ひどかった・・・。
僕はかなり焦っている。
ノミと偽善者のせいでたっぷり3時間40分近く論破?されてグダグダになったキルエルを強制的に意識の中に収容し、『ララフルァ―ラ』に向かった。しかし、その時で既に11時半を回っていたため急遽作戦を変更して裏の世界である荒野に向かった。もちろん変な奴に絡まれて時間を潰さないように『人除けパフューム』も使った。
此処までで既に立てた計画が瓦解していることにあのクソッタレ蛮族勇者の主人公補正が影響しているのかと思うと血管が破裂しそうだ。
早速裏の世界に入り、アムールの住んでいる家に直行する。まだ完全に失敗はしていない。マッチ・ポンプの可能性は残っているのだ!!
手に魔力を集中させて白い発行体を創る。いつでも『ワイス』を射出できるように準備を整えて―――、
「!?」
闇市を潜り抜けた先でその光景を見た。
アムールだと思われる女の子が黒服で仮面をかぶった変態に襲われていたのだ。声から察するに優男と言うイメージが出来上がる。そして同時にマッチ・ポンプの可能性が消え去り、同時にこうも思った。
―――カモがネギしょってやって来る。
僕はすぐさま『ワイス』を中断して、ダッシュアタックを発動する。足首に運動エネルギーを集中させて筋肉のバネを駆使して壁を高速移動する。そして、丁度優男の横顔を見た瞬間にコンマ1秒も残さず、ダブルクリックより早く、技変更をした。
『寸拳』
ほぼノーモーションで放たれる拳は正確に優男の横面を捉えて、殴り飛ばした。
「うブッ!?」
壁を使った三次元攻撃に反応できなかった男がイケボで飛ばされる。・・・とても格好良くないイケボだった。
回転しながら飛ばされる優男を尻目に見ながらこちらを呆然と眺めているアムールに声を掛ける。
「おい、大丈夫か?」
「―――――あっ!はい、大丈夫です!!」
しばらく我を忘れていたアムールがぴくッと反応する。あんま可愛くないなぁ、その仕草。
とりあえず、今更だが状況確認と行こうじゃないか。
僕はぶっ飛ばした優男を指さす。
「アレって君の保護者か何か?」
今更ぶっ飛ばしておいて言う台詞じゃないよなぁ、と思った。まぁいいか、最初は適度に拳で語った方が後々のコミュニケーションで仲良くなれる可能性だって無きにしも非ずだ。『Brave☩Innocent』ではキャラを仲間にする時は大抵餌付けした後殴り飛ばして、ぶっ倒れたところに優しく手を差し伸べる方式で仲間になるし。
僕の問いにアムールは首をぶんぶん振る。どうやら違うようだ。・・・可愛くねぇなぁ。なんかあざとくって嫌だ。やっぱ人科の生物は嫌だな。や、人科でも嫌だな。なんの話しだコレ!?
「あー、じゃぁアレは変態という認識でよろしかろうもん?」
「よかろうもん」
「ノリがいいな」
僕がクフッと笑いをこぼしていると倒れていた優男が起き上がった。仮面が割れており、その隙間から我らブサ面(キルエルはイケメン)とは縁も所縁もないような超絶美形が現れる。
僕は大ダメージを受けた。
「なんっ、・・・・だと・・・・・!!!」
青を主色としておりところどころに黄色い髪も混ざっている。結構ハイカラな色だが、後ろにまとめ上げていることもあって本来の素材が全体に良い影響を与えているといってもいいだろう。目は両方三白眼だが、すらりとした色白の肌に赤で構成された目によって不思議と怖い印象は受けない。・・・まぁ、怖い不審者なのだがそうではなく。
「てっきり60代無職の毛穴からあらゆる汁が噴き出ているニキビ顔の《ピー》臭のするような犯罪者予備軍かと思っていたが、・・・・世界が広すぎるだろ・・・・」
少なくとも180㎝はあるだろうその高身長イケメン優男は僕とアムールを交互に見て眉をしかめる。
そして、そのイケメンな顔立ちの男からとんでもない台詞が吐かれた。
「彼氏持ちなんて聞いていないぞ!どういうことだ!?人違い、・・・・な訳ないだろ!!あの皮膚の臭いと髪の毛の感触から間違いなく独り身の女の子だと確信したんだ!!あり得ない・・・・。今度こそロリ可愛い10代前半の獣人娘の嫁が出来ると思っていたのに・・・・ッ!!!」
目をわなわなと震わせて、ゴーストタウンともいえる廃墟で汚い台詞を叫び散らかす変態。
―――ちなみにどの国も例外なく結婚できる年齢は21歳からである――――。
「おかしい・・・・。情報が錯綜しているのか!?あり得ない、・・・・今回の情報源は王の側近だぞ!!それに今回は130人態勢で昼夜問わずファムルスのロリ可愛い10代前半の獣人娘を、・・・・食べごろの果実を探し出していたのに・・・・・彼氏持ちだとぉッ!?あり得ない、あり得ないいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!!!」
