依頼を受けます。
「全く最近の若者と来たら、人生の先輩に何と容赦ない蹴りを入れてくるのか。・・・・世も末だな」
「お前の恰好のほうが世の末だわ!!服を着ろ!!」
「全く、そうカッカするでない。よく考えてみろ、どんな生物だって最初は衣一枚着てすらいなかったんだぞ。今更服を着るのがオカシイと何故気づかん」
「よし、じゃぁその状態で一回王宮周辺で叫び散らかしてこい」
「じゃぁちょっと行ってくる」
「あ、ちょっとやっぱやめてください。するんなら会計終わらせてからにしてください」
僕はとんでもない格好をしたイオンの足を摑んで止める。ヤベェヤベェ、このまま行かせたら明日の王国の朝刊に載る。まだ会計も済んでないのにそんなことはさせられない。
『会計済んだら良いって、・・・それもダメでしょう・・・・』
キルエルの呆れた声が響く。
現在の状況を説明しよう。
アムール・・・現在装備中。この場には居ない。
イオン店長・・・フンドシだけ付けたいつもの晴れ姿。吐きそうになる。地面から出てきた時、驚きと恐怖で蹴りを入れた。
僕・・・今すぐこの変態店長に殺虫剤掛けたい。
『現在ゲーム君は頭のネジが飛んだ会話をしております』
あぁ?何言ってんだキルエル。僕の頭にネジ穴なんてねぇよ。
『飛ぶネジが無いのはそういう事でしたか・・・・』
何言ってんだお前。
話を戻そう。
イオン店長はありのままの汚姿でフンドシ一枚を巻いただけの状態だ。綺麗な美脚が台無しになる光景をこの二週間で見すぎな気もする。
「何でフンドシだけ付けてるんですか。服を着てくださいよ・・・」
僕が頭を悩ませながら聞くと店長は当たり障りのない返答を返してきた。
「自然に、戻るためだよ」
どこか物悲しそうに、まるで禁忌に触れたかのような悟り顔で明後日の方向を向く店長。よく見ればフンドシの巻き方を知らないのか後ろは完全に不用心だ。見なけりゃ良かった。
「人類、それこそ前までは自然だろうが何だろうが、我々の手中にあり尚且つ搾取対象だ!と言う人類至上主義みたいな思想が流行っておった。でも最近はそんな自己中心的な思想は廃れ、『自然と共に暮らす』みたいな自然に配慮した生活を、考え方をするのが当然というような二枚舌思想が世を駆け巡った。今もそうだ」
「そうですね」
僕の肯定の意志に店長はうむうむと首を振る。
「ワイはムカデの獣人であり自然と言う部類の中では最も近しい存在だとも言える。豚や牛、犬や魚という家畜の部類には『自然と共に』の意味をはき違えている奴らが多い。大昔から人間のすぐ隣を歩いてた動物、その獣人だからこそ見られる特徴だ」
「・・・・」
「今の世界は確かに汚染物質を垂れ流したり、化学薬品を野生の動物に投与したりするような倫理を無視し、科学の発展にだけ重点を置くやり方はされていない。減少の一途を辿っている。だが、今の世界を見てみよッ!!」
店長が体を翻し、両手を広げる。
「森林伐採は進む一方、今もワイも知らない生物が何種類も生き場所を失って毎日何万種類も死んでいる。モンスターは『悪』のレッテルを張られてダンジョンだろうが森の中だろうが基本おとなしかろうが駆逐対象。その駆逐対象を使って兵器を作りだし、自国の兵力を上げる。エコだなんだと言っておきながら石油だの天然ガスを掘り出しては使いもしないエネルギーを地上にばら撒く!!元々の品種を改造し生物を無理やり人類の都合のいいように作り変える!!」
「・・・・・」
「コレのどこがッ!どこが『自然と共に暮らす』だッ!!何が『自然環境を考えて配慮した行動をしよう!』だッ!!これなら今までの人類至上主義の方がよっぽどマシだわい!!」
店長は憤怒の形相を沈ませていつもの表情となり、僕の方に近づく。
「真に、自然環境を思うのであれば文明など捨ててしまえ!!科学だなんだ関係ない!!弱肉強食に乗っ取って自然界で獅子にでも食われてしまえ!!そう、森に、・・・・森に帰るのだ!!」
「」
フンドシ一枚で美脚に筋肉モリモリのワガママボディが無表情で迫ってくるという、人間の業を圧縮したかのような存在がそこには居た。視界には居れたくないのに、何故か首が回らない。足も動かせない。恐怖と今までにない衝撃で脳内キーボードをタイピングすることができない(つまり思考停止)。
『ゲーム君、前世にどんな人生送ったらこんな頭のぶっ飛んだ人と出会うんですか・・・・』
キルエルの冷静な呟きに耳を貸す暇がない。ヤベェ、コイツはヤベェ・・・・!!
