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Tale:Dragon,tears    作者: 黒餡
三章 聖魔闘争都市《クロンヴァレン》〜囚われのフィーム・シュヴァリエ〜
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111話 毒婦の魔手

 騎士達に拘束されたクレハが連行されたのは、クロン・ヴァレンの中央に聳える王城だった。

 城につくなり、騎士達は姿を眩ませ今はユウカ=ヴァルトニスだけがクレハに付いている状態である。

 それに伴い、騎士の鎖による拘束は解かれ、今は小さな手錠がクレハの両手の自由を封じている。

 そして、ただ一人となった騎士に連れられて暫し歩き、行き着いたのは何やら変わったな部屋だった。

 途中、階段を降ったので、恐らくは城の地下に作られているのだろう。

 重厚な扉を開いた先に現れた部屋は、かなり広く薄暗い。

 全体の形状縦に長い長方形をしていて、天井が異様に高い。

 壁際には構造上は不要であろう柱が等間隔に並び、その柱一つ一つに月の光の様に冷たい灯りを灯した魔術ランプが備えられている。

 荘厳的な雰囲気を宿しながらも、室内に家具や設備らしき物は見当たらず、ただ入口から真っ直ぐ突き当たった壁側に儀礼的な見た目の祭壇が設けられていた。

 そこまでを確認した所で、ユウカがクレハの両手に付けられた手錠に手を伸ばした。

 鍵を穴に差し、小気味良い音を立てて錠が解かれる。

 完全に拘束が解かれ、クレハは訝しみながら騎士の顔を見る。


「奥へ」


 そう短く促され、クレハは数秒ほど騎士の顔を伺ってから歩を進める。

 その歩幅に合わせてユウカも並歩する。

 部屋の最奥に突き当たると、祭壇に何やら陣の様な物が刻まれている事に気付いた。

 しかしそれは、よくある円形を基本とした魔術陣では無く、長方形を一本の線で左右対象になるように区切り、縦長に分けられたそれぞれの長方形内に無数の文字や模様を描いた異様な物だった。


――――なんだコレ? まるで、扉みたい…………


 そんな事を思った時だった。


 静寂に満ちていた室内に足音が響く。

 一つでは無い。


 二人分の足音が冷えた空気に乗って聞こえてくる。

 クレハが音のした方に視線をやると、柱の影に隠れる様に設けられた通路からゆっくりと二つの人影が姿を現した。

 簡素な黒衣を身につけ、その上から殆ど黒に近い濃紺色の外套(ロングコート)を羽織った男。

 外見の年齢は二十代後半と言った所か。

 削いだ様に尖った、それでいて気品と威厳がある顔立ちで、その佇まいからは厳格そうな雰囲気を感じると同時に、どことなく生気の薄い印象を受ける。

 細身かつ長身なその男は灰色の双眼で真っ直ぐにクレハを見詰めてくる。

 何処か学者然とした雰囲気を感じさせる男に対して、その左後方に着いて歩く人物からはこれと言った特徴を見取る事は出来ない。

 その人物は全身を隙間無く白銀の鎧で覆い、同じく白銀の兜で頭部を丸ごと隠しているからだ。

 身長は男よりもやや低くく、ユウカよりかは高い。

 純白のマントを揺らして男と同じ速度でクレハの方に歩み寄る。


「よくぞ御出でになった。妖精の姫君」


 見た目に相応な低く、それでいて良く通る声。

 数歩手前で立ち止まった男はそう語りかけてくる。


「手荒い対処を取ったが、事が事であるが故に容赦願いたい」

「………あの、貴方は?」

「申し遅れた。私はキースクリスト。特務機関十三の(ラウンド)円盾(・ナイツ)(おさ)を国王より任せられた者だ」


 キースクリストと名乗った男は簡潔な自己紹介を述べ、次いで言った。


「此度は貴嬢に無辜の民の命を奪ったという罪科の疑いがあり、身柄を拘束させて頂いた」

「お言葉ですが、自分はその様な事は」


 冷静に、弁明を口走る。

 が、クレハの言葉が終わる前にキースクリストは更に続けた。


「無論、貴嬢にも言いたい事はあるだろう。だが、この場でどれ程弁明したとて意味は無い」

「……………」

「誤解しないで貰いたいが、これは貴嬢の言葉に耳を貸さぬと言う訳では無い。この場には紡がれる言葉の真偽、既に起きた事の真相。それらを判別出来るだけの人も資料も無い。それ故に、この場での発言に意味は無いのだ」


