『進化』しました。
家に帰ったらミルにおもっくそ殴られた。そして抱き着かれた。
今まで勝手にいなくなっていたことをめちゃめちゃ叱られた。ぶっちゃけ怖かった。
で、「ガラシア武闘大会行って『勇者への推薦状』貰った」って言ったらめっちゃ泣かれた。
「何で行くのぉ!?悲しい思いたくさんするよ!?死ぬまで一緒に居ようよ~~!!」
で、今に至る。僕はミルに首をホールドされている。ぐえええええっ!!
僕とミルって年変わらないと思うんだが何この力、くっそ強いんだけど!?
「と、とりあえず落ち着け!首が、しまっ、るぅッ!!」
そして数分後、やっと解放された。HPが8割減ってた。本当にミルって何者なんだ?
そういえば、僕の中にいる君って誰なの?おーい。
『・・・・・・・・・』
だんまりのようだ。でもねぇ、君が誰なのか分からないと僕も行動しにくい。
キルエルの体なんだからもしものことがあったら君の責任でもあるんだよ?
『・・・・・・当ててみてよ。ヒントあげるから』
反応してくれたようだ。だが『当ててみろ』ときたか・・・。
ヒントが欲しい。
『・・・・・・散々ゲームしといて僕の声も認識できないのかい?』
いや、ゲームだとキャラの台詞って基本画面表示で、音がないんだよ。あっても戦闘中の「ふっ」とか「はぁっ!」とかで・・・・ん?ゲームしといて僕の声が・・・君は僕の知ってるゲームのキャラか!
『そうだね。・・・・ヒントいる?』
待て、待てよ。今僕の『Brave☩Innoent』の知識をフル活用してるから・・・。喋り方が凝りすぎてなくて吐息厨みたいなウザさもない。この詐欺師みたいな口調は、五十嵐トオルさんの話し方だ。確か、公式動画でとあるキャラの声を担当しているって言ってたな。第31回『声優がゲーム実況してみた』で出されていたな。えっと・・・・・あ!!
『答えは何かな?』
キルエル=ヴェルモンドだ!!五十嵐さんは人生で死にかけることが沢山あったおかげで修羅場に遭遇しても冷静を保てる謎能力が手に入ったんだ!!
『五十嵐っていう人が誰なのかは知らないけど、そうだよ。正解、僕はキルエルだよ』
おぉ!!マジで!?いやぁ僕キルエルの大ファンなんだ!!
『・・・・・僕の大ふぁんって言われても困る。君のやっていたゲームとこの世界が似てるっていうだけで、僕はそのゲームのこと知らない』
『好意を受けるのは素直に嬉しい。だけど現実感が無い。・・・・というか『崩壊の因子』って何?君が勝手に僕の体を使って変な事するせいで僕は何が何だか分からない』
ん?僕は気づいたらこの体になっていたんだ。だから持ってるゲーム知識でキルエルのバッドエンドを回避するんだ!!
『ばっどえんど、・・・聞くからに悪い意味を意味してる気がする。そもそも僕のバッドエンド?って何だ。何が起こるんだ?』
死ぬ。
『・・・・・・ん?何て?』
死ぬ。
『・・・・どうやら言い方からして本当な気がする。具体的に説明してくれないか?』
ストーリーで倒した『崩壊の因子』を復活させるために追放されたキルエルが魔界で『次元崩壊の禁術』を行おうとしたところに勇者一行が邪魔しにて来て死んだ。
『それは・・・僕が言うのもなんだけどここで生涯を過ごした方がいいのでは?』
いや、もしもここで一生を過ごすことになる場合、悪魔に狩られることになる。
『・・・・どういうことだ?』
約三年後、この村に勇者一行が来る。だがそれは悪魔が来襲に来て村人のほとんどが死に絶えた後だ。
『生き残る可能性が低いからか。でも山に避難して居れば生き残れるぞ』
いや、キルエルが生き残ってもミルが死ぬ。
『な、なんで・・・・』
ミルに流れる血が悪魔の好物と相性がいいからだ。悪魔はそういう血の匂いにすごく敏感で、山に入っていたとしても十中八九見つかる。ミルはゲーム内では戦闘特化ではなく料理特化だ。とてつもない勢いでレベルを上げない限り悪魔に対抗は出来ない。キルエルは今からレベルを上げれば少し苦労するけど上級悪魔を倒せるぐらいにはなる。だが、ミルはその倍近くのレベル上げが必要になる。
『守りながら戦えば、・・・・』
無理だ。下級悪魔ならまだしも中級悪魔相手だとかなりキツイ。出てくる悪魔は上級悪魔一体、中級悪魔五体、下級悪魔10体だ。守りながら戦えればそれこそ良いけど、悪魔は例外なくとある『スキル』を持っている。そのスキルは
