増えた。《勇者視点》
「クソッ!!数が多すぎる・・・。倒したと思ったら次々に出てきやがって、台所の虫さんかテメェらッ!!」
「勇者様、流石に獣人一人を守りながら戦うのは苦しいかと思いますが・・・・ッ!!」
しびれを切らしたようにリピアが呟く。俺はその言葉の意図を感知し、それでも押しとどめるようにリピアを諫める。
「ダメだ。彼女を、此処で死なせるわけにはいかない。幾ら彼らがクソ野郎であっても、此処で彼女を見捨てて良い理由にはならない」
俺は向かってくる信者を両手に装備している剣で切り裂き、爆発に巻き込まれないように胴体を蹴って後ろに回避する。
蹴られた信者はそのまま周囲の信者すらも巻き込み、その四肢を爆散させる。だが爆散した信者の傍らに居た他の信者たちは不思議なことに無傷だった。
「何で無傷なんだよあぁッ!!?ちゃんと体が傷つけクソ野郎!!」
歯噛みしながら再び剣を持って走り出す。
「こうなったら一人ずつ除去するしかねぇッ!!」
「私のことも忘れないでくださいよね勇者様!」
意気込んで再び手短にいる信者に斬りかかる。
そんな時だった。
「お、持ちこたえてるじゃねぇか。流石はガラシアの勇者、肩書だけじゃねぇってことだ!!」
「あ!?」
俺が飛び込もうとした手前の信者がオッサンの声と共に、何の前兆もなくぶっ飛ばされる。
ソレだけじゃない。今さっきまで俺たちの周囲を囲んでいた信者たちが一瞬にして風に吞まれるかのように空高く舞い上がった、かと思いきや突然空に放り出された信者が次々と自爆していった。
「!?」
その光景に愕然としていると茂みからとても際どそうな服装をした兎の獣人が現れた。確か、この獣人は勇者パーティのリーダーだったような・・・・。
名前なんだったかなぁ~~、と思い出そうとしているといつの間にか兎の獣人の真隣に居る犬の獣人が声を掛けてきた。
「ガラシアの勇者たち大丈夫かい?」
「あぁ、一応・・・仲間がどっか行きましたけど・・・・」
俺がマルクとレイブンを思い出しながら言うと、犬の獣人は「ふむ」と軽く顎を掻いて、俺達を見る。
「・・・・そうか。此処からはおいら達ファムルスの仕事場だからね。ケガしない内に王宮に帰っときな」
「―――は?」
これから「『ジャウール教』潰すぞ!!」って時に、王宮に戻れだぁ?手柄独り占めにする気か穢れたケダモノ共が。勇者の面被って偉そうに格上に指図するんじゃねぇよくたばれ三下。
俺の心情が顔全面に表れる。それくらい言ってる意味が分からなかった。
だが、俺の不機嫌すらも意に返さない態度で犬の獣人は告げる。
「君たちが動きたいと思うのは山々だが、単純に言って君たちは弱すぎる。このまま付いて来て貰っても正直足手まといでね・・・。君たちを守りながら進むのは効率的に考えてもよくないし、戦力的に考えても期待はできない」
冷静であって、それ故にその言葉の本気度が痛いほど伝わってくる。確かに思い返せば親善試合でもたった一人を相手にして四人とも翻弄されたり、攻撃が全然当たらなかったりと戦いに置ける経験値は向こうの勇者よりも浅い。
それでも、
「でもs」
「そもそもの話、君は仮にもリーダーなんだからパーティメンバーの統率、管理が出来なくてどうする。『勇者』ってのは肩書だけじゃないんだよ。国民はおろか、世界の命運を担ぐ身だ。そんな人間がパーティメンバーを従えられずにどうするって話だ」
「それはアイツらが勝手に・・・・・」
「そんな言い訳で、『勇者』は人を見捨てるのか?上手くいかない原因全部押し付けて見捨てるのか?それが君の『勇者』か?――――――――ほざけよ青二才」
