タイマンに持ち込みました。
模擬戦にて、俺たちはクセが強すぎて最早クセしかないような親ガラシア国の勇者たちと戦っている。俺の住んでいる国には魂から尊ぶべき『英雄創聖教』があり、その素晴らしい教典に基づくと獣人の存在は魑魅魍魎の悪そのものなのだが、どうしても同じ『勇者』と言う肩書がある以上無下に接するのもどうかと思い、結局のところ、脳に『獣人の皮を被った同じ人間』と言い聞かせて事なきを得ている。
そして今―――。
「ゥ、ホオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」
俺が力いっぱいに剣を横に振るった。しかし瞬時に勇者に避けられる。
「うぅん、そうだねぇ、遠慮してぇ、言うとぉ、・・・・・蛮族ぅ」
シバ、だったかとてつもない気だるさを醸し出す半犬が馬鹿にし腐ったような顔で言った。その言葉に俺の血管が切れかけた。
「ア”ァッ!?誰が蛮族だぁオイ!!口には気をつけろよ病犬風情がぁッ!!!ボル!」
俺は剣を握っていない片方の掌を病犬人間に突き出し、火属性攻撃魔法である『ボル』を発動する。想像するのは深紅の火炎弾。浄化の炎に包まれた魔力が魔界からの侵略者である獣人を灰に帰すのだ!
掌から渦巻く火の玉が顕現し、病犬に向けて発射される。
「あぁ、とぉ、驚いたぁ、じゃぁ、アーキュア」
病犬は少しも驚いた表情をせずにバックステップし、水の防御魔法を繰り出した。大気の魔力が水の大盾を生成する。そこに突っ込んだ火の玉は残念ながら水の大盾にかき消された。
「チィっ!」
「援護しますわ!勇者様!」
俺が舌打ちをすると、後ろからリピアが『身体強化』を施してくれる。ありがたい。
「あまり大声を出さないでくれよヴェルト君、ゴリラの獣人と勘違いされてもおかしくないよ」
「おぉう、そうか。気を付ける・・・」
マルクがレトリバーと押し合いをしながら俺の言動を指摘してくる。なんだよゴリラって、せめてチンパンジーとかライオンの方が良かった・・・。
少し前を見てみるとノミと、・・・え。
一瞬自分の眼を疑った。・・・・え、おいおい嘘だろ?
「アイツ、・・・・キルエルが戦っているだと・・・」
キルエルはいつもこういう大事な場面で居なくなる。大体単独行動取ったりとか、逃げてるだけのキルエルが、だ。
アイツ、ずっとあんな嫌味な感じの自己中野郎だと思っていたが、そうか。俺の叱責で目が覚めたのか・・・・・。やっぱり勇者である俺が言うと改心するんだなぁ。
俺が感心していると、レトリバーと押し合いをしながらマルクが言う。
「ホストラビットを狙っているようだけど、動きが淡白だなぁ。汚犬が総大将を守ったらすぐに離れてまたすぐ攻撃する。ホストラビットが総大将なのは確実で、それを狙って攻撃するのは良い判断だけど阻まれるのなんて確実なのに攻撃し続ける。・・・。能と芸が足りないなぁ」
なるほど、言われてみれば確かに。マルクは素早く状況判断ができるし、他者の欠点をすぐに見つけられることに関しては凄いな、相変わらず。
いい仲間を持ったなぁ。これが青春ってやつか・・・・、悪くない。
「よそ見はぁ、あまりぃ、感心しないなぁ、蛮族君とぉ、豚腹君」
「何だt!?」
俺が吠えると同時に俺とマルクの顔に水の入った泡がかぶさった。
「がぼッ!?」
「ぐぼぼぼ、げぼッ!!」
「勇者様!?」
俺はすぐさま口をつぐみ、出かけていた空気を収める。しかし、マルクは突然の魔法にビビり、さらにはレトリバーとの押し合いに押されてしまい、派手に空気をこぼした。
「ん―――!んんんんんん――――!!」
