破壊しました。《後編》
「おい、そこの蛮族!卑怯者の負け犬を見なかったか?」
「誰が蛮族だぁオイ!!」
目の前に迫るハイゴブリンの頭をかち割って後ろにいる(自称)大英雄に怒声を向ける。
(自称)大英雄は我が家の自室と言わんばかりにふんぞり返っている。
「ふん、素振りも真面に出来ないのか蛮族。今さっきから貴様の戦闘を見ていたが腕だの足だの頭だの、斬るところがバラバラ過ぎる。弓を構えているハイゴブリンの群れに突進する後ろ姿は正に脳筋ゴリラのソレだ」
「何だと!!・・・っていうお前は何平然と人の戦いを見てるんだよ!!参戦しろよ!!」
俺の激昂に(自称)大英雄はやれやれと首を振る。
「何故、こんなに高貴で尊き血統を授かり、勇者に認められし伝説の大英雄が蛮族の戦闘に付き合わねばならないんだ。ボクは選ばれし存在だ。ボクの真価が発揮されるのはそれこそボク以外の仲間が倒れた時だ。・・・・・まだ、その時ではない」
「なに言ってるんだお前は」
よく見ればコイツ、武器すら腰に下げたままじゃぁねぇか!!戦う気ないだろ!!
それでなぜそこまでコイツは堂々としているのだろうか。
「で、だ。まだボクの話の回答がまだだ。あの卑怯者の負け犬は何処にいる?」
卑怯者で負け犬と言えばあのクソ野郎しか思いつかない。キルエルの事だろう。
だが俺はキルエルがどうとか全然知らないし知りたくもない。反吐が出る。
「ハイゴブリンから逃げてた」
これが一番の正解だと思う。おそらくあの真剣では勝ち目がないことを知ったのだろう。あれほど注意したのに・・・。
「全く、流石は負け犬。逃げることと詐欺まがいの事は平然とやってのけるな・・・」
「そうだな」
珍しく(自称)大英雄が俺の発言に同意した。このノミみたいな奴でもキルエルは嫌悪の対象なんだな・・・。
俺はなんとなくだがこのノミみたいな(自称)大英雄に同士の心を感じた。
そんな時だった。
「あぁっ!!見つけた!」
マルクが焦った顔でこちらに近寄ってくる。一瞬マルクが豚に見えてしまった。ごめん。
それよりも俺はその切羽詰まったような表情をするマルクに尋ねる。
「どうした?」
マルクは茂みの向こうを指さした。
「マカロニさんが向こうの方に洞窟があるんだって!これから洞窟の探検をするから集合するように言ってるんだ!!」
S S S S
呼び出されたのは俺らともう一組のチームだった。どの人も俺らを見てクスクスと笑っている。
マカロニは俺らのパーティを見た。「んー」とか呟きながら、「あっ!」と手をうった。
「君、もう一人黒髪の男の子が居なかったか?」
ちぃっ!何で寄りにもよって俺に尋ねるんだよ!知らねぇよキルエルの事なんて。
「勝手に一人で行動した後、ハイゴブリン見て逃げました」
実際そうだろ?と、後ろの二人に尋ねると二人とも頷いた。
俺らの反応に満足してくれなかったようでマカロニさんは「うーん」とか言いながら、頭を掻く。
「それは確かにその子が悪かったかもしれないが、探さなかったのかね?」
「足が速くて、追い付けませんでした」
本当だ。キルエルは何故か俺より足が速い。同い年なはずなのに、だ。村で一番足の速いはずの俺が追い付けなかったのだ。やっぱ逃げるのには本気かよ、卑怯者。
マカロニさんは一端息を吐くと俺らに背を向けた。
「ちょっと探してみるかなぁ。はぁ、・・・・」
それから振り向いて洞窟の方を指さす。
「本当は俺も同行するべきなんだが、今回はお前らだけで行ってこい。一応巣だろうから無茶はしないように。危ないと思ったら出てきていいから」
するとマカロニさんは茂みの中に消えていった。置いて行かれる俺ら・・・。クソ、キルエルが居ないせいでマカロニさんついてこないじゃぁないか!!
