覚醒されました。
「何故、おいらだと分かったのかなぁ?そこんとこどうなんよ」
初手でキルエルが動き、ホストラビットの見よう見真似でかかと落としを繰り出す。『Brave☩Innocent』はこういう体術系統にもちゃんと精通しているところ好きだね。だが、残念ながらそれはブルドグの腕に未然に防がれ不発に終わる。
「”総大将”は決めるときに一番信用のある奴がやる、というのが定番だと聞いてね。もしかしたら、と思ったのさ」
残念ながら、僕には信用がなかったみたいだ。・・・・まぁ仕方ないよね。アイツら人を見る目ないに等しいし。
ブルドグの鉈攻撃をキルエルは『カウンター』で打ち返すとブルドグが後ろに吹っ飛ぶ。『ふっ飛ばし』効果発動したか。
キルエルはすかさず攻めに入る。正直、ダメージもそんなに出ていないと思う。10ダメージくらいだろうか。いや、このバトルでは防御力も半減しているから43ダメージは出ているだろうか。
キルエルは『三段攻撃』を繰り出す。20ダメージ、23ダメージ、41ダメージか・・・・。少ないなぁ。レベル上げしないとなぁ。・・・あっ、キルエル後ろに下がれ!!
『―――了解!!』
僕の回避指示にキルエルが従い、後ろに後退する。
突如、今さっきまでキルエルの居た位置を巨大な三つの爪痕が刻まれた。
『何ですか!?アレ!!』
キルエルが、驚きの表情で僕に聞いてくる。
―――あぁ、アレは『獣王の怒爪』って言う技だな。5秒間に喰らったダメージの半分を広範囲に反射する。この国で『勇者』に選ばれた奴が使えるようになる、国宝級の技だ。気をつけろよキルエル、アレにやられたら今の僕らにはひとたまりもない。
『5秒間蓄積されたダメージの半分を反射ですか。・・・・厄介ですね。対処法は?』
5秒間攻撃したらすぐに後退だ。広範囲攻撃と言ってもブルドグを中心に弧を描くような広範囲だ。後ろに下がればダメージは喰らわない。後、『獣王の怒爪』はノーモーション技だ。前兆とかないから気をつけろよ。
かくいう僕も何度もこの技でパーティメンバーやられてるからな。冗談抜きにやばい技なんだ。
僕の解説が終了すると、見計らったようにブルドグが笑い声をあげた。
「やっぱすげぇな!ハルトマンから聞いてた通りのバケモンっぷりだ!!おいらの『獣王の怒爪』を避けるなんてえっぐい真似するなぁ!!」
おいおいハルトマン、僕の事バケモン扱いかよ。そしてそれを公言しないでほしいな。僕の印象がヤバくなっていくじゃねぇか!!
「少なくとも僕よりあなたの方がバケモンなのでは?(自分の《ピー》と背脂混ぜて飲むキチガイはあなたくらいしか居ないんじゃないですか)」
キルエルが結構辛辣なことを言う。正論だから反論のしようがない。
ブルドグはキルエルの言葉に大笑いする。オイ、どこに笑う要素があったんだ!?
