証明してみました。
作戦、ソレは簡単に言えば勇者パーティが動いて未然に事件を防ぐ単純なモノである。
ソレがばれないためには王宮内部の人を全員同じ場所に隔離して情報の漏洩を防ぐ。
隔離している間にファムルスとガラシアの勇者パーティが『ジャウール教』の鎮圧をするのだ。
まぁ、結局そうなるのだが・・・・、いいか。
で、現在僕はギルドに来ている。
「そういうわけで、僕は勇者パーティの一人として証拠集めと野郎共を制圧しに行ってきます。言わなくても分かると思いますが・・・・」
「早寝早起きトイレの掃除を忘れない。変態を見つけたら通報するように。分かってますよ!」
「君、人生のどこに重きを置いて過ごしてきたんだ!?」
まったく違う・・・・、と嘆く僕の前で真剣な顔でそんなどうでもいいことを口ずさむアムール。
分かっていてふざけているのか、ただ単純に分かっていないのか(おそらく後者)戦闘準備をし始めるアムールに僕は念押しで言っておく。
「ついて来ないでくださいよ?」
「えっ?―――――なんで?」
むしろ僕が「なんで?」と聞きたくなるくらい爽やかに首をかしげて聞くアムール。何でついて行けると思ったんだろうか・・・。
だが此処で連れて行ってしまうとマズイ。レベル低いから下っ端信者一人相手でも絶対苦労するだろうし、なんせ勇者が居る。この章では絶対に勇者とアムールを近づけてはいけない。何が原因で公式ルート歩むか分からないからだ。
だからアムールには悪いが、ここでお留守番してもらうのだ。
「相手は『ジャウール教』ですよ。あの爆発事件を起こした張本人たちの集団が敵なんですよ?今のアムールでは正直なところ無理です。もう少し実戦経験が必要ですし何より、・・・」
次の言葉を出そうとしたが、理性に憚られた。11歳に対して言っていいことなのか、少し残酷すぎやしないか、そう思ったが「役立たず」と彼女の意志を押しつぶす言葉を使うよりかはマシな気もした。
だから言い直す。
こういう言葉を使う時は出来るだけ、諭すようにゆっくりと優しく、だが決して甘やかすような眼はいけない。かといって押しつぶして抑圧して、彼女の意志を遮断させるように強く言うのでは恐怖支配になってしまう。
大事なのは自ら引かせることだ。
僕は強い意志を宿すアムールの肩にそっと手を置き、彼女の瞳を見る。
「何より、アムール。―――君は人を殺す覚悟はあるかい?」
「――――ぇ?」
「今回の敵はモンスターでもなければ、悪魔でもない、―――人間だ。中には獣人も居る。奴らは本能で動く単細胞モンスターとは違うんだ。奴らは武器を持ち、組織を持ち、知恵を持ち、殺意を持っている。モンスターの捕食本能とは違う。―――明らかな殺意と『そうあるべき』思考脳をを持ってしてソレに反抗する者は例え人間でも奴らにとっては”敵”だ。獣人なら猶更だ」
「―――――で、でも私もキルエル君も、その、・・・子供だし・・・・殺されるなんてことは言い過ぎなんじゃないかn」
「君は何を勘違いしてるんだ?」
「・・・・っ」
僕の剣幕を受け流そうと目をずらしながら言葉を紡ぐアムールを一蹴し、少しながら腹から声を出す。
「奴らにとっての”敵”は老若男女関係ない。”子供”だから見逃してもらえるとか甘ったるいこと考えてるんじゃぁないだろうな?」
「」
「”敵”は何だろうが、奴らにとっての『高貴なる御意志』を汚すものはあらゆる手を使って残酷に残虐に非道に冷酷に冷静に無惨に真剣に懸命に本気で、――殺滅撲滅消滅根滅破滅亡滅極滅絶滅壊滅崩滅せしめるんだ」
アムールは言葉を発しない。それどころか、微弱にも肩を震わせている。