俺が地面を踏んでいるともう一つの全く知らないパーティがあからさまに俺のパーティを見てあざ笑った。
「何がおかしい!!」
「あはは!狂乱暴徒で仲間割れとか意識低すぎワロタ」
「卑怯者パーティに入れてる時点でおかしいのになぁwww」
「見ろよ、豚が一匹入っているじゃん!養豚場にお帰り」
「ブヒブヒ、イジメないでブヒィッ!!」
悪意は伝染する。一人がイジメ始めたら瞬く間に周囲に広がっていく。そしていつの間にか『そういう』雰囲気にしてしまう。これだからイジメは嫌いなんだ!
俺がそのヘラヘラする男子共の顔面を殴ろうと動き―――、その腕を止められた。振り返ると、腕を握っていたのはマルクだった。
「お前、良いのか!?あんな奴らに馬鹿にされて、イラつかないのか!?」
俺は怒っていた。だが、彼は終始冷静だった。
「イラつくさ」
「ならっ!!」
「でもいいさ。周りに怒っている人が居ると僕は凄く心配してしまうんだ。僕が謝って済むのならそれが最善だ。・・・・一時の感情で拳を血で塗りたくはない」
「っ・・・・」
マルクはおそらく、いや絶対俺より心の器が大きい。それほどの優しさがそこにはあった。
「おいおいダンマリかよ面白くねぇ!」
「俺らで先にこの洞窟探検しようぜ!!」
「そうだな!豚なんて餌にしかならねぇだろうしwww」
「ゴブリンも喰わねぇだろ。こんな油の塊www」
「ちょ、それは大草原www」
「言ってやんなや、マジなんだからよ」
そういいながら四人のパーティは我先にと薄暗い洞窟に入っていった。
その姿が見えなくなると同時に自称勇者が感嘆した。
「ふん、『やられたら皮剥いで売ってやる!』みたいな脳筋ゴリラの蛮族がよく耐えたものだ。正直、何人かの内臓は覚悟していたがな。そんな祭りも起こらずこのボクはびっくりしたよ」
コイツにしては珍しく俺に賞賛を与えてきた。しかし、俺は驚いてしまった。
「お前の方が怒るのかと思っていたが、何も言わなかったな。何故だ?」
すると自称勇者は鼻高々に言ってのけた。
「ボクに対する悪口ではなかったからな!!他人の悪口で怒るほど偽善者じゃぁないさ!!」
解答がゲスかった。
S S S S
「ハッハー!出でよ大英雄のレイピア!巻き起こせ迅雷!ハリケーンブラストォ!!」
その後俺らも洞窟に入ったわけだが、あんなに「まだその時ではない」とか言っていた自称勇者が戦っている。それも一人で。
「さぁ!ボクの伝説の一突きに魅せられろ!!天穿つ光速さみだれ突き、ジェットバースト!!」
一突きと言いながら何回も突いているその姿は正にシュールだった。奴に恥はないのか、・・・無いよな。知ってた。
どうやらこの巣はほぼ一方通行でこのまま奥に行くと行き止まりになるのでは?と、思っていた。
「ウガァ!」
!?
