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Tale:Dragon,tears    作者: 黒餡
三章 聖魔闘争都市《クロンヴァレン》〜囚われのフィーム・シュヴァリエ〜
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91話 神代の遺物

「あ、見えて来たよ」


 先頭で地図を広げるクレハが声を上げながら前方を指差した。

 細い指先を追って視線を向けると、立ち並ぶ木々の向こうに石造りの建造物らしき物の一部が視界に入る。

 間もなくして、その全容が見えた。

 かなりの大きさだ。

 所々が苔や蔓に覆われた石造りのそれは、五角錐のピラミッドの様な形状をしている。

 

「これはまた、随分デカいな」


 空を突く様に聳える巨大な古代の異物を前に、カインが口走る。

この手の建造物には良くある事らしいが、この遺跡は四方に立つ巨大な石柱を基点に、巨大な結界に覆われていたらしい。

 今は無効化されているその結界によって、今まで発見されなかったと言う。

 規模は此方の方が大きいが、以前詩音がヴィクターと共に潜った遺跡と同じ様な物だろう。

 周辺の探査は事前に済んでいると言う話なので、一同は早速内部を調べる事にした。


「あ、そうだ皆」


 複雑に石を積んで作られた入口の前で詩音は振り返って妖精達に声を掛けた。


「全員これを着けて」


 そう言って詩音が取り出したのは、先日馬車の中でクレハ達に見せたイヤホン型の通信用魔術具だった。


「これがあれば、多少離れていても互いに話が出来るから」


 一人一つずつ、計七つ取り出した物の一つを摘み上げ、実際に自分の耳に装着しながら説明する。


「横のボタンを押しながら喋れば、この端末を着けた人全員に声が届くから。でも、同時に複数人が声を入れようとすると混線して上手く届かなくなるから注意してね。それと、有効範囲は自分の端末を中心に半径五キル程度だから、そこも気を着けてね」


 注意事項を聞いてから、全員が端末を装着する。

 

『あー、あー』

『うわ、本当に聞こえる』

『便利ね、これ』


 早速、クレハとシャルロット、そしてシーナの声が端末から流れるのが聞こえた。


「ミユは付けれないから、僕達から離れない様にね」

「クゥ」


 子狼形態のミユが頭上から元気の良い返事を返してくる。

 その傍らでシーナが辺りを見渡しながら口を開いた。


「で、あと二人来るって話だったけど、見えないわね」

「だね。まぁ予定より少し早く着いたし、少し待ってみよっか」


 同じくクレハも周りに人の気配が無い事を確認しながら返す。

 と、シャルロットがそれに対して言葉を返した。


「だったら一度中の方確認しといた方が良くない?

先に入ってるかもだし」


 尤もなその意見に全員が同意する。

 全員準備に不足が無い事を確認し終え、一同は早速眼前に聳える古代の遺物へと脚を踏み入れた。


 ■

 

 石材で作られたアーチを抜け、短い通路を抜けた先には広大な空間が広がっていた。

 どうにもチグハグな光景だ。

 広い空間中の彼方此方に扉や先の見えない通路の入口が散らばっており、その他にも何処からも登れそうにない、或いは何処にも繋がっていそうに無い階段が入り組む様に張り巡らされている。


「凄いな」

「何か見てるだけで感覚狂いそう」


 エリックとシャルロットがそうぼやく。

 他の妖精達も同じ感想の様だ。

 

「奥の方までこの調子なら、一度迷ったら二度と出られない、なんて事もありそうだな」

「大丈夫だよ。今回はシオンも居るし」


 不吉な考えを口走るカインだが、全幅の信頼を寄せて来るクレハがそれを一蹴した。

 その時だった。


「これはこれは、随分と遅い到着だ」


 不意にそんな声が、近いて来る足音と共に聞こえて来た。

 全員が声のした方、暗い闇の中へと伸びる通路の方に視線を向けると、間もなくして二つの人影が姿を表した。

 

「金剛級冒険者と聞いていたが随分と鈍ま、いや、のんびりとした連中の様だ」


 先と同じ声。

 豪奢な鎧に身を包み、緩く波打つ金髪を背中まで長く垂らした青年は、言葉の上では独り言の様に、しかし明らかに此方に向かってそう言い放つ。

 と、それに対してもう片方の薄い赤毛をオールバックにした青年がニタニタとした笑みを浮かべて応じた。。

 

「仕方ありませんよ、カドニエル殿。最高位と言っても、所詮は冒険者と言う括りの中での話。規律や規則とは無縁の日々を送っていては、時間などを気にすると言う考えすら浮かびますまい」

「それもそうだなウルタース。少々高望みが過ぎた様だ」


 カドニエル、そしてウルタースと呼び合った二人の青年は嫌味な笑みを浮かべたままに、此方に歩み寄って来る。


「お初にお目に掛かる。私はエグニカス伯爵家長子にしてオルネクライブ王国立騎士団第四士団第六位騎士、カドニエル=ハーバ=エグニカスだ」

「同じくアイバーン伯爵家長子にして第四士団第七位騎士、ウルタース=ハルブルク=アイバーンだ。我々の事は組合の方から聞いているだろう?」

 