「」
息が詰まった。それほどの威圧が、犬の勇者から放たれている。『勇者』たる覇気が、オーラが、言葉と重なって俺の『勇者』たる魂の在り方を問うてくるようだった。
俺は処刑場に立たされたような、逃げ場も何もないような感覚に襲われて何も言い返すことはできなかった。
「だから、早く王宮に戻りな。ガラシアの勇者の仲間は今おいら達と同じ”飼い犬”が探してくれとる。その子も、一緒にお帰り」
優しく語りかけるもその眼は笑っていない。戦場の何たるかを分かってないというような、圧倒的な格の違いを見せつけられた。
「――――」
「行きましょう、勇者様。彼女の治療も必要ですし・・・」
「・・・・ぁ、あぁ。そうだな・・・・」
何かを言い返したくても、何も言い返せない。そんな気持ちをグッと飲み下しリピアの台詞に同意を示した。
その後、俺達三人は山を降りて彼女の治療のためにギルドに向かった。
S S S S
ギルドに着くとすぐにリピアが白い髪の獣人を連れてトイレに向かおうとする。
「何でトイレ?」
俺がそう尋ねると、リピアは珍しく俺に向かって怒った。
「洗脳魔法は解除すれば問題ないと思いますけれど、念のために全身くまなく調べて奴隷痕や魔道具がないか見ておくためですよ!そんな事説明させないでください。それとも一緒に見ておきますか?」
「あ、いえ良いです。なんかごめんんさい・・・」
リピアもリピアなりの考えがあるのだろう。洗脳は魔法だけかと思っていたが奴隷痕や魔道具での支配もあるんだなぁ、と改めて俺は学び直した。
「え?私洗脳されてないよ?それより、キルエル君何処?一人で山の方に行っちゃって・・・」
「とりあえず、こっちに来るのですよ」
今さっきまで何も言っていなかった少女が弁明をするが、リピアはソレを無視してトイレに強制連行していった。早くキルエルの洗脳が解けることを祈っている・・・。
そしてそのまましばらく待つこと数分が経過すると、休憩エリアにて二人の影が俺の目の前に現れた。どちらも俺の知っている人間の体格をしており、俺の知っている人間の喋り方をしていた。
そう、マルクとレイブンである。
俺はとりあえず「お疲れ、おかえり」と彼らに労いの言葉をかけると二人はとても重苦しい息を吐いて、椅子に座り、腕に顔をうずめた。
「ど、どうしたんだお前ら・・・・?」
「「ファムルスの勇者うぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」」
「それは同感だ」
二人の口から出てきたのは紛れもない俺たちにとっての真実であり、俺の心情を現したような言葉だった。なんだ、お前らも仲間か。
「アイツら、ボクが信者を薙ぎ払ってると足手まといだからどっか行けってさ。ボクの獲物全部倒して説教してどっか行きやがった」
「僕はもう少しで拠点にたどり着くってところで暑苦しい変態犬に『ここは!ダメだよ!』とか言われて山頂から転がされた。おかげで腹が痛いんだけど」
「チッ」と息巻くレイブンに、「ぶふー」とやる気を削がれたような声を上げるマルク。こいつらも結構キツイ事言われたんだなぁ・・・。
「俺もさ、パーティメンバーちゃんと統率できずに『勇者』なんか名乗るなだってさ。統率できてないところは確かに認めざる得ないけど、言い方ってモンがあると思うんだよねぇ」
「「それな」」
俺の零れた愚痴に人差し指を出す二人。お前ら、俺の知らない内に仲良くなってるじゃねぇか。後地味に俺のリーダーシップの無さも認めてるじゃねぇかどういうことだ!?
