暴走しかけました。
「あなたは・・・・」
「痛いところは無いかな?」
「あ、はい。少し肩が痛いんですが・・・」
「そう、分かった。・・・リープ」
僕は緑髪の子の肩に回復魔法であるリープを施して、目を真横にスライドさせる。
ソコには、何故か服を軽くはだけさせたナイアシン=ブランドが身体を震わせながら泣きそうな顔でコッチを見ていた。
「キミh」
「た、助けてください!!」
「・・・・・?」
何だ?助けてください?・・・・ん?何を言っているんだ?
一瞬、ナイアシンの台詞が理解できなくて呆けていたが、いやソレは違うだろ!どの口が言ってるんだッ!?少なくとも一部始終を見ていたからこそ分かるモノの、その被害者意識は何処から沸いて出てきたぁッ!?
―――だがまぁ、僕はあくまでも”偶然通りかかった”ヒトだからこそ、内面の感情は無視してソレこそ紳士の如き立ち振る舞いをする必要がある。
「どうしたんだい君は・・・・」
僕が無の感情で、大日如来のような眼をしながら話しかけると、ナイアシンは目端に涙を浮かべて僕に抱き着こうとする。だがしかし、そんなヤベー奴の目の前に別方面のヤベー奴が立ちはだかった。
アンプログリッツである。
「我は如何なる理由があろうと、長に見ず知らずの女性を近づける訳にはいかんのでな。――何用だ?」
どっちも精神面がイカレている訳だが、お生憎、アンプログリッツの方がキチガイ度合いで言えば圧倒的に上だ。なんなら環境支配度で言えば一騎当千扱いで、「あまり枠あるならコイツ入れとけ」で入れられるのでやはりコイツが上だろう。
そんなアンプログリッツの眼は完全に据わっていた。
そんな眼など見ていないかのように、ナイアシンは超ぶりっ子で受け答えをする。
「あの子たちがいじめてきて、服とか脱がされそうになったんですぅ~~!!『イタイ目に合わせてやる!』とか少し言い返したら『言い過ぎ』だってぇ~~!!ソレで服脱がされそうになったからつい肩押しちゃって、うぅひぐっ」
被害者妄想が狂気を帯びると、自分は悪くないと思うのだろうか恐ろしい・・・。本気で涙を流しながら懸命に訴えるナイアシンを見ていると一周も回らずに噴出してしまいそうだ・・・www
その自然過ぎるほどの涙の流し方に、僕が若干感心していると隣の緑髪の子から声を掛けられた。
「あのっ、貴方ってもしかして勇者パーティの一人のキルエル=ヴェルモンドさんですか?」
「えッ!?そうなのアンタ・・・」
「あぁ確かに言われてみれば・・・・・」
「まぁ、確かにソッチのキルエル=ヴェルモンドで合ってるけれど、僕はそんな大した人じゃないから。せいぜい、君たちが呼びやすいように呼べばいいさ。―――ソレで、聞くけどあのナイアシン=ブレンドが言う事はホントかい?狂人の香りがプンプンするんだけど・・・・・」
現在アンプログリッツが抑えてくれてはいるが、アイツ。僕の事が勇者パの一人だと分かった瞬間に目の色が変わったな。レーザーポイント当てられてる感覚がする・・・。なんか息も荒くなってるし、・・・で、ジォスは何処に行った!?気づいたら居ねぇんだけど・・・・ッ!!クソ。キチガイストッパーのキチガイが居なくなるなんて光速で世紀末の未来が見える!!
