勇者呼びました。
ジォスがプルプルゲッペイガニを食べ終わった後、僕たちは何事もなかったかのように拠点からずらかった。
勿論、途中で勇者には出会わないようにジォスの鼻を頼りにした。ついでに誤解を防ぐため『漆黒ローブ』と『影の仮面』はそれぞれしまって、元の服装に着替えている。
「つーか、会わなくていーの?勇者に」
「会っても五月蠅いからなアイツら。人の話聞かないし曲解するし、よくわからん理由でキレ散らかす。実際それで斬りかかってきたり、殴られたりしたからな」
「聞いてる限りだと通り魔よりも性質悪ーな。仲間に斬りかかるとか美学が足りね――」
「ソレに、なんか嫌な予感がするんだよねぇ・・・・」
僕の溜息にジォスがこちらを振り返り、ムーンウォークしながら聞いてくる。凄まじい足さばきで障害物を完全に避けている。とても芸術点が高いと思った。
「嫌な予感?どんな感じの・・・?」
「テストに備えて3週間前から猛勉強したのに、全部赤点だった時並みの嫌な予感」
「そりゃーヤベーなオイ。ソレは会わねー選択肢が一番良ーのか・・・?」
対するジォスは華麗な足さばきをしながら僕の返答に首を捻る。何か思うところがあったのだろうか。
「なーんかなぁ・・・。その言い方だと逆に今会いに行った方が良ーんじゃないかなーって思う」
「何で?」
目の前の障害物を避けるのに必死な僕に対してジォスは木々の枝や幹を使った三次元ムーンウォークをしていた。凄まじい足さばきで繰り出される縦横無尽な動きはどうやって実現されているのかとても不思議に思った。
「なーんだろう・・・。俺の勘を分かりやすく例えると、『好きな女の子が間男に口説かれているのを見てしまったノンケ』って感じだな」
「なんだそりゃ」
「俺にもさっぱりだ。女の子好きになる男の感情とかぶっちゃけよくわからん。だから俺の勘が間違ってるなんてこともある。まー、重く考えなくていーぞ」
さらっと自己保身の言葉も付け加えておくジォス。対する僕が思うことはただ一つ。
ちっとも分からん。
なぜならキルエルの好きな女の子はミルだし、そもそもそのミルが此処に居るはずないし、戦力的に僕が好意を持てるアムールは今ギルドに居るだろうから会いに行く理由が分からない。
だから僕は間違った選択をしてしまった。主人公補正は勇者が居ても居なくても発動しているということをしっかりと知っておくべきだった。
「まぁいいか。ソレなら余計行かない方が良いって線もあるわけだし、勇者に会いに行く線はナシだな」
「んー。分かった」
ジォスは軽く返事をして再び前を向いて軽く走り出す。少し眉が下がっていた気もするが気にしないでおいた。
S S S S
リピアの魔法が炸裂し二人目の信者を撃破した。これによって非常に戦力が強化されたと言っていいだろう。
「残るはお前だけだぜッ!!覚悟しろ」
地面に刺さっていた『白銀色の剣』を引っこ抜き、二刀流の構えをする。隣にはリピアが居る。これほど心強い存在は居ないだろう。非常に強くなった気がする。
俺が気を引き締めて闘志を滾らせているとリピアが後ろの木に寄りかかっている女の子を見た。
「勇者様、彼女は?」
「キルエルに洗脳魔法を掛けられた可哀そうな女の子だ」
率直に答えるとリピアは「まぁッ!」と口に手を当てて悲しみを織り交ぜた表情を作る。
「キルエル君がですか・・・。随分とひどい真似を」
「リピア、君には悪いとは思ってるけど彼女をキルエルの魔法から解き放てないかい?」
「よろしいのですか?」
「あぁ、いくら世界から迫害を受ける身だとしても、キルエルの奴隷なんて非常に酷なことだ。断固として許されることではないッ!!(可愛い女の子をキルエルの手ごまにするなんてあってはならないことだ!!)」
俺の強い意志がリピアに伝わったのか、リピアはにっこりと微笑み胸を叩く。
「任せてください勇者様。必ずや私が彼女の呪いを解き、あるべき意志に導きますわ!!」