 そう言われ、クレハは言葉を飲み込んだ。

 確かにキースクリストの言う通り、この場にはクレハの弁明を審議する者は居ない。

 言葉が音以上の価値を持たない。


「解って貰えたようだな。此方も準備でき次第相応の場を設ける。それまでは言葉を胸に秘め、お待ち頂きたい」


 キースクリストがそう言い終えた直後。

 クレハの背後で部屋の扉が重々しい音を立てて開いた。

 視線をやると、そこには黒いお仕着せを纏った持女らしき若い女性が二人並んで立っていた。

 持女達は静かにクレハの元にまで歩み寄る。


「くれぐれも丁重に」


 キースクリストの短い指示に返答し、待女はクレハへと声を掛けた。


「クレハお嬢様、どうぞ此方へ」

「お部屋へご案内致します」

「ぇ、あ、はい」


 予想外な対応に戸惑いながらも頷き、クレハは二人の持女に連れられて地下部屋を後にした。


 ■


 先導する持女達に続いてクレハは城内を歩く。

 クレハの数歩後ろには見張り役としてかユウカが着いているが、先程の様に手錠等の拘束具は着けられていない。 

 流石に帯刀はさせて貰えず、愛用の漆黒剣エリュクシードは持女の片割れが丁寧に抱えている。


「此方です」


 先の部屋からそれなりに歩き、それなりの長さの階段を上がった先の部屋。

 その前で待女達は立ち止まった。

 絢爛な城に相応しい見た目の扉を二人で左右に開ける。

 扉の向こうには何とも豪華な内装の部屋が広がっていた。

 部屋数は一つだけのようだが、天蓋の付いた上等なベッドや革張りの椅子、机等が備え付けられた其処は人一人に宛がうには過剰な広さを誇っている。

 クレハ達が宿泊している宿はクロン・ヴァレンの中でもそこそこ上等な部類だが、それを遥かに上回る豪華さだ。

 それこそ、クレハの実家の客室と同等の水準である。


「これは我々が預かる」


 持女の持つ《エリュクシード》を指してユウカが言った。


「あぁ、やっぱり?」

「決して乱雑には扱わない。丁重に保管しておくので安心して貰いたい」


 愛剣と離されるのはやはり不安を感じずにはいられない。

 が、今のクレハの立場上仕方無い。


「必要な物があれば彼女等に言い付けて貰って構わない」


 ユウカのその言葉に持女達は揃ってぺこりと頭を下げた。


「室内での行動に関して、此方が制限を設ける事は無い。自由にしていてくれ。では、失礼する」


 そう言い残すとユウカは踵を返して退室した。


「お嬢様、既に夜も更けております。お休みになられますか?」


 ユウカの姿が見えなくなると、持女の一人がそう訪ねて来た。


「えっと、まだ少し起きてます」

「左様ですか。では、何かお飲み物でもいかがですか」

「いえ。ごめんなさい、少し一人にして貰えますか?」

「承知致しました。御用の際は、そちらのテーブルのベルをお鳴らし下さい」


 そう告げて持女達も部屋を後にし、豪奢な内装の部屋の中にクレハだけが残された。


「何か実家に帰った時みたいだなぁ」


 部屋の窓から外の様子を眺めながらそんな事を呟く。

 外は深夜の闇に覆われ、街の灯りがちらちらと煌めいている。

 そんな光景から目を離し、クレハは天蓋の付いたベッドに歩み寄るとその縁に座り込む。


――――一応ボクって殺人事件の犯人として捕まったんだよね………?


