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Tale:Dragon,tears    作者: 黒餡
一章 異界妖精郷村《フェルヴェーン》〜憧憬の六芒星〜
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7話 悪意の進軍

 警鐘は里中に鳴り響いた。

 音源は里を守護する防壁。見張りの者が鳴らしている。


「何があった?」


 アルトは屋敷の者を呼び出し問い掛ける。

 

「敵襲です。里の北側より(オーガ)の軍勢が侵攻しております」

(オーガ)だって!?」


 侵攻者の名前を聞いたクレハから驚きの声が上がる。

 詩音は(オーガ)が何なのか分からず反応に困りながら、脳内で《HAL(ハル)》システムに解説を頼んだ。


『A (オーガ)は高い知能と戦闘能力を持った魔物です。群れの中で最も優れた者をボスとして、他の者が服従する完全順位制の生態をしています』


 得られる情報は少なかった。詩音のもと居た世界では、大柄で凶暴、そして残虐な性格をした人肉を好む化け物という扱いだったか。

 何にせよ面倒事になりそうな雰囲気である。


「少し様子を見てきます」


 そう言って詩音は屋敷の外へ出ると背中に二対の翼を広げて浮上する。高度五十メートル程度まで上昇し、北の方角へと視線を向けると、それは見えた

 

「あれか………」


 森の中を里に向かって進攻してくる一群。数は一万を少し超える程だろうか。まだ距離があるため一体一体の姿は明解には確認出来ない。隠れる気など毛頭無いと言わんばかりに歩を進めて来る。

 

(あの数………それにあの行進は………)


 そこまで確認したところで下から名前を呼ばれた。


「シオン!」


 視線を向けると、屋敷から出てきたクレハが詩音を見上げていた。その後ろにキリハ、族長夫妻も続いて出てくる。

 地上に下り、詩音は知り得た情報を伝える。


(オーガ)は真っ直ぐこの里を目指してます。数は一万余り。距離と進攻速度から到達まで二時間程かと」

「そうか。既に兵士や戦える者は皆迎撃準備を始めている。だが……」


 アルト族長は苦々しい表情を浮かべて言葉を切る。


「現在のこの里の戦力は?」

「………正規の兵士が約千三百人。里に帰省中の冒険者が百人程滞在している」


 合わせて約千四百。残りは鋼死病にかかり戦闘には参加できないという。


「数的戦力差は歴然、か………」


 そう呟いた時、詩音達のもとへ駆け寄る一団があった。


「クレハ!」


 それはアリスを先頭とした妖精の皆だった。全員軽鎧や武器を身に付け、戦仕度を整えている。


「アリス、皆」

「皆さんお揃いで。状況は全員知ってるってことか」


 詩音の言葉に全員が頷き、その先の説明の必要は無くなった。


「よりにもよってこんな時に襲撃なんて、ツイて無いわね」

「いや、こんな時だからだと思うよ」


 シャルロットの言葉を詩音が否定する。


「鋼死病の蔓延は、多分あいつ等が関係してるんじゃないかな」

「タイミング的にそう考えるのが自然だな。気になるのはこれだけ強力な呪いを行うだけの魔力をどこから………」


 カインが詩音に同意しながら顎に手を添えて考え込む。

 が、直ぐに今はそれどころでは無いと居直る。


「俺達も里の防衛に加わる事にした。クレハ、お前はどうする?」 

「勿論、ボクも戦うよ」


 エリックの問いにクレハは即答で返す。

 その様子を端から見ていた詩音にアルトが口を開いた。


「シオン君。里を守るのに力を貸しては貰えないか?」

「はい?」

「正直、今のこの里の兵力は万全とは程遠い。少しでも戦力が必要だ。勿論、礼は相応のものを用意する」

「相応のもの、ですか」


 詩音は一度、妖精達の方を見遣る。皆一様に同じ目をしている。己の故郷を、家族を、友人を守って見せるという強い目だ。

 休息など取れていないだろう。

 それでも全員が、確かな覚悟を持って戦いに挑もうとしている。

 その覚悟と大切なものを守りたいという思いを読み取った上で詩音は、


「お断りします」


 助力を断った。

 一瞬、その場の全員が黙り込む。


「………理由を聞いてもいいか? シオン君の力量ならば(オーガ)程度、簡単に掃討出来るのでは?」

「それは買い被りが過ぎると言うものですよ、族長。僕は自分の力を満足に扱えないどころか、その全てを把握すら出来ていないんです。自分の事も儘ならない状態で、来たばかりの里の為に戦いに身を投じる気にはなれません」

