珍獣がいました。《後編》
俺はこれほどキルエルを呪ったことはないかもしれない。
「すみません!私がキルエルの言うことを信じてしまったばかりに・・・!!」
「あぁ、仕方ないよ。リピアは優しいからね。それに付け入って嘘を教えるキルエルが悪い!」
「勇者様・・・・」
俺の横で泣いている銀髪ロングの女の子、リピアを慰める。彼女は優しすぎたが故の被害者なのだ。
そしてその可愛いリピアを泣かせたのが、にっくきキルエルだ!!
俺はそう思いながらも、今もなおこの近くを徘徊しているであろう人型モンスターに警戒する。
今さっきまでそいつと戦闘をしていたのだが、ずっと防戦一方だった。リピアの魔法が全然効かないため、物理で行こうとしたのだが、反対に押されてしまった。
クソッ!!なんで俺がこんな理不尽な目に合わないといけないんだ!!これもキルエルの陰謀かよっ!そんなに勇者の座に固執するのか分かんねぇ!!
俺が歯を強く噛むと近くで爆音が響いた。とっさにリピアを庇う姿勢を取る。
俺はクソキルエルのせいで近づいてくる『死』を肌で感じていた。
S S S S
数十分前にて、俺たちが進んでいると道が二手に分かれた。
「二手に分かれよう」
マルクの提案に全員が賛成し、チーム編成が行われた。
「とりあえずレイブン君とヴェルト君は二人にするとカオス極まりないから僕がどっちかに入ってチームのバランスを保たないt」
「それでは私が勇者様の補佐をしますわ!マルクさんはレイブンさんの補佐をお願いします」
「え、あ、はい。わかりました。」
「さぁ、勇者様、私たちはあちらに参りましょう!!」
リピアは俺の腕を引っ張って右の道に行かせてくる。なぜそんなにやる気なんですか?やっぱり王様の血を受け継いでるだけあって行動力はずば抜けてるな。
俺はなされるがままに右の道に行く。
少し進むと、ところどころに部屋がついたような道に出た。
俺はずっとこの体制もきついのでリピアに腕を離してもらう。
「それにしても悪霊と言い、人型モンスターと言い、ここには居ないのでしょうか?」
リピアが呟く。確かにどの部屋にもモンスターの姿はない。ここはいわゆる休憩ゾーンなのではないだろうか。今まで頑張ってきた俺に対して勇愛神様がくださった恩恵なのかもしれない。
俺がふと気を抜くと、隣にいたリピアが話しかけてきた。
「なぜ、ヴェルト様は勇者様になったのですか?」
いつもの笑顔ではなく、少し真剣な様子に俺はどう答えるべきか迷ってしまう。でもまぁ、俺はそんな特別な運命的宿命とかないし、確かに恥ずかしいが人に話したって構わないかな。
俺は少し溜めてからゆっくりと言葉をひねり出した。
「別にこれといって特別な理由はないかな。·····ガラシア剣大会で優勝して、それで『勇者への推薦状』貰って、試験受けたら勇者になったって感じだよ。そんな神の神託とか世界が俺に恩恵を与えたとか、運命的何かがある訳じゃない。気づいたら勇者になってた」
俺にとってはベストアンサーだと思う。『勇者』っていう立ち位置がどれ程すごいのかはこの時まで全然知らなかったし、キルエルのクソ野郎がどれ程この称号が欲しかったのかよくわかる気がする。
俺がすべてを言い終わるとリピアは恍惚とした表情で俺を見ていた。
「つまりは生まれながらにして勇者様の格にあったということですね!!さすがは私の勇者様、生まれながらにしてすべてをを持っているなんて私は感激です!!!」
そう褒められるとちょっと照れる。
「そんなことないんだけどなぁ・・・・」
「ご謙遜を~~、勇者様は強い方ですよ。剣大会私も見ていましたけど、勇者様はやはり勇者様でした!!」
「ぐふぅっ!!」
か、可愛い!!拳握る姿可愛い!!クッ!生きててよかった!!!
そんな談笑をしながら奥に進むと、途中の曲道に何かの気配を感じた。
リピアも杖を構える。
そこにいたのは青い目をした人型モンスターだった。
物理攻撃が通じにくい、俺の嫌いな奴だった。白い靄が掛かっていて、体格的には今さっきの灰色異端者モンスターと比べれば全然普通の体形だった。だが体色は灰色だし同じモンスターだろう。
「アレは――――」
隣に近寄ってきたリピアが呟く。
するとどこからともなく魔法鞄からポーションを取り出した。
「どうした?どこか怪我でもあるのか?」
俺が問いかけるとリピアは首を振り、人型モンスターに指を向ける。
「勇者様、ゾンビにはポーションが効くのです。ゾンビは人の姿を模しており、その特性も似ています。ゆえに一度死んだ人の体を回復させると、ゾンビには逆効果になり浄化されるのです!!」
「マジか!」
「はい!マジです!」
へぇ、あのモンスター、ゾンビっていうのか!それにしてもリピアはそんなことよく知ってるな!知的なリピア、可愛い!!
