怒らせてしまった。
「さてさて、第9試合目となります武闘大会!残り挑戦者は9名!皆さんよくぞ勝ち登ってきた!」
『拡散』スキルで大声が響く武闘大会会場、僕は第9試合目一番目の選手だ。対するはヴェルトの友達キャラで剣の扱いに長けた選手アンドリヒ=パソコンだ。名前本当どうにかしてくれないかな~。妙に笑いを誘ってくるんだよなこのゲーム。
僕の知ってる限りでは、第9試合目となるキャラはレベルが8まで上がるのだ。それゆえに今まで通り一撃では倒せなくなる。
アンドリヒ=パソコン(10歳 男 レベル8)
HP322 攻撃力99 防御力82 素早さ120 魔力67 精神力37 運28
耐性:無し
スキル:『我慢』
加護:無し
このようにHPが300超え始めるとレベル15でも倒すのには時間がかかる。しかも手持ちスキルが『我慢』と来た。我慢とはHPが0になるとき代わりに一回だけ1になるもので、これと『勇者の根源』と相性が良かった思い出がある。
何にせよ、ゲームの攻略本通りなら彼は不意打ちが得意だ。倒されたふりして急に攻撃とかするだろう。倒れても気を抜かないようにしなければ・・・。
『試合、開始!!』
ゴングが鳴らされた瞬間、アンドリヒは猛スピードで突っ込んできた。だが僕はそれを敢えてよける。ゲームではキャラとの戦闘を飽きるほどしてきた。おかげで全てのキャラの攻撃パターンをコンマ1秒刻みで知っている。
彼の技には二段攻撃がある。一回攻撃したらその勢いでもう一度攻撃するものだ。いくら素早さが高かろうと、二段攻撃を連続で防ぐことはできないだろう。
だが、彼は技を使うと態勢をを整える為に2秒ほどの隙が生じる。僕はその瞬間を見逃さず一閃。
「ぐっ!!」
クリティカルは出なかったが良いダメージだろう。隙への攻撃はダメージが1,5倍になる。およそ90ダメージ!!そして・・・もう一回!
「ぐはッ!!」
さらにもう一回!!背中にスラッシュ!
「ぐほぁっ!!」
僕の覚えた技が『渾身の一撃』だけだと思うなよ!
今の技は『二段攻撃』の上位互換である『三段攻撃』だ。三段攻撃は三回連続攻撃で、最後の一発の威力が上がるのだ。100ダメージくらい出る。
そして攻撃したらすぐ後ろに下がる。そして防御寄りの構えにする。
げほげほっ・・・と咳き込むアンドリヒ。HPの残りは50くらいか・・・と計算していたら、彼は懐から緑色の液体が入った瓶を取り出すと一気に飲む。
「な!?」
アレは回復飲料か。確かにこの大会では魔法禁止のほかに飛び道具禁止とかあったな。まさか裏をかいてポーションを用意するとはアンドリヒ、不正ラインにギリギリ入らない方法を使ってきたか・・・。
「はぁぁ~~~。少しは楽になったかな・・・。ポーション禁止なんてどこにも書いてないだろう?」
「そうだな」
僕も大会で散々勇者を回復させてたから文句は言えない。ここは肯定しておこう。
アンドリヒはいったい何個のポーションを持っているのだろうか。ポーションはモノにもよるが緑色と言うことはHP500回復するやつだな。
キルエルと言うこともあってこういう展開は初めてだ。対策を考えなければ・・・。
「棄権なんてしないよ。せっかくここまで来たんだからさぁ。・・・・・・・隙あり!!」
ペラペラとしゃべりながら空の瓶を転がすアンドリヒ。僕は試しにある構えに変更する。そうしたら狙い通り、アンドリヒが突っ込んできた。二段攻撃の一回目の攻撃、それを受けつつの技発動。
「ごっ・・・・!!」
『カウンター』―――攻撃のダメージをかなり減らしてダメージを与える。ダメージ量は通常攻撃と同じである。
模造刀の一撃がアンドリヒの顎を捕らえ、弾き飛ばす。『カウンター』は『ふっ飛ばし』効果もあるため、アンドリヒを場外近くまで吹き飛ばす。
「ふッ!!」
そのまま駆け寄りつつの三段攻撃。だが三段目で彼が横に飛び、またもやポーションを呷る。
こうなったら長期戦覚悟か・・・・・いや、方法はある。っていうか本当にお前誰なの?