「まずはコッチから片づけるぞ。リピアは援護を頼むッ!!」
「はいッ!第一線はお願いしますわ!!」
リピアと役割分担を行い、俺は2本の剣を構えて信者に突進した。
S S S S
僕は山を出た後ジォスと別れた。と言うよりかは、ジォスが「はッ!ガラシアで中々なイケメンの気配が・・・ッ!!悪いがキルエルとは此処でお分かれだ!また会おう!!」とか言いながら地面を掘って何処かに消えた。そのまま土から出ないでほしいと思った。
「アイツはモグラかなんかなのか・・・?」
『なんかギャグ漫画のような人でしたね・・・。ギャグじゃないのが恐ろしいんですが・・・』
キルエルがジォスの行動原理に慄きながら完全に引いている。・・・アイツ溶岩掘り当てても生きて帰ってきそうなんだよな・・・。
さて、少し話がずれたがこれからする行動を順を追って説明しよう。
『拠点から魔道具持って帰るのが目的だったんじゃないんですか?』
いや、アレは目的のための前準備みたいなモンだ。
『アレよりひどい作業をするんですか・・・?』
キルエルが若干疲労感を漂わせながら尋ねてくるが、あんな魔道具選別作業みたいな地獄じゃねぇ。もっと単純なことをする。
『何するんですか?』
キルエルのその問いに僕は山を下りてすぐの商店街を疾走しながら答える。
「まずはファムルスの勇者探して拠点の場所を伝える」
しばらく疾走していると見慣れたキャラが聞き込みをしていたのを発見する。
片手には何かよく分からない液体の入ったコップを持ち、片手には錆抜き油の缶ボトルを握りしめていたそのヤベェ奴は疾走する僕を見た瞬間に瞳の色が変わった。
「ヤベッ!!不審者!!?」
ギラリと光るその眼を見てしまった僕は即行でUターンしようと足にブレーキを掛ける。だが遅い。
「捕まえたぁッ!!」
変態の方が速かった。
「ぐえッ!?―――――なんだこの異臭!!?」
あっさりと捕まり、悲鳴を上げる僕。そして捕まえられた途端にとてつもない異臭、いや異臭なんて生ぬるい。アメリカの大統領が笑顔で核ボタン連打するくらいの激臭、否”変臭”が僕の五感を破壊しようと迫って来たのだ。
上を見上げると、おぞましい色をした液体Xがガラスコップの中に鎮座していた。そしてその異物を平気な顔しながら片手に持ち、僕の口に近づけてくる変態。
「コレもはや案件だろうが。なんだこの臭い!何混ぜたらこんなおぞましい兵器が出来上がるってんだ!!」
あまりにも飲み物の色をしていない液体Xから逃れるように首を捻って叫ぶ。この世界に警察の概念があったら間違いなく通報していた。というか、なくても通報したい。
「というか、離れてください。いつまで僕の上に乗る気ですか!?ホストラビットさんに言いつけますよッ!!」
「あ、ソレはヤバいッ!!!」
お前の方がヤベェんだよ。とは決して言わなかったものの、それくらい言っても許される気がする変態、もとい勇者ブルドグ=チャートは「やべッ!!」みたいな顔で僕から離れる。
「人に乗ったなんて姫さんにバレたら今度こそおいらの熟成油脂ワインが捨てられるッ!!キルエル君、このことはおいらとの秘密にしておいてくれないか?」
人の上に乗っかっておいて話す内容じゃねぇだろ・・・。後なんだ熟成油脂ワインって・・・。
げんなりとする僕に対してブルドグはとても元気そうである。今すぐにでもラードの中に沈めたい気分になるが、そんなことを考えている場合ではなかった。
僕は用事を思い出してブルドグに声を掛ける。
「ブルドグさん、『ジャウール教』の拠点が見つかりました!!警備が厳重で僕だけでは到底戦いになりません。応援をお願いしても良いですか?」
「ぬ!?『ジャウール教』の拠点?それは本当か!!」
さっきまでの危ない人感は何処へやら、僕の言葉に一瞬にして勇者っぽくなるブルドグ。その眼は油脂ではなく本当の勇者の目をしていた。
