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魔王と勇者と恋敵

勇者と魔王とその家臣の物語。


こんな展開あり得ないと思いますが、良く良く考えると、こんなにも早い進展がないにしろ、世界中の恋愛はこの連続で成り立っているのではないでしょうか?

 



 汗と血の臭いを纏い、私は長い紅髪を一度だけ払い、最後の扉の前に立つ。



 家族が傷ついた。


 友が傷ついた。


 街が、田畑が、船が、森が傷ついた。




 だが、漸くこの戦いが終わる!




 共に来てくれた仲間達は、今や私の親友を残して脱落してしまった。


 隣を見ると、最終決戦に向けて武器の調整をしていた親友…セイラは短く切った髪の毛を掻き分けて、私と目を合わせた。



「………二人で魔王を倒しましょう、勇者リーン!」

「えぇ、もちろんよセイラ!」



 決意を胸に………私は、魔王が待ち構える屋上への開け放った!







「フン、小賢しい人間風情が……良くぞ此処まで来たと褒めてやろうっ!」







 邪悪な笑みと漆黒の髪。

 長いマントと鎧。

 その瞳は全てを射殺すほど鋭く、禍々しい。


 間違いない。

 魔王……ヴィクターっ!




「……………うっ!」


「リーン!?だ、大丈夫ですかっ!?」




 魔王の姿を初めて見た瞬間、私はその場に跪いてしまった。

 嘘だ……そんなことって……っ!




「リーン、しっかりしてくださいっ!おのれ……不意打ちとは卑怯ですよ、魔王ヴィクターっ!」


「リーンっ、大丈夫……大丈夫だからっ!」


「しかしっ………クッ、魔王!勇者リーンに何をしたぁっ!?」



 私を支えていたリーンが怒りに任せて魔王に怒鳴る。

 こんなにも怒った彼女を見たことがなかった。



「フン、何をした?だと……?ならば教えてやろう!」



 魔王ヴィクターはマントを翻らせて……言い放った!







「何もしておらん!!」







 ………………。



「は?な、何もしてない訳がないでしょう!?」

「いや知らん。そこの者が勝手に膝を着いただけだが……」

「そんな……リーン!?まさか、あなた病いを!?」



 改めて私の安否を心配してくれるリーン。

 ダメだ、これは素直に白状するしかないわね。


 私は俯いていた顔を上げて再び魔王ヴィクターの顔を見た。




「くっ!!」

「リーン!!魔王、貴様ぁぁっ!」

「待て、我はまだ何もしとらんぞっ!?」

「えっ………リーン、一体どうしたのですかっ!」




 私は乱れた息を整えて………何とか声を絞り出した。








「魔王……めっっっっっっちゃ好みのタイプなんだけど」







「「はい?」」





 紅い月が怪しげに照らす魔王城の時が止まった様だった。



「リーン、どういうことですか?」

「セイラ……私、今まで男っ気なかったじゃない?」

「はぁ……貴方は幼き頃より剣の修行で忙しかった身ですし……」

「私もいずれ戦場で死ぬもんだと思ってたから、男の顔なんて見る気もなかったんだけど」

「リーン?」




「魔王を意識し過ぎたせいか……魔王ヴィクターが超絶イケメン男子に見える」



「な、なんですって!?」



 普段は冷静沈着なリーンが取り乱している。

 無理もないだろう。

 今から撃とうとしている相手に対してこんな事を思っているなんて知ったら誰だって取り乱すわ。



「さては魔王の『魅了』かっ!?我々が使う大気に満ちた『善気』とは対の力……魔族が使うと言われている『邪気』の能力かっ!」


「違うっ!」


「ならば貴様自身の力かっ!?」


「違うっ!我に有るのは鍛え抜かれた肉体と、この世の何にも負けぬ己の『力』だけだっ!」


「だったら何故リーンはこんなにも魅了されているのですっ!!」




 セイラは私の元を離れて魔王に突進して行く。

 早いっ!

