壊されました。
パーティ結成しなけりゃ良かった。
辺りに広がるのは血、血、血。緑色の植物に母なる大地は見る影もないほどの惨状に塗れている。
とある集落近くの山の中、僕の目の前には大量のモンスターの死骸が積まれている。
「おかしい、作戦を実行してるだけなのに別の事をしている気がする」
どう見ても山の中のモンスターを大征伐しているようにしか見えない。
・・・・・どうしてこうなった。
僕が頭を抱えていると向こうの方から声が聞こえた。
「キルエルさ――――ん!!見てください、大物ですよ!!」
ふわふわ揺れる黒髪、紅潮した頬、ハイライトな赤眼、荒い息遣い、そのすべてが魔性の魅力を感じさせてくる。ただ一点を除けば―――だが、
彼女の武器は弩である。遠距離攻撃ができる弓矢の上位互換のようなモノなのだが、なぜかそう、彼女も血に濡れている。死体回収や素材の選別で手などが汚れることはままあることだが彼女のソレは常軌を逸していた。
――――全身が血に濡れているのである。
剣士や戦士のような、近距離戦を得意とするものであればそういうこともあるため納得できるが彼女は遠距離が主流である。大事なことなのでもう一度言う。彼女は遠距離攻撃が主流だ。
「・・・・おぉう」
思わず変な息が出てしまった。
ノゥアは血の海の上を平気で走って寄ってくる。そしてモンスターの死骸を死体の山へと放り投げた。死骸は美しい弧を描いて肉塊の中にゴールイン!
僕は持ってきたタオルで彼女の顔を拭いてあげる。うわぁ、タオルが真っ赤だぁ。
拭き終わったタオルをしまうとノゥアが不満そうに呟く。
「・・・・来ませんね」
「う~ん、僕としてはそろそろ来てもいいと思うんだけどなぁ」
知らず知らずのうちに倒してしまったのだろうか・・・と死体の山に向き直る。やっぱりいないみたいだ。
『っていうか今さっきから何してるんですか?』
キルエルが突っ込んできた。そうだった、説明し忘れてた。
これはグリアードベアーを一網打尽にするための罠である。グリアードベアーは鼻が良い。犬の嗅覚の30倍はある鼻で血の匂いは絶対に逃さないのだ。
それゆえ、その圧倒的な嗅覚を逆手にとって無臭の毒粉をまぶした肉塊に突っ込ませる作戦を取った。最初は10匹くらいの死骸でおびき寄せようという算段だった。だからノゥアには「少なめでいいよ」と言ったのだが、甘かった。
「分かりました!1/10くらいですね」という言葉の意味をよく考えておくべきだった。
それからは早かった。山から緑が赤に染まっていき、今まで五月蠅かった生物の気配が素晴らしい速度で減少していった。そして最終的にはこの惨状である。
「まさか森のモンスターの1/10という意味だったとは・・・・」
「どうかされましたか?」
「い、いや、大丈夫だ」
当の惨状を作った本人はすごい笑顔だ。清々しいほどに顔には罪悪感なんてモノは存在しない、とてもいい笑顔だ。
僕は死体の山から死体を取り出す。
おそらくこれはキングエイプのモノだろうがそれは頭が真っ二つになっており、胸部は電動ドリルでも使ったか?と思えるような穴が開いていた。しかも腕と下半身が無い状態にある。
軽く血の気が引いたね。
「あ、大丈夫ですよ。ちゃんと息の根は止めました。生きてませんよ~~」
「あぁ、うん。そこは問題じゃないんだけどさ・・・・」
「どうかしましたか?」
「ノゥアさんって遠距離攻撃が主流なのにどうしてこういう風になるのか理解できなくて、・・・もしかして剣でも持ってきてた?」
素直に剣でやったなら分かるんだけども、さすがに矢で頭真っ二つはできないだろうし。
僕は気になって聞いてみた。
聞かなけりゃ良かった。
「えぇ~~、そんなの素手に決まってるじゃないですか~~!やだなぁもう、いくら弩が強くても体を真っ二つには出来ませんってwwww」
ノゥアはそれはそれは楽しそうに手を振る。マジかよ素手かよ!
『衝撃の事実!!ノゥアさんは怪力だった!?』
これには『Brave☩Innocent』歴の長い僕でもびっくりだ。全然知らなかった・・・!!