またもやアンドリヒが駆けだしてくる。僕のHPも疲れで減ってきている。精神力がマイナスだから疲れるまでの時間が短すぎる。ここで決めるか。ちょっと前の試合と同じ方法を使うしかないか・・・。抵抗あるんだよな、同じ男として・・・。
僕は模造刀を横に振りかぶり『渾身の一撃』を放つ準備をする。このゲームに置いて、物理攻撃の溜め技はある条件を達するとクリティカル発生率が2倍になる。特にこの『渾身の一撃』はその代表例ともいえる。その条件とは
『きっかり5秒(5,0秒)で放つこと』
である。こうすることによってクリティカル発生率が60%になる。だからこそタイミングが大事なのだ。さらに『ふっ飛ばし』効果には相手のタイムラグを生じさせやすく、約1,5秒。この時間で勝敗が決まることもあるため、クリティカルは重宝されるのだ。
僕はアンドリヒの攻撃を足を固定して避ける。溜め技は移動すると切れるのだ。そしてアンドリヒの横腹が見えた瞬間―――。
「きっかり、5秒だ!!!」
振り抜いた模造刀が彼の横腹に当たった。そしてアンドリヒがゴムボールの如くふっ飛ばされる。
「へ?」
どうやら彼は状況を上手く把握してないらしい。一撃で240ダメージかそんなところだろう。タイムラグプラスで3,5秒は動けないだろう。僕はすぐに駆け寄り、彼の漢の象徴をぶっ叩く。その後は重点的に三段攻撃をする。だが思っていたよりも早く相手が立ち上がり横によける。三段攻撃すらしていないのにだ・・・。吹っ飛ばされた地点まで駆け付けるのに時間がかかったか・・・。
「あぁ・・・・うぐゥッ・・・クソ、・・・」
よろけながらポケットにしまっていたポーションを飲む。だがその瞬間を見逃さない。回復にだって時間はかかる。ポーションを飲む時間は約2秒。飲みながら攻撃とかはできない。
僕はすぐさま彼の懐に先駆し、彼の飲んでいるポーションを手ごと攻撃する。
「ブッ・・・!!」
まだだ、まだポーションがあるはずだ・・・。ポーションを隠しているところを全部叩いてポーションを壊せ!!ちなみに『三段攻撃』にはタイムラグの発生がない。なので連続で叩きこむ。ガラスの砕ける音がして、液体が布に染み出る。
「あ、ぐふぇッ!ちょッぐはッ!待っtぶふッつ!」
おそらく1分は叩き続けただろうアンドリヒはぐったりとしながらも立ち上がる。体のあらゆる部位が赤く腫れている。所々に傷もあり血が滲んでいる。ポーションを持っていた右手は関節が変な方向を向いている。痛そうだ・・・。
「あぁぁぁ、ごほっごほっ!キルエル、降参だ。僕の負けだよ」
よろよろとこちらに寄ってくるアンドリヒ。手には模造刀を持っている。やはり、な。アンドリヒは公式認定の小賢しいキャラだ。スキルも『根性』や『我慢』、『陽炎』などで最後の最後まで食いついて傷跡を残すやり方をする。故に、真面に信じることなかれ。奴の言い方を変えればこうだ。
『君には降参したけどこの試合には降参してないからwwwwww』
だから僕も徹底的に彼を仕留めなければならない。僕は模造刀をゆっくり下に降ろす。そして彼に笑顔を向ける。
「そうだね。・・・君はもう真面に戦闘は出来ないだろう」
「げほげほっ!!そうだなぁ・・・・最後に握手でもしないかい?」
