五月蝿いアイツは○○○が嫌い
相手に子供扱いされる事ほどかなしいことはない
それは、自分にとって、その人が自分の事を見てくれていないのと同じ事だから
「………フーッ」
今日も今日とてタバコを吹かしながらスマホで、今俺がハマっているソーシャルゲームを弄る。
ここは俺の、立花智史の職場であるカフェ『渡り鳥』の喫煙室。
カフェと言っても大きな場所ではなく、最近町おこしにより開発が進んで大賑わいになっている駅前ビル街から少し離れた商店街の端っこに昔からある、小さなな喫茶店だ。
祖父の代から経営しているこの店に来るのは、昔からの常連さんかちょっと休憩がてらに立ち寄る老人、そして冷やかしに入ってくる地元のガキ共しかいない。
高校を卒業して以来、特にやりたい事も見つからなかった俺は、今は祖父からこの店を受け継いでいる親父の手伝いをしている。
バイトもした事もなければ、遊ぶことに夢中で店の手伝いもした事なかった俺にとって、『働く』ってのは何もかもが新鮮で、本格的に仕事をする様になってからは今までとは打って変わって労働に精を出した。
しかしそれも最早数年前の話。
仕事に慣れて一日の作業がルーチン化してしまってからはそれはもう退屈な日々を送っていた。
最初の頃は接客を始め、配膳、清掃、メニューの暗記や作り方を覚えるのに必死で、それが出来る様になるまでが楽しかったもんだ。
が、今となっては親父がいなくても何でもできてしまう様になるまで成長した……してしまった。
祖父の代から店の内装やメニューも然程変わる事はなく続いて来たので、今後も俺がやる作業はなんら変化する事は無いだろう。
そうなってくると、変わっていくのはこの店に来る客しかいないのだが………それが問題だった。
仕事を始めた当初こそ、客の悪態や我儘に対して丁寧に対応していたものの、空気に慣れてしまってからは鬱陶しくて仕方がない。
やれ味が薄いだ濃いだの、やれ値段が高いだの。
単価に関してはオープンして以来変わってねぇよ。
そりゃ爺さんや親父と比べればまだまだ若輩の身ではあるが、これでも努力して練習を重ねた結果、二人からお墨付きを貰っているのだ。
今も尚発展途上にある俺が言うのもおこがましいが、プロの意地ってのがある。
それを否定されていい気がしないのは当然だろう?
今日も開店直後に来た客から「紅茶が熱すぎる」と指摘を受けた。
出した紅茶はもちろんその茶葉に合った最適の温度で出したにも関わらず、だ。
そんなもん個人の問題だし、それならそれで冷ませばいい話なのに、態々俺に言ってくる辺り、民度が低い。
思い出しただけで腹が立つ。
全く、タバコでも吸わなきゃやってられん。
………まぁ、そんな客はほんの一部で、大概の客はフレンドリーな連中なのでこの仕事を辞める気はサラサラないが、それとこれとは話が別である。
タバコの火を消した俺は、もう一本吸おうと次のタバコに火をつけようとした時だった。
「あーっ!智史さん、またここにいたんですね!?」
喫煙所のドアが勢いよく開かれる。
そこに立っていたのは………この店唯一のアルバイトである坂本百合子。
今時の子にしては小柄な身長とキリッとした吊り目。
薄茶色に染められた長い髪の毛はいつもの様にポニーテールスタイルにしている。
またか。
そろそろ来るだろうと思っていたので、特に驚く事なく何事もなかったかの様にタバコに火をつけた。
「……っせぇなぁ、客が居ねえんだから別にいいだろ」
「そうじゃありません!私が言っているのは……ソレですっ!」
強気な吊り目を更に吊り上げた百合子は、ビシッと俺の手元を指す。
「………コイツがそんなに嫌いかよ?」
俺はスマホと一緒に持っていたタバコを見せびらかす。
「はい、大っ嫌いですね!」
百合子は即答した。
「そんなの、良いことなんて何もないじゃないですかっ」
「そりゃお前の偏見だな。現に、今コイツは俺の心の支えになってくれてるしな………ま、身体に悪い事は認めるがね」
「身体もそうですが周りにも迷惑をかけるでしょう?」
「………」
プリプリと怒る百合子は動こうとはしない。
そんなにタバコが嫌ならここに近づかなけりゃ良いものを。
「へいへいっと………おっ、やっぱ当たったか!」
俺はテキトーに相槌を打ちながらソシャゲのガチャを回すと、期間限定のレアキャラを引き当ててしまった。
嫌な客に当たった後にガチャを引くとレアキャラが出ると言うのが俺のジンクス。
今回も例に漏れず、見事的中した。
あぁ、このレアキャラを引き当てた時の『脳汁ブシャァっ!』感はたまんねぇぜ!
