ハプニングでした。
『まさか負けてしまうとは、思ってませんでしたね』
意識の中にいるキルエルが残念そうに呟く。
結論として僕は、いや言い換えよう。・・・僕のパーティは負けた。
原因は勇者、偽善者、ノミ、天然ドジ姫が『獣人の加護・兎』を発動したホストラビットに翻弄されて全滅したことだ。勇者が総大将だったので、僕の努力もむなしくブルドグの汚い覚醒を見る羽目になり、経験値も入らなかった。
『でも気づきませんでしたね。まさか延長戦だったとは・・・』
本当にそこが驚きなのだが、僕がブルドグを倒したときにはもう既に模擬戦は終了していたのだ。普通ならそこで試合終了お疲れさまでした―!となるのがセオリーなのだが、ハルトマンが特別に延長戦として、僕とキルエルVS覚醒変態不審勇者ブルドグをやらせてくれていたのだった。延長戦の理由は「え?面白そうじゃんww」だった。ハルトマンらしい物言いだった。殴りたくなった。
『まさに勝負に勝って試合に負ける、ですねぇ』
キルエルが最もらしいことを言うが、問題はそこじゃない。僕は現在かなり危機的な状況にある。キルエル、なんだと思う?
『勇者君の折檻・・・・は聞き流せばいいし、ノミ君とマルク君、姫の説教・・・・は聞き流せばいいし・・・・。う~~ん、なんでしょうかねぇ?』
ヒント!―――模擬戦後に”ソレ”は起こった。
『勇者君からの呼び出し・・・・ですかね?それともホストラビットさんからの呼び出しですかね?』
・・・・お前、知ってて言ってるだろ?
『なんのことでしょうねぇ?』
キルエルのすっとぼけた声を笑顔で受け流しつつ、答えを発表する。
答え:回想入ります。ふぁんふぁんふぁんふぁ~~ん。
S S S S
「対戦!ありがとう!君たちも!中々!良い攻撃だったよ!良ければ!一緒に!飼い犬に!ならないkエファッ!!!」
模擬戦終了後に互いの健闘を称えに来つつ、いらない一言を口にしてしまったことで頭上からのかかと落としの直撃を喰らい地面に埋もれる変態勇者スコップ。何故かとても嬉しそうだ。
で、そのスコップの頭をグリグリとハイヒールで踏みつける(女王コスプレの)ホストラビットが何かを乗せたお盆を持って僕らのところに来た。
「お疲れ様だね勇者諸君。運動した後だと疲れるだろ。ほれ、この国の名物『アグレッシブアニマル』だ。一人一つずつ持っていきな!!」
そういって、ガラスのコップになみなみと注がれた黒い液体を配っていく。
「あ、ありがとうございます。なんでしょうかコレは?」
勇者が素直に”ソレ”を受け取りつつもその濁った黒色に困惑の表情を隠せないでいる。
まぁ、そういう反応になるわな。
「なんの色でしょうかね。コレ、・・・・・・まさか油脂ですか・・・?」
キルエルも渡されたソレに困惑の声音が出る。今さっきのブルドグの油脂発言のせいでトラウマがフラッシュバックしている・・・。確かに見た目だけならどこぞの隣国の地溝油に似てなくもないが、コイツはそんなお下劣なモンじゃねぇ。
『あー、大丈夫だぞソレは。油脂とか物騒なモンは入ってないから。元々はただのカルシウム豊富な濃縮ヨーグルトジュースで、そこにいろんな物の出汁混ぜてるからそういう色になってるんだ』
例えばドクツルタケとかアカシメジとか、トリカブトとかコバルトヤドクガエルとか秋刀魚の腸とか色々・・・・。
「何か今さっきから不穏なワードが出てるんですが・・・毒持ちとかじゃないですよね?」
『おう、もちろん毒持ちだ!だが安心しろ。毒は入ってない。毒持ちの動植物の色素を入れてるだけだ。飲んでも死なねぇよ』
「それを聞いて安心してしまう僕が居るのが恐ろしいですね」
キルエルが何か悟ったような眼をして、その黒い液体を口に運ぼうとした。
その時だった。
「あふん!!」
「ぐえ!!」
何か重量のあるものが後ろからキルエルを押し倒し、持っていたコップを落とす。
『あ?何だ重いなオイ』
僕が何事かと意識を後ろから倒れてきた野郎に向ける。
すると、その野郎がすぐさま飛びのき押しつぶしたキルエルを起き上がらせる。
「大丈夫かいキルエル君?」
「あぁ、はい。大丈夫ですよ。え~~と、ブルドグさん」
「おう、おいらの名前覚えててくれたのかい?うれしいねぇ!!」
「えぇ、インパクトが強すぎて・・・・もう、忘れられませんよ・・・・」
最後のキルエルの声がだんだん悲しいものに変わっていく。なにか、強いトラウマでも抱えたのだろうか。
押しつぶした張本人は今さっきまで新時代を開いていたブルドグ=チャートだった。
HPが回復して元の変態性に戻ったのか、今さっきの戦闘での狂人の面影は何処にもない。本当に同一人物なのが疑わしいくらい、面影も余韻もなかった。良い笑顔だ。
ブルドグは、起き上がらせたキルエルの足元を見て「あっちゃ~!!」と頭をかく。
キルエルがブルドグの視線に沿って地面を見ると、そこには黒い液体が盛大にばら撒かれ凄惨たる光景が広がっていた。
「あ―――、どうしよう、コレ(主に掃除の意味合いで)」
「すまねぇ!すぐにお代わり貰ってくる!!」
ブルドグさんが申し訳なさそうに一礼しつつ、キルエルの「いいですよ」の言葉も聞かずに走り出した。
『全く、人の言うことを聞かねぇ・・・・』
「本当ですよ。僕は別に良いのに・・・・・」
僕の呆れた言葉にキルエルが賛同する。そのまま少し待つこと2分程度か・・・、向こう側からコップを持って走ってくるブルドグの姿が見えた。
「すまない!はいこれ代わりだ。中身は少し変わってるかもしれないがほぼ同じだ!!」
「え!?うぇ!?ぇぇ・・・。ありがとうございます。わざわざ・・・」
キルエルがその黒々とした液体を受け取り、一礼する。
それにブルドグは「いやいや!」と手を振り、またもや向こうの方に駆けていった。自由だなあの変態。
と、僕はキルエルの眼を共有してその黒々とした液体を見・・・アレ?