そしてそのまま眼前にまで店長が迫った。
「そうだ、人類は森に帰るべきなのだ。・・・だからこそ、君にもコレを授けよう」
仏頂面で片手に持ったもう一つのフンドシを渡してきた。オイ、そのフンドシ今どっから出した!?
「さぁ、・・・・君も・・・・・」
最早店長、今さっきまでの良いところが全部まとめてセクハラオヤジに転職された。やめろ!!その前部分から取り出したなんの液体が付いてるかも分からないフンドシを近づけるな!!
地獄だった。それはもう、なんとも形容し難い地獄だった。
だが、そんな地獄は唐突に終わり話迎えた。
「あの~~、装備し終わりましたから会計をお願いします」
「森に、帰r・・・・森・・・・。――――おう!分かったぜ嬢ちゃん、ちょっと待ってな!」
今さっきまでの不吉なオーラは何処へやら、アムールが店の着替えルームから顔を出した途端に不吉なオーラが露散した。そして圧倒的速度での掌大回転。僕には見えなかった。
フンドシ片手に店を飛び出すと、4秒もかからずに戻ってきた。素晴らしい滑り込みと共に、服を着て。
『・・・・・・・はッ!夢かコレは!!』
圧倒的現実だわ。
どうやって4秒で服を着たのだろう、最早意味の分からない店長はアムールから代金を受け取ってる。その姿は熱心に働くただの鍛冶職人にしか見えない。
会計を終わらせたアムールが近づいて僕の手を取る。
「じゃぁ依頼受けに行こうよ!お勧め教えて!!」
「・・・・ん?・・・・・あぁ、うん分かったよ」
ちょっと店長の人格変換の速度に追いつけなくて反応が鈍ったが、何とか返答をする。良かった、逃げられる。やっとこの地獄から抜け出せる・・・!!ナイスだアムール。今ならそのあざとい仕草を見てもイラっと来ない!!