「〜〜〜〜〜っ!!」
ホックホクな笑顔をしているであろう俺とは対照的に、百合子の目は益々鋭くなっていく。
「とにかくっ、お客さんがいなくてもできる事はあるはずです!その一本を吸い終わったらさっさと戻って来て下さいよ!?」
そう言い捨てた彼女は喫煙室から出て……扉を思いっきり閉めた。
やれやれ、よくもまぁ飽きもせず毎度毎度同じやり取りをしかけてくるもんだ。
実はこの会話、今日が初めてではなく、この半年の間に幾度となく繰り返されて来た流れなのだ。
最初に百合子と出会ったのは俺が高校を卒業した直後のこと。
進学も就職もしなかった俺は、卒業と同時に渡り鳥で働いていた。
しかし、働くと言ってもオレは専ら皿洗い。
接客経験も無いため、親父は暫く俺を客の前に出ずに店の雰囲気に慣れる様にと言われていたし、その客に出す飲み物や料理に手を付けるなんて持っての他だった。
ならば、出来る事は皿洗いと営業時間が終わった後の清掃くらいしかない。
給料どころか、この時点では養って貰っている身なので、俺は文句を言う事なく言われた仕事を一つ一つこなしていた。
そんな日が続くようになってから一ヶ月が過ぎた頃。
とある常連の婆さんが一人の小学生を連れて来て、親父にこう言ったのだ。
『この子を夕方まで預かっていただけないかしら?』
と。
話を聞くと、どうやら婆さんは孫と遊んでいる途中で急な用事が入ってしまったらしく、今はお孫さんの両親も不在で家に一人残して行くのは不安だとの事だった。
親父は二つ返事でそれを了承し、婆さんはお礼を言うとその場を去ってしまった。
そのやり取りを厨房の影から見ていた俺に、店の食材は何でも使っていいから、取り残されてしまったお孫さんの相手をしろ、と言ったのだ。
………そう、そのお孫さんこそ、百合子である。
年は10歳と言っていたから、当時は小学4若しくは5年生か?
婆さんが再び店に現れるまで何をしていたかってのは忘れてしまったが、俺がテキトーに作った甘いミルクティーとクッキーを口に含んでは顔を綻ばせていた事だけは覚えている。
それからと言うもの、この店の雰囲気が気に入ったのか、或いは旨いモンに有り付けると味を占めたのか、百合子は度々この店に訪れるようになった。
それが一ヶ月に一度、二週間に一度と、来る頻度を徐々に縮めて………
「私、ここでバイトしたいでーす!」
と言い出したのが半年前。
百合子は現在15歳、今年から地元の高校に通う女子高生となっていた。
彼女がここへ入り浸るようになってから早5年、いや本当に早いものである。
昔は……いや今でも小さい事に変わりはないのだが、当時からすれば身長も高くなったし、女性特有の凹凸もハッキリと判るようになった。
ただ、それよりも驚いたのは、精神的な成長だ。
昔から『女の子はマセている』なんて言われているが、俺はその事を身を持って体感した。
出会った当初は喋りかけても俯いてばかりだった少女は、ここへ来る度に口数が増えていき、会話の移り変わりが激しくなり、彼女が女友達を連れて来た時なんかは店の外にまで声が聞こえるんじゃないかってくらい騒いでたっけ。
今となっては俺に説教をかましやがるくらい可愛げがなくなったときた。
時の流れは早いね。
これ以上ヤツを怒らせても、それこそ良いことなんて一つもない。