仲間の友情の深みに感動するべきか、自身の統率力の無さを肯定されたことに怒るべきか悩んでいると、後ろからとても可愛い気配を感じた。
振り向いた先にはリピアと白い髪の獣人が居た。白い髪の獣人は何か言いたげな顔をしながら、頬を染めていることに気がついた。いや、そんなことよりもだ。
「リピア、彼女の洗脳魔法は解除されたのかい?」
「はい。多少思考能力に彼の影響を受けてか、現実に戻すまでの時間はかかりましたが確かに解除しました」
「そうか、よかったぁ・・・」
危うくあのキルエルの野郎によって完全に、意思なくキルエルを支えるだけの傀儡になるところだったな。本当に良かった。可愛い女子一人救えたことには俺もリピアを尊敬してしまう。
それにしてもこの子結構可愛いな。・・・俺のパーティ男性の割合多いし、いっそのこと入れること出来ないかな・・・。
俺が白い髪の女の子を見ていると、彼女はだんだんと顔を赤くしはじめてボソボソと呟く。
「あ、あの。あまり真剣に見ないで・・・・・」
「ぐふッ!!」
か、可愛い、可愛すぎるぞこの女子。この自然な感じ、ほわほわとした雰囲気が野生感を引き立てている。コレは最早芸術作品と言っても過言ではないだろう!!
胸に手を当てて呻いていると、白い髪の女の子が紅い顔をしながら言葉を紡ぐ。
「私は、アムール=エグザイル。ゆっ、勇者様。助けてくれてありがとうございます・・・」
「あぁ、礼なんて要らないよ。俺はすべきことを成しただけのことだよ」
あまりのアムールの可愛さに鼻の下が伸びていたかもしれないので、俺はソレを隠すようにアムールに笑いかける。するとアムールは一瞬にして足先から頭まで真っ赤になると慌てたように俺に詰め寄った。
「勇者様は、私のことを見ても何も思わないんですか?」
「へ?」
急に何を言い出すのかと思えば、自身の容姿についてどう思うかを聞いてくるアムール。
「私は獣人なんですよ?何とも思わないんですか?」
おいおいそんな事かよ。確かに『英雄創聖教』の教えに乗っ取るなら確かに嫌悪の対象として扱うんだが、俺も『勇者』たる立ち位置上、変に差別発言をするのは良くねぇ。ソレに、この可愛さは俺の今まで見てきた獣人見たく獣臭さを感じない。むしろどこかのお嬢様の飼っているペットのような、可愛らしい香りがする。まさに別格だ。こんな可愛い子に差別発言なんてできる訳がねぇってんだ!!
「別に、むしろ君みたいな可愛い子がそんな古臭い事に縛られて自身の可愛さに気づけないところには、俺も思うところがあるけどね」
「そ、そんな、可愛いだなんて、・・・照れます・・・」
ぐふぁッ!!ヤベェ、可愛すぎるぞこの兵器。リピアは可愛さよりも綺麗さが素晴らしいくらい高いが、この子に至っては泥遊びしていても全然可愛いと思える。ダメだ可愛すぎる・・・。
俺がアムールの可愛さに悶えていると、後ろ二人が不審な目で俺とアムールを見てきた。
「ヴェルト君。彼女はいったい・・・?見たところヴェルト君になついているようですが・・・・」
マルクが俺をヤベェ奴を見る目で見てくる。やめろそんな目で見るな。
「アムールは『ファフニール山』で信者に襲われそうになったところを俺が助けたんだ」
「なるほど、道理で。でも、何故そんな子が『ファフニール山』に?あそこはダンジョン以外特にと言ってなかった気がするが・・・」
「それは私が説明しますわ」
訝し気な様子でアムールを見るマルク。どうやら『ジャウール教』と何か関係があるのかもと睨んでいるのかもしれない。
それに対してアムールの隣に居たリピアが声を上げる。
「彼女は如何やらキルエル君の洗脳魔法によって傀儡とされていたようです。しかも中々の魔法であり、精神まで干渉されてまして、解除がとても難しかったですわ」
「なッ!ソレは本当か!!?」
レイブンが驚いたように声を上げる。
「傀儡と化したアムールはキルエル君の命令に従い、『ジャウール教』の囮となる様に仕向けられました。ソコを丁度私たちが通りすがり、助けたわけです」
「なるほど、そんなことが・・・・」
マルクが重々しい溜息をつく。気持ちは俺も同じだ。クソッ!!キルエルの野郎、奴に人の心は無いのか!?いくらひどい扱いを受けても当然の存在である獣人と言い、こんな可愛い女子を手駒にしようだなんて、いくら何でもひどすぎる。
皆がキルエルに対して憎悪の感情を抱いていると、レイブンが「ふむ」と首肯してリピアに問うた。
「じゃぁ、彼女はこれからどうするんだ?卑怯者の負け犬に関係してるってことはこのままバイバイと言うわけにもいかないだろう。ソレに負け犬のことだ。変にこのままこの国に返してもあの自由奔放な奴のことだ。偶然にでも出会って、洗脳魔法が解除されていることを知ったら・・・」
「そ、それは・・・・・」
レイブンの的確な問いに対してリピアは困惑の声を漏らす。アムールも若干泣きそうだ。そうだもんな、あんな奴にまた出会ったら、それこそトラウマになりかねない。可愛い女の子に対して、ソレだけは避けなければいけない!!
