65話 双子の依頼
金木犀の月。前の世界では九月に当たる初秋の時期。
「呼び出しなんて言うから、何事かと思ったら……」
午前中だと言うのに、あいも変わらず活況この上無い組合の建物を出るや否や、詩音はフードの下でそう呟いた。
その手には一枚の書類が握られている。
内容は『先日の盗賊団壊滅の際の功績を評し、平時の素行等も加味した結果、冒険者組合ユリウス支部は水晶級冒険者 キリサキ・シオンに紅玉級への昇格試験を受ける資格有りと判断した。
よって、下記された日時までに受験の意思の有無を組合に報告すべし』
と、要約するとこの様な物だ。
早い話が昇格試験を受けれる様になったから、受けるかどうかを報告しろという事だ。
レンレン曰く、盗賊団壊滅の功績に加えて、匿名の槍使いの金剛級冒険者からの推奨があり、更にはクレハ達が自分達の依頼に詩音が協力した際の詩音の戦果を組合に逐一報告していたらしく、それらを統合的に評価した結果とのこと。
決め手になったのは金剛級冒険者による推奨らしく、匿名希望というその冒険者が『詩音は技量人格共に金剛としても申し分無し』と太鼓判を押したのだとか。
「匿名希望の槍使いって、隠す気ゼロじゃん………」
匿名が匿名の意味を無していない赤い槍使いの不敵な笑みを思い浮かべる。
悪意の類いが一切無いだろうと思われるだけに言いにくいが、正直詩音からすればありがた迷惑である。
昇格試験を受ける受けないは任意であるのがせめてもの救いか。
そう思いながら小さく溜め息を一つ溢して、書類を丸めてコートに仕舞った詩音の前に。
「おう、こんな所に腰巾着が落ちてやがる」
唐突に、三人の男が立ち塞がった。
男達の顔に見覚えはない。
中央に立つ男は長身で体躯も良く、何処か野生の熊のような雰囲気を纏っており、背には幅広の両手剣を背負っている。
後の二人、痩せた長身の弓使いと恰幅の良い|片手斧使いは、両脇に従う様に立っている。
──腰巾着?
男の発言に詩音は辺りをキョロキョロと見渡すが、巾着の類いは落ちていない。
「え、もしかして僕の事?」
「たりめぇだ。他に誰がいるってんだ」
当然だと言わんばかりに男は肯定する。
「えーと、出入りの邪魔………って訳じゃないですよね。何か用ですか? って言うか腰巾着ってどういう……」
「言葉通りの意味だよ。何時も何時も妖精達に引っ付きやがって。あいつ等も堪ったもんじゃねぇだろうよ、こんな足手纏いが居たんじゃな」
会って早々酷い言われようである。
──ああ、これ面倒くさいやつね……
「用が無いのであれば失礼します。この後少し予定があるので」
男達の意図を察した詩音は、早い所この場を離れようと男達を避けて歩き出そうとした。
しかし、三人組はその離脱を許さず、一歩横に動いて再度詩音の前に立ち塞がる。
「おいおい、連れない事言うなよ。良いじゃねぇか少しぐらい」
三人組のリーダーらしき大剣を背負った男はそう言って詩音に一歩詰め寄り、その間に残る二人が詩音を取り囲む。
「此処じゃなんだ。ちょっくら一緒に話そうや。なぁに時間は取らせんさ」
此方を見下しながらそうほざく男の顔には下卑た笑みがでかでかと張り付いていた。
◆
表通りから少しばかり外れた薄暗い路地でバキッと言う鈍い音が鳴り響く。
頬を強く殴られ詩音の身体が壁に叩き付けられる。
「ふん。低ランクの雑魚が」
壁に凭れ掛かる詩音のコートの襟首を左手で引き寄せながら男は不機嫌さ全開の表情で言葉を吐く。
その後方では、げひた笑みを浮かべて連れの二人が控えている。
「聞いたぜぇ。手前、紅玉級昇格の推薦を受けたらしいじゃねぇか。一体どんな汚ねぇ手使ったんだぁ?」
「…………」
「黙ってねぇで……何とか言えやっ!」
二度、男の拳が詩音の頬を殴り付け、詩音は地面に倒れ込んだ。
「────」
詩音は何も言わない。反論も反撃もせず、それどころか目深に被ったフードの下の蒼い瞳は男達を見てすらいなかった。