「そうだな。でも、それを含めての信頼で任されてるからな、”総大将”を」
「―――――」
キルエルはどこか納得したように頷く。僕も不覚にも納得してしまった。ステータスや加護の強さ諸々含めて持久力があるから”総大将”を任せられていたのかと思っていたが、そういうことか。
「そういう意味でなら。確かに”油脂好き”と言うのは一種のアドバンテージですね」
「だろう?」
「はい、不覚にもそこは気づきませんでした」
キルエルの感服の言葉にブルドグが嬉々として応える。
つまりは、こういうことだ。
ブルドグ=チャートはドエムであるが”油脂を愛する者”だ。その脂好きさは人を引かせるレベルでだ。しかもドエムと来るんだから、普通、一般の人間なら本能の抵抗力に従って関わろうとする選択肢を取らない。そこを逆手にとって彼を”総大将”にしたのだ。
キモ過ぎるドエムと言うモノ、それだけで人は関わりたくなくなる。小学校の時もクラスで飼ってる金魚を生きたまま食ってた奴、アイツに自ら進んで近づく奴はいなかったしなぁ・・・、なるほど。変人奇人はレベルが高いほど、自然と隠密応力を手に入れることになるのか・・・・・・そこまで人の心理をもてあそぶとは、運営恐るべし。
『隠密能力じゃなくて、ただ単に視界に入れたくないだけなのでは?』
キルエルが凄いくらい僕に現実を見させてくるぅ・・・。
「方向は違えど、同じ変人変態奇人と言う分類だからこそ、絶対の信頼と理解があるんだ」
ブルドグがふふんと、キメ顔で言ってくる。その方向性だと、僕もブルドグと同じ変人だからブルドグが”総大将”だと分かったみたいになるのでは・・・・。
「なんにせよ、ブルドグさんが”総大将”だというのは分かりましたからね。ちょっとだけ残った疑問が完全な確信に変わりました」
キルエルが剣先を改めてブルドグに向ける。
「ここは同じ変人奇人脂好き同士譲り合うのが筋じゃないかね?」
「変人でも奇人でもないですし、・・・脂好き!?・・・・何にせよ。譲れはしないんですよ。つけられた不本意な汚名返上のためにも、ですがね」
ブルドグの冗談を一笑に付し、キルエルはブルドグの瞳を見る。そこに疑念も迷いもない。あるのは僕の『経験値欲しい』という欲望と、『ミルを守りたい』と言うキルエルの意志である。
キルエルと僕の意志が伝わったのか、ブルドグの眼は戦士の眼に変わる。
「あまり手加減とかはできないよ、おいらは」
「えぇ、構いませんよ。僕も全力でやるだけです。終焉を捻じ曲げる覚悟で」
「ははっ、11歳の子供がおいらにどれだけのモノを見せるか、期待だねぇ!」
S S S S
『いいか、キルエル。『獣王の怒爪』は発動条件が5秒間動かないでいることだ。急に動かなくなったら警戒しとけよ。こっちでもなるべく指示するから』
ゲーム君の助言を受けて、僕はブルドグさんに向かって走り出す。狙うは首かな。
「フップ」
風+土属性の全体攻撃魔法を発動し、ブルドグさんの足元に撃ち出す。僕の感覚で言うと、ブルドグさんに正面から挑んでも勝てる見込みはほぼない。勇者君のような脳筋思考では突破は無理だろう。ならば、いかにして背後を取るかにある!
僕が狙ったのは『粉塵による視界不良』だ。魔法が地面に着弾した瞬間、地面が爆ぜて砂埃が舞う。
「目つぶしか」
「正解です」
そこに『渾身の一撃』で3秒溜めた”疑似”全力の一撃で両刃剣を飛ばす。そして同時に、ダッシュアタックで近寄り、コンマ1秒も残さずに技変更。
両刃剣は砂埃の中を突貫し、ブルドグさんに突き刺さる、・・・・ことを祈っている。
だがそんな簡単にいくはずもなく、金属音が聞こえた後砂埃から両刃剣が弧を描いて地面に突き刺さる。
「目つぶしからの一撃、・・・悪くはないが威力が足りないしコレで君は武器がなくなってしまうなぁ。まだまだ詰めがあm」
「えぇ知ってますとも」
僕は体術でやった『かかと落とし』を発動する。
砂埃が晴れて出てきたブルドグさんの後頭部に近い後ろ首に蹴りを入れた。
「―――――ぉおぅ、クラッときたねぇ!ばぁちゃんが川の向こうで手ぇ振ってたわ」
それはもう逝きかけていたのでは?・・・・若干、ブルドグさんの言葉に引きつつも地面に突き刺さった両刃剣を引っこ抜く。
ダメージはどれくらいかな?