俺はタバコを吸うペースを上げてることにしたのだった。
「遅いです!そんなにも熱心なのであればもう結婚しちゃえばいいんですっ」
案の定、誰もいない店内にはプリプリ怒った百合子が立っていた。
「……やっぱ誰もいねぇじゃねぇか。掃除はしてるし仕込みもやってある……うむ、んじゃオレは元の位置に……」
戻って先程引いたレアキャラのレベル上げでもやろうと思ったが、ガシッと手首を掴まれた。
「いい加減ソレはやめて下さいよ……仕事なら……あります」
それはもちろん百合子の仕業。
手を握る力は強く、彼女が本気だと言う事は文字通り痛いくらい伝わってくる。
……観念するしかないか。
「……で、何があるってんだよ」
「はい。従業員にコーヒーの淹れ方や料理を教える仕事です」
「は?」
「私、ここでバイトし始めてもう半年じゃないですか。なので、そろそろ厨房の方も手伝えるようになった方がいいかなって」
あくまでも彼女は真面目な態度で話してくる。
普段であれば、タバコのやり取りが終わった後も下らない話をしながらダラダラと客が入ってくるのを待っているのに。
「どうしたんだいきなり」
「どうって………そりゃ、えっと………ほらっ、マスター…智史さんのお父さん、今あまりお仕事できない状態じゃないですか?だから、智史に何かあった時の為にも、私が色々できた方が良くないですか?」
何か間違った事言ってます?と言わんばかりに俺を見上げる百合子。
実は一年前から親父は腰を患っていて、調子が良い時は店に出てくるのだが、最近はどうも具合が良くないらしく、今日も親父抜きで渡り鳥を開けていた。
親父が腰をやってしまった当時は、客もそこまでこないし俺一人で回せると思っていたのだが、結果上手くいかず………その事をついポロっと彼女の前で溢してしまったのが、コイツをアルバイトとして雇った経緯である。
確かに、親父のように俺にも何かあるとは限らんが……いかんせん、彼女はまだ高校生だ。
料理の腕前の良し悪しではない。
作った料理や飲み物を客が口に運ぶ以上、作った側には責任が課せられる。
もし仮に、百合子が淹れたコーヒー又は料理を口にした客に何か問題が発生したら………その責任は俺に、いや、現在の経営者である親父に行くことになるのだ。
そうなってしまった場合、百合子が来て以来養生できる時間が増えているのに、当の本人に負担をかけるのは本末転倒。
それに、決定権は全て親父にあるため、俺の一存ではとても決められなかった。
「別に良いんだよ、現状回ってるんだから……仮にもし俺もどうにかなっちまったら結局責任者不在で店が開けられないんだからな」
気にすんな、と言う意味合いを込めて頭を撫でようとして手を伸ばし……
「……その手で触らないで下さい」
バチっと手を叩かれた。
……あぁ、タバコを触った手だからか。
「お前、教えてもらう気ないだろ」
僅かながら受けてしまったショックを隠すように言うと、彼女も負けじと言い返して来た。
「……彼氏でもないのに、華奢で可憐な女子高生に触ろうとしないで下さい」
「ホントに華奢で可憐なヤツぁ、歳の離れた男に食ってかかりゃしねぇんだよ」
「もうっ、いいから智史さんは私にコーヒーの淹れ方を教えればいいんですっ!」
ワガママ女子高生はその場で地団駄を踏む。
一体どこが華奢で可憐だって?
