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Tale:Dragon,tears    作者: 黒餡
二章 篇首拠点市街《ユリウス》〜異彩なる世界〜
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47話 妖精達の閑話

「ねぇ皆、シオン知らない?」


 ホームの広間を覗き込みながら、寛ぐアリス達に向かってシャルロットが訊ねた。

 

「そう言えば見てないな」


 刀の手入れをしながら、カインが「何処行ったんだ?」と首を傾げて、自分達が依頼の無い日はほぼほぼ一緒に居る白衣の人物の姿を探す。


「シオンなら、今日は知り合いの冒険者と少し出掛けてくるって言ってたよ」


 答えたのはアリス、シーナと共にテーブルを囲って雑談を楽しんでいたクレハだった。


「知り合い? 誰だ?」


 初耳だったのか、ソファで本を読んでいたエリックがクレハへ問い掛ける。

 

「ヴィクターだよ。今この街に滞在してるって言ってたでしょ」

「ああ、あいつか」


 ヴィクターと面識のあるエリックは紅の外套を羽織った野生動物の如き槍士の姿を思い浮かべた。

 すると、手入れの手を止めたカインが、テーブルの方を振り返り口走る。


「ちょい待て。シオン何時の間にあいつと知り合ったんだ?」

「何でも、初めての依頼の時に組んだ冒険者の中にあの人の妹が居て、その縁で知り合ったらしいわよ」


 シーナがポットから新たに香り立つハーブティーをカップに注ぎながら応じると、カインは何処か複雑な表情を浮かべて「そうか……」と呟いて刀に向き直った。

 再開した手入れの所作からは、気のせいか少しばかり落ち着きが無くなっている様に見えた。


「そっか……。いないのかぁ」

「シオン君に何の用があったの?」


 アリスン聞かれてクレハは「別に大した事じゃ無いんだけどね」と言いながらエリックの隣に腰を下ろした。

 

「この前また変わった武器作ってたから、見せてほしかっただけよ」

「あ、あの鉄砲の事?」


 同じく詩音が武器を作っていた事実を知るクレハが尋ねるとシャルロットは頷いた。


「シオン、あのデッカイやつ以外にも作ってたんだ。あの銃、弾の速さも威力も弓より断然上だけど、撃った時の反動が結構きついのよねぇ」

 

 思い出す様にシーナが口走ると、その発言にクレハが食付いた。


「え、シーナあれ撃ったの? て言うか貸してくれたの?」

「ええ。危ないからってずっと傍で見てたけど。クレハは断られたの?」

「あ、いや……なんか壊したり傷つけたりしたら悪いから、貸してって頼み辛くて」


 そう言ってクレハは苦笑を浮かべる。


「私の時は割とすんなり貸してくれたし、帰ってきたら頼んでみたら?」

「うん。聞いてみる」


 そんな二人のやり取りを聞いて微笑みながら「怪我には気をつけてね」と注意してから、アリスが「それにしても」と呟いた。


「シオン君って変わった事知ってるよね。武器もそうだし、見たことも無いお菓子とか料理とかも色々してるし」

「でも多芸かと思ったら、妙に世間知らずなところもあるし。確かに、不思議なやつよね」

 

 そのは発言にシャルロットは同意しながら「ごめんアリス。私にもお茶頂戴」とアリスに頼む。

 「はいはい」と返事しながらアリスは戸棚からカップをカインとエリックの分も合わせて三つ取り出し、それぞれにハーブの香りが心地良いお茶を注ぐ。


「はい」

「どもども」

「カインとエリックも」

「お、ありがとよ」

「悪いなアリス」


 礼と共に受け取ったカップを三人は早速口許に運ぶ。


「あんまり深く考えてなかったけど、シオンって何者なんだろう?」


 ハーブティーの余韻に浸りながらシーナはぼそりと呟いた。

 その言葉にその場の全員がそろって考え込む。


「ふーむ………。本人は竜だとか人間だとか、曖昧な事言ってたよな」

 

 整備を終えたか太刀を組み立て、鞘に納めながらのカインの言葉にシャルロットが相打つ。


「言ってたわね、そんな事。世間知らずなのは、竜だから仕方ないのかもね」


 笑いながら全員がなるほど、と納得の意を示す。

 そして、シャルロットの隣でカップを片手にしたエリックが、ぼそっと一言。

 

「しかし、そもそもだが竜であり人でもあるとはどう言う意味だ?」


 何処か核心めいた言葉に、再び全員が思案顔になる。


「竜自体は時々人里にも現れるし、昔話の類いの常連だが、余り人に友好的な話に覚えが無いし、人の姿を取ると言うのも聞いた事が無い」

「そう言えば……そうね。クレハは、何かそう言った感じのお話聞いた事ある?」


 アリスがクレハに話を振る。

 そうした理由は、この面子の中でクレハが最もお伽噺話や神話と言った冒険鐔を好み、かつ詳しいからだ。

 腕を組み、己の記憶を探る様に思索する仕草を見せるクレハ。

 やがて、「そう言えば……」と口を開く。


「人になるってのはボクも覚えがないけど、小さい頃に、竜が人と一緒に神代の神様達と戦う、って感じのお伽噺話をお母さんから聞いた事がある」

「へぇ、私は初耳だわ」

「あたしも」

「右に同じ」


 アリスもシーナもシャルロットも、初めて耳にした内容らしい。

 エリックとカインも互いに「知ってるか?」と顔を見合わせて首を横に振る。


「確か物語的には、《神代聖戦(ラグナロク)》の話なんだ」

「あぁ、神代の神々が人々を滅ぼそうとして起きた人類と神との戦争か」

「うん、それ。大抵の神話や御伽噺では神様は皆人類に敵対してたってなってるだけど、このお話では、神様達の中でも人を滅ぼすのに賛成する派と反対する派に別れたんだ。で、さっきの竜もその反対派だったから人々と一緒に神様達と戦うって話。ボクが初めて母さんから聞いたお話なんだ」