心の中でジォスの失踪を呪っていると、緑髪の子達から回答を投げられた。
「うぅん、あの人すっごい嫌な人」
「正直関わらない方が良いよ。っつってもあの義手の人、存在が平気でナイアシンの異常性を上回ってるんだけど・・・・、アンタ何者?ホントに人間?魔人って言われてもドン引かない自信あるわ私」
「ナイアシンさん、とんでもない努力家だけど狂ってるから平気で嘘つくわよ。・・・・そういえば最近ギルドで『ギルド認定取り扱い危険物』の第1位と第2位が誰かの元についてパーティ組んだ話があったけれど、・・・・・まさか」
何か緑髪側の聖職者二人の僕の見る目がどんどん変わって行く気が・・・・。見ちゃいけない奴だな。
まぁソレでもナイアシンはヤバい奴だと言う判定が僕の中で下った。安心してほしい。僕もコイツはとんだ畜生野郎だと言う結論が出ている。
「なるほど。・・・・聞いたところによると、どう見ても圧倒的に貴方の方が不利ですが?」
「んなぁッ!!?」
僕に近づこうとしていたナイアシンが白目を剥いてその動きがピタッと止まる。もう二度と動かないでほしいモノだ。
「やはりは長よ。この女、黒です」
「知ってるよ。十分にゲーム中にクソだと言うことが分かったからね。改めてクソだと言うことがよく分かった。やっぱこの世界フィクションなんかじゃねぇわ」
「げーむ?くそ?ふぃくしょん?・・・何を言ってるのかしらキルエル様・・・・」
うるうると涙を潤ませながら、アンプログリッツの防御を躱して僕に抱き着いてきたナイアシン。「しまった!」とアンプログリッツが焦った顔で此方を見てくるが大丈夫だと手で制す。
「私の事信じてくれないの?キルエル様は可哀そうに一方的によってたかっていじめられている女の子を見て心が痛まない人間じゃないことは分かっているわ!ホントは心の中で私を助けなきゃいけないって思っているのよ!!」
そんな気持ち悪いことを耳元で甘く囁きながら、僕の腕をふわふわする谷に埋め込んでくるナイアシン。対する僕は更に背後に天照大御神と八幡大菩薩を召喚して澄ました表情をする。
正直僕、無生物性愛者だしなんなら高性能ゲーミングPCまで居る。現在は『進化の剣』に愛情を注いでいるから、ちょっと浮気気味ではあるけれどPCと僕の間に生まれた子と言う設定にすれば何も問題は無い訳だ。だから現在絶賛育メンパパなんだよなぁ。だから人間の、ソレも”新鮮な状態”の妻を迎え入れる予定は現在皆無だ。
だからまぁ、ナイアシンには残念だが僕に色仕掛けは絶対に通用しないのだ。ふわふわの谷に腕挟まれてもやっぱり嫌悪感しか湧かない。ジォスはどうかって?・・・ジォスはワンチャンあるかもしれない・・・やっぱないな。
しっかしこういう事、いくらキルエルが消息不明だからって流石に教育に悪いし、起きた時に「なんかふわふわの感覚が腕に!」とか言われたら僕は会う顔がない。
「キルエル様は勿論!幼気な可哀そうな私の味方をしてくれますよね!?」
張り付いてくるこの女だ。どうせ碌な事考えてねぇに決まってる。ソレに、だ。
なンで、無生物性愛者のこの俺が、”人間”の味方をしなけりゃいけねェンだオイ。
ビキッと何かが頭の中で切れる音がし、俺の頭に冷たい風が吹く。
「ねぇねぇ、キルエル様ぁ聞いてまs」
「五月蠅ェな。脳ミソ勇者の狂人がァ・・・・」
「「「「「ッッ!!?」」」」」
「テメェは勇者が好きなンじゃねェだろォが。勇者が好きな自分の事が大好きなだけだろォが。姫もテメェも害悪パも全員そォだ。―――チッ、コレだから英雄創聖教はクソとクズしかいねェのかァオイ」
「・・・・・・・は?」
「そもそも俺には色仕掛けは通用ォしねェ・・・。たァッッぷりと人間の悪意を吸ッてきた俺が、そンな狂人の色仕掛けに騙されるはずァねェだろォが。ソレに、彼女だッているンだからよ」