一輝闘閃(いっきとうせん)』の異名は伊達ではなく、正にその突きは一筋の閃きの如く、魔王へと突き進む!



「緩いわっ!」



 しかし、やはり魔王。

 目にも止まらぬセイラの突きを難なく受け止めた。



「そこいらの男よりも男勝りなあのリーンが……男なぞに鬱つを抜かすかっ!」

「貴様っ、共に対して酷い言い草……うっ!?」

「…っ!?」




 リーンは魔王の異変を察知して素早く身を引き、再び私を庇う様に立った。



「ど、どうしたのですか魔王ヴィクター!まさか今の攻撃で怯んだのですかっ」



 セイラは挑発しているだけで、もちろんさっきの一撃で終わったなんて思ってないだろう。

 現に、戦闘態勢は崩さずいつでも攻撃を仕掛けられる状態を保っている。



「ありがとうセイラ……でもちょっと待って、私、まだ戦えそうもない……」

「まだ魅了が……っ、魔王よ!魅了など解いて正々堂々勝負しなさいっ!」



 しかし。

 魔王は未だに苦しむばかり。


 そして……口元を押さえながら、言い放った。





「セイラとやら…………ヤバイ、めっちゃ可愛い……」





「「は?」」




 今度は私とセイラの声が重なる。



「ふ、ふざけているのですか、魔王っ!」


「ふざけてなどおらぬわっ!そなたのその凛とした顔立ち、度胸……うむ、誠良い女子である!」


「そ、そんな……魔王は……セイラが……」


「ちょっ、リーン!?正気に戻って下さいっ!」



 まさか、この様な形で絶望を味わう事になろうとは………。

 セイラには剣も、勉強も、何も負けた事がなかったのにっ!



「私、もう立ち直れない……」

「えぇぇっ此処まで来て!?ねぇリーン……リッちゃん!頑張ろっ、ねっ!?」


 混乱しっぱなしのセイラは、昔の様にフレンドリーに語りかけてくる。

 でもゴメン、今は貴方に話しかけられるのが……辛いっ!




「おのれ良くもっ……良くもリッちゃんをぉぉっ!」

「名称が直っておらんぞ、セイラ……こいっ、全力で受け止めてくれるわ!」

「ほざけぇぇっ!」



 再び突進を試みるリーンの前に……新たなる影が立ち塞がった!

 魔王よりも一回り大きく、長い黒髪と白い無精髭を生やした初老の悪魔っ!




「魔王様っ、遅れてしまい申し訳ありませぬ!お叱りは後ほど……」


「おぉ……我が右腕にして一の友、大将軍ヴェネトスっ!良くぞ来てくれたっ!」


「ハーっ!して、何故目の前の()()()は膝を着いているのです?」



 えっ?

 戦況をみると、今にも突進攻撃をかけそうだったセイラも体勢を崩していた。



「せっセイラっ!大丈夫っ!?」


「はぁっ、はぁっ………大将軍ヴェネトス、だとっ……?」


 セイラ……?




「魔王軍に……こんな、こんな素敵なオジ様がいるなんてっ……」






「ええっ、セイラ!?ちょ、しっかりして頂戴っ!」

「すみませんリーン………今まで黙っていたのですが、実は私、ジジ専なんです」

「いやいや今そのカミングアウト聴きたくなかった!」




「………っ!?なんとっ……勇者のその出立っ!」



「どうしたヴェネトスよ!よもや…まさか貴様もビビッと来たのかっ!?」





「勇者リーン……正に、密かに儂が想いを寄せていた700年前の魔界を統べた女王……ヴェアトリクス様の若き頃にそっくりじゃぁっ!」




 えぇぇぇぇっ!?


 ちょっと、流石に男っ気は無いにしても、お爺さは勘弁してよっ!

 隣の魔王を見る……うっ、やっぱカッコ良すぎるっ!