「そんな救いのない奴らでも人間でありはたまたアムールと同じヒトだ。奴らはもう既に”敵”を殺す準備は出来ている。―――君は、アムールはどうなんだ?ヒトを殺す覚悟はできているか?自らを本気で狩ろうとしてくる奴らの胸に、首に、頭に、牙を突き立てる覚悟はできてるか?命乞いをしてくる奴らの声を聴きつつ、自分の情を無視することは出来るか?相手の心も、ましてや自分の心も踏みにじって涙を零す奴らの顔を見ながらトドメを撃つ覚悟はあるか?裏切った自身の肉を斬り、血を浴びて獣人の皮を剥ぐ覚悟はあるか?」
まだまだ言っておくことがあるが、僕の言葉にアムールは完全に首を背けてしまった。
そろそろ、潮時かな。
僕はアムールに自身の『進化の剣』を見せる。
「その覚悟があるなら、証明して見せよ」
「―――」
「持て」
「――――」
無言で『進化の剣』を受け取るアムール。今さっきまでの力強い意志はもう無い。手首ががくがくと震えている。
コレ、もう少しで完全に戦意喪失させれるな・・・。
『ゲーム君が完全に悪役ポジションになってる気がする・・・』
「これで、実戦してみろって言うの・・・?」
『あぁ、剣で実際に『ジャウール教』信者を斬れ!と言うことですね。確かに、精神には響きますね』
若干泣きそうになっているアムールに、僕の意図を間違って察したキルエルが納得する。
だが、残念。キルエルの予想は間違っている。
本当に、『殺す』の意味を分かっていない。
僕はそのままゆっくりとアムールの持つ剣先を僕の方向に向ける。
「じゃぁ、その剣で僕の腹をブッ刺すんだ」
「『――――――え?』」
キルエルとアムールの声が同時に重なった。結構レアだなこういうの。
僕がキルエルとアムールのシンクロに感動していると、キルエルとアムールから混乱の声が生じた。
『ど、どういうことですか!?え?僕の腹に、剣を・・・ブッ刺すぅッッッ!!??』
おう、かなり痛いだろうけど骨は斬れないだろうな。防御力は骨の硬さと比例するし、ヒビは入るかもしれないけど断絶はしねぇよ。刺した瞬間に、リープで傷を治しながら剣を抜きゃ後遺症も傷跡も残らないし、回復で疑似的な鎮痛効果もある。最近発見したことだしな。この際、もう一度試してみようか!
「血が出るくらい想定の範囲だし、痛いのは攻撃されたら誰でも一緒だ。何も迷うことはないし、おかしなことは何もない。――――さぁ、やれよ」
「ヒッ・・・・!」
剣先は一点集中なんて頭にはないほどブレまくっている。それよりもどんどん僕の腹から離れて行ってすらある。困ったな、このままじゃ時間の無駄だ。
「どうしたアムール。・・・・まさか、僕が相手だと斬れないとか、そんな情けないこと言い訳にやめる気か?――――そんなことじゃ、君は虫も殺せないよ?」
「・・・り・・・だよ・・・」
そういって剣を落とすアムール。床が石だからと言うのもあって甲高い音がギルド内に響いた。
「無理、・・・・だよ。キルエル君を刺すなんて、そんな事出来ない・・・・」
ふるふると拳を震わせてオドオドし始めるアムール。今さっきの闘志に燃える目とは違い、とても弱々しく感じる。そういう目だ。
もはや手は剣を握らず、拳を握った。
コレが、彼女の覚悟なのだ。
僕はその『進化の剣』を拾い、『次元収納鞄』にしまう。
「だから、お留守番だ。君が血に濡れるのは似合わない。それくらいの覚悟だったってことだよ」
「ぅ、・・・・うぅ・・・・・」
自身の無力さを感じたのか、上っ面の闘志を自覚したのかアムールの目端からとても小さい雫らしきモノが落ちるのが見えた気がした。
「じゃぁ、僕は行く。此処で待ってるんだよ」
「・・・・・待っ、・・・て」
僕が立ち去ろうとするのをアムールがか細い声で引き留める。聞こえないふりをしようと思ったが、反射的に止まってしまった。
「どうして、・・・・どうしてキルエル君は、大丈夫なの・・・?今からヒトを、・・・・すのに」
