戦いに行きます。
―――面倒くさい事。すなわち”アレ”。
ソレは何も『狂乱暴徒』で出てくるモンスターだけではない。
ドラゴン。
単衣にドラゴンと言っても種類は沢山ある。飛竜、赤竜、青竜、緑竜、白竜、黒竜、魔竜、古龍。
勿論『狂乱暴徒』でもドラゴンの姿を拝むことはできるがしかし、決して4章5章で軽いノリで登場していいモンスターではない。
悪魔、天使、竜etc・・・は敵として登場するなら最低レベルは400(ストーリー進行に必須で出てくる奴はその限りではない)ある。しかもベースは人間のステータスではなく”竜”としてのステータスだ。同じレベル400でも人間のステータスをはるかに凌駕したステータスを持っており、行動パターンには隙が無い。近接遠距離全体攻撃空中戦全部できるのがドラゴンの恐ろしい点だ。
ソレを現時点で壁を守る残存戦力が倒せるかって言うと、無理である。
ストーリー上、勇者はドラゴンさんと戦わないので主人公補正付きの「ちょっと頑張れば倒せる」戦闘は無い。他の勇者パの面々もそんなことはしなかった。ただただずっと勇者に引っ付いていただけである。
じゃぁ誰が倒せるか?
どこぞの裏切り者カスタマーがドラゴン倒せる奴を引き連れてダンジョン潰しに行ったから、残存戦力で勝てる相手と言えばジォス、アンプログリッツだ。僕は正直かなり怪しい。敵キャラの行動すべてを記憶して体現できても、倒すのと回避するのは大きく違うからだ。ガラシアのアンセムみたく、レベル差があればあるほど強くなる『下剋上』を持っているわけでもない。
しかも面倒なことに出てくるのはドラゴンの中でも、古龍種である。だいぶ前に説明したが古龍種は基本属性すべてに強く出ることが出来る”王”属性を持ち、奴の発する魔法全てが上級全体攻撃魔法で、何の特化性もない僕では勝てる要素はない。負ける要素もないが・・・。
そんな相手をジォスらに任せたのはある意味正解だったかもしれない。
ストーリーでは古龍は山から下りてくる最中に誰かによって倒された。最初は勝手に飛び出していったキルエルだと思っていたが、ソレだとアレに理由が付けられなくなってしまう。
少なくとも馬鹿強い奴を相手取るより、ザコ数百体を切り伏せた方がずっとマシだ。ソレもソレで無茶クソ疲れるが・・・。
S S S S
はてさて、困ったことにゲーム君と意識が繋がらない状態になってしまった。
原因はおそらくゲーム君がキレたことだと思われる。がしかし、その解除方法がまったくもって分からない。
周囲は暗い。自分と言う存在があるのは分かるのだが、如何せん時間の経過等の外部情報が一切入ってこない。まるで夢の中で起きている自分を夢見ているような状態だ。
ゲーム君・・・・。
ホントによく分からない人物だ。
気が短いのかそうでないのかよく分からないし、何より此処とは違う世界から僕の身体に憑依したと言うのがもっとよく分からない。
彼自身は僕の事を好いているけど、なんで憑依先が僕なのか・・・。
そもそも1部分しか知らないけれど、僕以上に凄い人生を歩んでると思うのに、どうも大人を相手にしている感覚にならないし・・・・。でも”ゲーム”を年単位でやっているならもうとっくに22歳を超えていると思うんだけど・・・・。
日本人に関しては余り追及しないとしても、なぁ・・・・。
彼は僕の事を隅から隅まで知ってるようで、意外と何も知らないのに僕と来たら・・・。
笑って流せるならまだしも、心身を預ける一人の相棒が相手だからなぁ・・・。
正直外の感覚は皆無に等しい。目の前が真っ暗で、出来ることは集中して何かを考えることだ。
なら考えるとするかな・・・・。ゲーム君との付き合い方とか、話し方とか、彼自身身内ネタは余り自身から喋ってくれなさそうだし、ゲーム君の話し方を真似て上手く彼の人生の一端を知れないか。
僕はそう考えながら深い意識の中で考え事を始めた。
S S S S
第4の壁外側出入口の右。
色々悪だくみをした後、各々でばらけてそれぞれの持ち場に着いた。ノゥア、アンプログリッツはそれぞれの防衛ラインに。ジォスにはカスタマーを追いかけて貰った。ジォスによる原理不明のテレパシーでカスタマーの行動を常時報告。アンプログリッツは古龍が出たタイミングでジォスが迎えに行き、共に古龍を討ちに行く。
そしてその間の僕だが、ノゥアと共にもう1つのアレを何とかする。
正直アンプログリッツも連れて行きたかったが人前で大魔導を出されると下手すりゃモンスターの被害よりデカい被害が出るという、この世の終わりみたいな結果が予想されたのであえなく却下。
そもそも論、あの中二病が大魔導を人前で使うかと言う話だが、あやつの魔法は普通に詠唱が長いためやはり却下した。
そして現在の状況に移る。
僕が到着した時にはもう既に激戦が行われていた。
迫りくる有象無象のモンスターに眼も当てられない程の爆音と光が降り注いでいた。正に蹂躙劇。破壊力を持ち合わせた属性の数々が休む間もなくモンスターの群れに投下されていく。
「全員、前に出過ぎるなぁ――ッ!!城壁の魔法師団の魔法の巻き添えになるぞ!!我らは魔法師団の撃ち漏らしを片付けるのだ!!」
騎士団の男がそう言うが、わざわざ出るまでもない。あの蹂躙劇から出てきたモンスターもほぼ瀕死の状態だ。勇者はと言うと、瀕死のモンスター相手に四苦八苦の戦闘を強いられていた。
「・・・・・ウッソだろオイ」
ドラビンスウォーカーは確かに強敵だ。4本の腕と打製石器らしきモノを持ち、背中は固い鱗で覆われた獅子の顔を持つ人型モンスターで、近接攻撃、突進攻撃、打撃攻撃が強い。何も知らない頃の僕も初戦では苦労した印象がある。だがしかし、相手は瀕死なのだ。
流石にHP1割を切っているモンスター相手に悪戦苦闘を強いられるとか勇者弱すぎでは?
