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恋心隠して、猫好き隠さず

初回なので二作用意しました。

こんな感じで、年齢や場所や世界観が別のラブコメシーンを沢山お届けできればなぁと思います。

 



「エリちゃん…… エリちゃんだよね!? うわぁ久しぶりだなぁ、元気にしてたっ!?」


「…………はいっ?」





 昼下がりの商店街。

 月刊猫雑誌『Lovely♡CAT』の新刊を買うべく、この辺で一番品揃えが良いと言う本屋さんの前で。



 私……赤坂英里奈(あかさか えりな)は、17歳の夏


 道行く女性全てをも振り向かせる程のバリくそイケメンに、産まれて初めてナンパされてしまった。







「………あれっ?エリちゃん…赤坂英里奈ちゃんだよね?」



 知らないイケメンは改めて私の名前を確認してくる。



「そっ、そうだけど…」

「そうだよね!よかったぁ、間違えていたらどうしようかと思っちゃったよぉ」



 ホッと胸を撫で下ろす正体不明のイケメン。

 私は彼のことを知らないが、彼は私の名前を知っている。

 どこかで会ったことがあるっけ?



「あぁ……えっと……」



 お、思い出せないっ!?

 かと言って『どちら様でしたっけ?』なんて言ったら失礼だし……

 対応に拱いていると、イケメンは再びオロオロし始めた。



「も、もしかして……覚えてない?」

「いえっ、ちょっと待って!あのぉ……えっとぉ」

「ほらボクだよ、昔キミがこっちに住んでいた頃、隣に住んでいた…」



 隣に?



 確かに私は10歳までこの街で暮らしていた。


 両親の仕事の都合で都会に引っ越してから早7年。

 任期を終えた両親はすっかり都会での暮らしに疲れてしまったのか、田舎が恋しくて再びこの町へと帰ってきたのが2ヵ月程前の話になる。



「そっか、もう7年だもんね……毎日の様に遊んでたんだけどなぁ」



 イケメンは寂しそうに笑う。

 この情けない顔を……私は見たことがある気が……

 毎日遊んで……



「…………あっ、もしかして佐原(さはら)さんちの!」

「そうそうっ!よかった、思い出してくれて!」




 思い出した!

 都会に行く前に住んでいた家の隣人、佐原さんちの一人っ子。

 名前は確か………えっと、……ダイゴくんだ。


 昔は私よりも背が低くかったし、泣き虫だったし、男の子なのにどちらかと言えば可愛い顔立ちをしてたはずなのに……。

 そうか、7年も経つと変わるんだなぁ、男の子って。




 小さい頃から大の猫好きだった私は、事あるごとに佐原家が飼っている猫と遊ぶためにお邪魔してたっけ。


 猫ちゃんは……ヒロシって名前だったかな。


 三毛猫でオスだった事もあり、姿形は鮮明に覚えているし、なんなら私のパソコンに当時の写真がわんさか保存されているはずだ。




「ごめんなさい、気がつかなくって!」

「こちらこそ、いきなり声を掛けたらビックリするよね…」


 でもそれでも嬉しさが勝っちゃって……と、イケメンになったダイゴくんは頬をポリポリと掻いた。


 うわっ何このイケメン……カッコよさと可愛さが同居してるっ。




「……ひ、ヒロシ、元気にしてる?」

「うん、一度の怪我も病院もしなくて元気いっぱいだよ!」

「そっ、そっか……また遊びに行ってもいい?」

「もちろんさ、何なら今から行こうよ。猫、好きだったよね?」



 い、今からっ!?

 それはちょっと、心の準備がっ……!



「あのっ、私、本を買いに来たんだけど……佐原さんにもご迷惑が……」

「そんなのいくらでも待つよ!それに、今日は親が夜遅くまで帰って来れないって言ってたから気にしないで!」



 両親不在ぃっ!?

 それは益々イケないのではっ!?


 ダイゴの顔を見れば、これ以上ないくらいにニッコニコ。

 まるで下心を感じない……あの頃の笑顔だ。

 ……それはそれで尺に触る部分があるけど。



「わ、わかった……取り敢えず、本を買ってくるわね」



 私はそそくさと本屋さんに入り、目的の雑誌を逸早く手に取った後。

 急いで女性向けの棚に向かい、初めて彼氏の家にいく時にどうすれば良いか書いてありそうな本を手当たり次第に開いたのだった。








「お帰り。随分と時間が掛かってたけど……そんなに大量の本を買ったの?」

「う、ううん、レジが混んでただけだから……」


 流石に全ての本を買う訳にもいかず、結局買ったのは当初の目的であった『Lovely♡CAT』だけだった。



「暇だったら付いて来れば良かったのに」

「いやぁその……お、女の子と買い物とかしたことなくてさ、付いて行ったら悪いかなって…」




 ピュアかっ!