「ふーん。じゃあひょっとして、シオンってそのお話に出てくる神様だったりして」


 シーナが冗談交じりに呟くと全員が一瞬黙り込み、次いで口を揃えて、


「「「「「ないないないない」」」」」 


 と首を振った。


「シオンは神様なんて感じじゃないでしょ」


 シャルロットが自身の想像の中の神と詩音を比べながら笑いと共に言った。

 そして、それに補足する様に隣でシャルロットも口を開く。


「神様よりもお忍びで飛び出して来た何処かの国のお姫様の方があいつにはお似合いよ」


 シーナも口に出しはしたものの本気でそう思ってはいないようで「そうよね」と二人の言葉に同意する。


「でも、だとしたら本当に詩音って何者なんだ?」


 カインの言葉で疑問は振出に戻った。

 

「少なくとも竜としての位は下位や中位には収まらないと思うけど」

 

 考察の角度を変えた呟きがアリスの口から零れる。

 

「でもそれ以上の階位の竜なんて、それこそ神話の中の存在よね」


 シャルロットの指摘に三度、全員が数秒間の沈思に陥った後、シーナが何か思い当たったらしき声を上げる。


「そう言えば、ギルズ山脈に住んでるって言う竜もかなり位の高い存在じゃ無かったっけ?」

「ああ、《ギリズの竜神》の事か。確かにあれは半ば神格化されていたな」


 エリックがそう応じ、次いでクレハに訪ねた。


「クレハ、どうだ? お前はギルズ山脈の竜を見たんだろ? 」

「うーん…………全体的な雰囲気は良く似てるんだ。シオンの竜も洞窟で見た竜も白くてとっても奇麗で。でも、同じ竜では無いと思う。洞窟の竜の方がシオンのよりも大きかった様に思うし。それに、ギルズの竜神は世界で最初に魔法を生み出した魔女と一緒に神代の戦争を終わらせた、なんて言われてるんだ。それが本当なら、それこそ何千年も前から居る事になるよ」

「あぁ………じゃ、この仮説もボツかぁ。流石に何千歳って事は無いでしょうしね」  


 若干残念そうに、シーナは肩を落とす。

 そして、そのまま誰一人納得のいく仮説を上げる事が出来ず、


「なーんか、無駄な思考してる感じがして来たわ」


 答えの出ない思考にシャルロットが匙を投げた。

 テーブルに突っ伏して小さく唸るその様子に小さく微笑みを零しながら、エリックが発言。

 

「確かに無駄だな。ここでどんなにあれこれ話あったところで答えは俺たちにはそれが正しいのかどうかを断じる事は出来ない。深く考えても仕方がない」

  

 どれほど考えを巡らせようと、その考察の正否を証明する術はこの場の誰も持ち合わせていない。

 どれだけそれらしい答えを提示しようと、それは可能性の域を出ない妄想でしか無いのだ。

 エリックのその言葉で「それもそうか」と、各々無理に答えを探すのをやめる。

 

「もう帰ってきたら、本人に直接訊いてみる?」


 自分で無駄と言っておきながらも、やはり真相が気になるのかシャルロットはダメ元と言った様子で発案する。

 だがそれに対してクレハが、


「訊いて話してくれるかなぁ。シオンって明らかに訳ありみたいだし……」


 と言う意見を示した。 

 確かに、元々訳あり気で謎の多い人物だからこの会話が始まったのだ。素直に答えてくれると思うかと聞かれれば、シャルロットは口を紡ぐしかない。

 

「結局は、訳の分からない謎な奴って事ね」


 シャルロットとは違い、完全に考える事をやめた様子のシーナはそう締めくくった。

 と、それを聞きながらカインは、


(でも一番謎で訳分かんねぇのは、あの容姿(見た目)で男って事だと思うんだがなぁ)


 と密かに心の内で呟くのだった─────


  ◆

 

 ────一方その頃。


「くちゅんっ」


 草木に覆われた森の中。

 フードの下で詩音は小さなくしゃみを一つ。

 すると、隣を赤い外套を纏った槍士が可笑し気に言った。


「随分可愛らしいくしゃみだな。風邪でも引いたか?」

「いや、体調は万全な筈だけど……。誰かに陰口でも叩かれてるのかな」

「悪く言われる心当たりでもあんのか」

「あり過ぎてどれの事か見当が着かない程度には」


 答えると槍士、今回の任務の相棒ヴィクターは「くくっ」と笑い声を零す。


「まぁ、あの嬢ちゃん等と居る時点で周りの嫉妬のタネは尽きないわなぁ。はははっ」

「……笑い過ぎだよ……。そろそろ盗賊団が目撃された区域に入るんだから、笑い声で向うに気取られるなんて事の無いようにね」

「ああ、わぁってるよ。シオンの方こそ、くしゃみで気付かれねぇように注意しろよ」

「もう……。言われなくてもそんな間抜けな失敗はしないよ」


 軽口を叩きながらも二人は周囲への警戒を厳にしたまま森の奥へと踏み込んで行った。

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