害悪パの筆頭が現れました。
どうにもこうにも、世の中にはよく分からないことが多すぎる。ソレは「現代的科学で解釈可能」と言っておきながら、「偶然にしては出来過ぎている」と言われるような事から、「完全に理解不能」、「どうしてこんなナリで大学院を卒業できるのか」と言われるような頭のヤバいDQNなどの身近な存在まで。
例えを上げるとするならば、今僕の目の前で起こっている現象。
「はぁ、まったく何でこんなことに・・・・」
僕にため息を吐かせる原因は主に2つ。
目の前の二人の人物である。
世紀末変態野生児であるジォス=アルゼファイド。
キチガイ中二病であるアンプログリッツ。
片方はオカマバーを経営する社長的立ち位置かつ、ギルドが危険物認識している頭のイカれた男の子大好き野郎だ。
もう片方は義手の理由がイカれており、何故か「アンビバレント」の意味を分かっていたり、「ゴッドノウズ」だの「NEW WORLD」だの、どう考えても地球人しか知らないような単語を使う中二病男だ。
そんな二人を合わせた僕らは現在、絶賛『英雄創聖教本部』の中をうろついている最中だ。周りの奇異とも恐怖とも取れるような視線が僕らに集中砲火されている。こっち見んな。
「何でこんなことに・・・・・」
もう一度同じ言葉が口の端から漏れた。
僕はアレほど「嫌だ!来るな!」と言ったのにも関わらず、コイツ等は聞く耳持たずで自ら先導して僕を本部に連れて行った。
「僕は拒否したんぞ。僕は・・・・。どうなっても知らないからな・・・・」
憎しみを添えた声音でぶつくさ言う僕を放っておいて、目の前のキチガイはまるで他人の目線なぞ気にしないと言う我が物顔で本部内をうろつきまわっていた。
「お~とこのこ~~♪お~とこのこ~~♪」
「おいソコのお前、此処にクソの吐き溜めの具現化である勇者が来ているという情報を手にしたのだが、肝心の奴は何処にいる?」
ジォスは何か不穏な歌を、いや歌自体は決して大したことは無いのだがジォスが歌うことによって、ジォスを中心に男の聖職者が居なくなっていた。多分男性の本能に直接デバフみたいなモノをかける魔法の言葉なのだろう。
アンプログリッツは近くにいた勇者思想に強く汚染された神父である、グリーン=ファーザーを前にして”勇者をクソ呼ばわり”である。目の前の神父がソッチ方面のガチ勢にも関わらず肝っ玉の据わった奴である。恐らくそんな事知らないであろう、あの顔面は。肝が据わると言うよりは椅子と肝が一体化してるようにも思える。
ここら辺をずっと歩き回っているわけだが、一向に勇者が見つからないとなると早く来すぎたか、もしくは既に”祈祷”を受け終わってるかのどちらかだろう。
「ん~でも、ゲームのストーリー的には”祈祷”は一緒に受けてたんだよなぁ・・・。歴史改変って線もあり得るかもだけど、もう少し探してみるか・・・?」
一応本部の構造は理解してるので、隅から隅まで探せば案外出てくる可能性も無きにしも非ずだ。勇者はゴキブリかネズミ何ですかね?ソレくらい面倒くさいって話です。
「お~いジォス、アンプログリッツ。もうちょっと隅の方探すぞ」
「分かったけどよーキルエル。此処の男共ってどいつもこいつも勇者思想の末期患者が多くって参るんだが?」
「僕としてはジォスを相手にする方が参るよ」
「長よ。この禿男、我が勇者の場所を吐けと言っているのに見当違いにキレて胸倉を摑むモノだから軽く脳震盪起こしたんだが、何処に捨ておけばいい?」
「本部内で面倒ごと起こすなよ・・・。そこら辺にでも置いておけばいいんじゃないかな?捨てるって表現はよろしくないから、”置く”で」
「了」
軽く頷いたアンプログリッツは白目を剥いて泡を吹いているグリーンをゆっくりと床に横たえる。何故か顔面が床とキスするように横たえているのは、わざとなのか。ソレとも単純に仰向けにすることを知らないのか。はたまた気絶した奴などどうでもいいと言う感性なのか、議論の余地があるだろう。
ソレはさておき、だ。
「んじゃぁ、もう少し奥の方探すことにしようかな?」
「イエッサー、マイエンジェル!!」
「いえっさー?・・・・・・御意」
一層周りの目線の温度が冷めていく気がするがそんなことはない。多分気のせいだ。みんな僕らの事をちょっと変わったお客さんくらいの認識のはずである。
やっぱこっち見んな。
S S S S
勇者はまだ本部に着いていない。
その思いが真実となった。
理由は簡単だ。とある証人が見つかったからだ。
ソレは英雄創聖教本部で働く14歳の少女。名を”ナイアシン=ブレンド”と言い、『Brave☩Inoccent』の勇者専用ヒロインの中でもいわゆる”お姉さん系ヒロイン”に位置するキャラで、作中でも勇者に対して熱血的なアプローチをすると言う、聖職者のイメージとは打って変わった人物だ。