 どうやら、役員の言っていた追加の二人とは彼らの事らしいが。

 傲岸不遜。

 そんな言葉がぴったりの二人だ。

 貴族階級の者らしいがカドニエル、ウルタース、双方とも明らかに此方を見下している。

 妖精達も当然その事を理解しているらしく、全員が不愉快そうに僅かに表情を歪める。

 が、それを口にする者はおらず、

 

「丁寧な挨拶痛み入ります。カドニエル殿、ウルタース殿。お待ちさせてしまったようで申し訳無ありません」


 一歩前に出たクレハが代表としてそう返す。

 別に此方側が指定された時間に遅れた訳では無いが、この手の輩には下手に反論しても仕方がない。

 軽く全員が挨拶と自己紹介を済ませると、再びカドニエルが口を開いた。

 

「いやしかし。冒険者との共同任務と言うからどんな野蛮人の世話をせねばならんのかと戦々恐々の思いだったが、見かけだけでも杞憂だった様で安心した」


 そう言ってすっと対峙するクレハの方へと手を伸ばした。 

 骨張った肢の様な指がクレハの顎に触れ、無理矢理に視線を合わせさせると、


「この件がかたずいたら、共に食事でもどうだろう? 良い店を知っている」


 明から様に下心の滲んだ声音で口説き始めた。

 

「あ、えっと……」

「無論その様な所は不慣れで不安だろうが、案ずるな。私が手取り足取り教えてやろう」


 戸惑うクレハを余所に勝手に話を進めるカドニエル。

 流石に黙っていられないとエリックとカインが止めに入ろうとするが、それより速く。


「失礼」


 静かな声音と共に詩音が間に割り込み、カドニエルの腕を掴んでクレハから引き剥がした。


「なんだ貴様」


 明らかに不機嫌そうな声と表情で詩音を睨みつける。

 が、全く意に介さない態度で詩音は意見する。


「仮にも仕事の場です。卑俗な行動は慎んでいただけますか」


 クレハを庇いながら真正面から言い放つ。

 

「この私が卑俗だと!? 平民風情が!」


 余程詩音の発言が癪に障ったらしくカドニエルは明らかに語気を強め、詩音の手を振り払おうとする。

 が、


「ッ!?」


 カドニエルの腕を掴む華奢な白い手はびくともしない。


「これ以上は、ご自身の品位を下げかねません。どうかこの辺りで」

「貴様! カドニエル殿に対してっ」


 カドニエルの隣から口を挟むウルタースだったが、唐突に言葉を区切った。

 詩音は何もしていない。ただ、フードの下から僅かに覗く双眼で無言のままに両者を睨みつける。

 それだけで両者は喚く口を閉ざす。

 自身らより頭一つ分小さい詩音から伝わる圧に圧倒され、揃って一歩退いた。


「_____ッチ!!」


 詩音が腕を離すと、心底憎々し気に舌を打ちカドニエルを視線を逸らして距離を取った。

 ウルタースもそれに続いて詩音から離れる。


「ありがとう、シオン」


 ぼそっと彼らに聞こえない様に呟いたクレハに「気にしないで」と同等の声量で返した。

 これ以上駄弁っていると騎士二人が他のメンバーにも手を出しかねないので、早い所探索を始める事にした。


「さて」


 視界の彼方此方に点在する数多の通路や扉を見渡しながらシーナが呟く。


「何処から探れば良いのやらね」

「その辺の通路と扉は先に我々で調べ見たがどれもハズレだ。行き止まりか此処の戻ってきてしまう」


 不機嫌さのにじみ出る声音ながらカドニエルが情報を共有してくる。

 一応はこれが仕事であると言う自覚はあるらしい。


「とりあえず次は階段を片っ端から上ってみるぞ。どれかは上に続いてるだろう」


 そう言って近くの階段に向かうカドニエルと、当然の様にそれに続くウルタース。

 が、


「無駄ですよ」

 

 短く、そして冷淡に詩音がそう告げた。


「無駄だと? それはどう言う事だ?」

「考え無しに上を目指す限り、この遺跡を踏破する事は出来ません。時間の無駄です」

「貴様! 先ほどから貴族(我々)に対して無礼が過ぎるぞ!」


 先ほどより距離が離れているからか、ウルタースが声を荒げて糾弾してくるが、詩音はそれを無視して彼らとは逆の方へと歩き始めた。

 そして、五メートル程移動した所で片膝を着いた。


「シオン君、そこに何かあるの?」

「うん」


 問い掛けに、詩音が短く応じるとアリスは数秒黙考してから言った。


「もしかして、下?」


 その答えに、カドニエル達に対しての時とは比べ物にならない柔和な声音で応じる。


「正解。今僕達が居るこの場所は全体で言えば氷山の一角に過ぎない。上を目指したところで何の意味もない。_____これか」


 そう言って、詩音は床に敷き詰められた掌大の石材の一つを五指の先端で掴んだ。

 隙間なく並べられているかと思われた石材の一部は意外な程すんなりと引き抜かれる。

 直後、引き抜いた場所から他の石材たちが一斉に崩れ始め、床の一角に長方形の穴が現れた。

 湿った空気が流れだすその穴はまるで奈落の底に通じているかの様に底が見えず、地上の床と繋がる様な形で下へと延びる階段が設けられている。

 唖然とする騎士二人を余所に、詩音は平然とした表情で妖精達の方を振る返る。


「さあ、行こうか」

 

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