武具買いました。
「おぅ、お前、舐めてんのか?」
赤茶色の甲殻に長い触角を生やした獣人が目の前の黒髪の少年に対し、とてつもない怒気を交えた声で少年を睨む。しかし、肝心の少年はというとまるでなにも感じていないように言った。
「いや、舐めてねーが、なんか問題なのか?」
「ッッ!!・・・・お前、自分の持ってきたモノが何なのか言ってみろ」
「ヌツリニウム」
ヌツリニウム、それはこの世界で10の指に入るほどの硬い金属の名称だ。銀色の鉱石で、不純物を1%未満にまで取り除いたら半導体の材料にもなるモノだが、僕のような一般人をしている少年の持っているものは色以外ヌツリニウムとはほど遠い物体だった。
ドラゴン。
ソレもワイバーンと呼ばれる飛竜種に位置するドラゴンだ。移動手段として産業国家では重宝される生き物な訳だが、何故か彼はそんなワイバーンを持っている。
この茶番らしき事には流石の店主も少年に怒鳴り散らした。
「じゃぁなんで動いてるんだ?金属が動くか?」
「動くに決まってんだろー?金属だってモノじゃねーんだ!ちゃんと雌雄があるし、こいつは活きがいいや。声帯切ってんのにブレス吐く」
「金属がブレスを吐いてたまるかッ!!」
少年の物言いにムカデの獣人が机を叩く。相当ご立腹のようだ。原因はおそらく少年の持っているソレだろう。ソレは縄で縛られており眼は少年を睨んでいる。口は縛られておらず、時折怒声を上げたり青いブレスを吐いているが、少年は意に返さない。
「確かに、ワイはウチの店で加工できるのはヌツリニウムまでとは言ったがお前、原石持って来いつったのにどうしてドラゴン持ってくるんだ!?頭おかしいのか!!?」
「いやコイツがなんか貴族に『お前の名はヌツリニウムだ』って言われてたから持ってきた」
「今の言葉でそのドラゴンの原産地分かったじゃねぇか!!失せな、冒険者。ウチはテメェみたいなあたおかの来る店じゃねぇ!!」
「えー、じゃぁコレいらねーな。いるか?コレ」
「失せ物だと分かってて貰う奴があるか!!いらんわ!!どっか山奥にでも捨ててこい!!」
「ギシャアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」
「うるせーな。分かってるって、後でちゃんと頂くから」
そういってその場でドラゴンの首を持ち膝を足場にして折った。鈍い音がしてドラゴンの生命活動が止まる。容赦ねぇ・・・・。
いくら何でも野生児過ぎる。なんだ世紀末か此処は。
『・・・・・・・・・・・・・・・・』
キルエルも目の前の光景に呆然としている。
その少年は血走った眼を向けるドラゴンを一瞥し、そしてふと僕の方を見る。
「おめー、・・・・・・」
首がだらりと下がったドラゴンを抱えて僕の方へ近寄ってくる。
僕はなんというか、良くも悪くも彼との出会いがインパクト過ぎて動けなかった。
よく見れば前髪の一部分が紫がかっており、結構筋肉質な腕が覗いている。目は左右濁った黒と灰色のオッドアイだ。結構イケメンだなこのキチガイ。
そのキチガイは僕を見て数秒止まる。すんすんと鼻を鳴らしている。そして―――、
「女の匂い・・・、さてはお前、ノンケだな」
『この男、初対面で何言ってるんだ!?』
キルエルが目をひん剥いて言う。なんだか最近キルエルが意識の中でも身体を構成し始めている気がする。
まぁでも初対面で急に「お前、ノンケだな?」は見ている世界が違うといってもいいだろう。
「まー、いーか。俺としては基本ノンケには手ー出さねー主義だし。いや、でもこんな機会滅多にねーだろうし、一期一会とも言うだろうしなー」
少年は前髪をかきあげ、魔法鞄から鉈を取り出す。そしてその鉈を持ち、片手でドラゴンの顔を持ち上げてドラゴンに生えていた立派な4本角を切り落とす。
そして鉈をしまうと、落ちた角を拾い上げて僕に差し出す。
「『!?』」
僕とキルエルはその男の予想外な行動に一歩退く。
「な、何ですか・・・・?」
僕がギリギリ逃げ出したい気持ちを抑えながら聞く。すると男はびっくりするほどシニカルな笑みと声音で言う。
「見た瞬間、心奪われそうになったぜ。―――コイツぁくれてやる。俺を落としかける程の魅力を溢れさせておいてノンケなのが非常に心苦しくて残念だが、こいつも何かの縁だ。受け取ってくれや」
