プロローグ
「どうか、お願いします。娘を助けてください!」
「だめだ!、そういう決まりであろう」
「ですが、たった一人の娘なんです!」
「条約の通り全財産を放棄し、村から出ていくのならかまわないが?」
「それは…」
私、エルは生け贄として捧げられようとしていた。この村の中心には枯れた井戸があり、そこには魔物が住んでいるそうだ。そして、10年に1度生け贄を差し出さなければ魔物が怒り村を壊すという言い伝えがある。
(お父さんとお母さんは私を守ろうとしてくれてる。でも、私をかばって財産を放棄して村から追放されるなんて。本当の親じゃないけど、それでもちゃんと育ててくれたお父さんとお母さん。今度は私が恩返ししないとね)
「分かりました、放棄します。そうすれば娘は、エルは生け贄にならなくてよくなるのだろう?」
「正気ですか?」
「当たり前だ!娘をお金と変えられるわけがないだろう!」
「本当の子でもないのに?」
「あぁ」
「奥さんもそれで」
「私も同じ気持ちです。むしろ、娘を救うと言ってくれて嬉しかった」
「分かりました。では、財産放棄の証書にお名前と印鑑を…」
(やっぱりお父さんとお母さんは優しい。本当の子でもない私を守るために財産まで放棄しようとして。でも、私にも恩返しさせてほしいかな。死ぬのは怖いけど、お父さんとお母さんには幸せになってほしいし)
「大丈夫だから」
「「エル?」」
「私が生け贄になるから」
「エル、何を言って…」
「拾ってくれて育ててくれたのにこれ以上迷惑なんてかけられないよ」
「迷惑だなんてそんな事思ってないのよ」
「そうだぞ、エルは優しくていつも気遣ってくれた、迷惑なわけがないだろう!」
「でも、財産の放棄なんて」
「うちにはもともとお金なんてそんなにないんだ。気にすることじゃない」
「そうよ、またどこかでゆっくり過ごせばいいんだから」
「だめだよ!それに私が生け贄から免れたら他の誰かが生け贄なってしまう。だから、私は大丈夫だから」
そう言って私は井戸の上に立ち
「エルッ」
「だめだ!やめなさい!」
「ごめんね、それと今まで育ててくれてありがとう」
そう言って私は一歩踏み出し井戸の中へと落ちていった。
「ん?」
井戸から落ち気絶していた私は目を覚ました。真っ暗で何も見え……いや少し先が明るくなっていた。体を起こしそちらへ向かおうとした時、体の下に何かいることに気が付いた。
「何?」
「――――――」
「何か言ってるけど、分かんない」
ここには明かりは無いので何がいるのかは分からない。顔を近づけ何がいるのか確認しようとした。その時、
「きゃっ」
「――――――」
「な、何が……んん!」
下にいた何かが急に動き出し口の中に入ってきた。ヌルッとした感触でそれがスライムという事は直ぐに分かったがそれどころでは無い。口の中でスライムの手?指?が動いている。噛み付いても良いのか分からず抵抗できずにいるとスライムは先端を分裂させ喉の奥へと押し込んだ。
「んく………食べちゃった。どうしよ」
押し込まれそのままスライムの一部を飲み込んでしまった。どうしようかと悩んでいると体内のスライムがさらに小さく分裂し散らばる。少しすると体が熱くなり、頭に激痛が走る。改造されているのが分かった。
「うぐっ、いっ、あぁ」
1分程度で痛みは治まったが力尽きるようにその場に倒れた。
「――ごめんね、このやり方じゃないと僕の言葉が分からないから」
井戸の中には少女ではないものの声が響いた。