「え~~い!!」
リピアはそう言い、ポーションを振りかぶって思い切り投げる。仕草が可愛い。アリアとはまた違った別種の可愛さが俺の脳みそ全域を支配してくる。じゅるり・・・・。
投擲されたポーションの瓶はそのゾンビの頭にクリティカルヒット!瓶が割れ、中の液体がゾンビに降り注いだ。
「よっしゃ!!倒せた!!」
「やりましたわ!!」
ポーションが滴り落ちるゾンビ、数秒動かなかったゾンビの顔がグリンッ!!とこちらを向いた。
・・・え?あれ?効いてない・・・?
喜びが止まる俺とリピア、不気味な顔でこちらを向くゾンビ、少しの沈黙が流れて―――。
「フゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッッ!!!!」
ゾンビがノーモーションで飛び掛かってくる。変色した掌を叩きつけるのを、俺は剣で防ぐ。
鉄の塊がゴムに高速でぶつかったような音が響き、俺は後ろに吹っ飛ばされる。思いっきり壁に激突した。
「何ぃっ!?」
何だコイツ!クソ強いぞ!?
「援護します、勇者様!!ラ―ア!!」
リピアが雷属性の魔法を唱える。一矢の閃光がゾンビを穿つも、ゾンビは平気なようだ。
それどころか対象が俺からリピアに変更されたようで、ゾンビが唸る。するとゾンビの周囲から魔力の粒子が集まってきて―――。
「Liaaelieaaw――――riruuua!!!」
何かを叫んだかと思うと、魔力の粒子が光の玉をを作り、放たれる。
俺は思い切り走ってリピアの体を押しのける。
瞬間、光線が何本も過ぎ去り、周囲の壁を粉砕する。
「リピア、こっちだ!!」
俺は、壁の破壊によって起こされた粉塵に紛れてリピアを連れて、小部屋に逃げ込んだ。
「すいません、勇者様の手を煩わせてしまって・・・・・ッ!!」
リピアがすぐさま謝る。仕方がない、俺もぶっ飛ばされたし人の事言えない・・・。
だがしかし、気になることがあった。
「なんでポーション投げたのに、襲ってくるんだ?倒せるんじゃないのか?」
俺がリピアにそう尋ねると、リピアはハッと口に手を当てて突然泣き始めた。
「どうしたんだ!?まさか、今さっきの攻撃を食らったのか?」
「ごめんなさい!ごめんなさい!勇者様があれほど注意してくれたのに、私は・・・ッ」
俺はリピアを慰めようとすると、次の言葉をリピアが言った。
「勇者様がゾンビに苦戦していた時に、キルエルさんが近づいてきてッ、『ゾンビはポーションに弱いよ。かけたら浄化されるんだ。勇者に教えてあげなよ』って私に言って、・・・!!」
「!!!!」
「それで、信じてしまって・・・・・ッ、本当にごめんなさい・・・っ!!!」
俺はその言葉を受けて腸が煮えくり返りそうになった。あのクソキルエル、またリピアにちょっかいかけやがって・・・ッ!!あの野郎、絶対許さん!!!
俺が怒りで拳を握ると、またもや爆音が聞こえる。近くに来たのか!?
ドクドクと流れる心臓を抑えて、小部屋の隙間からそっと様子をうかがう。
そこにいたのは俺が最も驚くような人物で―――。
「ん―、勇者生きてるかな~~」
キルエル=ヴェルモンド。
奴がいた。
S S S S
僕は体の制御をキルエル本人に任せて、僕はあのゾンビの正体を思い出す。
キルエルは『受け流し』と『カウンター』を巧みに使い、ゾンビの攻撃を躱しては反撃するのを繰り返している。
「ちょっと、飛ばします」
キルエルがそういうと『カウンター』と『渾身の一撃』を組み合わせた合わせ技を放つ。
受け身を取らなかったゾンビが大きく飛ばされる。おぉ~~、は~なや~~!