だから俺は閃いたのだ。
「いっそ、このパーティに入れるっていうのは、どうだろうか・・・」
「「「「!!?」」」」
俺の発言に全員が驚いたような顔で此方を見る。
俺は少し咳ばらいをして気持ちを整える。他の皆に受けりれられるような考えを提示しなければ、彼女の入隊は期待できない。
「このままアムールを国に置いて帰るのはマズイ。理由としては見つかった時に何をされるか分からない。女子を傀儡にするような奴だ。勇者パーティに所属している以上、最悪証拠隠滅に殺すなんて可能性もある。・・・・この場合は可能性があったらの話だが、可能性がある限りその選択はダメだ」
「ふむ。まぁ確かにそうだが、ソレで何故大英雄たるこのボクの居るパーティに入れる必要がある?真の勇者たるボクが居るパーティにはどこぞの負け犬も居る。ソレは狼の居る籠の中に兎を入れるようなモンだぞ」
レイブンが反論してくるが、ソレに対して俺も反論する。
「あぁ、確かに一見そう見えるが、パーティには俺もお前も、リピアもマルクも居る。俺達が見張っていればクソキルエルも無駄な手出しは出来なくなる」
「だが、それでもあの負け犬のことだ。貴様ならまだしもボク達の目を盗んで彼女を処分する可能性だってある」
それでも食って掛かるレイブンに、俺はにこやかに微笑み返す。
「ソコは大英雄で真の勇者?であるレイブンが許さないだろう?まさか、自分の指揮するパーティの様子把握できないで、たった一人のクソ虫一匹も統率できないなんてこと、真の勇者にあるまじきことだよねぇ?」
「あ!?」
「それとも大英雄の魂を引き継ぐレイブンはそれくらいのことも出来ないニセモノなのかなぁ。誰かさんと”一緒”で・・・・・・・・」
「~~~~~~ッ!!!」
俺の雄弁に言い返せないのか、歯噛みするレイブン。そしてギラリと目が光った。
「あぁッ!!そうだ。ボクこそが大英雄の魂を引き継ぐ真の勇者、レイブン=エバーズだ!!それくらいどうってことないさ!!いいとも、ボクは彼女の入隊には賛成だ!!」
やはりこの手には弱いなレイブンは。あっさりとアムールの参加を認めるレイブン。
「じゃぁ、他にアムールの参入を拒否する者は居るかな?」
辺りを見回すと、パーティメンバーは誰一人として拒絶の声を上げない。よっしゃ、コレでアムールを毎日愛でられるぜ!!
俺はアムールに向き直って、彼女に掌を差し出す。
「もしよければ、俺達の勇者パーティに入らないかい?此処に入れば君を守ってあげられる」
アムールは少しモジモジと俺の掌を見る。だが、そんな迷いもあっという間でアムールは俺の掌に自身の掌を乗せる。ほんのりと暖かい手だった。
「はい。新参者ですが、よろしくお願いします」
ぺこりとその場で一礼するアムール。
こうして、俺達の勇者パーティにアムール=エグザイルが加わった。




