親バカを見ました。
「・・・なんか、視線を感じるな」
窓ガラスを拭きながら外の景色を視界に宿すジォスがボソッと呟く。ジォスが見る景色に何がいるのかは分からないがガラスに反射しているジォスの表情から察するに良いモノではないようだ。
僕はソレが気になりそれとなく聞いてみる。
「何に見られてるんですか?」
「さーな、なんだろーな。分かるのはオスであることと、あんまし良くないモノであることだ」
「良くないモノ・・・・」
この世界の良くないモノと言えば沢山有るわけだが(主に勇者とか) 、史実(ストーリー状況)から推測するにおそらくはアレじゃないかなと思う。・・・まぁ、見なきゃ分からないけども。
「ソレって危険とか有りますか?」
あるのであれば早急に対処しておかないとな。またジャウール教が云々するのかもしれないし。
だが僕の危機感に対してジォスはジッと窓から森の中を覗いて、安心とも不安とも取れるようなよく分からない表情をする。
「危険って言われると、・・・確かに危険だな。害意を含む視線だ。だがこの家全体に結界が張ってあるらしくって中には入れていない。現在は外で監視中って感じで止まってる」
「この屋敷に張られてる結界ってかなり強度な『獣祓い』ですね。・・・つまり此方を見ているソレはモンスターと言ったところでしょうか・・・。しかし、厄介ですね・・・・」
「あー、あの森から俺まで結構な距離あるからな。俺の視線に合わせてソイツも視線を合わせてきやがる。なんにせよ、並大抵のモンスターじゃねーだろーな」
ジォスの言う森は僕らが渡った橋の向こうにあるかなり深い森のことだろう。僕もジォスの背後から窓ガラス越しの森を見るが全く分からない。その点に至ってはジォスの視線察知能力はかなり優秀だと言える(男性に限るが)。
確かに相手側の脅威は計り知れないが、『獣祓い』に入ってこれないのであれば実質害はないともいえる。入ったときは入った時だ。その時はジォスと僕で制圧しよう。
『すごい楽観的なのに、ジォス君がいるというだけでとてつもないほどの戦力を持ってる気分になりますねぇ・・・』
キルエルが改めてジォスのえげつなさに感心する。色々な面でジォス強そうだからな。本当に強いけど。
「まー、結界に入ってこない分には手出し不要だろーな。入ってきたら入ってきたらで、その時は仕留めるだけだ。暇だったらついでにキルエルも戦闘に参加させてレベルアップさせるのも悪くはないなー」
「勝手に僕強制参加になってるんですけどッ!?・・・・・まぁ、レベルアップできるなら早くしたいですからね。精神力がマイナス500切ってるのもあって、実質ステータス4分の1なんですよ」
僕の溜息と共に吐かれた言葉にジォスが驚いて振り向く。
「えッ!?精神力とステータスって連動してんの!?そんな状態だったのかキルエルッ!!」
「え・・・・・あぁ、そうだね。間違いないよ、・・・・・黙っててすまなかった。っていうか君も『Brave☩Inoccent』プレイヤーなら分かるでしょ」
「や、謝る必要はねーよ。言いて―時言ってくれる方が楽だからな。変に隠し事ナシって関係面倒くさいだろ?・・・・後俺はゲームじゃキャラの精神力がマイナスにあることなかったから分からんかったんだ・・・ソレもごめんよ」
「・・・・確かに?」
疑問形になってしまったが、ソレにジォスは大きく首を振る。・・・なんか友情って新しいな。僕の知らない世界観かもしれない。
『むしろゲーム君も僕も友達全然いませんでしたからね。彼女候補は居ても友人が居ないとか意味分からん状態でしたし、一周回ってコレが普通なのかもしれませんね』
そうだなぁ・・・。
まったく、友情は素晴らしい・・・。これからも頑張って迷惑かけていこうっと。
僕は新しい目標に意気込んでいると、ジォスが話しかけてきた。
「まー、あの視線のことは保留だな。それより、掃除もある程度終わったし、そろそろ食堂行こうぜ?あの変態オッサンが用事だって言ってただろ?」
「あぁそういえば。・・・じゃぁ行こうか?」
「おうッ!」
僕はバケツを持ち、ジォスは箒を持って部屋を出た。
向かう先は食堂である。
S S S S
屋敷の食堂はソレはソレは大きかった。王城の食堂程ではないが、少なくとも普通の一般的な家庭で見られるような食堂の大きさではなかった。
内装は白で統一されており、テーブルと椅子、シャングリラ以外は普通の木造と石造建築であり、とんでもなく大きい壁ガラスの先には砦の最高階から見える夜景が広がっている。厨房が扉一枚の先にあるのか今さっきから叫び声や断末魔やらが聞こえる。夕食は、・・・・一体何を喰わされるのだろう。
「厨房から聞こえる音じゃねー音が混じってるんだが・・・。なんだ?ドラゴンの巣か厨房は」
ジォスも隔てる扉の奥から発せられる不協和音に軽く眉を潜ませる。本当、動物園でもこんな五月蠅くないぞ?
『一体ノゥアさんは何を作ってるのでしょうか・・・・』
キルエルも『うぇぇぇ・・・』と変な悲鳴を上げている。本当、最近のマッドサイエンティストでもあんな不協和音実験中に出さねぇぞッ!?