目力でリピアに、マルクにかかった魔法の解除を伝える。だがしかし、リピアはかなりパニックになっており、目の前の俺の魔法を解除しようとする。
「ぐぼぼぼぼぼ、がぼぼぉ」
俺を囲む阿波の中の水がなくなっていくのと同時に、どんどんマルクの顔が青くなる。ヤベェ!クソ!どうする。がくがくとマルクの体が痙攣をし始め、かなり危ない状況になった時だ。
「エバーズ流レイピア操術112番の型、『エンドレスフラッシュラッシュスピア―』!!!!」
「!?」
レトリバーの肩を踏み越え、そう高らかに言い放つ金髪青眼の男。レイブン=エバーズがマルクの泡に向かって連続刺突を繰り出す。
レイピアに纏った風が泡をこじ開け、中に入った水を吸い上げるように出す。
「解除しましたわ!!」
「うぁっはッ!!ありがとう!!」
俺がリピアに礼を言うと、リピアは顔を赤らめながら「いいえいいえぇ」と返す。
すると完全に水攻めからマルクが解放された。
「げっほげっほげっほ!あ、ありがとうレイブン君」
「ハッハー、礼には及ばぬ!真なる伝説にして生きる天上の大英雄、不屈の超勇者たるこのボク、レイブン=エバーズは当たり前のことをしただけにすぎぬ!礼を貰う謂れは無かろう!代わりに、この無欲で精錬された精神を、この僕と言う存在を崇め奉るがいい!!」
「げっほげっほ!・・・ゴメン、何言ってるか分からない」
そういいながら、マルクはレイブンの手を取り、立ち上がる。
その光景を目にしたレトリバーは「・・・・フム」と、どこか優しい目つきになった。だがしかし、それも一瞬のことでレイブンに飛び掛かった。
だが、それと同時に俺も走り出し、剣を横に構える。
「ウゥッフォオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」
怒号を発して、溜めた力を開放する。
内に溜められた、破壊と反撃の意志が喝采を上げながら心から剣先にかけて連結する。
俺が剣を振りぬくと、丁度レトリバーが槍を振り上げたところだ。
脇腹が隙だらけだぜ!!
俺は丸出しの筋肉に埋もれたケダモノの脇腹に全身全霊の一撃を叩き込む。
「がはっ!!」
剣の衝撃がレトリバーの全身を貫き、レトリバーが苦悶の声を漏らす。そのまま後方に吹っ飛び、地面をバウンドしながら壁に激突する。
それを皮切りに、俺は剣先をシバとスコップに向ける。
「反撃開始だ!!」
俺たちの反撃のゴングが鳴った。
S S S S
「ちッ!アイツら、他国の勇者に遅れなんて取りやがって・・・・」
ブルドグに守られていたホストラビットがそう呟き、凄まじい速度で勇者のところに向かった。
「おいらも!」
「行かせないよ」
ブルドグが走り出そうとしたところを僕は前に出て、その歩みを止める。
ブルドグは、一瞬焦ったような顔つきで僕を見たかと思うと、怪訝そうな表情に早変わりして僕に言う。
「どうしておいらを止める?総大将ならあっちだよ。勇者と激突するけど行かなくて良いのかい?」
そのありがたいご忠告に僕は首を振り、剣先をブルドグに突き出す。
「いいや、その必要はない。むしろ、手間が省けたよ」
僕は身体の操縦権をキルエルに譲渡し、僕はキルエルの意識に潜り込む。
そして代わりにキルエルが、口を使い本来の目的を言葉にする。
「わざわざ負けにくるとは協力的で何よりだ。・・・・・ブルドグ=チャートさん、貴方が”総大将”ですね?」
「フッ!!」
「やはり、図星でしたか」
ブルドグが鉈を振り上げ、僕の頭を狙う。だが、キルエルはその攻撃を両刃剣で受け止める。
キルエルの言葉に顔をしかめるブルドグ。やはり、な。
『じゃぁ、始めようか―――。0ダメージで勝てる”対ブルドグ”戦を!!』
僕の言葉を決起に、キルエルが動いた。