「あの妖精達に護って貰わねぇとなんもできねぇのか、腰抜けが」
何の抵抗もしない詩音の態度が気にいらないのか、男は声を更に荒げながら地に伏す詩音の横腹を蹴り上げる。
「───」
「お前見たいな腑抜けが調子こいてんじゃねぇーよ!」
再び詩音の襟首を掴み上げて、更なる拳打を加えようと男は右腕を大きく振りかぶった。
その時だった。
「あんた達何やってるの!」
背後から聞き覚えのある声がした。
男達は一斉に声の方に視線を向け、そして叫んだ。
「シ、シーナっ!?」
そこには緑の外套を纏った栗色の髪の少女が立っていた。
右手に大振りの弓を握り、翡翠色の瞳で男達を睨み付けるその様からは、下手をすれば直ぐにでも矢を放って来そうな程の圧が感じられる。
「シオンを離しなさい!」
シーナは強い語気のまま三人組に言い放つ。
男は一、二秒ほど行動に悩む様に唸ると、詩音を乱暴に突き放すと踵を返し、盛大な舌打ちを残して足早に表通りの方へと駆けて行った。
「ちょ、親分!」
「待って下さいよ!」
連れの二人も、逃げ出したリーダーを追い掛けて大慌てで走り出す。
男はその巨体に似合わぬ逃げ足の速さで瞬く間に二人の視界から逃げ仰せ、残る二人もそれに勝るとも劣らぬ速さで消え去った。
三人全員の姿が瞬く間に見えなくなると、シーナは何処か安堵した様に息を吐く。
だが直後にハッとして詩音へと駆け寄る。
「シオン、大丈夫!?」
起き上がるのを補助しようとするシーナに詩音は、
「ん、ああ、平気平気。助かったよシーナ」
何事も無かったかの様な態度で応じて軽やかな動作で立ち上がる。
「平気って、口元血が出てるじゃない。ちょっと見せて」
シーナは詩音を半ば強引に近くに積まれた木箱の上に座らせると、白銀の髪と顔を覆い隠すフードを外した。
フードの下の詩音の頬は殴られたダメージにより赤く腫れており、唇を切ったのか、口元からは少量だが血が垂れていた。
元々肌が白いせいで腫れと流血の赤みがより強調されている。
「ちょっと待って、直ぐに手当てを」
いそいそと腰のポーチに手を伸ばす。
だが、詩音は平然とした口調でそれを制する。
「大丈夫だよ、このくらい」
「このくらい、じゃないわよ。痕が残ったらどうするの。って言うか、何時もの反則じみた耐性はどうしたのよ」
「本当に平気だって。耐性スキルは切っておいたんだよ。殴った相手の方が一方的に拳を砕かれるってのは不自然でしょ。この程度なら直ぐに治るし。ほら」
シーナの叱咤を押し留め、詩音は軽く指先で自身の頬を撫でた。
途端に、肌に浮かんだ赤みが目に見える速さで治まっていく。物の一、二秒で怪我は何事も無かったかの様に消失し、元のシミ一つない肌へと戻った。
「竜種の回復力ってのは、本当に便利な物だね」
「あのねぇ……治ればいいって物じゃ………」
「まあまあ、良いじゃん良いじゃん」
へらへらと笑いながら宥めて来る詩音にシーナは盛大にため息を吐くと、腰に手を当てて言った。
「それで、何で何の抵抗もしなかった訳? シオンならあんなの束で来てもどうとでもなるでしょ?」
「うーん、まあ、それはそれで面倒だからね。殴って相手の気がすむなら勝手に殴らせとけばいいかなって」
その解答にシーナは再び声を上げそうになったが、寸でのところで押し留め代わりに先よりも更に大きなため息を吐き出した。
「シオン、あなたは全く……」
怒りか呆れか、その両方か。シーナは呆れ果てたというような視線を詩音に送る。
この少年は本当、あの手の連中に無抵抗を通して、単純な暴力だけで済まされると本気で思ってるのだろうか。
今回はフードで顔がバレなかったから良かったものの(いや、勿論良くはないのだが)、もし素顔を見られていたら、あの男達が変な気を起こしていてもなんの不思議もない。
自身への関心が薄い性格だとは思っていたが、薄いどころかほとんど無関心ではないか。これではいずれ本当に、単純な暴力以上の仕打ちを受けてしまうかもしれない。
「あんた、これからは絶対一人で人気の無い場所に行っちゃ駄目よ」