いやもうね、いくらイケメンで高身長でイケボでも、幼女の方々を”食べごろの果実”と呼称するのはダメだと思う。
一人廃墟で狂乱している男性の姿は、何というか見たくはない世界線を感じた。
なので、僕は隣に居るアムールに声を掛ける。
「とりあえず、君の家まで逃げようか。ついでに僕もご一緒してもいいかい?あんまりアレの存在を認知したくないんだ」
「え、・・・あぁ、うん」
アムールは一度僕の顔を見た後、奇声を上げる変態ロリコンイケメンを見る。・・・・何故だろう。ロリコンを見る目がヤクブツキメた人を見る目と一緒だ。彼女の中では同じ分類の人間なのだろうか。
「こっち、来て」
「ん」
アムールの手招きに応えて、僕は彼女の跡を追う。
後ろではいまだにロリコンイケメン不審者が叫んでいた。
「俺の、俺の嫁がぁああああああああああッ!!彼氏持ちだと、・・・・浮気だ―――――ッ!!!!」
S S S S
アムールの家は廃墟の中にあるものにしては比較的大きい方だと思えた。
ところどころにハイカラなカビがるんるんしていたが、それでも綺麗だとは思えるほどこの家は丈夫そうだった。
僕はその家のリビングみたいなところに連れていかれた。窓はあるにはあるが木の板でしっかりと覆われていて、外の景色は見れなさそうだった。
しばらく、リビングの椅子を引いて座って待っているとティーポットとカップを持ってきたアムールが入ってきた。11歳にしてはとても慣れた手つきで、茶を注いでくれている。
ふと、なにかしらの茶を入れているアムールを見ると目元に店で会った時とは大違いの量の隈があった。
・・・寝てなさそうだな。それも3、4日のレベルじゃない。
よく見れば、アムールもうつらうつらとしていて、手元が若干震えていた。
「どうぞ」
「ありがと」
何かしらの茶を僕の前に差し出して、アムールもまた自身のコップにお茶を入れて椅子を引く。そして、茶の熱を冷ましながら座って飲む。
僕もまたお茶をいただく。・・・・・!?
飲んだ瞬間、僕は目を見開いた。
「ナニコレ、すっごい美味しいんだけど!!」
「!?」
アムールが僕の声量に驚いてこちらを見る。驚かせたか、すまねぇ。
でも廃墟には似合わない程の圧倒的な美味しさだった。むちゃくちゃ美味だった。ヤベェ美味い!!
何と言うか、脂っこくない牛肉って感じがしていておいしい。
「何の茶葉使ってるの?コレ」
僕の好奇心でできた問いにアムールは、一度目を瞬かせて僕を見る。なんだろう、人間ではない生物として見られている気がする。
やや引き気味でアムールが口を開く。
「普通の、ココナチアの葉・・・」
「ココナチアの葉にしては美味しいけど、・・・・やっぱり肥料が良かったのかな?」
と言うのもココナチアの葉は僕がミルの家で飲んでいた家庭用の一般的な茶葉だからだ。ココナチア自体は種と土と水と肥料があれば誰でも作れるプラントとして有名だ。だが、やはりは家庭の味と呼ばれるだけあって、ココナチアは肥料によって味が決まるとされている。肥料の栄養価がもろに反映される設定になっているらしい。ミルと育てるのを手伝ったことがあるが、あの時は肥料として虫や家畜の内臓を入れていた覚えがある。通常は甘みのある麦茶みたいな感じだ。
家の庭にはココナチアが植えられていたし、自身の独自の開発した肥料があるのかと思い試しに聞いてみた。
だが、これがいけなかった。
アムールは、ちらっと視線を背けると僕をバケモノでも見るかのように慄いて言った。
「そこらに転がってるでしょ?」
「そこら?・・・・・カビ?」
そこらに生えてあるカビを肥料にしてんのかな?特殊な環境で育ったカビには何か特殊な旨味が生産されるのだろうか・・・。
僕の考えに反してアムールは「違う」と言う。
「何だろう・・・わからないなぁ」
僕が頬をかきながら聞くと、アムールは「驚かないでね」と前置きして、答えた。
「獣人の、・・・・死骸。新鮮なやつじゃなくて、時間が経って熟成されたモノに蛆が湧いて分解している途中の奴。熱湯かけて埋めるとタンパク質も同時に、・・・取れるって、お母さんが・・・・」
「」
獣人のがどうとかは知らないが、豆知識。人の栄養価は魚とほぼ同じで、味は牛肉に近いそうです。
そんなことを思いながら僕は天井を見上げた。インパクトどうこうと言う優しいモノじゃなかった・・・。まさかの”同種”の出汁である。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぐはっ」
僕は無事に昇天した。