それに素手でやっといてそんな笑顔出来るってスキルのせいであってもサイコパス過ぎないか!?絶対人間性の何かが欠如してる・・・。
ちょっと引いた。だが可愛いのでオッケーです。
触らぬ神に祟りなし。触らぬメイドにギャップ無し。
このことは墓場まで持っていこう・・・。
そう心に決めた時だった。
『ゲーム君!!何か、来ます!』
キルエルの警報、即座に僕は注意を張り巡らせる。同時にノゥアも辺りを警戒し始めた。
《バキッ!》
木が裂ける音が聞こえた瞬間だった。僕はほぼ反射的に右手を突き出し叫んでいた。
「フップ!」
砂嵐を呼ぶ魔法を発動させる。だが、悲しいかな。僕は思い出したのだ。『魔封じの腕輪』を付けられていることに―――。
「クソッ!あの天然ドジ姫ぇ!!」
愚痴をこぼすと同時に『次元収納鞄』から進化の剣を抜く。そしてこちらに向かって走ってくる黒い塊に『カウンター』の構えを取る。
一端防御の構えを取り、攻撃された瞬間に反撃する『カウンター』を発動する。ぶつかった瞬間危うく弾かれそうになるが足に力を入れて踏ん張り素早く反撃する、しかし感覚的に10ダメージなかったように思う。・・・おそらく、この硬さは。
振り向いた先には体長4mはあるだろうグリアードベアーが息を荒くして僕を見ていた。
すぐさま僕は頭の中でグリアードベアーのステータスを計算する。
HP802~805 攻撃力508~545 防御力310~322 素早さ424~425 魔力98~101 精神力50 運8 くらいだろうな。あまり細かな数字とかは分からんが大雑把に出すとこんな感じになる。
『攻撃パターンは何でしょうか?』
基本は突進、左右の4本腕での薙ぎ払い、顎での噛みつき、突進には『ふっ飛ばし』効果が付いていて、左右4本腕の薙ぎ払いでは避けにくい100ダメージ代の4回連続攻撃、噛みつきはほぼクリティカル出るから僕らには即死に近いダメージが出る。
今の僕では魔法が使えないため尻を追いかけて地道にダメージを与えていくしかない・・・。
やれないわけではないが、僕の精神力は下がる一方でこのまま続けると『疲労状態』になりかねない。マガツを使えば瞬殺だが個人的にはあまり使いたくないし・・・。
僕は剣を構えてゆっくりとグリアードベアーに滲みよる。
まずは『カウンター』と『会心の一撃』を混ぜて様子見か・・・。
僕が『カウンター』の構えをした時だ。
風を切る音とともにグリアードベアーの両目に矢が刺さった。
「グゥゥゥゥウウウウウウウアアアアアア!!!」
絶叫するクマ。隣を向くと弩を構えたノゥアが居た。その口は愉悦に歪んでおり目は狩猟者の如くらんらんと輝いている。怖い。
野生の本能が告げたのか、僕が居る方向とは真逆に走ろうとするグリアードベアー。僕が走ったところで追いつけるはずがないため、僕は見送ることしかできない。だが隣の捕食者は違った。
「トゥロイア」
ノゥアは掌をかざし魔法を発動する。出したのは鈍足になる魔法『トゥロイア』だ。単体妨害魔法ではあるがその効果は長く続く。
急激に動きが遅くなったグリアードベアーにノゥアは容赦なく背中を穿つ。
「グアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
最後に撃った矢が首に致命傷を与え、グリアードベアーはその場に断末魔を残して沈んだ。
「いい声で鳴くじゃぁない!!」
完全に台詞が敵側のソレだった。
だが、そんな喜びもすぐに途切れる。ノゥアが僕に着けられた腕輪に興味を示したからだ。
「魔法の威力が弱くなるんじゃなくて、そもそも魔法が使えないの?」
「そうだね。本来はもう少し緩い縛りになると思ってたんだけど・・・」
「へぇ~、壊していい?」
「え?食っていい?」
何それバケモンじゃん。腕輪喰うとかかなりのキ〇ガi、あ。もうキ〇ガイか・・・・。
「違う違う、壊していい?って聞いてるの!!」
「あ、『壊していい?』か。聞き間違えた」
「急に腕輪喰っていいなんて聞くのはあたおか過ぎるってwww」
でも急に「壊していい?」って聞くのも相当あたおかだと思いますが、どうなんでしょう。
僕が反応する前にノゥアはもう既に腕輪を摑んでいた。フッ、甘いなノゥアよ。この赤い腕輪は耐久度が驚異の4200だ。これを一撃で破壊するとなるとレベル1000は必要になる。だが今のレベルは1000もない!自分で言っておいて悲しいかな、この腕輪はそう簡単に破壊され《メキョグシャバリンッ!!←腕輪が粉微塵になる音》ぎゃああああああああああああああああ!!!!
音速のフラグ回収だった。「ん~、硬いなコレ」とかかわいい声と共に響いたのは盛大な破壊を招く音。つまりは、そう。
「あ、脆」
驚きを通り越して悟りを開いてしまう程の”完全破壊”だった。
『えぇぇぇぇぇ・・・・・・・・』
キルエルの弱々しい声が響く。
腕輪は握られたところを中心にひん曲がっており、原形を留めていなかった。
「・・・・・・・・」
何というか、一周回って腕輪が可哀そうになってきた。・・・コイツは僕が責任をもって供養しよう。
僕はそう心に決めて、申し訳程度に曲がった部分の欠片を十数個集めて『次元収納鞄』に一時保管した。




