油脂男を倒しました。
さてさて、どうするか。現状、僕の目の前には確実に通報案件になりそうな変質者(※勇者)が居る。
ちなみにこの勇者、『万能ドエム』と『獣人の加護』が発動している状態であり、この残念なシチュエーションさえ除けばかなり強い部類に入ると推測される(ちなみにホストラビットさんのバフ効果は切れているよう)。
そして向こうの方では我ら脳筋の蛮族ゴリラ勇者達が果敢に戦っている。だが、ゲーム君の言う『SMシナジー』と言うスキルの効果で着実にダメージが溜まっているとのこと。戦闘が長引くと確実に負けるそうな。
「さてさて、本当にどうしようかねぇ・・・」
僕は目の前の不審者(※勇者)を見る。鉈を持った両腕をだらりと下げ、全身を小刻みに痙攣させている。顔の頬は限りなくだらけて口元から涎があふれ出ており、目は両方焦点が合っていない。
完全にヤクブゥーツをキメた人にしか見えない。
「だ、大丈夫、じゃないですよね?」
直視したくないという本能を抑えながら、ブルドグさんの安否を確認する。おそらく、いや間違いなく手遅れだ。
「えへっ、えへへっへっへっへぇ?えへへっへっへっへへへへ、えへぇ」
だがしかし、返ってきたのは不気味な笑い声だった。もはや人のカタチすら保っていない、完全に別の生物の笑い声?鳴き声だった。
―――どうすれば、元のブルドグさんに戻りますかねぇ?
『もう一度叩いて、男子の象徴(何とは言わん)砕けばいいんじゃね?』
ゲーム君はとても業の深いことを言ってくる。それをするのは同じ男子としていかがなものかと。アレに偶然当たった時は僕のモノが縮こまりましたよ。
『イカがもタコがもねぇだろ。つぅかそもそも、ちょっと変態が進化しただけの話だろうが。最初こそインパクトあって通報したいな、って思ったが進化前と今を比べるとそんな変わってないだろう』
結構変わってると思いますがねぇ!?っていうかゲーム君、アレ見て平気なんですか?僕としては直視したくないんですが・・・・・。
それに対して、ゲーム君はあっけらかんと答えた。
『あぁ、慣れた』
・・・・・・・・・・・・。
『・・・・・・・・・・・・・』
・・・・・・・あの、しばらく話しかけないで貰えますか?
『オイどういうことだキルエル!オイこら引くんじゃねぇ!!僕をそこらの変人と一緒くたにすんな!』
激昂するゲーム君。”そこら”と言うことはゲーム君の変人性はブルドグさんを超えているということなのだろう。恐ろしや恐ろしや・・・。
僕がゲーム君に慄いていると、ふと自身の体がブレた。
「へ?」
足元を見ると足が勝手に後方に飛んでいた。
すると次の瞬間、僕が居た場所に凄まじい速度で鉈が振り下ろされていた。
「えへぇっえへへへへっへっへっへぇ、新時代が、光が見えるぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
変人を超え、もはや狂人と化したブルドグさんが何かよくわからないことを口走りながら鉈を振り回す。ひえええええッ!!怖ぇええええええッ!!!!
『ありゃぁ、ヤベェな。ざっと計算すると、一発のダメージが557、防御力が391ってところか。『HP自動回復10%』で一定時間経過するたびにHPが271回復する。HPの3割が813くらいだから、今どれくらいか分からなくても1~2回で大体回復すると考えた方が良いか・・・。なんにせよ、かなりやばいぞ』
ゲーム君が言い終わった瞬間に、覚醒した変態が鉈を振り回しながら凄まじい速度で突っ込んでくる。
「くぅッ!・・・速い!!」
それを横に回避して剣を振るうも鉈で弾かれる。
攻撃速度が段違いだ。『万能ドエム』で全ステータス1,5倍は伊達じゃないってことか・・・。
僕はブルドグさんから大きく後退して、自身に『身体強化』を施す。これで僕も制限時間付きだが攻撃力、防御力、素早さ、魔力が1,5倍だ。でも、これでは足りないのは知っている。
だから、彼を呼ぶ。
「ゲーム君!!」
『まかっせたぁ!!』
僕の声にゲーム君が応える。
ゲーム君は少しばかり、僕の眼から情報を貰い何かブツブツと言い―――、答えは出た。
『いいか、キルエル。今のブルドグの行動パターンと、ソレの回避と反撃方法を提示する。
1:ダッシュアタック&敵の居る方向に『三段攻撃』。前兆有。
ダッシュアタック時に『受け流し』。『三段攻撃』前にかなり離れる。
2:体術技に対する土の防御魔法。前兆有。
フップでこじ開ける。『Brave☩Innocent』のシステム『魔法貫通属性』で風属性攻撃の前には土属性防御魔法は意味を成さない。
3通常攻撃。前兆有。
避ける。もしくは『受け流し』。
4:回転斬り。前兆有。
回ってる時間はおよそ2,5秒。鉈を横に構えたら大きく後退する。足元をワイス、フップで迎撃。
5:『獣王の怒爪』。前兆無。
4秒間何もしてこなかったら不審に思うこと。『受け流し』『カウンター』が聞かないから注意。
以上だ。あまり深追いするなよ。ブルドグの体が淡い緑色や青色に覆われたら、それが『HP自動回復10%』の合図だ』
ゲーム君の言う通り、ブルドグさんの体が淡い緑や青に包まれる。アレが、そうか。
淡い光は一瞬のことで、すぐに消えた。消えた瞬間、ブルドグが飛んできた。それも一回の蹴りで。