『そうだなぁ、ダッシュアタック六回総合ダメージはおおよそ124、三段攻撃合計84ダメージ、カウンター39ダメージ、かかと落とし43ダメージ、290ダメージかな?で、元のHPが2700近くあるはずだから約2410近くHPが残っていると考えるべきだな』
―――全然、減ってませんねぇ。
『そりゃぁ、これ一人で戦うもんじゃないからな。パーティ組まないとまともにダメージなんて与えられないわ。地道な作業だぜキルエル』
「うわぁ・・・・・」
あまりのダメージの低さにビビる。少し心配になり、ちらりと向こうの勇者君たちの戦況を確認する。どうやら全員の顔に疲弊が見て取れる。対するSMパーティの方はと言うと、リピアさんより回復量が多いシバさんが居るから全員そこまで疲弊していない。むしろ攻撃されて喜んでいるようにすらも見える。・・・・怖い。
視線を戻すとブルドグさんもあちらの戦況を見ている。ホストラビットさんが鞭で味方に打つたびに「うひょんッ!」とか「おぅふッ!」とか小声で悶えている。正直キモイと思った。
だが、コレはある意味チャンスだった。
「ワイス」
小声で詠唱し、光の玉を掌に顕現させる。それをブルドグさんの『おいらも鞭で打ってぇ!』と語っているキラキラした目に発射した。
純粋無垢な少年のような好奇心と、『鞭に打たれたい』と言う欲望で染まった濁った瞳に光の玉が着弾しまばゆく光る。
突如、ブルドグが目を抑えて絶叫する。・・・・いっそのこと浄化されてしまえとも思った。
「おぅうぅぅぅぅあああああああ!!!!コレは!コレはぁああああああ!!!!」
僕はその残念過ぎる隙を見逃さずに大きく飛ぶ。狙うは首。この模擬戦のルールにより死亡および気絶に値する攻撃は無効にされて、攻撃された側は『気絶状態』で敗者ゾーンに自動転移される。しかも、HPが0にならずともこの世界では首を飛ばしても胴を八つ裂きにしても、心臓に穴を開けても死ぬ。
つまり、ここで『一撃必殺』ができれば勝つことができる。
「狂乱暴徒で鍛えた技だ!『会心の一撃』!!」
『会心の一撃』は非常にクリティカルが出やすい技だと聞いている。例えクリティカルが出ようとも出まいとも命中すればほぼ確実に倒すことができるだろう。
僕の『会心の一撃』は確実にブルドグさんの首を捉えた。そのまま両刃剣が凄まじい速度で首に降りかかる。
だが、悲劇はそこで起こった。
つるんと。
テッカテカのお肌に当たった瞬間、『会心の一撃』の軌道がズレ、そのまま首から下に―――。
《ズドッッッッ!!》
音で表現するなら、これが一番正しいと思う。僕の『会心の一撃』は油脂を纏った筋肉を滑らかに滑り、そのままブルドグさんの、否、全男子諸君の象徴たるブツにめり込んだ。
「『あっ・・・・・・・』」
あまりの衝撃展開に僕もゲーム君も真面な言葉が出てこなかった。
そしてその衝撃は数秒遅れて本人にも伝わり、カッと目を見開き、叫んだ。
「新時代の幕開けだ――――ッッ!!!」
「『なんでだよぉッ!?』」
明らかに新時代の幕開けじゃなかった!どちらかと言うと新時代の幕引きだった。そんな感触だった。
・・・・・・・ふぇぇ、変態って怖いよぉ・・・・。
僕が凄い勢いで後ろに引くと、金色のオーラを垂れ流しながらブルドグが立ち上がった。
何アレ!?
冷や汗が止まらない僕がゲーム君に聞くと、想定していない言葉が返ってきた。
『三途の川渡りかけた時にもう既にHPが半分以上減ってて、ブツに一撃入れたのがキッカケに『万能ドエム』が覚醒したか・・・・・。想定外すぎるんだよオイ』
口から涎を垂れ流し、目の焦点が合っておらず、口元はニヘラニヘラと笑っているブルドグさんは、それはそれは到底勇者とは思えない、常軌を逸した変質者と成り果てていた。
「うへ、うへっへ、うへへへへっへっへっへへぇ。きたぜぇ!『獣人の加護』を感じる・・・。ひゃっほ―――ッ!!新時代の幕開けだァ――――ッ!!!」
「ま、まさか『獣人の加護・犬』も発動してるんですか!?」
噓でしょ!?あんなトチ狂ったような表情をしているのに!?どうしよう、キモさと強さがバキバキに上がったとは・・・・。ゲーム君、どうにかなりませんか?
ゲーム君に助けを求めるも、ゲーム君も苦々しい声音で言った。
『・・・・もう一回、新時代の幕でも開けさせるか?・・・・・すまねぇ、あんまり直視したくないんだ』
ゲーム君も役立たずだった。・・・どうしようか、割とマジで(泣)。