「遊ばないでください!なんなんですかアレ!?」
『いや、分からん。戦闘できるアンデッドは、この大きさだとグールだと思うんだけども、目ぇ赤くないし・・・。似たようなのいたかな?って思い出してるところ』
正直言って全然分からんってところだ。なんかもう少し情報があれば・・・。
僕が考えていると、ゾンビは姿勢を低くしたかと思うとまるで流れるような速度でキルエルに詰め寄る。残像か、白い靄がゾンビから出ていることに気が付いた。
「もう少し、攻撃にバリエーションを持たせてくれないかな」
『受け流し』に『渾身の一撃』の合わせ技でまたもやゾンビをぶっ飛ばす。その際にも白い靄がゾンビの体を覆っていることに気が付いた。
んん?アレ?・・・・もしかして、ソレなのか?いや、でも・・・・。
僕は攻略本の情報をもとにあのゾンビの正体を、いやそもそもアレは―――、
『ゾンビじゃない』
「!?」
推測が確信に変わった。キルエルが驚く。
「つまり、あれは何なんだ?ゾンビでないのなら、一体―――」
『吸魂生物だ。まさか、こんなところにも出るとは驚きだ。人型だから余計分からなかったが、確実にそうだ!と言える』
『吸魂生物』、悪霊やアンデッドといった、生物の感情に魔力が憑りついて実体化するモンスターを好んで食べる捕食者だ。その正体は増えすぎた悪霊、アンデッドを始末する世界の修復機能と言われているが、実際は闇の精霊の具現化された姿だ。発生条件は、異常な数の悪霊、アンデッドの潜むところであり、精霊の類は何の精霊であっても悪霊やアンデッドに恐れられる者。それゆえに、自身も悪霊やアンデッドの姿に化けて、周囲の悪霊などを食い散らかす。そのせいでギルドからは珍獣扱いだ。
でも、それでも精霊だ。こちらが何か仕掛けない限り襲ってこない。なぜ急に僕らを襲うんだ?それがわからない・・・。
すると、キルエルがアッと手を打つ。
「多分だけど、ゾンビと間違えて勇者君がポーションを投げて、それがぶつかったかで精霊は攻撃行為とみなした、それで」
その言葉を受けて納得がいく。あぁ、勇者アホだしな。あり得ない話ではない。ゾンビって物理攻撃に耐性あるからポーション投げたんだろうな。
『それで、僕はただ追ってきただけなのに仲間だと思われた・・・か』
フッ、はっはっはっはっはっは!!・・・・クソッタレがぁぁあァァァァァァ!!!
僕は心の中で叫ぶ。ふざけるな!なんで毎度毎度、僕が勇者の狩り残しを掃除しなきゃならないんだ!!ゾンビと言いゴブリンと言い、吸魂生物と言い!!
あぁっ!!もううんざりだ!!キルエル、穏便に解決する方法があるが、ごり押しして無理やり勝つぞ!
「えぇっ!!?・・・ちなみに穏便に解決する方法は?」
『武器捨てて謝る。攻略本にはそれが戦闘をせずに済む方法だとか。でもそれはなんか嫌だ!勇者の尻ぬぐいで来た精霊に頭下げるとか嫌だ!自分が運命に負けたって言ってるようなもんじゃん!!』
僕は無理やりキルエルから身体の制御を奪い取り、早く済ますためにも『次元収納鞄』から『禍根之終焉剣・マガツ』を取り出す。
『それってまだ使えないんじゃないんですか?』
キルエルが問いかけてくるが、違う。実際のところ、真価を発揮することはできないが通常装備として扱うことはできる。
『禍根之終焉剣・マガツ』:《解放条件》『天獄之創世剣・ハザクラ』を装備していること。レベル50以上であること。全身装備していること。
《通常効果》
スキル:『2体攻撃』『一撃必殺50%』『刀狩り』『闇攻撃』『+祟り』
加護:なし
攻撃力+2500 素早さ+1500 耐久度4500
《解放効果》
スキル:『闇属性4倍』『魔法破壊』『共有』
加護:『終焉の末裔』
攻撃力+6000 素早さ+3000 耐久度14000
見ていて頭のおかしい性能だが、強さは現時点では最強。攻撃力+2500はバケモノそのもである。
僕は突進してくる吸魂生物を剣先で軽く弾く。軽く弾いただけで吸魂生物が大きく飛ばされ、壁に激突する。感覚で計算すると多分あの吸魂生物、防御力400以上あるな。1200近くのダメージ受けて立ってられるってことは相当な数の悪霊とか食ったな。
ちなみにこのスキル『刀狩り』は攻撃するたびにダメージ量が上がるものである。敵のステータス設定ってボスランクになると何倍かされるはずだが、序盤の敵でHP1000超える敵は珍しい。おそらくは次の一撃で沈むだろう。
僕は『受け流し』と『渾身の一撃』の体制を取る。次にぶつかってきた時が最後だ!!
だが、吸魂生物は僕に飛び掛かろうとした瞬間に、地面に崩れ落ち、姿が光の粒子となって消える。
「は?」
『え?』
僕もキルエルも呆気にとられてしまった。何故?答えはすぐ出た。
「『+祟り』か・・・・」
スキル『+祟り』。『+呪い』の上位互換の状態異常付与の攻撃スキルである。行動するたびに一定量のHPを削るもので、吸魂生物はこの効果でとどめを刺されたのだろう。
僕は何というか、とても複雑な気持ちになった。倒せたことを喜ぶべきか、それとも―――、
この行き場のない格好つけとトドメになるはずの剣をどうしようか・・・・。