足音は聞こえない。近寄ってくる気配すらも見せない。ただただ声が聞こえるだけだ。
何故って?何故僕は大丈夫なのか?・・・・僕は完全に慣れてるから。精神病を持った(十三代目の)母親と姑、舅の信仰する危ない宗教で儀式が云々で生きてる動物(なんの動物化はご想像にお任せします)を解剖したことあるから慣れかな。ヒトも同じようなモンだと思うし・・・。後、単純に怖いからかな。
でもこれは答えではない。僕の答えであって、キルエルの答えじゃないからな。
と、僕はキルエルに身体の操作権を渡す。
キルエルはそのまま操縦席に座り、その口を開く。そしていつも通りの詐欺師めいた口調で五十嵐さんボイスで言った。
「たった一つの、僕にとってかけがえのない、偉大なる幻想を守り抜くために―――」
「幻、・・・・想・・・・」
「そして、彼女を狂わせないために―――、僕はソレを厭わない」
「・・・・」
「僕の世界を変えるモノは”全部”滅す」
『恐いから、怖いから、想像したくないし、創造させてはいけないから』
キルエルの狂気と恐怖に満ちた不滅の精神が彼の意志を逆立てるかのように、その声には力がある。
そしてギルドの扉を開けて、外に出る。その際に、少し顔を傾けて、後ろで固まってるアムールに微笑みかける。
「ちゃんと、お留守番してるんだよ」
S S S S
彼は、行ってしまった。
何時間も経ったのに、未だに今さっき起こったことのように感じる。
私は自分の剣を持っていた右手を見る。寒くないのに震えていて、怖くないのに掌に雫が落ちる。
私は呆然と掌を見ながら思う。
なんで私は剣を落としてしまったのだろうか。
なんで私は彼を止める言葉を思いつきすらしないのだろうか。
なんで私は彼が間違っていることを証明できないのだろうか。
なんで私は彼を止めるための口を開かなかったのだろうか。
なんで私は彼を止めるための手を伸ばさなかったのだろうか。
なんで私は彼に追いつくための足が動かなかったんだろうか。
なんで私は弱いままなのだろうか。
なんで私は、―――――。
疑問は出てくる。出ても出ても出尽きることはない疑問が。私の精神に、覚悟に、気持ちに、身体に、存在に問いかけてくるのだ。
もちろん、答えなんて出ない。
でも、でも、動かないと、動かないといけなくて、でも動けなくて、覚悟が決められなくて、私があやふやになっていて、でも動かないといけなくて――――、でも、でも、でも・・・・。
――――「君は人を殺す覚悟はあるかい?」
脳裏に彼の言葉がよぎる。動こうとしても動けない。行ったとしても、そこで戦うのは敵は敵でも”ヒト”だ。
私が、思い悩んでいるとふとギルドの扉が蹴破らんとする勢いで開かれた。
入ってきたのは彼よりかなりの歳の差があるんじゃないか、と思われる高身長の青年だった。後ろからクリンと曲がった茶色い尻尾が見える。おそらくリスの獣人だろう。
そのリスの獣人は慌てた声で叫んだ。
「今さっき、山の方でデカい爆発があった!!そこで黒いローブを着た奴と剣を持った少年が戦ってる!!少年の方はめっちゃ強くて何人も切り倒してるんだけど、正直相手の数が多くてこのままじゃジリ貧だッ!!誰か、応援を頼む!!」
その声を聴いた瞬間だった。
「はいッ!!」
誰かが威勢よく声を上げた。それと同時に私の視界に映る景色が急加速して、気づけばギルドを飛び出して、山の方に駆けていた。
どうやら、声を上げたのは私で、山の方に走っているのだ。
今さっきまで負の鎖に縛られていた気分が嘘のようになくなり、脳が陽に当たったかのように爽快になる。
―――「どうしてキルエル君は、大丈夫なの?」
自身で言った彼への言葉に、今度は自分が答える。覚悟なんかよりも、身体が動いてしまった理由を――――。
「好きになっちゃった人を、一人で歩かせたくないからッ!!」