『憑依』:対象を一定時間操ることができる。操れる時間はレベルによる。
出てくる悪魔はレベル30~43が相場。一見弱そうに見えるけど、元値ステータスはアッチが上だ。ソレならキルエルはおそらく80ちょっとかな。だがミルはレベルは今から伸ばしたとしても20くらいか。悪魔の『憑依』を舐めない方がいい。僕もレベル上げを怠ったせいで仲間が次々と殺し合いを始めた。レベルの低いミルは一発でアウトだ。なんなら知らず知らずのうちに操られたミルに殺される可能性も否定できない。守りながら悪魔に殺される可能性もある。
だから、村にとどまるのは自ら死にに行くようなものだ。
『なるほど・・・・。と、なると勇者になる必要があるのか。そうすれば悪魔が来る前に村に駆けつけることができる』
あぁ、だがゲーム内では試練の魔力測定で勇者に負けてしまう。そのためにも今のうちにレベルを上げるんだ。試練は半年後、レベルは30以上は必要だ。
『ん。分かった。ならば僕も協力しよう!ミルを助ける為に!』
S S S S
僕はステータスプレートにある『進化』を押す。
『Brave☩Innocent』はレベル上げのシステムがすごく面倒くさい。その理由である一つがこの『進化』だ。レベルが一定値まで溜まるとそれ以上上がらなくなる。その限界を突破し新たなレベルに突入できる『進化』は今のレベルを超えられる肉体を作るためのリラックスタイムである。簡単に言えば次のレベルに行くには時間がかかる。
『多分、この世界での進化って精神統一なんだと思う』
どゆこと?
『ん~、僕も詳しくは知らないんだけど、死んだ父親が言ってた。「これ以上鍛えても成長を感じないと思ったら二日ほどの精神統一と休憩を挟むといい。その後また鍛えるとまた成長を感じることができる」って』
ふんふん。
『進化』を発動すると急に体を極度の疲労感が駆け巡る。嫌な汗が体からぶわっと出る。僕はその場に立ってもいられず後ろのベッドに倒れ込む。急激に意識が持って行かれる。
『なんかだるi』
キルエルも極度のだるさを感じたようだ。そして僕の意識も遠ざかっていく。
10時間が経過したころだった。
「う、んん・・・・・」
『くぁ~。何だ急に眠くなったぞ』
僕とキルエルは意識を取り戻した。どうやら『進化』を発動すると強制的に眠らされ、体の細胞が強化されるようだ。僕はすぐさまステータスを表示する。
キルエル=ヴェルモンド(11歳 男 レベル15)
HP310 攻撃力200 防御力206 素早さ202 魔力210 精神力-209 運8
耐性:全属性耐性マイナス
スキル:無し
加護:無し
剣大会では精神力がマイナス219だったのに対して現在はマイナス209、良く寝たから精神力が回復したのだろうか。『進化』するとレベル上限が上がり、さらにはステータスも上がる。このまま精神力が0になったらステータスは運を除いて400近くになる。僕のゲーム知識に置いてレベル15でステータス各々が400あるのは『魔界』出身や第七悪魔、総合入手確率(1/400)の混合種族くらいだ。
『つまり、ゲームの中では強い部類に入ると・・・?』
いや、『神』の類とかだと優に1000を超えてくるから中層って感じ。ちなみに『崩壊の因子』は僕の計算だと700~750くらい。っていうか、そもそも僕ら精神力-209だから中層の土台にすら立ってないんだよ。
いや本当、キルエルに入り込んでずっとだけど精神力がマイナスなんだよ。何があったんだ・・・。
僕が尋ねるとキルエルは少し悩んだ感じがした。
『いつか、・・・・話すよ。僕の口から話すのは良いんだけど、思い出すのがつらくって・・・』
あぁ、僕もゴメン。そんな辛いとは知らずに・・・。
『あぁ、いいんだ別に。ゲーム君が悩むことじゃないから・・・』
キルエルが申し訳なさそうに言う。ん?今ゲーム君って聞こえた気がする。まぁいいや。
僕はまだ日が沈んでいないことを確認して家を出る。そして置物にある木剣を取りに―――。
――――――――なかった。
「あれ!?ない!!」
『本当だ。木剣がない』
剣大会に行く前までにはあった木剣が無かった。大きなツボの中を見てもない。立てかけてる木材のすき間を見てもない。
・・・・何故だ?