「ダッシュアタックか、なら!」
僕はすぐさま『受け流し』の構えを取り、その突進攻撃を正面から受ける。そして、その衝撃を這うように剣を動かし、水流のように斬る。そしてすぐさまブルドグさんとは真反対に回避すると、その場で空気に向かって『三段攻撃』を繰り出す。
そして今度は普通に走ってきた。でも早いことに変わりはない。鉈を振り下ろしてくるのを寸でのところでかいくぐり、また一撃を入れる。ほとんど手ごたえがない。固いな、筋肉って。
すると、変態不審者(※勇者)が鉈を横に構える。この予兆は・・・・。
「えへへへへへへへへへへへへへへへっへへえへへっへへへへへへへへへへっへへへへ!!!!」
奇声を発しながら、その場で回転する変態。僕はその回転切りを真下に避けつつ、足に直にフップを放つ。
一陣の砂嵐が彼の足に直撃する。
彼の体が揺らいだ瞬間を見逃さずに、僕は速度の落ちた鉈を踏みつけてブルドグさんの真上に飛ぶ。
「かかと落とし!!」
「ロー!!えへへ、えへへぇ、新時代の幕がぁ!光が!おいらを導いてるぅ!!!!!」
「正気に戻ってくださいよ!―――フップ!!」
訳の分からないことを口ずさみながら土の防御魔法を展開する変態。だがしかし、僕のフップに充てられた瞬間、岩の壁が消し飛んだ。・・・・本当、ゲーム君には恐れ入る。
「しぃッ!!」
再度かかと落としを首に食らわせ、三途の川を渡らせようとしたが、
「えへへえへぇ?川の向こうで婆さんが手を振っている・・・・。地獄帰れ死にぞこないババァ!!新時代にテメェは役者不足だ三下ぁ!・・・・えへへへへへえへへへえへへへえへへへへへへへぇ」
「えぇ・・・・・・・・」
ひどいくらいの暴言を吐いて、現実帰還を果たす変態勇者。僕には見えない婆さんが一周回って哀れにすら思えてくる。
「リープ」
一応、自身も回復しておこう。
回復もし終わり、僕が駆け出そうとした瞬間だった。
「キルエル!!こっちに来て、手伝え―――――ッ!!」
勇者君だった。どうにかこうにかしてホストラビットさんを追い詰めた勇者が僕に手伝うように呼び掛けている。だが、彼女は総大将ではない。彼女を倒しても意味がないぞ!と言おうとしたが、瞬間何かが飛んでくる音がして、
「ぐぅッ・・・・!!」
とっさに防御をしたのが正解だった。ブルドグのダッシュアタックを食らったのだ。すぐに大きく離れて『三段攻撃』を避ける。・・・つぅ、気が逸れてた・・・。
「早く来い!もう少しで総大将倒せるぞ!!」
勇者君の声が響く。・・・・どうする、行くべきか・・・。手伝えば、ブルドグさんも同時に倒せるのではないだr
『行くなよキルエル。変に今のブルドグを連れて行ったらシバに体力回復されるかもしれねぇし、そうでなくとも今の蛮族ゴリラのHPを鑑みると、巻き添えで壊滅しちまうかもしれない。そんなことしてみろ、勇者にヘイト噛まされるだけだぞ』
ゲーム君がすぐさま、僕の言葉を遮って反対意見を寄こす。
・・・・確かに、今のブルドグさんはほぼほぼ狂戦士状態、見逃してくれる確率はほぼないだろう。となると、勇者君のところに手助けに行くのは良い判断じゃない。
僕は自身の結論をまとめる。
「変態勇者を倒してから、手伝いに行こう!」
『賢明な判断だ』
そうと決まったら、僕はすぐさま『受け流し』の姿勢に入る。すると、ブルドグさんがまたもやダッシュアタックをしてきた。しかし、またもや『受け流し』で綺麗に反撃を許されてしまう。ここで『三段攻撃』かと思い、後ろに下がると不審にも攻撃してこないのだ。
・・・・あ、コレは――――。
僕は何かに気づいた瞬間に真横に飛ぶ。瞬間、変態勇者を中心に地面が鋭い爪痕を残して抉れた。
―――『獣王の怒爪』。
危うく反撃をもろに喰らうところだった。
僕は掌を突き出し、可能な限りダメージを与えるため『ワイス』と『フップ』を連唱する。
光線が、砂塵の風が次々にブルドグさんを襲う。
「えへぇ、えへへへへへえへへへえへへへえへへへへへへへ」
顔や男子の象徴にもろに当たっているのに笑顔を崩さないブルドグさん。これはもう才能の域を超えて病気なのではないだろうか。
だんだんと疲れがたまってきて、魔法の発動をやめる。するとゲーム君からメッセージが入った。
『あと残りがHP209だ。次の攻撃を『受け流し』しろ。それで勝てる!!』
「えへへへへへえへへへえへへへえへへへへへへへえへへへへっへっへっへっへっへっへっへっへ!!!!」
ブルドグさんがこれでもかと言う速度で突っ込んできた。僕はゲーム君の言葉の終わりを皮切りに『受け流し』の態勢に入る。
一瞬で眼前に現れたブルドグさんが鉈を振り上げる。その目はギラギラと輝いており、僕の背筋が凍る。それでも、「ここで倒れるわけにはいかない!」と言う思いと「あの脂は飲みたくない!」という生命の危機を感じる本能が、僕に力を与える。
「油脂の新時代の幕開けだ―――――ッ!!!!」
「開けてたまるかそんな新時代!!!!!」
振り下ろされた鉈を流すように、僕の一撃が彼の腹を捉える。そして、一閃。
「ぐえ」
汚い脂に塗れた声を上げて、変態勇者がその場に倒れる。
そして、それを見ていたハルトマンが立ち上がり、互いの雌雄を決める。
「そこまで!!――――此度の勝負は―――――、」




