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Tale:Dragon,tears    作者: 黒餡
二章 篇首拠点市街《ユリウス》〜異彩なる世界〜
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18話 ユリウス

 《オルネクライブ王国》東部の街 《ユリウス》

 別名《冒険者の街》と呼ばれる街に詩音が抱いた印象を一言で言うとすれば『陽気』だろうか。

 高い建物の少ない小綺麗な街並み。行き交う人々の無数の足音。あちこちから飛び交う商品の宣伝文句。

 よく見れば街を歩いているのは人間だけでは無い。

 クレハ達のような妖精族や頭に獣の耳を生やした獣人のような種族等の姿が人混みの中にちらほらと確認できる。


「……賑やかな街だね」


 詩音が感想を述べると隣の長身の地妖精(ノーム)、エリックが小さく笑った。  


「よく言えば賑やかだが、悪く言えば騒がしい街だな」


 その言葉に「確かに」と小さく笑いを溢して同意する。


「さてと、取り敢えずホームに戻って一息つこう。シオンも里からユリウスまでずっと飛びっぱなしで疲れたでしょ」


 そう言ってクレハが一歩前に立つ。

 フェルヴェーンの里からユリウスの街までは、通常徒歩で十日程掛かるらしいのだが、今回は白竜形態に変容した詩音が全員を背に乗せて移動した為一日で街に到着した。

 正確には詩音が皆を運んだのはユリウスの手前約二十キロ───この世界の単位で二十キル───の地点までで、そこからは徒歩で辿り着いた。


 妖精達に続いて、詩音は街路を歩く。

 ユリウスの街は確かに騒がしく、落ち着きが無いが、詩音は寧ろその喧騒さが何処か心地良かった。

 心境的には、お祭りの人混みの中に居る子供のそれに近いかもしれない。

 無駄にテンションが高く、楽しげな雰囲気。

 騒がしいのは好かないが、この街の在り方に対しては、さしたる嫌悪を抱きはしなかった。

 のだが───。


「…………………」


 陽気な街並みを進むに連れて、


「…………………」


 周囲の人々の視線という視線──特に男性のもの──が自身に向けられていると、詩音は感じた。

 最初は前を行く妖精達の事を見ているのかと思った。

 クレハやアリス、シーナにシャルロットの四人は誰もが認めるような美少女だし、カイトとエリックもまた誰もが羨む美青年だ。

 こんな美男美女の集団が居れば、注目されるのは当然だ。

 しかし、どうもそうでは無いらしい。

 一部の視線は確かに彼らに向いているが、大部分は詩音を捉えている。


 そして、詩音に目を向けている人々は皆、


『なぁ、あの妖精の一団の中の銀髪の娘可愛くないか』 

『ああ。声掛けてみようかな』

『止めとけ止めとけ。あれは高嶺の花ってやつだ。俺らじゃあ見向きもされねぇよ』

 

 と、詩音を女性だと勘違いし、その容姿に見惚れていた。

 だが、当の本人はと言うと、

 

(やっぱり、美男美女の集団の中にいたら悪目立ちするんだなぁ)


 等と見当外れの結論を導き出しため息を溢していた。

 詩音は自身の容姿が女っぽいと言う事を一応理解してはいるが、その認識はあくまで「女っぽい」という程度。

 自身の見た目に周囲の男性が見惚れているなど露ほどにも思っていない。


「ん? シオン、どうかした? やっぱり飛びっっぱなしで疲れた?」


 そんな詩音の様子に気付いたシャルロットが少し心配げに訪ねて来た。

 それに反応して皆が詩音を見る。


「あ、いや大丈夫。ただ、なんだか僕、変に目立ってるみたいで」


 そう言うと、シャルロット達は周りを軽く見渡して「ああ……」と妙に納得したように呟いた。


「皆シオン君の事が気になってるんだよ。銀の髪もこの辺りじゃあ珍しいし」


 とアリスが言うと、


「ああ。この髪が目立つのか。………面倒だし、この辺りで切っちゃおうか」


 と、詩音は自身のうなじの辺りを指して言った。

 元々、成り行きで伸ばしていたに過ぎない髪だ。切ったところで惜しくは無い。

 

 しかし、断髪発言を聞いたクレハ達からは、


「え、勿体ないよ」

「せっかく綺麗な髪してるのに」

「そうよ。それにシオンその髪型似合ってるじゃない」

「私も……そのままの方がいいと思う、かも」


 四者四様に反対の意見が飛んで来た。

 

「え、あ、うん」


 その勢いに若干気圧されながら詩音は小さく頷く。

 しかし、切るのが駄目となるとどうしたものか。必要以上に目立つのは詩音としても避けたい。

 