3,4発当てりゃ倒せるってのに・・・・。
せいぜい残りHPなんて500ちょっとだろう、現実世界なんだから瀕死のモンスターは行動が鈍る。というか単調的になるから攻撃が当てやすい。
「勇者パの動きがなぁ・・・、ホントに冒険者の動きかよ。剣を振りかぶるな馬鹿。避けてくださいって言ってるようなモンだぞ?」
剣を大げさに振りかぶり、エネルギーの大半を叫びで消費しているだろう一撃をサラッと避けられてブチギレる勇者。「当たらないなんてオカシイ!」と叫ぶ辺り」、多分ガチアホなのだろう。
僕なら魔法で一撃だろうが、モンスターよりも扱いの難しい奴がモンスターにたむろしているから近づこうにも近づけない。わざわざ地雷原に足を踏み入れるキチガイなんてジォスだけで十分だ。僕まで染まる必要はない。キャラが渋滞を起こしてしまう。
なので僕はその場を離れない。
「やることないから別にいいんだけどn」
「(あーテステス。聞こえてるかー?俺俺、ジォス=アルゼファイドだよん。この実況は3人の意識を繋いでるんじゃなくて、ただ単純に声を3分割してリアルタイムで3人の脳に直接電気信号として送ってるぜ)」
僕が防衛テント内から勇者の行動を眺めていると、頭の中に声が響いた。
一瞬キルエルが復活したのかと思ったが、声音と軽いノリからして人違い、いや生物違いと言っても申し分ないジォスの声だと確信した。
「(今現在カスタマーが赤き闘神の聖堂に入って行ったところだ)」
「(大丈夫か?見つかっていないよな?)」
「(大丈夫だ。現在カスタマーの後ろを付いて来ている他の冒険者の見ている視界を盗み見してるし、身体は1次元化してるから物理的に見えねーよ)」
「(僕の欲しい”大丈夫”じゃないな)」
果たしてソレは大丈夫なのか?見つかる見つからない以前にそもそもちゃんと3次元に戻れるのかお前。
「(あー、一応空気中の微細な皮膚片を元に積分するから大丈夫だ)」
「(積分したら積分定数発生するぞ)」
「(何言ってんだキルエル。ただの人間が積分する時積分定数が発生するわけねーよ。数学は人類が生んだんだぜ?)」
「(お気持ち感覚で世界を微分して座標移動するような奴が言うと説得力違うな)」
「(あー、期待しててくれ。とりまカスタマーがダンジョン出るときにまた連絡するわ)」
そう言ってパッタリと通信が途切れた。相変わらず前後の脈絡全く関係ない会話だった・・・。
S S S S
2時間が経過した辺りで、僕は目を覚ました。どうやら寝ていたらしい。地面で寝るとは僕も結構ヤバいな。背中と腰が痛い・・・・。
そして何故起きたのかというと―――、
理由は簡単だ。周囲の声が今さっきよりもずっと猛々しくなったからだ。
「おいッ!誰かあのモンスターを知っている奴は居るかッ!?」
「なんだありゃ!?ドラゴン・・・?にしてはデカすぎる・・・・」
「おいおい、ただでさえモンスターの群れで忙しいってのにドラゴンかよッ!!壁の人員からドラゴン討伐経験のある奴連れてこい!!」
「あんな大きさのドラゴンなんて見た事ねぇのに・・・・」
テントの外では騎士や冒険者がこれでもかと慌てふためいていた。
そして直後にジォスからの脳内テレパシーだ。
「(やっほーキルエル。2時間くらい寝てただろー。寝息聞こえてたぞー。後今絶賛ヤベーことになってる。何があったか聴きてーk)」
「(古龍だな?)」
ジォスが溜めた言い方をするので僕はジォスに強い口調で聞く。
「(ん。古龍だ。しかも雌だ。・・・・最悪過ぎる・・・・)」
「(性別はどうでもいいとして・・・・、アンプログリッツと向かってくれ)」
「(了解。片方をカスタマーに当てて、もう片方でアンプログリッツを迎えに行く。とりま実況は続けるからキルエルはどーんと構えておいてくれ)」
「(あぁ分かった)」
「(それじゃーひと狩りしに行ってくるぜ)」
そのままジォスとの交信が途絶えた。多分今頃アンプログリッツを迎えに行ってるのだろう。
・・・・さて、古龍が出たってことは”そろそろ”か。
僕は刻一刻と近づいてくる”アレ”に備えて軽く準備運動をする。
肩を鳴らし、腰を動かしていると再びジォスから脳内通信が入った。
「(キルエル、カスタマーが動いた。アイテム使った移動だ。他の冒険者が戦闘している頃に見合わせてダンジョンから出やがった)」
「(分かった。ノゥアにも通信を出しておいてくれ。僕は行く)」
「(おkおk。場所は商店街だぞ。健闘を祈る!)」
「(あぁッ!!)」
僕はジォスの声援を後ろに走り出した。




