下がりました。
嫌な予感が晴れない。ジォスと下山したときからだ。あの時は全然勘違いだと思って見過ごしていたが、今は違うと分かる。
そんな気持ちを抱えたまま僕はレトリバーを『ジャウール』の拠点まで案内した。
そして軽く中を漁り、僕たちが回収した後の魔道具の山を見たりした。もちろん、前に来た時の僕の臭いをごまかす為である。臨時参入の許された僕はある程度、自身の臭いをマーキングした後、レトリバーに断りを入れて山を降りた(臨時参入を許された訳は模擬戦で半分本気のブルドグの攻撃を避けれていたから、だそうだ)。
向かった先はギルドだった。そしてこの時も嫌な予感は僕の鼻を付いて回った。
『何か、とても嫌な気配がするんですが・・・・』
キルエルも身体との神経を切り離している状態にも関わらず、僕と同じ心情にあった。
そしてその嫌な予感たるモノは的中した。
「居ない・・・・」
待っている様に言ったアムールが居ないのだ。忽然と姿を消した彼女を探したが見つからず、ギルドの職員に聞いたところ、何か鬼気迫った顔で数時間前にギルドを飛び出して山に向かったと伝えられた。
『え・・・・・・・・』
この時にキルエルは何かを悟ったように意識の中で立ち尽くしていた。僕も同じ気分だった。
「いや、まさかな・・・・」
そんなはずはないと、運命終焉シナリオを想定することを拒絶して外に出るとスコップと鉢合わせた。
「白髪の獣人を見てないか」と聞いたところ、「そんな子は!見ていない!」と返答された。その言葉に少し安堵したのもほんの一瞬のことだった。
アムールを探そうと思ったが先に王宮に戻って現状報告しておかないといけない。アムール探しはまた後にして、見つからなければ家に出向こう。
そう思いながら僕は王宮に戻った。
そして僕は見ることになる。残酷すぎる僕の努力の結果を。
S S S S
そして現在。
僕は王宮に帰った後、勇者が集められている会議室に足を踏み入れた。
ソコには見たことのあるメンツが居た。
偽善者にノミにリピアに勇者。ソレだけならいつもと変わらない癖強めな勇者パーティなのだが、僕の眼は勇者の隣に居る存在に釘付けになった。
まさに僕の絶望シナリオを具現化したような存在、ところどころに黒い線の入った白い髪に黄色い瞳、おしとやかと言うよりは活動的な獣の印象を受ける牙のついた歯。その情報を持つ人物は僕が知ってるストーリー上ではたった一人しかいない。
そう、アムール=エグザイル、その人だった。
「『は?』」
僕とキルエルの声が重なる。それくらいの驚きを感じたと同時に、今度は疑問が湧いてくる。
なんだ?何で彼女が此処に居る?彼女はギルドに居ただろう?何でこうなっている?
『まさか、途中で勇者君がギルドに立ち寄って出会ったとか・・・』
いや、そんなことはない!ストーリー上ではギルドでアムールに出会うイベントなんて無いぞ!?
『じゃぁ、一体何故彼女が・・・・。考えられる可能性としては、アムールが『ファフニール山』に行った事ですかね。あんな心理的ダメージを負った状態で行くのはちょっと無理がありますけど・・・』
僕もソレは考えた。でも何が原因でアムールが動いたのかよく分からないからな。・・・でも動いたとしたら納得できる。
キルエルとの脳内会議の結果、本人に聞くことにした。
僕は何気ないいつもの愛想笑いを浮かべながらアムールに近づく。うわぁ、何があったかは知らないがアムールの眼が完全に勇者に行ってる。ハートマークついてるし、・・・大丈夫かコレ。会話できるか・・・?