 マズい、非常にマズい。

 この短時間で爆速的に彼への好感度が上がって行っている。

 よく良く考えれば、幼い頃にヒロシと遊んでいた時もダイゴは常に私のそばにいた。

 楽しかった昔の出来事が一気に頭の中に満ち溢れる。


 今まで忘れていたのに……

 自然と顔が熱くなる。

 思えば、あの頃彼に抱いていた気持ちは、友ではなく恋だったのかもしれない。



「そっ、そうだ!お土産買って行きたいからもう一軒寄ってもいいかな!?」

「えっ、それは全然構わないけど……どうしたの急に」



 しまった、話題を切り替えようと声のトーンを上げ過ぎちゃった!



「何でもないよ!ほら行こっ!」

「う、うん!」



 私が足早に動き出すと、ダイゴくんもそそくさと付いてきてくれた。








 やってきたのは同じ商店街にあるペットショップ。

 久しぶりの再会となるだろうし、多分私の事なんか覚えていないだろうけど。


「ねぇ、ヒロシはどんなのが好き?」


 最初に見たのはオヤツのコーナー。

 数年前とは違い、今では人間のオヤツと見比べても遜色ない程、色取り取りなペットフードが並んでいた。


「そうだねぇ………最近はコレを買ってあげてるかな?」


 そう言って彼が手に取ったのは『ちゅっちゅ』と言うスティック状の袋が幾つか入った商品。

 パッケージを見てみると、どうやらコレは上の部分を切って、出てきた半液体のオヤツを猫に直接ペロペロしてもらう趣旨の様だ。



「すっ……すばらしっ……!」



 私は感動して口元を押さえて蹲み込んだ。



「ぇええっそんなにっ!?」

「あっちでは猫と触れ合う機会もあまりなかったから……た、耐性が……」

「ご、ご近所さんは誰も飼ってなかったの?」

「ふっ……あなたには分からないかもしれないけどね?都会は……寂しいところなのよ」



 確かに都会はお金さえあれば大概の物は手に入るし、何処にでもいける。

 だけど、道行く人々は冷たく、誰かが倒れていても視線を動かすだけで誰も手を伸ばしたりしない。

 ご近所付き合いなんて殆どなかった。

 と言っても、少し都心から外れればそんなこともないようだけれど。

 自然も少なく、目に見えるのはいつも濁った空かコンクリートの塊。



 何より……猫を見る機会が殆どない!

 多分だけど、都会では室内飼いが普通なのだろうか。



「でも、そんなに猫が好きなら……そうだ、確か都会の方には『猫カフェ』があるんじゃない?」


「私は接待する様に調教された猫に興味はないっ!」


「あっ……はい」



 もちろん猫カフェに行こうと考えなかったわけではない。

 でも、どうも私的にどうも猫カフェの猫よりも外で気ままに暮らしている猫が好きらしい。



「それじゃオヤツはコレにして…………ヒロシはまだミルク飲んでる?」

「うん、毎日牛乳を飲んでるよ」

「牛乳?アレって体に悪いんじゃなかった?」

「そうなの?うーん、今まで普通に飲んでいたから分からなかったけど……ボクが気がつかなかっただけなのかな?」



 あれ、子猫用に加工していない牛乳が影響を与えるだけで、猫用ミルクも牛乳からできているのかな?