「お、おう・・・」
驚きと勢いに押され、僕はその角4本を貰ってしまった。どうしよう、コレ・・・・・。
「じゃ、また会う日までだ。今日の敵は明日のホモだ!」
「おう、二度と寄ってくんな世紀末野生児」
自分の2倍はある身長のドラゴンの死骸を片手で担いで亜音速で走り去るキチガイ。もう二度と出会いたくないものだ・・・。
僕がヤツの姿から目を離すとキルエルが話しかけてきた。
『悪夢だ・・・・・』
「同感・・・・・・」
僕もキルエルと同じ反応だ。レベルが違い過ぎる。・・・・まだ勝てないな。
僕がげんなりとしているとムカデの獣人らしき店主が話しかけてきた。
「おい、そこの坊主。ウチに何か用か?」
「あぁ、はい。ダンジョンに潜りたいので武具を売ってほしいのですが・・・」
「ダンジョン・・・。どこのだ・・・・?」
キラリと、店主の眼が光る。やはりな、この店は中々のやり手だ。
『どういうことですか?』
キルエルの問いに僕は鼻を鳴らす。
この店長は、ダンジョンに潜るときに装備を買おうとすると、そのダンジョンに見合った装備を用意してくれる。モノにもよるが基本的には10000クランでまとめ買いが出来る。
僕は抑揚のある声で言う。
「白金の温泉洞穴。―――おそらく鎌の奴も出る」
「鎌・・・・ッ!――――分かった。ちょいと待ってろ。持ってきてやる」
店主は「鎌か・・・」と意味深に呟きながら店の奥に消えていった。
S S S S
ムカデの獣人、もといイオン=スクランブルエッグは元々の役割は『剣士』である。現在は『鍛冶師』でほぼ無名となり知る人は少なくなっているが、『剣士』の時代では知らない人がいない程、その名は有名だった。
『なんで剣士をやめてしまったのでしょうか?』
それは彼の腹にある傷が原因だ。『剣士』のイオンを上回る実力を持ったとあるキャラによって腹を裂かれ、後遺症が出なかっただけマシだが、彼の心に多大なダメージを与えたのだ。癒えぬ傷により第一線を退いた彼を責める者は居なかった。もう『剣士』としての寿命を超えているのもあって彼を『剣士』として蘇らせようとする者も居なかった。
『どうして鍛冶師になったのでしょうか?腕が立つなら他の脳筋職でもよかったのでは?』
その理由としては彼の装備を作っていた先代が亡くなったからだな。腹の傷が致命傷にならなかったことに恩義を感じて鍛冶スキルゼロで先代の後を継いだ・・・。そんな感じだな。噂では、自分の作った装備でそのキャラを倒してほしいという願いがあるのだそう。
『・・・・その”とあるキャラ”が今回の敵ですか?』
キルエルの鋭い指摘に僕は「へぇ」と微笑する。その通りだ。キルエルの勘も鋭くなってきて僕としては嬉しい限りだ。
そんな談笑をしていると店の奥から装備を担いで店主イオンがやってきた。
「ほれよ。『白金の温泉洞穴』に出るモンスターと罠。それと、鎌の奴に対して効果のある武器だ。選んでおきな」
「ありがとう」
「へっ、お礼は死なずに帰ってきたら言ってくれや」
店主はそのまま、すぐ隣の小さな石小屋に行く。
キルエルが言った。
『どれが一番いい組み合わせ何でしょうか?ゲーム君、教えてください』
「――――あぁ、分かった。・・・んと、どれどれ・・・・」
僕は箱詰めにされた武具を漁り始める。
S S S S
決めた。決まった。これが、僕の記憶とダメージ比率を計算して出した答えだ!!
首装備:鋼鉄リング・・・防御力+50 素早さ-10
服装備(フード無し):黒甲殻・・・防御力+200 素早さ-30
腕装備:紅鋼アーム・・・攻撃力+65 防御力+50
背中装備:黒鋼殻・・・防御力+200 素早さ-30
腰装備:虫の羽・・・スキル『浮遊』付与。
足装備:飛蝗脚・羽・・・素早さ1,1倍 技『スプリング・改』追加。
正直合計金額は20000クラン(飛蝗脚・羽と虫の羽が高い)くらいになるが命には代えられない。現在所有額の4分の1が吹っ飛ぶがまぁ良いとしよう。
ちなみにコレ全部を装備したときの僕の見た目はどうなるかと言うと、緑色の飛蝗足が折り畳み式で足についており、腕が紅く、残り全てが真っ黒の新種の虫さんになる。色んな装備を試した僕が言うんだから間違いない。この装備は格好が悪い!!