少しだけ扉の向こうが気になってしまったが、そんな雑念も目の前の変態達を見た瞬間にぶっ飛んだ。
頭にアヒルの玩具を乗せた変態が腕を組んで神妙な顔をしながら座っていたのだ。
その隣にはおそらくヴィアチェ家の使用人だと思われる方々が、アヒルのおまるやら天使の付け羽を抱えて、それぞれが馬やゾウの着ぐるみを着て変態の両隣に立っていた。
そして後ろには猫の着ぐるみを着た使用人が渾身のブレイクダンスを披露していた。誰にも見られていないのに・・・。
もう、・・・・・何から突っ込むべきなのか悩んでしまった。
『・・・・なんか、疲れましたねぇ・・・・』
盛大な溜息と共に頭を抱えるキルエル。
一体彼らはどんな業を背負ってこの食堂に居るのだろうか・・・・。
とりあえず全ての元凶だろう変態、ダルマオにコンタクトを取る。
「この度はノゥアさんの友人として屋敷に迎え入れてくれてありがとうございます。これから2週間近くお世話になりますが、よろしくお願いします」
「って言ってるこのイケメンノンケがキルエル=ヴェルモンド。で、俺はジォス=アルゼファイドだ。早速だが、俺達を此処に呼んだ理由を教えてほしーんだが」
オイコラジォス、何勝手に自己紹介してるんだ。別に良いけどさ。もう少し丁寧な口調で「ご用件をお聞きに参りました」とか言わないのかい?
僕の心の突っ込みも空しく、ジォスには届かなかった。
だが変態はソレで反応した。
「――――要件とな。まぁ座り給えよご友人達よ。座ってから話をしようじゃないか?」
変態に勧められるがまま、僕とジォスは長いテーブルの一番近い席に座った。木製の椅子のような硬さがなく、尻を轢くところはところはなにか羽毛でも突っ込んでいるのかとても柔らかい。
僕とジォスが座ったのを確認すると変態は頭にさらにアヒルの玩具を乗せる。乗せた瞬間、アヒルが『グワ』と鳴いた。・・・僕は泣きたくなってきた。
「君たちを呼んだのは他でもない、――――聞きたいことがあるんだよ」
『・・・・・・・・・ッ!』
一瞬にして食堂内の雰囲気が変わった気がした。今さっきまでの和やかな雰囲気は跡すら残さず去り、代わりにとてつもない緊張感と強者のオーラを発する。
その気配を察知したキルエルが意識の中で戦闘態勢に移行するが、僕は鈍感なのかキルエルが戦闘態勢になるまでその逼迫した空気に気づけなかった。ジォスは相変わらずの余裕そうな表情である。
だが目の前の変態から溢れ出る強者の雰囲気は本物で、僕では太刀打ちが出来ない程の経験と技術、そして首刃先を向けられているような幻覚さえも見えてしまうような、絶対的猛者のような一種の弱肉強食の感覚がソコにはあった。
言葉の一つ一つが命取り。下手な発言は控えよと言外に示している。本能的に逃走を選択しようとするも、生死を握られている恐怖心が体を蝕んでいるようで金縛りにあったかのように動けない。
そして、その空気の支配者たるダルマオがゆっくりとその口を開き、断罪の言葉が紡がれた。
「どっちの男子が、我が娘を嫁に取ろうとしているのだ・・・・?」
・・・・・・・・・。
『・・・・・・・・』
「・・・・・・・・」
ん?・・・・・んんんんんんん?・・・・・今なんて言ったこの変態。
我が娘を嫁に・・・?取る・・・?―――――はぁぁぁッ!!?
誰があんな妹を自称する鼻血噴出機の女子を嫁に取ると言うんだ?
あれだけ命を刈り取らんとするようなオーラを発しておいて、肝心のセリフが「娘を嫁に取る奴は誰だ?」だと・・・。
僕は信じられないモノを見る目でダルマオを見る。「お前マジかよ・・・」な僕の目線に対してダルマオはとても真剣な目をしていた。曇りなき眼で。そして頭の上のアヒルの玩具のせいで真剣さの全てを台無しにしていた。
ジォスは「うぇー」と変な顔をしながらダルマオを見ていた。人として通常の反応だと思う。
僕たち二人の視線を受けてもなお怯む様子を見せないダルマオ。それどころか、まるで語り掛けるかのように一人語りを始めた。
話の論点を抜き出すとこうなった。
・ノゥアは赤ちゃんの頃から可愛い。
・ノゥアの初めに喋った言葉は「カニさんダヨォ・・・」。
・ノゥアのハイハイを見るたびに心臓発作を起こした(尊過ぎて)。
・ノゥアは一人歩きをを越えて屋根から屋根へ高速移動をしていた。
・ノゥアが初めて作った料理で別荘が全壊して村一つが消滅した。今では笑い話。
・ノゥアの料理姿は可愛い。でも作る料理は容赦がない。
・ノゥアはお父さんにとても厳しい。
・ノゥアの寝間着姿は尊過ぎてこっそり絵を描いてもらった。
・最近ノゥアからの手紙に男の話がよく出てくる。許さん・・・。
・ノゥアの好きな男子が旅行で泊まりに来るそう。よし、暗殺しよう!
・おまえらケダモノ共にノゥアの良さが分かるわけがない!今すぐノゥアと別れろ!そして私がノゥアの恋人になる!!
こんな感じだった。
ソレをただひたすらに繰り返してくるという、地獄絵図。親バカがここまでひどいと呆れや軽蔑を通り越して通報したくなる。そして警察にパクってもらってお持ち帰りしていただきたい。
ちなみにこの変態は実の娘のノゥアに数百回に渡ってプロポーズしている。ソレもダルマオの妻の目の前でだ。
以上の親バカ変態不審者ダルマオの話を聞いて思ったことがある。
僕はその思いの丈をダルマオの目の前で叫んだ。
「何で奥さんはこんなヤベェ奴と結婚を続けられるんだ・・・・ッ!!!」
頭が痛くなってきた・・・。