 数秒間考え込んだ後、詩音は一つの妥協案を実行した。

 羽織っている純白のロングコートの襟足部分を《(アーマー・オ)(ブ・ドラグーン)》の能力でフード状に変形させ、髪をコートの中にしまい込んでからフードを目深に被った。


「これならまだマシかな」

「隠しちゃうの?」


 クレハの残念そうな声。


「このくらいはさせて。あんまり目立ちたくないから」

「むぅ、惜しいなぁ」


 そんなこんなしている内に目的地のホームに辿り着いた。

 二階建ての少し大きめの建物で一階は小洒落たカフェを思わせる外見をしている。


 クレハが腰のベルトポーチから銀色の鍵を取り出して、木製の扉の鍵穴に差して回すと、カチリという歯切れのいい音が鳴った。

 鉄製の取っ手が引かれ、ぎぃっと左右に開く。


 妖精達が「ただいまぁ」と言いながら中に入った後、詩音は「お邪魔します」と言って中に踏み込む。


「ようこそ、ボク達のホームへ」


 外と同じく、ホームの中はクラシックなカフェを思わせる内装。

 左右の壁際に設けられた二つのカウンター。五人程が腰かけれそうな長椅子が二つと、それと同じくらいの長さのテーブル。


 右側のカウンター付近の壁には綺麗に磨かれたロングソードや円盾(バックラー)等の様々な武器が掛けられており、左側のカウンター付近にはガラスのケースに入った何かの骨や鱗、毒々しい色の植物等が並べられている


「右が前に言ったあたしの店で、左がエリックの素材屋よ」

「へぇ。なんかいいなぁ。優しい雰囲気がする」


 建物の内装を見わたしながら詩音は言った。


「気に入ってもらえて良かったよ。これからシオンも一緒に暮らす訳だからね」

「うん。暫くの間お世話になるよ」


 このクラシックで、それでいて何処かアットホームな雰囲気を漂わせる妖精達の家が、これから暫しの間詩音の活動拠点となる。

 具体的には何らかの稼ぎ口を見つけ、安定した収入が得られるようになるまでの間。

 一応、あてはある。

 クレハ達がやっている冒険者という職業だ。専門の組合(ギルド)から依頼を斡旋して貰い、それをこなして報酬を貰う。

 詩音もその組合に登録して冒険者として活動するつもりだ。

 暫くの間は主にそれで活動資金を稼ぎつつ、この世界の事を探って行く。

 そして、出来れば自身がこの世界に来た理由と原因を調べ、元の世界に帰る方法も模索する、というのが大間かな詩音の方針である。

 

「シオン君、部屋に案内するから着いてきて」

「あ、うん」

「皆も早く荷物類を自分の部屋に片付けて来てね」

「「「「はーい」」」」

 

 アリスの言葉に皆が声を揃えてそれぞれ返事をしてから一度解散した。

 

  ◆


「これがレッサーリザードの鱗だ。こいつらは強くはないが大きさの割りに素早くてなかなか捕まらないんだ」

「へぇ」


 他のメンバーより早く荷物の片付けを終えた詩音は、同じく一足早く荷物を片付けたエリックから素材の解説を受けながら時間を潰していた。

 ケースから取り出された五百円玉程の大きさの橙色の鱗を摘まみながら詩音は興味深げに声を上げる。


「鎧や盾の強化の素材として人気の商品なんだ」

「確かに、固さの割りには軽い。防具にはもってこいだね」


 そんな会話をしていると、


「お待たせー」


 というクレハの声。

 振り替えると二階に通じる階段からクレハを先頭に皆が戻って来た。


「それじゃ、組合に行ってシオンの冒険者登録しに行こっか」

「うん」


 シーナの言葉に頷いて、詩音はコートのフードを被り外出の準備を整える。


「時間も早いし、なんなら登録してそのまま依頼を探してもいいかもね」

「そう言えば、依頼ってどんなのがあるの?」


 ホームを出て扉に鍵を掛けるクレハの背後で訪ねる。

 

「色々あるよ。薬草の採取、魔物の討伐、商人の護衛」


 アリスが指折りに依頼の種類を数える。 


「他にも遺跡の調査てのもあるぞ」


 カインがそう付け加えると、


「行方不明者を探して欲しい、何てのもあるわね」


 シーナがそれに続いた。

 まさに多種多様。ありとあらゆ種類の依頼が組合には届くらしい。


「ま、何はともあれ登録をしないことには始まらないし、早いとこ組合に行って済ましちゃいましょう」


 シャルロットがそう締めくくり、詩音が頷くと妖精達は組合の建物がある街の中心を目指して歩き始める。

 詩音もその後に続いて、喧騒賑わう街並みを進んだ。

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