「思ってた扱いと違うなぁ……」


 天蓋を見上げながら、そんな事を呟く。


―――――それに聖騎士達の狙っていたみたいなタイミング………。やっぱりそう言う事なのかなぁ


 脳裏に例の屋根を駆ける人影を思い浮かべ、声に出さずに一人語る。


―――――だとすれば、まんまと誘われたって事だよねぇ………


 思考を纏め、倒れる様に仰向けにベットへと身を投げる。


「はぁ〜………軽率だったなぁ………」


 そう、少し大きめにぼやいた、その瞬間だった。


「あら、一人で反省会かしら?」


 自身以外誰も居ない筈の部屋の中から、自身以外の声がした。

 クレハは飛び上がる様に身を起こし、声と同時に出現した気配の方に向いた。


 豪奢な装飾の施された扉、その前に毒色の魔女が立っていた。


 痩せた背の高い女。


 歳は二十後半と言った所か。


 肌は白く、しかし何処か病的で。


 嫌らしく口角を上げる唇には赤々と発色する紅が塗られている。

 嗜虐的に細められた暗褐色の瞳は真っ直ぐにクレハの事を見据える。

 ウェーブの掛かった肩に掛かる程度の髪は重い濃紫こきむらさきで、それと同色のローブを纏っている。

 全体的に整った容姿だが、それを上回る毒々しさを放っている。


「あ、貴女は?」

「ふふ、私はネヴィア・エルナンディス。この城で王宮魔術師をしている者よ」


 ネヴィアと名乗った魔女は、笑みを浮かべたままクレハの元へ歩み寄る。


「貴女は私の事を知らないでしょう。けれど、私は貴女の事を良く知っているわ。ずっと見ていたもの」


 そう告げるネヴィア。

 粘着的な笑みを称えたその魔女に何故かクレハは背中を悪寒が這う感覚を覚えた。

 その直後、クレハの頭上、ベッドを覆う豪奢な天蓋から二本の鎖が落ちて来た。

 黄金色をしたそれらは耳障りな金属音を立ててクレハへと迫る。


「ッ!!」


 不意を突かれ、咄嗟に回避しようとしたが、一瞬間に合わず両手首を捕らえられた。


「きゃあっ」


 両手に纏わりついた鎖はクレハの身体をベッドの上に強引に引き摺り倒し、互いに捻じれ交わり一束に纏まった。

 必然、クレハの両腕もそれに引かれ、頭上で手首を交差する様に拘束された。


「っ――――」


 仰向けに倒れ込んだまま何とか拘束から抜け出そうと腕を捩っていると、不意に魔女がクレハの上に覆いか被さった。


「この瞬間を待ち佗びていたわ。初めて貴女を見た時から」


 赤々とした紅を塗った唇を歪めながら、女はクレハを見下ろしてくる。

 その意図が読めず困惑しながらも、クレハは毅然とした態度で暗褐色の瞳を睨み返した。

 やはり、殺人犯の疑いを掛けられている以上はこの場で何らかの尋問を受ける事になるのか、と考えた直後だった。


「ふふ」


 細い笑い声と共に、ネヴィアの手がクレハの胸元に触れた。


「――――ぇ」


 クレハの口から間の抜けた声が溢れる。


「な、な、なに! や、やめて」


 悲鳴を上げながらクレハは唯一自由な脚でネヴィアを引き剥がそうとする。

 が、その抵抗を魔女は空いた片手で軽く押さえつけた。


「!?」


 それは本来有り得ない事だ。


 黒妖精スプリガンであるクレハはその種族特性によって高い膂力を有している。

 幾ら不自由な体勢とは言え、この様な痩せた女の力で抑えられる筈が無い。

 否、例え大の大人の男と言えど並の者には不可能だろう。


「ふふ、驚いたかしら?」


 ネヴィアはほくそ笑みながら言葉を続ける。

 