そんなナイアシンだが、このキャラは端的に言うとクソである。いやお前、勇者パのキャラはキルエルを除いて全員クソだろう?と思われる方が多数いるとは思うが、まぁそうですね(肯定)。
コイツのクソなところはグリーンと同じ類いの勇者思想に体と精神の隅から隅まで汚染されたところだ。勇者を慕い、勇者を慕わない者には容赦がない。現にその過激派思想のせいでナイアシンは無神論者の彼氏を、まぁいわゆる救済したし、なんなら「勇者はおとぎ話」と軽い感覚で言った両親も浄化したし、勇者思想の中毒を指摘した友人まで処理したのだ。
そもそも勇者思想持ってる奴含めた英雄創聖教自体が、「勇者を信仰し崇められない奴は改宗させるか抹殺しなければ、勇者に対して失礼である!!」の精神だから、割とそんな理由で人をポアしても罪には問われなかったりと言うのはある意味普通の事なのだろう。
こんな感じにヤバい香りがプンプンするナイアシンな訳だが、ヤバいのは決して汚染濃度が高いとか言うだけではない。もっと根本的な部分で間違い散らかしているのだ。ソレの1部分が分かるモノがあるわけだが、ソレが現在目の前で行われている事である。
僕らが居る曲がり角を右に曲がった先でのこと。
「あなた、こんな事も出来ないの?」
「す、すみません」
「すみませんじゃない!”すいません。申し訳ありません。”でしょう?私何か難しい事頼んだかしら?」
「い、いえそんなことは・・・・・」
「英雄創聖教の布教拡大のための遠征。その過去10年分の費用一覧から次の遠征に必要な資金を計算して出して、その費用を使う目的から順序、渡航して布教する道順をどのように費用を使っていくのか、馬車なのか歩きなのか、改宗・布教を完遂させるまでに必要な一人当たりの生活費云々を提示しなさいと言っているのに、どうしてあなたはそんなにも不出来なのかしら?」
「そ、ソレは・・・・。今度の遠征では誰が、どのような人が、どれくらいの人数で行くのかが分からない上、私はまだ此処に移動して1ヶ月です。急にこんな重い仕事をまかされてm」
「言い訳は聞きたくないわ」
「・・・・・・・・・」
正直、見ていていい気分にはならなかった。
ずっと上から目線で緑の髪の女の子を叱っている、赤と桃色を混ぜた長い髪の毛に緑の眼をしているのがナイアシンであり、その口元には厳しい口調とは裏腹に小さくほくそ笑んでいた。
「なんだアイツ感じわりーなオイ」
「典型的ないじめだな。主犯が超優良物件なのが厄介だが」
後ろでナイアシンを見るジォスとアンプログリッツも良い顔はしていなかった。ジォスは女子に対する好悪はほとんど見た感じで決めるらしいが、アンプログリッツは無自覚にも的を射た様な発言をしてくれた。
「確かに、あのクソ害悪女”ナイアシン”は改訂版発売当初のネット環境で害悪パの筆頭として環境を制してた戦歴がある。まぁ勿論うにゅら虫オーラを被ったパーティには勝てないし、後々に出てくる”連パン『魔獣使い』・シャッフル型”にボコボコにされるんだけども、ソレでも割と結構上位の環境パだったのは明らかだ」
「ネット環境、・・・網環境?いや多分ネットの意味自体が別の方面で・・・・」
「ゲームでも環境取れる害悪とか、ただでさえ”女”の時点で俺の領域内じゃねーってのに面倒癖ーなオイ。そんなアレが勇者パのヒロインとかマジで勘弁してくれよ・・・・」
ジォスは改訂版をやっていたプレイヤーだからこそ分かるのだろう、ナイアシンの恐ろしさが。
ナイアシン含む害悪パは基本ステータスは別にソレほど高くない。外れ値を除いた平均的なステータスの割り振りで統一されている。ソレだけ聞くと「どうやって環境取るんだ?」と言われそうだが、反論はもう準備できている。
ナイアシンの害悪パはスキルや加護によって、相手に『スキル封じ』や『魔法封じ』と言った(発動時間が長い割には効果時間が短すぎると悪名高い)デバフをコレでもかと連続で発動する上、効果時間倍増系装備を付けてるモンだから3秒くらいしか続かないデバフが2~3分ずっと続くデバフに化けるのだ。
「でもソレだったら、同じ装備で同じスキル付けた別の強い奴パーティに入れりゃいいじゃねーか?」
ジォスがこんな発言を噛ましてくるが、こんなクレームでもしっかり反論できます故。
「いいかジォス。強い奴入れりゃいいじゃんかとは言ってくれるが、強い奴を手に入れるのは簡単じゃないだろ?」
「あー、そーだな。特にあのゲームは改訂版でも強キャラの入手率は低かったな・・・」
「だろう?でもナイアシンはどうだったかな・・・・?」
「――――ぁ」
ジォスがあからさまに目を見開く。
遅いが気が付いたか。・・・何を隠そうナイアシンは、”ゲームストーリーで絶対に手に入るキャラ”である!!ソレに加え、ナイアシン型害悪パのメンバーは全員デバフ・バフの発動時間短縮や効果時間延長の恩恵がある役割『聖職者』で、入手難易度はバカ低い(条件:パーティメンバーに勇者が居る)!!