「いいよ」
ちょうど、きっかり5秒、アンドリヒと僕の距離がほぼゼロになった瞬間だった。
アンドリヒの姿勢が落ちる。模造刀を構える姿勢だ。僕はまっすぐ前を向いたまま、『渾身の一撃』を繰り出す。
「最後に一撃決めて退散させてもrッ・・・・・・!!!!」
「知ってた」
模造刀が彼の体を薙いだ。彼の体を衝撃が走り抜け、彼の体が大きく弧を描くように宙に放り出された。観衆は全員絶句していた。だがガラシア王は僕のことをジッと見ていた。
一撃60ダメージに隙あり攻撃とクリティカル、きっかり5秒でダメージ2倍と『ふっ飛ばし』で合計約360ダメージ+『ふっ飛ばし』、HP1にはかなりのオーバーキルだろう。
アンドリヒはそのまま壁に激突し、動かなくなった。
静かになった会場から約2秒後―――。
「勝者キルエル=ヴェルモンド!!」
『拡散』で声が伝わっているにも関わらず、盛り上がる声はほとんどない。勇者家族は顔を真っ青にしている。他の観客も顔を伏せている。・・・やりすぎただろうか。せめて『カウンター』のほうがよかっただろうか。
僕は倒れているアンドリヒに近づき、回復魔法をかけようとしたその瞬間。
「アンドリヒに触るなッッ!!!」
人影が僕の掌を遮り目の前に立ちはだかった。あ、この流れは―――。
「何だ、ヴェルトリッヒ。僕はこれから彼を―――」
「やりすぎだ!いくら相手がアンドリヒだから、武闘大会だからって、降参した相手をぶっ飛ばすって言うのは、駄目だ!!」
このやり取りは、確かヴェルトが激昂して殴り掛かってくるシーンだ。でもキルエルは煽りに煽った上にヴェルトの素殴りを止めるんだったか。僕はこのキルエルの煽り台詞が好きなのだ!
「そいつは『我慢』と言うスキルを持っている。最後の最後で踏みとどまるスキルだ。これによって僕に『降参』と嘘を付き、攻撃しようとしたんだ」
「それでも、それを知ってて、どうして他の方法で勝たなかったんだ!!」
「これは武闘大会だ。相手がどれだけ僕に命乞いをしようと、剣を持っていれば持てなくなるまで叩きのめす。試合に降参しなければ僕は剣をふるい、素早く倒す。仕方のないことなんだ」
「黙れ・・・」
「黙らないよ。・・・そもそもヴェルト、君は次の試合があるだろう?準備は終わったのかい?アンドリヒ君は鍛え方が甘かった。素早さに特化した性能は好きだが、攻撃力が微妙だ。どれくらいのモンスターを倒したんだ?鍛え方が甘いとしか言いようがないよね」
「黙れッ!!」
ヴェルトが拳を振り抜く。友の悪口はさすがに気に障ったかな。そのまままっすぐに突き出される拳を僕は回復魔法を打ち出すはずの掌で受け止める。
「君が悔しいと思うのなら、苦しいと思うのなら、剣を握れ。目の前の相手の言い分を覆したければ刃を研げ。憎たらしい、忌々しい、仇を討ちたい、大切な人を守りたい、その想いを現実にしたければ時を賭けろ。その拳に込められる力は己の存在で証明しろ。その拳は『今』は振り抜くな」
「ぐッ・・・・」
拳はその場でくだり落ちる。
僕は颯爽と立ち上がり、その場を後にする。
「決勝戦で会おうか」
その声は届いただろうか。返ってきたのは強い意志を感じる言葉。
「絶ッ対、お前を倒してやる――!!」