「え、何で?」
「何ででも! 裏通りとか行くときは絶対に誰か、できればカインとかエリックとかと一緒に行動しなさい!」
「いや、だからどうし」
「分かったっ?」
「は、ハイ、ワカリマシタ」
シーナのあまりの気迫に思わず敬語で応じてしまう詩音。
──まあ、素直に従いはしないでしょうけど、この手の性格の奴は。後で皆にも言っておかないと。
内心で全く信用していないシーナを他所に、未だに納得出来ていない様子の詩音は僅かに間を挟んでから
「…………シーナの方こそ、大丈夫?」
と、心配気に尋ねてきた。
「え、私? 何で?」
「……………ううん。何でもない。助かったよ本当。ありがとう。でも、何でこんな裏手に?」
「買い物帰りよ。近道しようと思ったら、騒いでるのが聞こえたから気になって。まさかシオンが居るなんて思いもしなかったわ」
「なるほどね」
詩音は木箱から腰を上げて先ほどシーナが立っていた場所に目を向ける。そこには確かに薬やら矢の材料やらが詰め込まれた袋が落ちている。
当然の様にその袋を持ち、詩音はシーナの方に視線をやった。
「手間取らせて悪かったね。早い所帰ろうか」
◆
数分後、表通りへと戻った詩音、大半の冒険者が依頼やら狩りやらに出払って。ほんの少しだけ静かになった街道をシーンと肩を並べて歩く。
「この薬なら僕の部屋に常に貯蓄してあるから必要なら何時でも待って行ってくれていいよ」
抱えた買い物袋の一番上で顔を覗かせる薬液を指して詩音は言った。
「え、そうなの? 入荷するまで一週間待ったのに……。本当、その辺の薬屋よりよっぽど品揃えが良いわね。シオンの部屋って」
「まあ僕は自分で作ってるからね。商売目的でも無いし」
暫く他愛ない会話をしながらホームに向かって歩いていると、会話の途切れたタイミングでシーナが心配そうな声音で言った。
「……さっきみたいな事って、結構あるの?」
「ん? あぁ、まあ、ね。ちょっかい掛けられる事はちょくちょくあるかな。流石に、今日みたいなあからさまなのは初めてだけど。まあ、僕みたいなぽっと出の奴にうろちょろされたら良く思わない連中も出てくるのも当然だよね」
自嘲気味な言葉。しかし、それを口にする詩音の表情は変わらずへらへらとした笑みが張り付いている。
「何か対策とかは?」
「うーん……まあ、別に必要ないかなって。これと言って実害があるわけじゃ無いし」
──まあ、流石に他の皆にまで何かあったら何とかするけど。
「実害が無いなんて、どの口が言うんだか。…………一度皆と《クラウン》を結成するかどうか話し合ってみようかしら」
「軍団を?」
《クラウン》とは、一人の軍団長、《レギン》と呼ばれるリーダーを中心に冒険者達によって結成される組織の総称である。
一時的に誰とでも組める一党との違いは、Bランク以上のみ結成、加入が可能である事や結成には組合の承認が必要という事、活動の内容を定期的に組合に報告する必要がある等があるが、最も大きな差異は、有事の際には組合の指示の元、優先的かつ半強制的に魔物の出没地や災害地区に駆り出されるという点である。
それはつまり、ある程度組合の管理下に置かれるという事で、自由気ままを良しとする冒険者の中にはそう言った束縛を忌避する者も少なく無く、クラウンの数は冒険者全体の数に対して決して多くは無い。
尤も、クラウンには組合からそれ相応の優遇や援助があるので、結成自体は決して悪い事ではないが。
「何で急に?」
「私達がクラウンを組んでそこにシオンが正式加入すれば、誰も文句言えないでしょ。ランクだってシオンなら直ぐに上がれるだろうし」
確かにそうかも知れない。
妖精達の作ったクラウンに妖精達の承認のもと詩音が加入すれば、周囲が認める認めざるはともかく、少なくとも行動を共にする正当な理由が付与される。
これまでの様に詩音の存在を快く思わない連中も、クラウンの一員であるとい事実があれば、それを盾に如何様にも反論ができる訳だ。
