報告されました。
あぁ、面倒くさい。
僕は一人、執務室的な部屋の中でそう思っていた。
目の前には自身の被害者妄想の塊のような物語を語る勇者と、それに同調して頷く天然野郎がいる。
アンセムの爺さんは「あー」とか「うむ」とか「うにゅら」とか反応している。多分、十中八九勇者の話、ほとんど聞いていないだろう。目もなんかチラチラと僕に向いているし・・・・。
「―――ということで、王様。キルエルをパーティから除名してください!」
「お願いですお父様!」
「はぇ!?」
強く願い出た勇者と天然、その言葉を受けたアンセムの爺さんは間抜けな声を漏らした。うん、話聞いてねぇなこのジジイ。
だが、腐ってもこの国の王だ。「うぉほん!」と咳払いし何かを思案し始める。おそらく今さっきの話の内容を思い出しているのだろう。小声で「勇者何て言ってたっけな・・・・?」とか呟いてる。
それから数分が経過し、―――僕はそろそろ足が痛いと思い始めた。いつもは誰が這いずり回ったかもわからない床に座るとかばっちぃので椅子を引いて、そこに座っていたのだが勇者に蹴り落された。そしてその勇者は天然野郎に誘われて椅子に座っていやがる。完全な理不尽である。
丁度だった。
「分かった、―――キルエル=ヴェルモンドよ。汝に罰則を与える。『魔封じの腕輪』の強化だ」
そういいながらアンセムの爺さんは手短な棚から箱を取り出す。蓋を開けて取り出したのは、青い腕輪だった。
青、―――それは魔力を800までなら魔法使用不可といった紫色の腕輪の上位互換だ。紫が400近くを制限するはずだったから丁度2倍だ。
アンセムの爺さんの顔面がニヤニヤしている。なんとなく僕は察した。
『手加減してくれてる気がしますね・・・』
キルエルの言うとおりだと思った。
勇者に「除名してほしい」と言われているのにも関わらず『魔封じの腕輪』の強化、それも制限レベルが一段階上がっただけだ。まぁ、それくらいされないと割に合わないんだよな。僕大半の事に関しては被害者だし。
僕は素直に罰に甘んじることにした。本当は一周回って勇者に罰を与えてほしいところだが、此処で駄々をこねても意味がない。むしろ娘の押しに屈せずに王の肩書を貫き通した親バカなアンセムの爺さんを褒めてやりたい。
だが、やはりだ。どの世界にもアンチという種族はいるもので―――。
「お父様、それは何ですか?」
天然ドジ姫、もといリピアがの中にある腕輪を指さして問う。
それに対して、娘大好きなジジイは何気もなく答える。
「『魔封じの腕輪』じゃ。付けられた者は一定の年月、魔法が使用できなくなる。色によって魔力を封じ込める力が違ってくるんじゃ」
「何色が一番力が強いんですか?」
「一番強いのは無色の腕輪じゃが、いm」
「これがよさそうですわ!!」
アンセムの爺さんが言い終わる前に天然野郎は箱の中から赤色の腕輪を取り出す。
赤、―――付けられた者の魔力が6400以下なら魔法が使用できなくなる。そのほか、魔道具の使用も不可能になるもので――。
僕はなんとなくだが嫌な予感がした。
そして、僕にとっての嫌な予感は当たるもので―――。
「私からの罰ですわ!!」
その言葉と共に僕の腕に赤い『魔封じの腕輪』が付けられた。
「は?」
急すぎて体もキルエルも僕も現状を把握できなかった。だが、少しずつ僕の身体と脳が状況を把握して、―――。
「はぁあああああああああああああああああああああああ!!!!??」
僕が絶叫した。
すぐに外そうと腕輪を取ろうとするが外れない。クソッ!
僕はすぐさま元凶を見据える。『魔封じの腕輪』は付けた本人にしか外せないのだ。
そしてその元凶である天然野郎は何処から出てくるのであろう謎の自信に満ち溢れた顔つきをしていた。
「オイ!リピアお前!コレ外せよ!!」
「や~ん!勇者様、キルエルさんがいじめてくる~~」
「キルエルテメェ!!またリピアをいじめやがって!!」
オイ勇者、お前見てただろうが!リピアが思い切り僕に腕輪付けてるところ見てただろうが!!何でその現状があって天然野郎を守る姿勢に入れるんだお前!!
ちょっと普通に冗談では済まされない。制限が魔力800ならレベルアップで制限範囲を超えればいいのだが6400とか4年かかっても無理である。しかも途中ではミルが死んでしまう死亡イベントがあるというのに、魔法を使えない状態ではどうやって助けろというのだ!!
『腕輪を、外しなさい!!』
キルエルが叫んだ瞬間だった。僕の体の制御権が一時的にキルエルに譲渡される。
僕の意識が身体と分断された。
「外さないというのなら、その手を切り落としてでも解除させてもらおう!」
キルエルが『次元収納鞄』から『進化の剣』を取り出す。マガツだと強すぎて被が尋常ではなくなるからな。・・・って違う。そうじゃない!