驚いた。急に背後から声がしたかと思ったらハイゴブリンが棍棒で襲い掛かってきた。なのでぶっ飛ばす。
「ぶるぅっっぅぁぁああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
思いっきり剣を振り回してゴブリンを両断する。
たたっ切ったゴブリンを見てから前に向き直ると自称勇者がゴミを見る眼で俺を見ていた。
「この脳筋ゴリラが、・・・・洞窟内だから声が響くんだ阿呆、力で解決するなバカ」
「・・・・・・・・」
マルクも無言で俺を見ている。
「ご、ごめん・・・・・・」
俺が頭を下げて謝ると今度は向こうから何かかが奇声を上げながら凄い勢いでこちらに向かってきた。
「ふん、敵か。この大英雄にして天下無双の勇者レイブンが一撃で貴様らを討ち滅ぼす!喰らえ、断罪の天裁にして世界の混沌を祓う一突き。マグナム・フォーs」
「いやああああああああ!!」
「おうち帰るううううううううう!!!」
「マァンンマァアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「ぎぃやぁああああああああああああ!!」
今更だけど自称勇者ってレイブンって名前だったな。完全に忘れてた。
で、まぁそのレイブンが必殺技?を放とうとしたら凄い速度で今さっき洞窟に入っていったパーティが逃走していった。
残されたのは静寂とレイブンの出されかけていた必殺技(笑)。
・・・・・哀れだ。
数秒硬直していたレイブンは「フッ」と息を吐くと持っていたレイピアを下げる。
「・・・まだだ。この力はここでは出してはいけないという事か・・・。完全に予想外だ。だが、ここで奴らが尻尾を撒いて逃げるのはもうすでに想定済みだ!!」
なんなんだろう。もう突っ込まない方が良いのかもしれない・・・・。
俺が謎なことで悟りを開いているとマルクが前に出た。
「彼らが逃げた、と言うことはこの先には『何か』があるんですよ。きっと」
その言葉に俺がごくりと唾を飲む。
「彼らは性格はクソでしたが、装備で見るとそれなりに戦えるでしょう。今さっきのゴブリンの死骸からして、ハイゴブリン相手だと余裕ですね。つまり、それ以上の敵があの奥にいるということです。ここは一端離脱してマカロニさんに報告しましょうか・・・」
確かに、そこまで強い相手ならなおさら逃げるのが得策だが、そんなことではキルエルに馬鹿にされる。その屈辱心で俺の戦闘精神に火が付いた。
「行こう」
僕がそう言うと、レイブンが「うむ」と頷く。さらにはマルクも「仕方ないか」とか言いながら賛同してくれた。
S S S S
俺たちが奥の部屋で見たのは大量のハイゴブリンの死骸とそこらでうごめくハイゴブリンの姿だった。
「コレがアイツらの逃げた理由か?」
ただ単に数が多いだけではないか。俺は試しに思いっきり『溜め』て一撃を放つ。
すると簡単に、というかいつも通りハイゴブリンは上半身を飛ばし、その場に崩れ落ちた。
「感触も全然変わらないし、バケモノがいるって訳でもなさそうだ・・・」
「つまり?」
「やってしまえ!と言う事だろう!!よかろう、まずはエバーズ家に伝わるエバーズ流レイピア術の一端を貴様ら欲物に見せてy」
「かかれぇ―――!!」
俺たちは武器を持ってハイゴブリンの群れに飛び込んだ。
それがほんの20分前の話。
今は違った。
「クソ!コイツらいくら倒してもキリがない!!」
「っていうか増えていってる感じがするんだけど!!」
「フン、どうやらボクの本気の技を・・・・」
倒しても倒しても湧いてくる。まるで夏に出てくるゴキブリの如く。冗談はさておき。
マジでヤバい。ハイゴブリンより先に俺らが全滅してしまう!!
レイブンも本気の技を出す前におしきられそうでヤバい。マルクも斧で攻撃しているが数は減っていない。俺もそろそろ意識が限界だ。それにこの洞窟の中、とてもかび臭い。おぇっ!
「ウガァァ!!」
気を抜いた瞬間、一匹のハイゴブリンが鉈を片手に迫ってくる。
・・・もうだめだ!!
と、思った時だった。
とてつもない振動が体中に走った。どうやら洞窟全体が揺れているようだ。なんだ!?地震か!!
俺はその場にしりもちをついてしまった。
「いてッ・・・・!!!!」
ふとゴブリンを見るとゴブリンの体が光り始め、次々とその体を消失させていった。
「は?」
俺はただその光景を見る事しかできなかった。いままで戦ってきたゴブリンが嘘のように光と共に消し飛ぶ。俺は何かに気づきレイブンの方を見る。
だがレイブンも何が起こっているのか分からずにその光景をボーっと見ている。
「な、なにが起こって・・・・・・」
マルクは今見ている光景が信じられないようだ。俺にもよくわからない。
そのまま、最後のゴブリンが光の粒子となって洞窟内で弾けた。