僕のやるべきことは応援要請だ。勇者がいくら強かろうが相手は上級信者だ。2~3人ならまだしもあそこには50人以上の信者がいる。此処で勇者を見殺しにするのは僕の生き方上良い判断ではないからだ。ガラシアの勇者が死亡なんて、国にもいいダメージが入るからな。
そのための応援要請でもある。ここでは癪だが公式ストーリーを歩ませていただこうではないか。後の利害を考えればこの公式ルートを進むのはやむを得ない判断だからな。
「僕の持っている情報によりますと、『ジャウール教』は『ファフニール山』に拠点を構えていて、信者の数は、上級信者でも30人居ます。もしかしたら拠点内に奴らの切り札が隠されている可能性もあり、ブルドグさんを探してました。―――応援お願いします」
変態勇者とも言えど、僕にとっては素晴らしいキャラクターであり尊敬の対象でもある。そのため、僕は敬意を払い頭を下げてお願いするのだ。近寄りがたい変態だが。
「おいおいやめてくれよ。頭を上げてくれないか?仮にも勇者パーティの一人なんだろ?」
ブルドグが慌てた声で僕の頭を上げさせるように促す。
ゆっくり頭を上げると、ブルドグさんがグッと親指を立てて言った。
「あんまり頭は下げるモンじゃねぇぞ。それによ・・・」
「それに・・・?」
「勇者に頭下げさせたなんて姫さんの耳に入ったら最後、おいらは全身の油脂を剝がされる。ソレだけは勘弁だからな!!」
理由が悲しすぎた。・・・・なんか、もっとこう、・・・何か他に言う事あっただろ・・・。
なんて勇者らしくない格好良さを見せながらも僕の応援要請には非常に協力的な姿勢を見せてくれた。
「じゃぁ少し待っててくれキルエル君。全員集合させるから」
「え、あ、はい」
ブルドグは何処かに行くまでもなくその場で大声を張り上げた。
「イイ鞭持ってる奴がいるぞ―――ッ!!」
ぎょっとした目で通り過ぎる人々が居るが気にしない。ブルドグは続けて叫び散らかす。
「姫さーん!!勇者が他の人に媚びてるワ―――――ンッ!!!」
ワ――――ンッ!!!ワ――――ンッ!!ワ――――ンッ・・・・・・!!
商店街の、それも結構人だかりができている中で叫び散らかしたせいか僕とブルドグを中心に半径3m程の聖域が出来ていた。
『皆、関わりたくないんでしょ。ヤベェ奴二人も居るのに・・・』
完全に他人事のように僕をヤベェ奴扱いするキルエルはさておき、何かえげつないモノが近寄ってくる気がした。いや、言い換えよう。・・・完全にコッチに向かっていた。
「ソレは!どこに!居るのかな!僕らの!新しい!飼い主様!」
「イイ鞭を振り回す女王様が居ると聞いてぇ」
「コレは仕事で頃ではないな!コレは一刻を争う・・・、誰が先に一撃もらい受けるかッ!!」
商店街の三方向から汚い声を撒き散らかし、目を血走らせる変態犬がそれはそれは狂気の沙汰ともいえる形相をしながら此方に走って来た。うわぁ、怖ぇぇぇ・・・・・。
尋常じゃない走りを持ってして此方に近づく三人と共に、上空から飛来してくる怒号。
「んんんんだぁとゴルアアアアアアアアアアッッッ!!!!何勝手に私を見限ってんだ脳みそ《ピー》しか詰まってねぇ《ピー》犬ころ共がァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!」
三匹の変態と一人の不審者が蒼天から飛来する黒光りする鞭によって的確に尻を穿たれる。
「あ!」
「ぬ!」
「あぁ!」
「油脂が剥がれ落ちるワァぁンッ!!」
「誰が喋って良いと言ったぁ!!!」
見ていて痛々しい攻撃に歓喜するブルドグの頭を雷鳴の如くハイヒールが直撃する。そしてそのまま地面にめり込ませられた。
その上には憤怒の形相で仁王立ちする女王の姿があった。
「な?すぐ来ただろ」
踏まれている状況を喜んでいるブルドグが僕に向かって笑顔と一緒にVサインをしてきた。そんな彼の汚姿に僕はフッと息を吐き、笑顔で持って返した。
「こっち見んな」