僕にも常識というのがあるからこそ、言えるのだ。
例え、相手に原因があっても殴った瞬間に被害者と容疑者は入れ替わるものだと。
この場合は剣を抜いた瞬間からである。
『やめろキルエル!ミルを救う前に僕らが死ぬぞ!!』
まだ、剣を抜いただけなら罪も軽く済むだろうがましてや此処は王城である。その王城の姫に牙を向けるということは不敬罪に当たる。『Brave☩Innocent』の攻略本によると不敬罪は人にもよるが、一端の冒険者では年齢性別原因関わらず死刑になるのである。
つまりはデッドエンド、ということになる。
だが、僕の静止の声は届かずキルエルは『進化の剣』の切っ先を向けるとさらに加速した。
「きゃぁ!勇者様――!!」
「くっ!キルエルテメェ!逆切れしてんじゃねぇ!!」
勇者がリピアを庇う姿勢を取る。やめろお前ら、キルエルを煽るんじゃんねぇ!!
「なるほど、そういうことか・・・」
キルエルが何か納得したように呟く。一体何を納得したのだろうか・・・。
キルエルが突如として『進化の剣』を『次元収納鞄』にしまい、代わりにあるものを出そうとする。僕はその何かが分かったため必死に体の制御を取り返そうとキルエルの手に集中する。
『止まれ!止まれ―――!!』
必死に意識を集中する。キルエルの動きは―――、
止まった。
そして、それと同時に意識も途切れた。
S S S S
気が付くと、そこは寝室だった。ギラギラしてる装飾からして僕の家の部屋ではないのは事実である。
「あ、やっと起きましたか。良かったです」
僕の顔を覗き込んでくる少女が一人――、綺麗な黒髪に赤い目、ゲーム君が説明してくれていたはずだが思い出せない。誰だっけ?
「えっと、誰ですか?」
僕が問うと少女は何かがっくりしたような顔をして――、こう名乗った。
「ノゥア=ヴィアチェ、です」
あぁ、思い出した。そうだったそうだった。黒薔薇のメイドさんだ。
僕は大げさに目を開いて驚いたふりをする。
「確か、黒薔薇をくれたメイドさんですか?」
「え?あ!!はい!!そうです覚えててくれたんですか!!!」
ものすごい喜びようだ。そんなにいい笑顔を見せてくれるのなら僕も言ったかいがある。
ついでに僕も名乗っておく。
「僕はキルエル=ヴェルモンドです。ここは、どこでしょうか?」
いつまでも寝てるのは悪いと思い体を起こす。おーいゲーム君、起きてるかーい?
『―――――――』
反応がない当たり寝ているのだろうか、それとも僕の愚行を反省しろとのサインだろうか。
ゲーム君の無応答を確認しているとノゥアさんが口を開く。
「此処は王城の客室、あなたは当代ガラシア王の鉄拳を受けて気絶したところで、此処に運び込まれました」
あぁ、そうなのか。王様の気配なんて全然わからなかったな。努力不足だ・・・。
僕は「ふぅ」と息を吐く。するとノゥアさんがもじもじと顔を赤くしながら聞いてきた。
「あ、あの・・・キルエルさんとお呼びしてもよろしいですか?」
「え?」
唐突過ぎて訳が分からない。どうしたら急に僕を呼び捨てする話につながっていったんだ?
「まぁ、・・・・・・いいけど」
若干、反応が遅れた。でも彼女は嬉しそうだ。
まぁ、いいんだけどさ。そうじゃなくて、
「最初、牢屋にでもぶち込まれるのかと思った」
なぜか客室に連れていかれたのかが謎だ。普通なら不敬罪で牢屋か、首が飛んでるかのどちらかだろうに・・・。
「あぁ!!すいません。当代ガラシア王の話を忘れていました!!」
僕がぼそりと言葉を漏らすとノゥアさんがわたわたと慌て始めた。僕の名前を呼ぶことが王様の話より優先されるのは素直に嬉しいけど、それってメイド的に大丈夫なのか?
そしてノゥアはすぅっと息を整えると「当代ガラシア王より伝言です」と前置きをして話し出した。
「此度はうちのバカ娘が本当に申し訳ない。怒り狂うのも無理はないと思う。だが、なんとなく危ない気がしたのでボディーブローで気絶させたのは大目に見てほしいぞい☆てへぺろ。ちなみに『魔封じの腕輪』の件に関しては申し訳ないと思っている。リピアは何かとヴェルトリッヒを困らせる君が憎くて仕方がなかったらしい。腕輪に関してだが、リピアが解除に応じないためナシアが老朽化を早める魔法をかけた。おそらく3年ちょっとで外れるだろう」
おいおいおいおいおい、王様途中で本性が見え隠れしてたぞ!なんだよてへぺろって、王様らしくねぇ・・・。
でも一番びっくりしたのはノゥアさんの声だった。
「めっちゃ似てますね!?」
「うぇ!?そうですか・・・ぐへへ」
可愛い笑顔とは裏腹に女性が出してはいけないような声が出ていた。女子って怖!!
僕が軽く引いているとノゥアさんが「オホン」と咳払いをして続きを話す。
「一応、パーティからの除名は大目に見るという形で不問とする。そして、近々隣の獣人国ファムルスの勇者たちとの親善式を行うためその準備もするように――とのことです」
獣人国ファムルス、新しく話題に出た隣国の名前。
僕が一番興味を持ったのはその国の”勇者”という単語だった。
つまりはそう、ゲーム君いうところの『新章スタート』だと悟った。