「……くっ」

「……かはっ」

「……ジジっ」

「……むふぅっ」





 勇者と相棒。

 魔王と大将軍。


 今、世界の命運を賭けているこの場で、全く闘いに関係ないことで全員が膝を着いている。




「……と、とにかく!魔王を倒せばこちらの勝ちです!覚悟っ!!」




 最初に動き出したのはセイラ。

 でも……私は魔王とセイラの間に割って入った。




「やめてセイラっ!」

「何故止めるのですっ!」

「だって……だって!私の初恋なんだもん!いくらセイラでも、魔王がセイラが好きでも、やっぱりダメっ!!」

「そんな無茶なっ!」



「魔王は生け捕りにして……まずは大将軍をやっつけましょう!」




 私は剣を抜き、邪魔である大将軍ヴェネトスに切り掛かった。

 が。

 剣は……リーンの手によって弾かれてしまった。



「何するのよ、セイラっ!」



「待ってくださいリーン。魔王を討伐しなければ事態は収まりません。ですので魔王を撃った後、ヴェネさ…ヴェネトスを捕らえて魔界の事情を吐かせるべきです。大将軍を名乗っているのですからヴェネさ…ヴェネトスは我々にとって有益な情報を持っているに違いありません、えぇ。なのでヴェネ様は生かしておくべきです」



 ちょ、貴方いつの間にヴェネトスをヴェネ様なんて呼ぶ様になったのよ!






「ふむ、良くわからんが仲間割れが始まった様だな……ヴェネトスよ、勇者の首を落とし、わが魔王軍の勝利を飾れ!」

「い、いやしかし………」

「どうしたのだ!さっさとトドメを刺さんか!」




「……お言葉ですが魔王様。今勇者を撃てば、人間界から反響を買いかねまする。よって、勇者は人質として捕縛し、人間共へ降伏を求めるのが良いかと存じます。しかしそう成ればこのセイラと言う娘は黙っていますまい……今脱落させるのは此奴の方かと」


「なにっ、ふざけるなぁっ!セイラは我が伴侶となる者ぞ!貴様……幾ら我の右腕だからとて、セイラに手を出そうものならば…容赦せんぞ」




 勇者陣営は内輪揉め。

 魔王陣営は睨み合いが続く。



 そして時は流れ………朝が来た頃。




 ピピーーッ!!

 一際高く、笛の音が鳴った。





『試合終了!!100年に一度、勇者、魔王の新たな世代のお披露目のために開催される『勇者軍vs魔王軍』!5000年前、人間界と魔界が平和条約を結んで以来行われ続けていた本大会ですが、まさかまさかの引き分けとなりましたぁぁっ!』




 瞬間。

 空間がねじ曲がり、私たちは()()()()()()()()




 そう。

 今日は100年に一度のお祭り。

 人間界と魔界が平和条約を結んだ記念日に行われる勇者対魔王を再現した模擬戦の日だったのだ。


 もちろん模擬戦中は特殊な空間で行われる為、実際に誰かが死ぬこともなければ、土地が荒れることもない。

 でも、幾ら紛い物の空間と言っても、やっぱり仲間がやられたり田畑が焼かれたりするのは面白くないもので………。



 参加資格があるのは次世代の勇者や魔王、その配下となった者のみなので、頻繁に両国を行き来しない限り、互いに顔を知る事はない。

因みにヴェネトスは今期から魔王が大将軍に任命した為、ルーキーとして扱われている。



「お、おのれ魔王ヴィクターっ!絶対貴方を振り向かせてやるんだからぁっ!覚悟しときなさいよねっ!」


「貴様なぞ知ったことか!ところでセイラよ、我らの婚儀は人間と魔族、どちらに習って執り行うか…そなたに選ばせてやろう!」


「いえ結構。それよりもヴェネさ…大将軍ヴェネトス。私と今後の両国の未来についてお話を伺いたく思います」


「ふむ、それは貴殿がもう少し経験を積んでからにいたそう。さて勇者リーンよ、彼方に熱い茶と菓子があるのだが、如何かな?」




「魔王ーっ!」

「さぁセイラよっ!」

「ヴェネ様、お話を」

「勇者リーンよ、此方に」





 闘いは、終わらない。




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