「どうしましたか?」
キルエルの問いに僕は違和感を述べる。
『いや、なんか最初の色って黒と紫、青が混ざった感じの色だったのに、今キルエルが持ってるのって黒と茶色と白が混ざった色なんだよなぁ。しかもなんか見慣れた玉が浮いてるし・・・』
「まぁ、今さっき速攻で用意してくれたんですから別のものが混ざってるって言ってましたし、そういうこともあるのでは?」
『そういうもんか?・・・・いや待て、なんか匂いが違う。なんか犬?・・・脂っこい・・・・ハッ!!まさか!!え、オイ、キルエル待て飲むな!!』
キルエルの鼻を使って匂いの違和感に気づき、キルエルに待ったをかけるも時すでに遅し。
「―――――――ゲフっ」
『ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!』
キルエルはその訳の分からない”ブツ”を一気飲みしやがったのだ。
僕が絶叫して危険信号を発するが、それよりも早くキルエルの体に異変が起きた。
「うぷ」
その言葉を皮切りにキルエルが体の操縦権を僕に投げる。ついつい反射神経で”ソレ”を受け取ってしまった僕は地獄を見ることになった。
―――その後、男子便所から出てくる僕を見る者は居なかった。
S S S S
回想終了。ふぁんふぁんふぁんふぁ~~ん。
と言うわけで、僕は現在完全グロッキー状態。出かけた魂を口にしまいながら便所を出る。
『大変でしたねぇ』
キルエルがまるで他人事のように僕を気遣う。・・・・お前後でしばき倒してくれるわ。
キルエルへの恨み言をこぼしながら王宮外に外の空気を浴びに行く。夕方と言えど、外はまだ明るくて商店街の獣人の混みようは朝方と比べると減っているが、それでも多いことに変わりわない。
僕は背伸びをしながら、日差しを浴び、口の中に残る油脂を舌に触れさせずに飲み込む。うぇぇ、胃から青カビチーズとアンモニアを混ぜた臭いが食道を伝って這い上がってくるぅ。
「な、何か口直しに飲みたい・・・。油脂以外のモノを・・・・」
胃からせり上がってくる暗黒物質を強制的に飲み下し、商店街をおぼつかない足取りでうろつく。傍から見たら不審者だが当の本人からしたらただの被害者である。
何件か見て回っていると、カラフルな商店街に挟まれた素朴で小さな店を発見した。周りが色とりどりの薬物による幻覚作用で見るようなハイカラに対して、その店だけ質素な木製だったのだ。
『ララフルァ―ラ』と。
『Brave☩Innocent』ではゲームの設定上、入ることができなかった店である。
入口のガラス窓には店で取り扱っている商品とその値段が書いてあった。
「ポコの実のスムージーか・・・。通常はポコの実は漢方薬として使われていて、脂っこいものを食べた後やアルコールを摂取した後に食べると消化器官が活発になったり、酔い覚ましや嘔吐感緩和に効果がある。・・・それをスムージーか。さぞ効果がありそうだなぁ」
僕は、買う商品を決めて店内に入る。僕が店内に入った時、元気ある声が響いた。
「いらっしゃいませ―!お客様!!」
「あぁ、ポコの実のスムージーをお一つ頂けるかな?」
その元気な声に対して、僕も吐き気を抑えながら精一杯の愛想笑いで注文をする。もう既に喉元に到達してた。あぶねぇ・・・・おぇぇ・・・。
その時、世界が止まった。喉元まで来てた暗黒物質も止まった。
「はーい!かしこまりました!ご自由な席にお座りください!!」
その少女は白とところどころに黒い線の入った髪を綺麗に束ねていて、黄色い瞳をしていて―――、
まぎれもなく、この国の姫だった。