だがしかし悲しいかな。この装備見た目突然変異のゴキブリみたいな見た目してるが性能面で言うと有能なので、僕としては人としての何かを捨てれば満足のいく装備の選択だと思っている。
しかしながらキルエルが問いかけてきた。どうやらスキル、技の追加がよく分かっていないらしい。
『この『浮遊』とか『スプリング・改』がよく分からないんですが・・・』
そうだったな。この際だし、キルエルに戦闘を任せる可能性もあるし説明しておこう。
『浮遊』・・・文字通り浮遊できる。床の罠に当たらなくなる。『白金の温泉洞穴』は床から出てくる罠が多いから選んだ。
『スプリング・改』・・・足に運動エネルギーを3秒間溜めて、ソレを放射する。溜めてるときは溜め技同様、動けない。動くと効果がなくなる。
以上だ。質問はあるか?
『ありませんよ。ありがとうございます』
キルエルが感謝を述べる。
今回の装備は全面的に防御寄りの性能だ。素早さを落としつつダメージ軽減を狙い、それでもヤバくなった場合は『スプリング・改』で逃げる。そんな感じだ。
僕は装備を決めたので小屋の店主を呼ぶ。
「店主―――!会計頼む――――――!!」
僕が声を掛けた直後小屋の扉が開き、何故かフンドシを巻いただけのおっさん、もとい店主が出てきた。小屋の扉を開けるその姿は、さながら銭湯のサウナに入ってくる50代社畜であった。
「・・・・・・・・・・・・・」
「会計だな。計算するから待っとれ」
見れば見るほどムカデに近いような、そうでもないような背中の赤茶色の装甲。鼻の部分から突き出した2本の長い触角。そして筋肉質な上腕二頭筋。そして、・・・・とてつもないほどのでっぷりとした腹を惜しげもなく出しているという、なんともアンバランスな体を見せびらかしていた。
リアルに思考が止まっていた。
シャツ一枚も着ず、下半身はフンドシだけと言う視覚にダメージを与えに来たことに僕は動揺もできなかった。声かけたらフンドシ一丁の店主が出てきて、そのまま会計を始めるという、なんとも奇妙な体験だった。足は正直めっちゃ美脚だった。すらりとしていた。目に入ってしまった。
もう、忘れられない・・・・。
僕が固まっているのをよそに、店主はさっさと装備品の値段の計算を終わらせる。
「合計で21300クランだ」
「・・・・・・・・・・」
僕は目の前の情景に理解が追い付かなかったので、もう何も考えないことにした。
「これで」
ギルドカードで会計を済ませて、装備を『次元収納鞄』に入れる。装備1つを入れるたびに店主の姿が思い出される。悲しいかな。忘れられない・・・!!
「・・・・・・」
夢だと思い、もう一度店主を見る。・・・・やはりフンドシ一丁だった。
もう何も言うまい。目の前の光景は夢なのだ。そう思うことにした。
「ほれよ、会計終わったぜ」
「あぁ、ありがとう・・・」
「その装備を着るたびにワシの事、思い出してくれよ♡」
「」
店主が投げキッスをしてきたので、僕は瞬きで店主の愛をはたき落とした。何で忘れようとしてくるのに追い打ちをかけてくるの?何、神ってバカなの?死ぬの?むしろ死んでくれ。
僕は装備を着た状態で武器屋を後にする。
ぼうっと、僕の心とは相反して穢れ1つない純粋な晴れ晴れとした蒼天を見る。
ゲームでは全キャラが必ず秘められた”モノ”が存在していた。勿論、あの店主にも。だがしかし現実はもっと酷かった。
世界は、残酷だ。
ゲームで人をドン引きさせるような個性ビックバン野郎で耐性を付けさせたのかと思いきや、現実はその耐性を軽々と凌駕する一人お祭り騒ぎキチガイ野郎で溢れていた。確かに色々な方面でゲームとこの現実は違うなとは思っていたが、此処まで違っているともう逆に感心してしまう。店主にフンドシ要素なんてなかったはずだぞゲームにはッ!!
・・・・・どうやら僕は『Brave☩Innocent』の恐ろしさをまだ一片しか見ていなかったようだ。
そして僕は今声を大にして言いたい。
運営。何でこのゲーム作った?