「………そうか。では、この後はどうするつもりだ?」

「敵は北から来てますし、南側から脱出しようと思います。先程話した報酬は、そうですね……後日里が健在であったなら受け取りに来ます」


 そこまで言い切ると再びアルト族長は口を閉ざし、小紫色の瞳でじっと詩音を見つめてから、


「分かった。………世話になったなシオン君。里を守ってくれたこと、竜鱗を提供してくれた事、改めて感謝するよ」

 

 優しく微笑みながらそう言った。そこに憤慨、失望、嫌悪の類いは一切感じられない。


「シオンさん、それなら急いだ方が良いわ。時間が有るとは言えないから」


 言われて、エイリスに視線を移す。

 クレハによく似ているその顔に不満の色は無く、族長と同じ純粋な微笑みを浮かべている。


「はい。すぐにでも里を出ます」

 

 そう答えてから、詩音はクレハとその後ろに立つ妖精達を見た。


「そう言う事だから、悪いねクレハ」

「ううん。今まで助けてくれただけで充分過ぎるよ。シオン、ありがとう」

「世話になったな、シオン。ありがとよ」

「シオンちゃん。本当にありがとう。どれだけ感謝してもしたり無いわ」


 クレハに続いてカイン、アリスが感謝の言葉を述べ、


「あんがとね、シオン」

「短い間だったが本当に助かった。また次に会ったら、酒でも奢らせてくれ」


 シャルロット、エリックがにっこりと笑い、最後に、


「………世話になったわね」


 とシーナが小さな声でボソボソと言った。

 不満の一つ二つ飛んでくるだろうと予想していた詩音は、その反応に内心驚いたが、それを表に出すことも無く踵を返す。


「それじゃあ……またね」


 最後に背中越しにそう告げて、詩音は里の南門に向かって歩き始めた。

 丁寧に鋪装された道を数分進んだところで一度、自分でも何故そうしたのか分からないまま詩音は振り向いた。遠退いた族長宅の前には、もう妖精達の姿は無かった。


  ★

 

 (オーガ)。 

 大柄で屈強な肉体を持ち、額に角を生やした魔物。数は少ないが気性が荒く、殺戮を好むこの魔物は単体での戦闘能力は森でも屈指の高さを持つ。

 知能は高いが本能的。力はあるが技術は無い。

 そんな化け物が総勢五千体強。妖精族の里を目指して進軍する。

 蹂躙する為に。殺戮する為に。



「キリハ。全員の準備が整った。何時でも出陣()られるよ」


 クレハの報告を受け、キリハは小さく頷くと、一度眼前に整列する兵士及び冒険者達を見渡してから口を開いた。


「今回の指揮は私が取る事になった。皆、先のデスグールとの戦闘で疲弊している事だろう。しかし、既に(オーガ)は目前まで迫っている」


 よく通る凛とした声で全員に聞こえるようにはっきりと声を上げる。


「先行した者の報告では、残念ながら戦闘は避けられないだろうと言う事だ! つまり、ここで戦わなくては帰る場所を失う事だ! 敵の数は此方を上回る。苦しい戦いになるのは間違いない! しかし、奴等に我らの故郷を好きにさせる訳にはいかない! 何としても(オーガ)共を退け、里を守る!」


 強く、確かな覚悟と誓いを宿し、声高らかに宣言する。それに応え、集いし戦士達が己の武器を掲げ、雄叫びを上げた。


『おぉぉぉ!!!!』


 戦士の総哮が空気を揺らす。その意志は皆同じ。

 『己等の大切なものを守る』

 迫る軍勢は圧倒的。しかし、怯む者は一人も居ない。昂る戦意に恐怖は掻き消され、仲間との信頼に不安は霧散する。


「此度の戦は私達も里を守る為に参戦する!(オーガ)共に我らの里を襲撃した事を後悔させてやるぞ!」


 キリハの隣にエイリスと共に立ったアルト族長の言葉が、戦士達の士気を限界までに跳ね上げる。

 本来ならば里の長が前線に出るのは余り褒められた事ではない。しかし、この二人の場合話は別だ。

 二人は共に卓越した剣の使い手として、かつては多くの国々に名を轟かせた剣士。その実力は里の長となった今でも他の妖精や他国の騎士の追随を許さぬ程。

 

 現時点でのフェルヴェーンにある全ての戦力が出揃い、士気は最高潮に達した時。


「いくぞ!」


 キリハの声を合図に、戦士達は戦場へと歩を進めた。

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