目下の問題の解決案としては、限りなく最適解に近い提案だ。
だが、
「うーん……正直、反対かな」
対する詩音の返答は、否定的だった。
「どうして?」
「いやね、クラウンを作る事自体に対してなら僕から口出しするつもりはないけど、その作る理由が僕にあるってのがねぇ……。別に今も面倒ではあるけど、そこまで困ってる訳じゃ無いし」
妖精達が己等の意思でクラウンを作るというのであれば、詩音は基本的にそれに何かを言う事は無いし、何かを言う権利もない。だが、その根幹に詩音自身が居るというのであれば話は別だ。
クラウンを作れば今までの様な自由な活動はできない。規則や規律によって縛られた組織として活動する事になる。
それは自由の剥奪。彼ら彼女らの意思の束縛だ。
詩音の問題を解決する代償に、妖精達が縛られるなどあってはならない。
「困ってない? さっき思い切り絡まれて無かったかしら?」
「そう、絡まれてた。ただそれだけだよ。別に何か盗られた訳でもなければ、後を引くような怪我もしてない。結果的には殆ど無害だったと言っていい」
「またあんたはそんな事言って……」
ジトりとした視線が突き刺さる。
そして、何かを言おうとシーナが口を開きかけた時。
「シオン!」
背後から名前を呼ばれ、詩音はシーナと共に振り返った。
そこには赤毛の少女が立っていた。無論、その少女の事を詩音は知っている。
「やあ、レイナ。久しぶりだね」
「や、やっと、見つけた」
少女、レイナは肩で息をしながら言葉を絞り出す。その様子はどこか緊迫している様に見える。
「何かあったの?」
何事かと思い詩音が問い掛ける。だが、レイナが応える直前で、
「レイナー!」
今度はレイナの後方の方から声が飛ぶ。
見るとレイナと同じ赤い髪を短く切り揃えた少年がレイナの後を追うように此方に駆けてくる。
「はぁはぁ、やっと追い付いた……」
「レオル遅いわよ!」
「そんな事言ったって……。レイナが弓とか放り出しちゃうから……」
叱咤を苦言で返す少年、レオルは自前の直剣と円盾に加えて木製の短弓と矢筒を背負っている。
詩音達よりも一回り幼い彼からすれば、相当な重しだろう。
「シオン、この二人は? 知り合い?」
言い合う二人を見ながらシーナが訊ねてくる。
「ああ、うん、レイナとレオル。以前にちょっとね」
手早く姉弟の紹介を済ませると、詩音は両の手をパンっ! と打ち鳴らした。
その音にビクリと体を跳ねさせてレイナとレオルは口論をやめて詩音を見る。
「で、二人ともどうしたの? 何かあったんじゃないの」
「そうだった。シオン、お願い助けて」
「?」
唐突なその言葉に詩音は小さく首を傾げる。隣では同様にシーナも形の良い眉を潜めていた。
■
「で、助けてってのは?」
直ぐ近くの偶然目に入った花壇の塀にレイナとレオルを腰掛けさせ、《STORAGE》から取り出した果実水の小瓶を手渡しながら詩音は二人の話を詳細を訪ねる。
応じたのは弟のレオルだった。受け取った小瓶から中身を一口煽って呼吸を整えてから説明を始める。
「それが……僕達街の外れにある《ギラの森》に依頼で薬草を取りに行っていたんです」
「ギラの森? 確かあそこって水晶級以上、場所によって紅玉級以上推奨の区域じゃなかったっけ」
詩音が指摘するとレイナが慌てて補足する。
「ちゃんと水晶級の冒険者の人達と一緒に行ったわよ。私達は荷物持ちとかの雑用係として連れて行って貰ったの。それにそんなに奥まで行って無いわ。私だって流石に前ので懲りたわよ」
「そっか。ごめん、続けて」
詩音が促すとレオルが頷いて話の続きを語り出す。
───それで、無事目的の薬草も手に入ったから森を出ようとしたんです。
でも、いざ帰ろうとした時に突然、《大黒蛇》が現れたんです。
突然の事で、皆混乱して他の冒険者の人達は尻尾で纏めて吹き飛ばされてしまって…………。
もう駄目だ、って思った時に僕とレイナの前に何処からとも無く黒い犬?いや狼かな?