「けッ」と吐き捨てると、ナイアシンはオロオロとしながら俺から離れた。舌打ちしない分、コイツもコイツで相当頭がキマッテいると思う。アンプログリッツは「ほぅ」と興味深そうな目で俺を見ていた。
ナイアシンはナイアシンで、俺が味方にならなかったことに激しい疑問を感じてその矛先をほとんど無関係の三人に押し付けた。
「そんな、キルエル様!その女達に毒されたんですかッ!!?」
「ちょっと、勝手な事言うのやめてよ!」
「彼女居るって言ってたじゃないですか!!」
「私たち被害者・・・・」
三人がギャーギャーと喚き散らかして数十秒ォ、いィ加減うざッてェなオイ。
そう感じた俺は泣き顔で近づいてくるナイアシンを前にして声を大にして言ッてやッた。
「キルエル様ぁ、目を覚ましてください゛い゛い゛・・・・」
「俺はそもそも無生物性愛者だクソッタレッ!!!男どころか女に興味なンざねェンだよオイ」
「え」
「「「え」」」
「・・・長よ。・・・・・マジか」
その場にいた全員が固まった。文字通り。
「俺が味方をすンのはテメェじゃねェ。高性能ゲーミングPCの嫁と子の『進化の剣』だッ!!ソレ以外は論外なンだよクソがッ!!!!!!!!!!」
「「「「」」」」
「あァッ!?ンだァその顔はよォッ!!!無生物性愛者をよォく分かッてねェよォだなオイッ!!―――どォやら、俺が無生物の愛らしさのなンたるかッてのをイチからジュゥまで教える必要ォがあるみてェだしよォ、その耳引き千切ッて貸せやゴルアアアアアアアアアアアアアアa」
「お、長鎮めろ長ぁ!!コレ以上はダメだ長ぁッ!!尊敬する我の長の印象を軽く踏み越えるのはやめてくれえええええッッ!!!!」
俺が『次元魔力鞄』に手を突ッ込ンだのと同時に何故か後ろからアンプログリッツに羽交い絞めにされた。アンプログリッツ、中二病キチガイの癖してめちゃくちゃ必死だッた。なンならちょッと泣いてやがッた。
「ンだァッ!?離せアンプログリッツゥッ!!!アイツァ、俺の性癖を馬鹿にs」
「してないですから!!落ち着いてください長ぁッ!!!」
身体強化をしても未だにアンプログリッツのロックから抜け出せねェ・・・。
そしてそんなカオス空間に更に投入されたヤベェ奴。
「おーい聞ーてくれよキルエル!勇者パ見つけたぜ!!早速凸しに行こーzってうえええぇぇッ!!!??なんだ!?何が起こってrおッ!!キルエルがキレてるじゃねーか!!こりゃ吉兆。良い事がある前兆かもしれねーな!!――あぁキルエル、キレてるトコ悪ーがアンプログリッツも一緒に勇者のめしに行こーぜッ!!!!!!」
「ちょッ!?イドよ。長がヤバいんだけどぉッ!!!」
バーサーカーモードに突入した俺を抑えながら、アンプログリッツが悲痛な声で叫んだのだッた。
そして・・・・・・。
S S S S
「何よ!勇者様のお付きの人だから味方になってくれると思ったのに、ホント役立たず!!もういい!憂さ晴らしにアソコのダンジョンのモンスター殺滅してやるんだからあッ!!!!」
「うわっ、曲がり角から急に美人が・・・!!」
「あらごめんなさいね坊や、って!?―――ちょっと君!確か勇者パーティの子よね?」
「え?あ、はい。僕はマルk」
「いい?勇者パーティに居るキルエル=ヴェルモンドは信じちゃダメ!!あの人は裏社会の有権者とのつながりを持っていて、勇者様の暗殺を企んでいるのよ!!最近国内でも他国でも問題になってる事件はキルエルが関わってるわ!!いい?絶対にキルエル=ヴェルモンドを信用してはいけないわ!!」
「え!?え?え?えっ、はいッ!!分かりました!!」
「それじゃ、気を付けなさいよ!!」
「あのっ、ちょっと!貴方のお名前を―――行っちゃった・・・・」
S S S S
何かトンデモ理論を叫びながら、一人の女がカオス空間から姿を消した。
コレが後々に災厄を生み出すのを、俺はキレてて頭からすっぽ抜けていた。