木剣が盗まれた?な訳ない。木剣なんて村共有の備蓄小屋に腐るほどセルサービスされている。そもそも木剣があるのは置物のかなり奥の方。この場所を知ってる人は僕、キルエル、ミルくらいしかいない。
『・・・・・・ん?』
・・・・・・ん?
キルエルが驚いたような声で僕に語り掛ける。
『ミルは、僕が怪我して帰ってくるのを見るのが嫌だった。7歳の時に野良猫に掌引っかかれた時は僕より怪我してないミルの方が大泣きしたことがある。・・・・・その過去がある故に僕は一つの仮説を立てる。それはミルg』
分かった。それ以上言うな。
つまり、ミルは「木剣を無くせばキルエルは家にいてくれる」と考えた。故にミルは僕の木剣を盗んだのだ。―――と言う事だろう。
僕は確かにミルの考えることは間違っていないと思った。でも、それより驚いたことがある。
「ミルってお前のこと超好きなんじゃねぇの。チッ、リア充爆散しろ!!」
『なんとなく謂れのない風評被害を言われた気がする。―――――まぁ、僕も、なんとなくそうなんじゃぁないかな―、って最近思い始めた』
行動力のある女の子がミルだと思っていたが、どうにも他の男子共よりキルエルへのスキンシップが激しいという事実を受けた。
やはり年頃なのかね・・・。僕がそう思っていると、キルエルは急に何かに納得したかのように話し方がキリッとなった。
『なるほど、なるほど、―――――ふむ。だとしたらミルとは一回ちゃんと話し合った方がいい』
おん?
『ミルは現状、僕が鍛えるという行動に不満を持っている。でもミルはそんな不満を時々にしか洩らさない。・・・おそらく、愚痴を吐いていると僕に嫌われるとでも考えたか。でも剣大会に出場したことが決め手となって『木剣を無くす』行動に出たんだ。いや、正確には僕が『そう』させてしまったんだ』
なんだキルエル、急に何に目覚めた?
『この行動を無視したら今後、修行するともなればミルとの衝突は避けられない。そうなってしまえば僕とミルの距離が開いてしまう。それだけは避けたい。ならば、今ぶつかろう。原因は僕にもある。―――ゲーム君、今日ミルに覚悟を伝えることにする。体を貸してくれないか?』
キルエルの詐欺師みたいな口調が一気に真面目な物に変わった。
同じ男子のキルエル好きから言わせてもらおう。
あぁ、構わないとも。
『ん』
S S S S
部屋の戸をノックする。
「僕だ」
「・・・・」
無言だ。夕食が終わった時間帯、寝るにはまだ早い時間帯だ。きっと起きている。
僕は再びノックする。
「話がある」
「・・・・なんの?」
震えた声が聞こえる。普通なら僕がノックする前に戸が開く。
こんなの、自分がやったと言ってるようなモノなのに。
「僕の、今後についてだ」
「・・・・」
きぃ、と戸が開く。部屋には寝間着姿のミルがいる。ミルはちょこんと部屋の床に座っている。
正座で。前髪で目は分からないが、口元が引き締まっている上、手足は震えている。
「ミル・・・・。ちょっと、本題とズレるけど僕の木剣の事」
「!!」
ビクッとミルの背中が震える。そんなに怒られるのが怖いなら隠さなきゃいいのに・・・。
「言いたいことがある」
「・・・・それは、・・・・」
僕はすぐさま顔を下に向ける。そこから滑るように膝を折り正面に両手を突き出す。
そして腹から声を出す。
「本当にごめんなさい!!」
「!!!!?」
ミルの驚いたような息使いを最後に僕は渾身のスライディング『土下座』をお見舞いした。