多分狼の子供だと思うんですけど、それが現れて大黒蛇の前に立ち塞がったんです。
それで、その狼の頭の上に何か黒い塊みたいな物が現れて、それを見た黒大蛇は何故か大慌てで逃げ出したんです。
黒い塊が何か解らないけど、多分その狼が出した物だと思います。
その子が僕達を守ってくれたんです。
でも、良く見るとその子、お腹の辺りにすっごく大きな怪我をしていて、血が沢山出てたんです。
凄く弱ってるって見ただけで分かったけど、僕達回復薬なんて持っていなかったし、あんな大きな怪我の手当てのやり方なんて誰も分からなくて。
それで、とりあえず街に連れ帰って組合の人に相談しようって事になってその子に近付いたんです。でも、抱き上げようとしたらその子暴れ出しちゃって。
一緒にいた冒険者の人が引っ掛かれて、皆が驚いた隙に森の奥に逃げていっちゃったんです。
「ふーん、手負いの動物ねぇ」
「それで、私とレオルで追いかけようとしたんだけど、引っ掛かれた人に「あんなの放っとけ」って言われて。皆、あの子に助けて貰ったのに…………。でも、森の奥は危険な魔物とかもいるから私達だけでって訳にも行かなくって。それで、とりあえず街に戻って来て誰かもう一度一緒に森に行ってくれる人を探したんだけど、忙しいからとか予定があるとかで誰も相手にしてくるなくて」
「それで僕の所に来た訳か」
レイナとレオルが揃って首肯する。
「まあ、確かにあの辺りは危ない魔物も多いし、奥に入って行方不明になった人の話も時々入ってくるものね」
隣で話に耳を傾けていたシーナが呟く。
「あのままじゃ、あの子多分死んじゃうわ」
俯き、悲しげな声音でレイナが呟く。
その様を見た詩音は暫く押し黙った後に小さく溜め息を吐いた。
「分かった。一緒に行こう。あの森なら何度か入った事あるし」
「本当!」
「いいんですか!?」
「うん、実物を見て見ないとはっきり言えないけど、大抵の怪我なら対処できるだろうし」
詩音が同伴を了承すると、二人は勢いよく腰を上げてそれぞれの言葉で詩音に礼を言う。
「と、言う訳で。悪いねシーナ、皆には少し出てくるって伝えといて」
「あら、私も行くわよ」
当然とばかりにシーナは応えた。
詩音の口から「え?」と、驚きの声が漏れる。
「話だけ聞いておいて私だけ何もしないで帰る訳ないでしょ」
「でも、シーナだって予定とかあるでしょ。僕と違って金剛級冒険者な訳だし」
「残念。今日は予定無しの全くの自由。ちょうどどうやって過ごそうか迷ってた所よ。都合良く武器も手元にある事だし」
そう言って背負った弓をポンポンと叩く。
「…………はぁ。分かったよ。それじゃ、手伝って貰おうかな」
今度の溜め息は先の物よりも少しばかり重々しかった。
こうして、唐突に降って沸いた案件に、詩音はこれまた唐突にシーナとコンビを組み、挑む事になった。




