友人制作作戦開始します。
『――――友人になれないでしょうか』ねぇ。
僕はキルエルの言葉を思い出し、そっと息を吐く。確かに、苦しいときにそばにいてくれる人と言うモノは非常に有難みのある存在だと思っている。僕には居なかったが。
そのキルエルの言葉は決して間違っておらず、”助ける”、”救う”とは程遠くとも、せめて隣人でありたいと願う姿勢は尊敬に値する。「そーだね、大変だったねー」で終わる人間とは大違いだ。
だが、それでもだ。問題点は浮上するばかりで、ソレの解決方法がいまだに見つからない。その問題点の一例をあげるなら、そう――――。
「友人って、どう作ればいいんだ・・・・?」
人間関係の闇を直に浴び、家族の毒を啜って生きてきた僕は友人の作り方を知らない。誰も教えてくれなかったし、知ろうとも思わなかったからだ。
引きこもって何年が経ったのかなんて覚えていない。というか数えてすらいないからわからない。でも引きこもったのは小学2年生の時だということは覚えている。小学2年生のころから今に至るまで僕個人で友人を作ったことは一回もない。
『ゲーム君の言っていたゲームとやらでつながったりとかがあったのでは?』
キルエルがそんなことを言ってくるが、残念。ネットの出会い系で失敗し続けて発狂して家を出た母親(5代目)が居るため、基本そういう他人と話す系のアプリは使っていない。だから出会いとかない。
・・・出会い系依存の母、今頃どうしてるかなぁ。ちゃんと出会い系で発狂してるかなぁ。
今は居ない浮気性の常時裁判持ちの元母を思い浮かべてるとほんの一つの考えが頭をよぎった。
「あー、あるな。一個だけ、あんまし褒められた方法じゃないけど」
『元母を思い浮かべて思いつく方法とは!?』
キルエルが戦慄の表情で僕を見る。
そんな悪者扱いな僕は口角をバッキバキに吊り上げて目を見開き、キルエルに尋ねる。
「キルエル、・・・マッチ・ポンプって知ってるか?」
S S S S
マッチ・ポンプとは、自身で火をつけ、自身で消すことを言う。
「つまり、災禍の種をばら撒いて自身で芽を摘み、まるで颯爽と現れた英雄のフリをして評価を得る方法だ。以前元母がこういう手を使って男を落とした話を聞かされてたのを思い出した」
意気揚々と語る僕にキルエルがげんなりとした声を寄こす。
『ゲーム君って、案外碌な人生歩んでませんよねぇ・・・・』
ほっとけ。
『で、具体的にはどうするんですか?』
後ろからワイスで怪我をさせた後、散歩してるふりして前から近づいて怪我を直す。そして家まで送るという名目で好感度を上げる!後はキルエルの口説きで落として友達ゲットだぜ!!
『聞くだに最低な方法ですねぇ!?・・・でも他の方法があるわけでもないし、それでいきましょうか。で、初めに何をしましょうか?』
まずは、そうだな。夜に出直すぞ。
『夜?どういうことですか?』
おそらく、現在母のクスリを買うために奮闘しているアムールは毎日夜遅くまで働いてる。そうなると帰宅は10~11時だな。その時間帯の間張り込みして、出てきたところを着けるんだ。
『ストーカーですかね?』
違う。一定の距離を開けながら見守るんだ。
僕が間違いを正すとキルエルが「え~」みたいな目を向けてきた。
「まぁ、着けることに関しては大丈夫だ。5代目元母からやり方教えてもらった、というか教えられたし」
僕が胸を張って言うと、キルエルが別の意味を含んでそうな尊敬の声音で言ってきた。
『ゲーム君の家庭って闇が深いですね・・・』
そうか?みんなこんなもんだろ?まぁ両親親戚の代替わりが激しかったのは認めるが。
僕はそのまま、裏の世界へと続く路地に入り違法魔道具を物色しに行ったのだった。
S S S S
「よう、来たぜオッサン。生きてるか?」
「生きてるわクソガキ、っていうか最近ここらでたむろするキチガイ増えてるから気をつけろよ」
「僕を襲うキチガイはもはやキチガイじゃねぇだろ。っていうか優しいなオッサン、僕の心配をするなんて。まだ会って一日目だぜ?ボケたのか?」
「ボケとらんわ!!クソガキが!財布の厚い上客を心配するのは当たり前だろうが!!」
革命戦争の跡地である廃墟、別名『アレなカビ共の温床』。その荒野の一角にある闇市の中の小さな店屋、そこに僕は来ていた。
此処は違法魔道具や、本来出回らないブツを取り扱う専門店だ。道端で風呂敷広げて売られている魔道具や高級品とは違い、偽物が出回る確率が非常に低くその分強力でバカ高いブツが並べられている。
そこで僕は初めてここに訪れた際にとある違法魔道具(500000クラン)を買い、アメリカザリガニの獣人店主にかなり気に入られてしまった。