 とにかく、ここに置いてあるミルクはなんら問題ないでしょう。


 私は手に持った物をレジに持って行ってレジを済ませた。









 帰宅路に着く。

 と言っても向かう先はダイゴくんの家。


 でも……私も昔はこの道を通って帰っていたんだなぁと振り返る。

 だって、お隣に住んでいたのだから。



「この辺も変わったね」

「うん、三年くらい前からかなぁ。町おこしのために、道路や川沿いなんかが舗装されてねー」



 雰囲気自体はかわっていない帰り道。

 でも、時折記憶にはない建物や道があり、幼い頃に遊んでいた空き地はコンビニになっている。



「そう言うエリちゃんだって変わったよ」

「えっ?」

「うん……すっかり綺麗になったよね?」



 そうだ。

 ……この男は昔からそうだった。

 何に対しても素直な子。

 嫌いな物はハッキリと拒絶するし。

 好きな物はちゃんと好きだと言っていた。



「髪もスラっと長くなったし……あっ、身長は縮んじゃった?」

「アナタが大きくなったのっ!」



 素直すぎるのも偶に傷、だったかな。

 でも、そんな彼が一緒にいたからこそ。

 ヒロシと、ダイゴくんと遊んだ日々が輝いて見えたのかもしれない。


 今の今まで忘れていたのに…ね。





「正直、寂しかったよ。エリちゃんが引っ越すって聞いた時は」




 ポツリ、と彼が声を漏らす。



「うん……思い出した。『行かないでーっ!』って最後まで泣いてたよね」

「そ、そこは忘れてよーっ」

「思い出しちゃったんだから仕方ないじゃない」



 二人並んで歩く。

 その距離は、さっきよりも近い。





「エリちゃん……ボク、あの時伝えられなかった事、今言っていいかな?」


「ふぇっ!?」





 顔を上げると、そこには真剣な表情をした……男の子。


 これはもしや……告白っ!?


 まって、いや、そりゃ嬉しいし、イケメンだし、話してみたら昔とあまり変わらない性格でよかったともおもったけど!




「あっ……そ、それは……ひ、ヒロシと遊んだ後に聞こうかなーっ」




 誤魔化してしまった!

 ごめんね、ダイゴくんっ!


 でも、ヒロシと早く遊びたいのも本音なのーっ!




「えっ、でも今…」

「あー、早くヒロシを撫でてあげたいなぁっ!」

「そっ、そんな…もう子供じゃないんだよ?」

「いーのっ、私にとってはいつまでも可愛い存在なんだから」

「…………」

「そうだ、ケータイ機種変更したから今はないけど……昔のヒロシの写真、私のパソコンの中に沢山入ってるんだ!」

「えぇっ!?」



 あれっ、そんなに驚くことかな?

 まぁ、今日まで忘れてた人間が何言ってんだって思わなくもないけど……。



「あるあるーいっぱいあるよーっ!私、ヒロシ大好きだったからね!一緒に住みたいとすら思ってたもん!」

「……っ!?」


 私も猫が飼いたかったけど、お母さんが猫アレルギーなんだよね……。


「そうじゃなきゃ毎日会いに行かないって……あっ、ここだよね、佐原家!」




 誤魔化し続けていると、そこには7年前と少しも変わらない佐原家が見えた。

 そして………



 玄関先で、気持ちよさそうにゴロゴロ転がっている一匹の……猫!



 間違いない。




「うわぁぁぁぁ久しぶりぃっ!」




 寝ているのもお構いなしに、私は猫を撫でた。



「大きくなったねぇ………あっ首輪も変えたんだ!名前も……ん?」




 私は首輪に施された刺繍をよく見る。



 てっきり『H』で始まると思っていた頭文字は…………




『D』




 DAIGO




 そう書かれていた。







 まさか。



 ゆっくりと顔を上げると、そこには顔を真っ赤にした彼の姿。



「あの………()()()……くん?」


「………なに、エリちゃん?」


 答えたのは………猫ではなく、イケメン。








 逆だったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああっ!!?









 人間と猫の名前を勘違いして……わ、私はなんてアホなことをっ!?

 で、でもでも、いきなり思い出してきたんだし、情報が混乱するのも仕方ないって言うかぁっ!




「ごっごめんなさいっ!私、とんでもない間違いを……」



 必死に頭を下げるが、最早手遅れか、以前彼は顔を真っ赤にしている。



「………わかったよ、エリちゃん」



 ()()()くんは私の肩にそっと手を置き、言った。




「ありがとう、ボクもエリちゃんの事が大好きだったんだ!」




 ………えっ。




「確かにボクは……エリちゃんにとってはまだまだ可愛い存在なのかも知れないけど、頑張って男を磨いていくよ!」



 いや、外見だけで言えば既にトップを狙えそうなレベルなんですけど!?



「背を伸ばそうと思って牛乳を飲み続けてたけど……体に悪いなんて知らなかったよ」

「いや、あれは猫が……」



「で、でも、いくらボクに男らしさが足りないからって、撫でたりとか……小さい頃の写真とかはやめてよぉ…」




 それ、全部猫のことですからぁぁっ!

 ってかさっきまでの会話……私、ヒロシくんにとんでもない事を言ってたぁっ!?




「エリちゃん!」


「は、はいっ!」




「ボク、頑張ってエリちゃんに見合う彼氏になれる様に努力するから……これからもよろしくね!!」



「………………はい」






 赤坂英里奈、17歳の夏。

 自分には有り余るほどのイケメンが彼氏になった上に、更にイケメンになれる努力をする事を約束されました。














「……久しいな小娘。我はダイゴ。ヒロシに有らず…精々我が主人に釣り合う様、精進せい……」


「えぇっ、ダイゴ喋れたの!?声渋っ!!」



 どうやら、ヒロシとダイゴとの付き合いは長くなりそうです……

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