そうッ!!何を隠そう、この害悪パ!全員が英雄創聖教の聖職者で構成されているのだッ!!
「うわっ、ソレは心身地獄過ぎるだろ・・・・」
「心と物理で会話しないでくれないか?我には何が何だか・・・・」
ジォスが賛同し、アンプログリッツは「訳が分からない」と首を振る。
そうこうしていると、曲がり角の所から新しい声が聞こえてきた。
「ナイアシン先輩、もうソレくらいでいいじゃないですか」
「そうですよ。いくら自分が仕事できるからって、ソレを鼻にかけるのはよくないと思うんです」
「はぁ・・・?何?嫉妬?・・・・コレだから能無しの英雄創聖教の蛆虫は・・・・。寄ってたかって出来る私を自分の所まで引き釣り降ろすので精一杯ですかぁ?」
読芯術の応用『空間把握』で、ナイアシンがあかんべーをしながら舌を出しているのが分かる。
「そんな事言ってないでしょう!ソレよりも、移動して1ヶ月の子に科す仕事の量じゃありません!常識的に考えてあり得ないでしょう?」
「こんなの過去10年分とか・・・、こういうのって小さな遠征も含めたら平気で万を越えますよね。ナイアシンさん、コレを提出期限の2日前からって・・・・悪魔?ソレとも獣人?ですかね?」
緑髪の子の肩を持つ聖職者の内一人が、束になった書類を見て絶句する。そしてあり得ないモノを見る目でナイアシンを見る。
「あぁ?ろくに仕事できない奴が傷舐め合っていがみ合いですかぁ?ホント歪んでるよねぇ君らってさ。別に大した仕事量じゃないじゃない?私は一目見れば次の計画までビシッと決めることが出来るんだから。貴方たちが力不足なのを私のせいにしないでよね。愚か。愚鈍。凡愚。愚民。生きる価値ナ~~~シ!」
「ハンッ!!」と鼻で笑う、かなり歪んだ笑みを見せるナイアシンに三人は軽蔑と怒りを張り付けた目で彼女を見る。
「せ、先輩が人の何倍も努力してるのも知ってますし、元々の高い才能も知ってます。・・・ですけれど、そういう見てくれは格好悪いですよ!」
「あんまり調子乗ってると、その内同じ目に遭いますよ!」
「こんな仕事、急には無理ですよおッ!!」
「あ~はいはい、聞こえませんねぇ~所詮何もできないクズの声はぁ~!!ひゃはッ!!何も持たない癖に、なんでも持ってる私から奪うってのはオカシイ話。何故気づかないのかしら?私の人生は既に生まれた時から、素晴らしいことになると言うことに!!あぁッ!勇者様、過去から未来へ語り継がれる伝説の勇者様!!どうか私を、貴方の隣に居させてください!!」
「こ、壊れてる・・・・」
「こわい」
「前後の話の脈絡が・・・・」
何もない虚空に祈りをささげるナイアシンの眼は常軌を逸している目だった。口元からは涎がダラダラと垂れ出ており、首がゆらゆらと揺れている。コレが『Brave☩Inoccent』のお色気枠の正体かと思うと吐き気がこみあげてくる。勇者よ、何故こんなのに引っかかったッ!?
「私は選ばれた人なの!貴方たちみたいなカスじゃぁないのよ!!だからそれ以上喋らないで。気持ち悪い!」
そう言って、ナイアシンは緑髪の女の子の肩を、―――思い切り突き飛ばして壁に激突させた。
「がッ!?」
「ちょッ!!」
「アンタ何やってんのッ!!?」
急いで二人が緑髪の子に駆けよるが、その後ろでナイアシンはニタニタと笑いながら、手をかざす。
「エルベ―ラ」
「「!?」」
「死体を作っても、後で報告書に『英雄創聖教』を内部崩壊させる計画をしたとか、ウソの記述を書いておけば私は無罪放免!ひゃはッ!!勇者様を慕う私の事を”怖い”とかいう奴らは友人家族もろとも皆殺しだぁ~~ッ!!!」
ナイアシンから出たのは風属性の上級攻撃魔法の『エルベ―ラ』。相当な努力故の代物だと、僕にはすぐ分かるが、だ。
流石に嫌いなクソ宗教だからって、無視していい理由にはならねぇよな?―――オイ。
僕はすぐさま立ち上がり、曲がり角を”さも偶然通りかかったかのように”曲がり、”さも偶然現場に居合わせてしまったかのような”声を上げた。後ろには同じ決意をした同志が居る。もしもの時に動いてもらおう。
「やぁやぁ、こんなところで何をしているのかな?」
「「「「ッッ!!!??」」」」
僕の声に反応して、各々が驚いた顔で此方を見る。
さぁ、少しお話しようか・・・・。