それに、此処の店主はいろんな所に友人がいるようで、そこからくる情報を無駄話交えて話してくれるので、ゲーム攻略時にとても重宝した思い出がある。ちなみに、食いつくネタがあるときはそっけない態度を取ることが重要だ。食いつくと続きは金を要求されるからな。そっけない態度だとあれこれ色々喋ってくれる。新手のツンデレか?違うか。
そんな僕にとっても思い出深い店主が、ザリガニのような顔にも似合わず神妙な顔つきで僕を見てくる。
「なんだよ?」
「いや、本当に気を付けた方が良いぞ。アイツらはそこんじょらのキチガイとは訳が違う。そこに属してる友人曰く『最初は同好会のはずだったんだけど、気づいたらデカくなっててさ、もはや宗教w』とも言っている」
「気を付けるよ。出会ったら出会ったで、その時はぶっ飛ばすだけだ」
「いや、そういうことじゃない。奴らのヤバさはその精神性にある」
「おん?精神性?キチガイはいつでもどこでも年中無休でヤバいだろ」
僕の反応関係なしにオッサンはしゃべり続ける。
「奴らは・・・・・異常なほど幼児が大好きだ」
「『!?』」
僕とキルエルが同時に反応する。
「半径500m以内の幼児の臭いを嗅ぎ分ける」
「犬かよ!!」
「幼児の落とした髪の毛、唾液、皮膚は一枚も見落とさない。それを見ただけで性別が分かるほど」
「だから犬かよ!!」
もしかしたら犬にもできないかもしれない、そんな芸当。
「そして、何よりも恐ろしいのはその執念深さと情報網だ」
「それもはや生き物じゃねぇだろ」
僕がげんなりとすると、オッサンは「分かったか」と言いコップに入った水を飲む。ハサミの手なのによく飲めるなぁと思った。
「そんなイカれた野郎どもの集団の通った道は『幼児もぺんぺん草も生えない』と言われているほどだ。・・・・マジで気をつけろよ?連れてかれるぞ」
「すごいくらいヤベェ奴らの集まりなのは良くわかった。なら、・・・・これくれよ」
僕は棚にあった一つの箱を指さす。
それは『Brave☩Innocent』では『キラワレール』と呼ばれる消耗アイテムであり、正式名称を――――、
「ほう、『人除けパフューム』か。俺には考えられなかったな。頭いいなクソガキ」
「オッサンの脳が退化してるだけだろ」
「俺はなぁ!仕方ねぇんだよ元々こういう生物なんだから!!」
「自分で言って悲しくならねぇのかソレ?」
「お前がそういう話題を振ってきたからだろうが!!」
憤慨して机をぶっ叩くオッサン。
話にギリついていけてないキルエルが棚に置かれているパフュームを見て尋ねてくる。
『あの、『人除けパフューム』って何ですか?』
あぁ、それな。今さっきザリガニのオッサンが言ってたキチガイいるじゃねぇかよ。あの中でも血の気が荒い奴とか単純に力試しで来る馬鹿とかいてな。ゲームだと神出鬼没で勝手にバトル申し込まれるんだよ。だから、そういう馬鹿を寄り付けなくさせるためのアイテムが『人除けパフューム』だ。使うと30分間寄り付かなくなる。
『あぁ、それでその幼児を囲む会みたいなヤバい奴らに見つからなくするんですね』
その通りだ。物わかりがはやくて助かるぜ。
「つぅーわけで、コレくれ」
「30000クラン」
「高ぇなオイ。まぁ払うけどよ」
僕がマネーカードを取り出そうとすると、オッサンがハサミを開いてパフュームの入った箱の端を摑む。そのまま軽く端を握りつぶした。
「何してるんだ?」
僕の問いも聞かずにオッサンは端を握りつぶしたパフュームの入った箱を置き、僕を見る。
「不良品だ」
「オッサンが今そうしたんだがな。でも中身は無事だな」
「それでも、不良品だ」
「そ、そうか。だったらなんだ?」
「1500クランだ」
「は?」
僕は謎の宣言にオッサンを二度見する。突き出た二つの長い触角が合わせてぴょこぴょこむぴょこぴょこしている。
僕の理解不可能の沈黙に、キルエルが何かを察したような声を上げる。
『ゲーム君が心配だ、という店主なりのやさしさなのではないでしょうか』
なにその新手のツンデレ。うっかり惚れそうになっただろうが。・・・・・でも、まぁ、そう考えると納得できるな。でも11歳の幼児といい歳したザリガニオッサンの純愛は誰も喜ばない。
僕はマネーカードをオッサンに渡し、会計を済ませる。
「まいど、また来いよクソガキ」
売り言葉に買い言葉。僕は店を出る直前、ザリガニ顔のオッサンに言い残す。
「このロリコンが、他の客にくらい割引してやれよこのロリコンが」
大事なことをなので二回言います。
「この幼児趣味が、有難いがその遠回しなやさしさはかえって気持ち悪いぞ。このロリコンザリガニ」
「なんだと!?心配して損した!!二度と来るなクソガキ、二度と割引してやらん!!」
その怒声と共に、僕は店から追い出された。