だが、そう思ったのもつかの間。「そういえば」、とアムールが懐から何かを取り出して渡してくる。
それは一枚の長い布だった。
「・・・・・これは?」
ところどころに染み(なんのシミかはご想像にお任せします)がある得体のしれない存在がアムールの出された手に鎮座していた。それも店長と同等、もしくはそれ以上の圧を放っていた。
地獄から脱出する直前まで気を抜いてはいけなかった。
僕が何かを察し、今すぐにでもアムールの口を塞ごうと右手を動かす。だが遅かった。アムールの口、もとい終焉の禍門がその暗黒たる狂気を開放してしまった。
「森に帰るための、ふんどし・・・?って店長が言ってた。次来るときは、一緒だよと伝言を頼まれましたよ。それも店長が長年愛用し、肌身離さず着けていた歴史の長い逸品だそうです」
何も知らない純情な笑顔を見せるアムールと、その口から出た怨嗟の塊に僕は反射的にそのフンドシを受け取っていた。
否、受け取ってしまったのだった。
その後、フンドシは『次元収納鞄』に永久保存し手も摩擦で火を起こすくらい必死に洗った。
S S S S
僕とアムールは現在ギルドの依頼掲示板を見ている。
「どの依頼が良いの?」
「そうですね、初心者であれば基本薬草の採取や商店街のパトロールから持久力を鍛えるのが手ですが、僕というランクCも居るので今回は普通に戦闘ですかね。しかし、アムールはいくら攻撃寄りの性能を持った獣人と言えどランクはFでガラシアのような基本訓練が無いため、Cランクの依頼は正直お勧めじゃないです」
「そうなると?」
「Eランクは基本戦闘ではなく、体力や持久力を身に着けるための基礎の応用。戦闘があるのはDランク。つまり、Dランクが最も最適だと思います」
僕はそう言いながら少し右斜め上に張ってある依頼を取る。
「こんなのはいかがでしょうか?」
見せた依頼をアムールが暗唱する。
「え、と・・・『リべルスティガーの討伐』って書いてある。・・・・リべルスティガー?」
「4つの長い牙を持った虎型モンスターですよ。これが今のアムールにはちょうどいいかもしれません」
「そうなの?」
「はい」
アムールの首傾げに僕は素直に答える。
『それって同種を狩るってことにならないんですかね・・・?』
キルエルがそんなことを聞いてくるが、お前だって猿型モンスターのキングエイプとエイプ共を蹴散らしていたじゃねぇか。今更だよ今更。獣人だって人間と同じでモンスターと人の違いくらい分かるわ。
『確かにそれは、――――いやいいのか?コレ納得してもいいのか?』
キルエルが自身の存在に自問自答し始めたので、僕は依頼を持って受付へ。いや、アムールに任せよう。
「じゃぁ、アムール。依頼を受けれるように受付に頼みに行っておいで」
「え?私一人だとこの依頼受けれないんだけど・・・」
「大丈夫、僕も後ろから付いて行くから。これも慣れだよ。ギルド職員と上手く会話するんだ」
「それって大丈夫かな・・・。獣人だからって依頼受けさせてくれないかも・・・」
段々弱気な声になっていくアムール。僕はそんなアムールの頭をポンと叩き、言ってやった。
「大丈夫ですよ。日常的に千手観音が真顔で中指ブッ立てるような頭のオカシイ冒険者と会話が成立するんですから。獣人程度では彼彼女らの心は折れません。むしろ言語解読しないで済む可愛い獣人が依頼を受けてくれるのは彼らにとっては癒し同然ですよ」
「ぇ、可愛い・・・・。が、頑張りますっ!!」
妙に頬を紅潮させて拳を握るアムール。あざとくない純情の笑顔は普通に可愛い。
そのまま受付まで走っていく若かりし11歳を見ながら僕もその後ろを付いて行く。
「すみません、依頼を受けたいのですg」
「はiブフォァッッッ!!!!!」
ガラス越しに居るギルド職員(おそらくナマコの獣人)は振り向いてアムールを直視した瞬間に鼻血を巻き散らかした。それも大量出血だ。なんとおそろしい・・・・・。
「あぁ、はぁはぁ、・・・・なんて威力なの・・・・!!」
お前が勝手にダメージを受けただけだ。
僕の心の声など決して届かず、冷静さを取り戻したナマコは依頼を受け取り、アムールの登録情報と見合わせている。そして、
「ダメよ、・・・・ッ、いくら可愛いからってランクFがランクDの依頼を受けることはギルドの使用条件上無理なこtグハァッッ!!!」
改めてアムールの顔を見て勝手にダメージを受けるナマコ。確実に鼻血で出て良い量ではなかった。大丈夫かコイツの頭・・・。見ていて哀れに見えてくる。
『ソレをゲーム君が言いますか・・・』
キルエルが呆れたような、バケモノを見るかのような目で僕を見てくる。
僕はアムールより前に出て、ナマコに言う。
「大丈夫ですよ。僕も同伴するので。一応、彼女は『百鬼夜行』の仮メンバーなので」