「その鎖は貴女の膂力と魔力行使を封じる為に私自ら造った物よ。今の貴女は魔法も使えないし、自慢の筋力だって、ただの女の子のそれ。私でも簡単に押さえ付けられるわ」

「ッ!?」


驚愕するクレハ。

 その表情を愉快そうな目で見下ろしながらネヴィアはパチンと指先を鳴らした。

 すると、クレハの身に着けた黒のインナーとズボンが霞む様に消失した。


「え……」


 自身に起きた自体が理解できずにクレハは再び間の抜けた声を零した。

 消えた衣服はクレハの左隣に雑に置かれている。

 限定的な空間転移系の魔法だろうか。

 今やクレハは靴ブーツとハイソックスのみを着けた裸体の上からコートを羽織っているのみという状態だった。


「―――――――――ッ!?」


 漸く自身の格好を理解して、クレハは羞恥の余りに声にならない悲鳴を上げた。


「思った通り、綺麗な身体ね」


 晒されたクレハの裸体を舐める様に眺めながらネヴィアはそう言うと、まともに身動出来ないクレハの身体に覆い被さると、両手を胸元へと伸ばす。


「っ――――」


薄く、平坦にも近いクレハの胸をネヴィアの両手が、その感触を愉しむかの様に揉み解す。


「やめっ、離してっ!」


 身を捩り、必死に抵抗するクレハだが、ネヴィアはそんな物気にも止め無い。

 執拗に、粘着質な手付きでその身体を弄ぶ。


「ンッ………なんで、こんな事」

「ふふふ、言ったでしょう。貴女の事をずっと見てたって。監視を命じられて、最初は面倒としか思わなかったけど、貴女を一目見て気が変わったわ」


 魔女は耳元でそう囁き、ふぅ、と息を吹き掛けて来た。


「ひあっ………」


 こそばゆさにクレハは悲鳴を零して小さく身を跳ねさせる。


「私ね、貴女の様な()が大好きなの。その淡い金の瞳も、小さなの胸も、細い腰も、華奢な手足も、少年の様な活発さもとても可愛い。それにどこまでも純朴なその在り方がとても愛らしくて堪らないわ」


 そう言いながらクレハの身体を弄るネヴィア。

 覆い被さり、此方を愉悦に満ちた表情で見下ろしてくるその魔女に対して、クレハは言い様の無い忌避感と拒絶心を抱いた。


「さぁ、誰にも見せたことの無い貴女の身体を私に見せて。声を聞かせて。フフ、フフフフフフ」


 ■


「っ……ん……あ、ぅ………ん……」


 室内に響く押し殺した声。


「フフ、貴女も愉しんでくれている様で私も嬉しいわ」


 吊るされたクレハを背後から抱き締める様な体勢でネヴィアは耳うつ。

 そしてその両手はクレハの胸、細やかな膨らみの頂点で色付いた蕾を執拗に弄んでいる。

 指の腹で潰す様に転がし、かと思えば摘む様に責める。


「ん、あ、……ん」


 執拗なその刺激に、蕾はゴムの様な固さを宿し、その存在を主張する。


「た、愉しんでなんか、あっ」


 否定しようとするが、蕾を指先で捏ねる様に摘まられば、電流の様な痺れが全身を貫き言葉が詰まる。

 そして、弄ばれる内にクレハの身体は否応なく熱を宿し始める。

 特に熱は下腹部辺りに溜まり、クレハは切なげに両腿を閉じ擦り合わせる。


「あらそう? でも、身体は悦んでるわよ」


 その様目敏く捉えたネヴィアが、その言葉と共に右手をクレハの両脚、その交点へと這わした。


「ヒアッ!」

 

 触れられた瞬間それまでと比較に鳴らない痺れが身体を貫き、堪らずクレハは声を上げる。

 

