれることがありがたいです。僕を大事に思ってくれるのがすごく、嬉しいです」
思い返せば、ミルが僕のことを大事に思っていたのは昔からだ。でもその過保護さが顕著に出始めたのは僕が六歳の、あの頃からだった気がする。思い出すだけでも頭が痛くなる程の忌々しい事件。
「ミルは、優しい。僕には優しすぎる。修行で夜遅くに帰ってきても、ミルは起きて夜食を作ってくれたことや、怪我の手当てをしてくれたりだとか、全部、ミルが優しかったからです。僕はそんな優しいミルに甘えすぎていました」
「そんな、ことは・・・・っ・・・」
ミルの事だろう。どうせ「私がキルエル君を甘やかしてたから、キルエル君は悪くない!」とか思ってるんだろうな。ミルが続きの言葉を言う前に、僕は立ち上がって宣言する。ここからが本題だ!!
「なので、僕はミルに守られる側から、守る側になろうと思います!!」
おそらく、僕もミルの優しさに依存していたのだろう。僕も一時期はもう、それでいいだろうとも思っていたが、それは僕の漢心が許さなかった。
「え」
ミルが驚きの表情でこちらを見る。ミルの眼に映る僕はどう見えるのだろうか。
「僕だって、男です。好きな女子くらい自分で守りたいんです!ミルにずっと守られてばかりでは僕がミルを守れない!」
「・・・・・・・で、でもっ」
「だから、今度は僕がミルを守ります。修行もします!今のままだとミルを守れません。弱い僕ではまたミルの優しさに甘えてしまいます。ミルのために僕は強くなります。だから!」
「・・・・」
僕はもう一度座り直し、ミルと同じ正座になる。そして右手を突き出す。
「僕がミルを守れるくらい強くなるから、応援してくれませんか?」
僕はミルの瞳を見る。僕の真剣な表情を見て、ミルの瞳から涙が流れる。
ミルはその口を開き、言葉を一つ一つゆっくりと吐き出す。
「なんで、あんな悲しいことがあったのに、わざわざ、悲しい思いをしに行くの?」
「・・・・・」
「私がキルエル君を守れるなら、何だってするのに、私がキルエル君を守るのと、どう違うの?」
多分、ここで「ミルは女の子だから」とか言ったらそれこそ駄目だろう。ゲーム君のことを明かしたとしても信じてもらえる可能性はかなり低い。どうする。どうすればいい。どう返すのが正解だ?
「・・・・・・・・・」
沈黙が流れる。外は涼しく、虫の音も聞こえない。それに比べて僕の頭は熱を帯び、心臓がうるさく鳴っている。どうする。このままだと僕は永遠にミルから離れられない。
・・・・いっそ、ミルに嫌われてしまえばいいのn
『ばっかじゃねぇの!!キルエル、お前!!』
視覚外からの怒号に僕の弱音が消し飛んだ。ゲーム君の声だ。
『テメェが一番考えちゃダメなヤツだ!!お前がネガティブになるとステータス下がるんだよ!お前のそのクソみたいな考えのせいで今精神力が50下がったわ阿呆!!』
・・・・じゃぁどうすればいいと?
『僕に変われ。相手は感情論と経験論でモノ言ってるんだ!論理的な考えは必要ない!素直に、自分が思った事言えばいいんだ!!』
突如として僕はキルエルの意識から放り出される。ゲーム君が『任せろ』と一言だけ言い、意識のハンドルを手に持った。
S S S S
感情論と経験論に勝てるのはそれ以上の感情論と経験論である。
キルエルのトラウマな過去とかは案外関係なかったりする。
キルエルから「ゲーム君」と言われた僕はふぅっと息を吐く。目の前には指を握って涙目を作るミルがいる。
ミルはキルエルを守りたい。キルエルを守るためなら手段を問わない。それはなぜか。
それはキルエルのことが好きだからである。
―――ではなぜ、キルエルはミルを守ろうとするか?
―――好きだからである。
ミルは自覚しつつもキルエルが好きで、キルエルは無意識にもミルのことが好きだったのだ。だからミルの首絞めも許容できてたのか。HP8割持ってくのを毎回受けてるのは多分そうなのだろう。
だとしたら、答えは案外簡単で、口にもしやすい。
・・・・・・これ本当に11歳同士の恋愛事情なのか・・・・?壮大なドラマを感じる・・・。
でも、相手は11歳だ。思春期も先だろう。僕はすぅっと息を吸い込み、突き出した右手と膝の上に置いた左手をミルの拳に乗せる。ビクッとミルが手を引っ込めようとするも、僕はそれを離さない。
「好きだから・・・・」
「へ?」
ミルが僕の方を見る。
「好きだから、僕は辛くても乗り越えたい」
「」
「好きだから、君を戦わせたくない」
「」
「僕がミルのこと好きだから、ミルが僕を好いてくれるより僕の方が好きだから」
「わ、私の方が!!ミルの方が好きだもん!!」
「いや、僕の方が好きだ!!大好きだ!!」
「ミルの方が大好き!!!!」
「僕は超好きだ!!!!!」
「私の方が超s―――!!」
僕はミルの次の一言が言い終わる前に彼女の体を抱き寄せる。
そしてミルの耳に向かって、ゆっくり静かに言う。
「僕の方が好きだ。大好きだ。超好きだ。愛してる、なんて甘っちょろい言葉じゃ伝えきれないくらい好きだ。ミルが想っている何万倍も好きだ。だから、戦ってほしくない。ミルの為なら僕はどんなことしても強くなる。好きだから、悲しくても痛くても苦しくても、ミルが居るって思うと立ち止まってはいられなくなる。だから、ミルを守りたい。だから、ミルには待ってて欲しい。ミルを守れるくらい強くなって帰ってくるから、―――ミルに「僕はこんなに強くなった!」って驚かせたいから、待っててください」
僕が思う全部を言った。後は、返事を待つだけ。
後ろから、鼻をすする音が数回聞こえて――――。
「ん。分かりました」
返事と共にミルの手が背中に回される。
「ミルは、キルエル君を待ってます。悲しくても、辛くても、待ってます。絶対、ミルを驚かせるくらい強くなってください」
「はい」
「そうじゃないと―――」
「?」
ミルは僕の正面まで身をよじって移動し、可愛い笑顔で言ってのけた。
「キルエル君を殺してミルも死にます!!」
「・・・・・」