「ったく……わぁったよ、客には出せんがやり方くらいなら教えてやる」
「…っ、ホントっ!?」
百合子が今日初めて笑顔を見せた。
それは昔から変わらない、あの笑顔で……
黙ってりゃ可愛いのになぁ………いや待て、つい最近まで小学だったヤツに何言ってんだ。
「で、コーヒーの淹れ方でいいのかよ」
「はい。マンデリンの淹れ方をお願いします」
「豆の指定までしてくるのかよ……」
マンデリンとは、インドネシアで栽培されているコーヒー豆で、酸味が少なく苦味とコクがある事で知られており、カフェオレなんかにすると良く合うコーヒーになる。
どこで習った知識かは知らんが、どうやらカフェオレが飲みたいらしい。
舌の方はまだまだ子供だったと言うことか。
余談ではあるが、マンデリンはべらぼうに高いという訳ではないが、希少価値が高い為、他の豆に比べると幾らか値が張る。
俺が一番最後に親父から習ったのもこのマンデリンの淹れ方である。
別に淹れ方が難しかったり特殊な工程がある訳ではないが……ま、節約だ。
初っ端からやれば失敗する確率が高いし、無駄になっちまうからな。
「なんでまたマンデリンを……もっとメジャーなモンがあるだろ、キリマンとかブルマンとか」
「いいじゃないですか、別に」
興味なさげにそっぽを向いているものの、長年の付き合いから譲る気はないと察した俺は、渋々と準備を始めたのだった。
コーヒーの淹れ方と言っても、何も焙煎から始める訳ではないので、教える工程は比較的簡単な作業ばかりだ。
乱暴な言い方をすれば、フィルターに挽いたコーヒーを入れて、お湯を注いで終了。
ドリップ式と言うヤツだ。
だが、簡単に見えて実はお湯を入れる工程が一番の肝になるのが奥が深いところ。
お湯を少し入れては落ちるのを待ち、また入れて待つと言う中々時間がかかる作業。
俺はその全工程を百合子に見せたあと、その工程やコツを全てメモ用紙に書いて百合子に押し付けた。
最後の一文に『時間と愛情をじっくりかければかけるほど美味くなる』と、なるべく時間稼ぎができる様な説明も添えた。
「はい、今の見て分からなかったらコレ見ろ。俺はタバコ吸ってくる」
「ちょ、智史さ……」
答えを待たずに喫煙所に歩き出す。
客が来ればわかるし、メモの通りにやってりゃ飲めないほどマズいコーヒーにはならんだろう。
喫煙所の扉を閉めた俺はタバコに火をつけて、スマホでソシャゲを始めた。
今回のガチャで手に入れたのは、俺の推しキャラである「ミーン」ちゃんの特別衣装バージョン。
天真爛漫な性格で、自分の事を兄の様に慕ってくるところがマジキュート。
偶に突拍子のないお願い事をされてしまうが、仕方ないなぁと思いつつもついつい甘やかしてしまう、デュフフ。
それから俺はタバコを吸いながらレベル上げに勤しんだ。
が、それも長くは続かなかった。
「ってコラーッ!なんでまた喫煙室に篭っちゃうんですかっ!!」
「ツッコむまでに時間かかったな……なんだ、もしかしてできたのか?」
てっきり直ぐに後を追ってくると思っていたのだが、意外や意外、百合子がやって来たのはちょうど今し方教えたコーヒーが出来上がる時間くらい経った後だった。
そして、喫煙室に入って来たのは百合子だけではなかった。
ヤツの手には客用ではない……使い古された俺のマグカップ。
次いで、嗅ぎ慣れたマンデリンのまろやかな匂い。
「さぁ、挿れて来ましたよ。飲んで下さい」
有無を言わさぬ口調と同時に、俺の視線と『ミーン』たんの間にズイっとマグカップを捻じ込まれる。
本人も立ち去る気は無いらしく、隣に腰を下ろした。
「……………」
俺は火を付けたばかりのタバコとスマホを左手に移し、仕方なくマグカップを手に取り口元に近づける。
香り………まぁ問題ない。
肝心の味はどうか。
フーッ、フーッ、と熱々のコーヒーを冷まして……一口飲んだ。
「………美味い」
美味かった。
いや、味は不味くはないものの、やはり素人が淹れたコーヒーその物と言うか、とても店で出せる味ではなかった。
だが、それでも美味いと感じてしまった。
思わずタバコを口元へ運ぶ。
一般的に、苦味やコクが強いコーヒーと言うのはタバコと良く合うと言う。
このマンデリン……実はタバコとの相性がバッチリなのだ。
ジジっと赤くなるタバコの先端を見るフリをして、チラッと横に視線を送る。
彼女は何も言わずにじっとこちらを見つめながら感想を待っている様だ。
「………が、インスタントの方がまだ美味いな」
それが妙に照れ臭くって。
つい、意地悪な感想を言ってしまう。
「そんなぁ……ちゃんといっぱいかけましたよー?」
「まだまだ足りねぇよ……お前、持ってくるの若干早かったし」
俺が喫煙室に入ってから小百合が扉を開けるまでの時間をザックリ振り返っても、我慢できなかったのか、普段俺が淹れる時間よりも1分以上も早かった。
高々1分だが、その1分、いや数秒がコーヒーの香りや風味を大きく左右するのだ。
「……?なんの話しをしてるんですか?」
「ドリップの時間の話しだろ?ちゃんとお湯が落ち切るまで待てって書いていた筈だが…」
てっきり「焦ったかったんですもん」とか言うかとおもったが、予想に反して百合子はキョトンと首を傾げている。
そして
「たっぷりかけたのは………愛情の方、ですよ?」
俯きながら、ぼそっと溢したのだ。
そっちかよ!