「ほら、もうこんなになってる」


 ネヴィアの指先が艶めかしく動き、それに合せて室内に水音が響く。


「あ、やっ、だ、そら、だめぇ……」

「気持ち良い、でしょ? どんどん溢れてくるわよ」


 その言葉の通り、ネヴィアが指を動かす度に水音は大きくなり、クレハは身体を小刻みに震わせる。


「や、中、だめっ、や、めて、だめっあ、あぁ」

「フフ」


 ネヴィアは広角を吊り上げながら、左手でクレハの左脚を持ち上げると、右手の指先を更に深く、激しく駆動させた。


「あ、あァ、だめっ、深、いや、いやぁ、ぁ、あぁあぁ!」


 クレハは身体を弓の様に撓らせ、一際大きく震えた。


「あ、あぁ、はっあ………」


 瞳に涙を浮かべ、身体を小さく痙攣させながら息を荒げる。

 が、


「え!? いや、なん!」


 ネヴィアは止まらなかった。

 

「あ、いやぁ、だめっ今はだめぇ!」


 未だ余韻冷め止まぬと言うのに、ネヴィアは激しく指先を動かす。

 同時に左手で交点の上部で起立する蕾を摘み上げる。


「いや、だめっだめっ、あっまた、あっあああ!」


 吹き出す様な水音が室内で響く。

 

「あ、はははははは!!」


 狂喜の笑い声を上げるネヴィア。


「ああ、やっぱり貴女は最高よ! 最高に可愛いわ」

「はぁ、はぁはっ、あ」


 呼気を乱し、腰を痙攣させるクレハを見ながら、魔女は心底愉しげな表情を浮かべる。


「まだよ。もっと見せて。貴女の奥の奥まで暴かせて」


 ■


 どれ程の時間が経っただろうか。

 既に夜は明け、窓の外は明るくなっていた。

  

「ーーーーーーっ!!!!」


 絶頂を迎え、クレハは身体を撥ねさせる。

 最早、何度達したかも分からない。

 黒衣の外套を除く衣服の尽くを剥ぎ取られ、暴かれた裸体を弓の様に撓らせたクレハは、次いで糸が切れた様に脱力した。

 男を知らない身には過ぎた快楽に曝され続けたが為に、眠る様に意識が途切れたのだった。

 

「あら、もう限界なの? 初心な貴女には少し刺激が強かったかしら」


 ネヴィアは満悦の笑みを浮かべながら気絶したクレハへと語り掛ける。

 裸体を濡し、髪と外套を羽の様に広げてベッドに横たわるクレハの様は文字通りの妖精の様。

 外套だけを態々残しているのは魔女の趣向だ。

 黒の名を冠する妖精の姫君には、やはり黒い衣が相応しい。

 

「ふふふ、でも、気絶したくらいで休めるとは思わないでね」


 そう言ってネヴィアは尚も、色欲の熱で肌を赤らめて眠るクレハの身体に手を伸ばす。


「……ん」


 小さな乳房を触れば、先までの余韻もあってか、クレハは眠ったまま切なさ気に身を震わせて声を漏らす。

 魔女は発した言葉の通り、意識の無いクレハを尚も情欲に溺れさせようする。

 

 だが、


 軽く身体を撫でた所で、部屋の外から扉が叩かれた。


「王宮魔術師殿」


 聞こえて来たのは男の声。

 城に常駐する一般騎士の物だ。


「何かしら? 今、とても忙しいのだけれど」


 淡白に問い掛ける。

 しかし、その声の裏にはもし下らない理由でこの時間を邪魔したのであれば、扉の向こうの騎士には死んで償わせようと言う考えがあった。


「工房にて、魔力実験体が暴走しているとの報告がありました。キースクルフト統括官より早急に対処されたしとの事」

「……………………っち」   


 魔女は舌打つ。

 確かに早急に対処しなくてはならない案件だ。

 ネヴィアは最後にクレハを横目で見ると、


「分かったわ。直ぐに向かいます」


 そう言ってベッドから降りた。

 

「まだまだ遊びたかったけど、続きは後の楽しみに取っておきましょう」

  