「ねぇ、アムール。今までどこに行ってたんだい?随分と探したんだよ」
「ヒッ!」
「キルエルテメェッ!!勝手に手ぇ出すんじゃねぇッ!!?」
「みょふぉん?」
僕の差し出した手を認識した途端アムールが小さく悲鳴を上げる。それと同時に僕を認識した勇者がキレ散らかす。あぁ、このセリフもゲームでも現実でも聞き飽きた・・・。
おそらくはそうなんだろうな。また何か僕が悪いみたいな方向に向いたんだろうな。今度は何用でキレるんだか・・・怒りたいのは此方だと言うのに・・・。
こちとら勇者パーティにアムールが入る前から手を尽くしてきたというのに、ソレを一気にお前にかかってる主人公補正で奪われたんだぞ。なのにこの仕打ちはなんだ。あまりにも僕が不遇じゃないか!
主人公補正に対する恐怖心を、アムールと言う主力戦力になるだろう必須のキャラを奪われたことに対する怒りが上回った。
僕は「ちょっと失礼」と言い、勇者の制止を振り払ってアムールの顔を勇者から僕に向かせる。
「アムール、君は何の為に山に行ったんだ?僕の”お願い”はどうしたんだ?―――『忘れた』なんて、甘っちょろい言葉は出来ないはずだよ?」
「ヒィッ!!」
アムールが僕の顔を見て目を瞑る。完全に反応が儀式前に使われる猫とか犬みたいな反応になっている。覚えてる覚えてない以前に、僕を生命的に危険な存在だと認知している証だ。
ソレなら無理やりにでも思い出させるまでだ。
僕は人差し指をアムールの脳天に当てる。練習なんてゲーム以外ではしてないから発動するかは分からない。でも、今はコレ以外方法が無いからな。
僕は人差し指の先に魔力を流して、アムールの脳天から頭にかけて繋がれたチューブに暗示を乗せた魔力を流すイメージを作り上げる。
『何するんですかゲーム君?』
洗脳魔法。
『洗脳、・・・・・洗脳ッ!!?出来るんですか!!?』
キルエルが驚いた声を上げる。五月蠅い。初めてだから成功するか分からねぇんだ。集中させてくれ。
僕の人差し指から淡い、紫と白が絡め合ったような光が微弱ながらも発し始める。
後は呼吸を整えて洗脳魔法の魔法名を言い、暗示内容を上手く分解して分かりやすく魔力と一緒に流すだけだ。
僕は静かに大きく深呼吸し、その魔法名を言葉にしようと口を開いた。
その時だった。
「アムールに触るなっつってんだろうがッ!!!」
怒号で集中が途切れた。反射で上を見ると勇者が拳を振りかぶっていた。げ、ヤベェ体制きつくて避けられねぇ。
そう思った直後にキルエルが僕の腕を動かして今僕が”持っていたモノ”を上にあげる。
視界が”持っていたソレ”に塞がれる寸前、勇者が僕のおでこを殴らんと拳を振っていた。
そしてそのまま鈍い音が響いた。
S S S S
衝撃も痛みも僕は感じず、やけに腕が重く感じた。なんだ?と思って持っていたアムールの頭を見る。ソコには白目を剥いて気絶しているアムールが居た。
あまりにも綺麗な白目だったのでビビった僕はほぼ反射でアムールを横にポイッと投げてしまった。
ソレを呆けていた勇者の隣に居たリピアがすかさずアムールの体を支える。
後で盾として使ってしまったアムールには謝っておくとして、今はちょっとソレどころじゃねぇってんだ。勇者が凄いくらい呆けた表情をしている。今年の顔芸枠に入れるんじゃないかってくらい惨い顔をしている。ぶはッ!!