耳まで真っ赤になっているのは、室内が熱いからなのか、あるいは……
「私、勉強しました。タバコに合うコーヒーのこと」
百合子は続ける
「このお店にあるコーヒーで一番タバコに合うのがマンデリンだと知ったので……智史さんに淹れてあげたかったんです」
今、俺はどんな顔をしているだろうか。
タバコの灰が重力に負けてその場に落ちる。
「………お前、タバコ嫌いじゃなかったのかよ」
すると彼女は数泊置いた後。
「……好きです。あなたに付いているタバコの匂いも、吸っている姿も………あなたの事も」
次に落ちたのはまだ火が付いていたタバコだった。
うっかり……手の力を緩めてしまう。
「いや、お前毎日大嫌いって言ってたじゃん」
「違いますよ。私が嫌いなのは……ソレです!」
そう言って指を指した先にあったのは。
スマホの画面の中から微笑んでくれているミーンたんだった。
そっちかよ!
「そうです、せっかく二人きりの時間を過ごしてるって言うのに、その子がいつも智史さんを取っちゃうんです!」
吹っ切れたからなのか、いつも以上にプリプリと怒る彼女の姿を見て。
不覚にも可愛いと思ってしまった。
つまり、なんだ?
コイツはタバコが嫌いだから毎度毎度、俺に食いかかってきたんじゃなくて。
ソシャゲに嫉妬していたから、俺の気を引こうとしてたってことか?
「ここまで言ったんでぶっちゃけますけど、因みにバイト志願したのも智史さんと出来るだけ一緒に居たかったからです」
「いや、そこまでぶっちゃけられても」
「あと、単純にお金が欲しかったからです。給料上げて下さい」
「いや、そこまでぶっちゃけられても」
「ついでにお料理も教えて貰えれば花嫁修行にもなるかなって」
「いや、そこまでぶっちゃけられても」
百合子は至って真剣に告げる。
正直、嬉しさよりも困惑の方が大きい。
なんせ俺はコイツが小学生の頃から知っているし……
なんだかんだでここまで顔を合わせて来たが、まさか告白されるとは思いもしなかった。
小学生が言う『大好き』とは違う。
ちゃんと、男女の関係を理解した上での好意。
「今すぐに答えが欲しいなんて思ってないです」
どう反応すれば良いか迷っていると、百合子が俺の思考を止める。
「まずは……その子から智史さんを奪いますね」
と言ったかと思えば、俺の香りをガシッと両手で挟み……
「………ッ!?」
半ば無理矢理、キスをされた。
触れ合うだけの口付け。
一瞬のうちに唇を奪った百合子は、これまた一瞬のうちに距離を取った。
「ん……ファーストキスの味はレモンの味だとかって聞いてましたけど………私の場合は、タバコの匂いが混じったコーヒー味でしたっ」
そして、すぐに喫煙室を後にした。
残されたのは、ただ茫然と彼女を見送るだけの俺。
「………なるほど、レモンの味ね」
俺のファーストキスの味は
間違いなく、レモンの味だった。
さて、これからどうするか。
最早元の関係には戻れないと悟った俺は、喫煙室から出た後、どんな行動に出るか迷い、頭を掻いたのだった。
「智史さん、ビックリしてたなぁ」
私の手に握られていたのは、今日ここにくる時に買ったレモンリップ。
少しでもドキドキさせられたら私の勝ちだ。
今はまだ、子供としてしか見られてないけれど。
いつか、きっと。