 そう、自分に言い聞かせる様にぼやきながら、クレハの唇を親指の腹で軽く撫でる。


「それじゃ、またね。お姫様」


 最後にそう言い残して、ネヴィアは部屋を後にした。


 ■ 


 太陽はとうに彼方の地平へと沈み、再びの夜が来た。


―――――全く、無能ばかりなんだから


 ネヴィアは部下達の事を声に出さずに罵る。

 魔力実験体の暴走。

 その対処に予想以上の時間を取られた。

 自身以外に対応出来る者が居ないからと工房に籠もらざるを得なかったのだ。

 部下の使えなさに内心で苛立ちながら、ネヴィアはクレハを幽閉している部屋へと向かう。

 部屋に近付くに連れ、内心の苛立ちは収まり、それを上回る愉悦への期待が湧き上がる。

 今度こそは誰にも邪魔はさせない。

 あの無垢な少女を自身の手で堕とす。

 それを想像するだけで、達してしまいそうな程に昂ぶる。

 

――――――あの無垢な少女を淫らな性奴隷にしてやろう。

 処女を奪う、等と言う無粋な真似はしない。

 あの娘は純潔こそが至高なのだ。

 故に、処女のままだ。

 乙女であるなら、一生乙女のままに、その身体を犯し続けるべきだ。

 強制的な快楽を延々と与えてやろう。

 決して絶頂に至れぬまま延々と焦らし続けてやろう。

 切なさに悶える彼女の姿はさぞ美しい事だろう。

 先日の反応からして、身体の方は直ぐに堕ちる。

 

 そして、純黒の次はあの純白だ。


 ユリウスの闘技場で背後から端末人形(ドール)を刺し貫いた白銀の髪をした少女。

 クレハとはまた違う、粉雪の様に儚い美しさと愛らしさを持った彼女。

 素顔を見た時は驚いた。

 目深なフードの下に、まさかあれ程のモノが隠されていたとは。

 それまで気付けなかった事を酷く後悔した程だ。

 あの娘もクレハにまるで劣らない。

 否、こと儚さや美しさという面では寧ろ上回りかね無い。

 

 そして、美しく、穢し難い程に犯してやりたくなる。


 あの少女もクレハと共に快楽の沼に沈めてやる。

 楽しみだ。

 快楽を求め、自身で身体を慰めながら肉欲を強請ってくる様に調教するのだ。

 そんな雌に堕ちた彼女達の姿を想像するだけで、此方が達してしまいそう。

 クレハには純黒の、あの少女には純白のドレスを宛てがおう。

 白と黒。

 相反する色の純潔なる少女達が、自ら身を差し出して弄ばれる事を望む様はさぞ美しい事だろう。


 堪えきれぬ笑み。

 抑えきれぬ愉悦を滲ませながら、ネヴィアは妖精姫を幽閉する部屋の扉を開けた。


「お待たせしたわね」


 流石にもう彼女は目覚めているだろう。

 自身の姿を見て緊張で身を強張らせる姿を想像しながら、部屋へと踏み入った。

 そして――――――


 其処に誰も居ないという現実を目の当たりにした。


 無人。

 幽獄の部屋内に少女の姿は無かった。

 隠れているのでは無い。

 この部屋の中に彼女は存在していない。

 変化はもう一つ。

 この部屋の中で唯一外界を望める物。

 壁に一つ設けられた窓。

 それが無防備に開け放たれていた。

 無論、この窓は開閉出来ない様に作ってある。

 硝子も魔術による保護、強化を施しており、生半な手では内からも外からも壊す事は敵わない。

 加えて此処は城内に聳える塔の上。

 窓の外から地上まで、優に十五メルはある。

 人を閉じ込めて置く場所としてこれ以上無い程の設備として創れていた。

 だと言うのに、今ネヴィアの眼の前に広がるのは、『何らかの手段を以て、クレハが逃げ出した』という事実。


「――――――――――ッツ!!!!!!」


 有り得ない事実を数秒を掛けて理解したネヴィアは、声にならない絶叫を上げて踵を返した。

 部屋を飛び出し、階段を駆け下りる。

 この状況で、ネヴィアが起こす行動はただ一つ。

 直ぐに場内の事情を知る騎士、そしてキースクリストへと、クレハの脱走を知らせた。

 

 キースクリスト、そしてネヴィアの命により騎士達が逃げ出したクレハの姿を探し、城内は瞬く間に喧騒に満ちるのだった。

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