「クフッ」
顔には出さまいと努力したが、笑いの方が勝ってしまい軽い微笑を漏らす。今さっきまで感じていた怒りよりもとんでもない速さで脳にダイレクトアタックを噛ましてくる。
『ぐはwwwwwww!!アゴwwがwwwヤバいwwww』
キルエルも完全に大爆笑している。ゲームでは勇者の背後しか映ってなくて、キルエルが何で笑ってたのか分からんかったが、こういう事か・・・。コレは、映像で流すのにはよろしくないなww。
僕が必死に笑いをこらえていると、『叫び』を仏頂面にしたような顔面の呆けた勇者が正気に戻る。
そして顔が呆けた顔からの通常に戻る瞬間の『オファッ!?』みたいな顔を見てしまった。
「フッフッフwwwwww・・・・グフゥッフッフッフwwww」
頑張って笑いを抑えようとしたが全くできなかった。頑張って口に手を当てるもあの凄まじいアルティメットな崩れ顔が脳内でフラッシュバックし、笑い声が口と指の隙間から這い出てくる。
「何笑ってんだキルエルテメェッ!!よくもアムールを殴らせやがって・・・・ッ!!!」
「いやwww、あまりにもww面白すぎてwwブフッ!wwwアムールを殴った時のwwwグファッ!wwww避けww避けろよwwwソコはwwフフッ!wwww勇者だろww仮にもお前wwwww世界の命運を担う勇者がww女の子殴ってwwwギャハハハハハハハハハッッッ!!!!!!!」
抑えきれなかった僕はその場で両腕を広げて狂笑する。目をランランと見開き、口角を最高までひん曲げて舌を出して腹から笑いを限度無く吐き出す。
『ゲーム君の笑い声恐ッ!?』
「ギャハハハハハハハハハッ!マジかよ傑作じゃねェかッ!!ウッソだろオイwww勇者が女の子殴ッてwwwwwww」
「キルエルテメェッ!!いい加減にしろッ!!!倒れたアムールが見えないのか!!」
そりゃァ上向いてるからなァッ!・・・・ダメだ。これ以上笑っては僕が持たない。特に胃が。
僕はすぐさま脱出するためにいつもの表情に戻して部屋を出ようとする。頑張ってフラッシュバックする勇者の顔芸を無視しつつ、いつも冷静さを保ったような声音を引き出す。
「僕は先に出ておくとしよう。会議内容も分かってるし、そろそろ国に帰る支度をしなくちゃ。アムールには後で詫びておこうかなw。・・・・・じゃぁ、一足早くバイバイだ」
笑いを必死に抑えて僕は事後報告をすっぽかして部屋を出る。この笑いをギルドの依頼で消化しておくのだ。
『あの、事後報告って何を話すんですか?後、帰るって。後6ヶ月は滞在する予定だったんじゃ』
王宮内の廊下を歩いているとキルエルが問うてきた。笑いの余韻も覚めてしまった僕は報告内容を思い返す。
事後報告の内容はギルドに爆発事件の犯人である『ジャウール教』信者が送られてきたこと。
犯人は下っ端で、「もう既に我々の『崇高なる御意思』は決断した」と言い残して舌をかみつぶして自害したこと。
そして拠点内部に違法魔道具が大量にあったこと。詳細はまた後程調べる方針であること。
今回の爆発事件と山での戦闘がキッカケで、国内の安全を強化するため一回ファムルス内に居るガラシア人を強制送還することになった。よって、滞在期間が残り2週間となった。
この間にファムルス内部に居る『ジャウール教』を殲滅するようだ。
これらが事後報告の内容となる。
『なるほど・・・・・・。分かりました。後一つ良いですか?』
何だ?
『今回の一件。アムールが勇者パーティに入ったことに関してなんですが・・・・』
キルエルはもごもごと口を動かして懸命に言葉を探す。
『ゲーム君も僕もがかなりダメージを貰っていて、その、・・・・精神力が心配なんですが・・・』
「あッ!!」
キルエルの台詞に僕は急いでステータスプレートを開く。とても嫌な予感がした。いや、現在もしている。
キルエル=ヴェルモンド 11歳 レベル39 男性
HP1040 攻撃力1025 防御力1444 素早さ947 魔力967 精神力-519 運2
スキル:『浮遊』
加護:『渡り人の加護』
属性:闇 無
見事なことに精神力がマイナス500を切っており、状態異常の欄には『全ステータスダウン』が入っていた。
よって僕は全てにおけるステータスが実質、1/2になったのだ。
僕は脱落するような息を吐いてそっと呟いた。
「最悪だ・・・・・」
これにて第二章は終わりとなります。
次回からはガラシア国内での冒険となります。




