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Tale:Dragon,tears    作者: 黒餡
三章 聖魔闘争都市《クロンヴァレン》〜囚われのフィーム・シュヴァリエ〜
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103話 神の残留

「で、要件は?」


 柔らかい灯光に照らされた廊下を進みながら詩音は訊ねる。


「察しが良くて助かるよ。なに、ちょっと後片付けの手伝いをして貰おうかと思ってね」

「片付け?」


 詳細を訊ねる前に廊下の先に新たな扉が現れた。

 ノブを回し、木製のそれを開ける。

 扉は部屋では無く外に繋がる物だった。

 開け放った扉の向こうから陽光が射し込み、灯光とはまた違う光を浴びながら詩音とクリスは外界へと踏み出した。

 外から見た建物の見た目はまるで樹木、では無く正に樹木と言うべき物だった。

 地面に確りと根を張ったそれは、太く逞しい幹から幾本にも分かれた枝を持つ針葉樹。

 そして、その根本の地面には詩音の愛刀、日の光を受けて淡い青銀色に輝く竜鱗刀《雪姫》が突き刺さっていた。  

 恐らく詩音以外の誰も引き抜く事も運ぶ事も出来ないので仕方なしにそのまま放置していたのだろう。

 と言う事は、この開き地は詩音が意識を失う直前に降り立った場所と言う事だ。

 だが詩音の関心は放置された愛刀や珍妙な外見の家屋では無く、眼前に広がる光景に独占されていた。

 

 森が、黒く染まっている。


 命に満ちていた森は炭化したかの様にドス黒く変色している。

 だが、焼け焦げている訳では無い。

 立ち並ぶ木々、生い茂る草花、大地を形創る土に至るまで、全てが元の形を保っている。

 ただ、まるで石化したかの様に全てが硬直し、黒く染まっているのだ。

 詩音達の居る樹木が根を下ろした更地の周辺だけがオーロラの様に揺らめく色彩の魔力防壁に囲まれて黒化の影響を免れていた。

 恐らくはクリスの張った結界の類いだろう。


「これは………」


 詩音は、思わず呟いた。

 それに応えたのは当然ながら隣で同じ光景を見ていたクリスだった。


「君が寝込んだ直後から、ずっとこの有様なんだ。此処だと少し見ずらいな」


 そう言った直後、クリスの羽織ったマントが形を変えた。

 大きく広がり、皮膜の様な一対の翼を形成する。

 そして、ふわりと白黒(モノクロ)の身体が宙へと浮く。


()から見た方が分かりやすい。行こう」


 それだけ告げて、クリスは緩やかに高度を上げて行った。

 詩音も訝しみながらも傍らの地面に突き立った雪姫を引き抜くと、二対の白翼を広げて後を追う。

 円形に張られた結界の効果範囲から脱し、広く森を見渡せる高度で滞空する。

 黒化の影響はかなりの広範囲に及んでいた。

 染まった森から生物の気配はしない。

 耳を澄ましても、葉の擦れる音や鳥の囀り等は全く聞こえて来ない。

 

「酷い物でしょ。アディスの最後の足掻きさ」


 そう語り始めたクリスに詩音は視線を向ける。


「一体アディスって何? 口振りからして、知ってるんでしょう?」

「アディスってのは、正確には個体名じゃ無くてある物の別側面の総称なんだ」

「ある物って?」

「――――神様」


 僅かに間を置いて、クリスはそう答えた。

 

「正確には人々が神と呼ぶ、今以上この星が概念法則に覆われていた《神代》に、世界を管理していた存在達だね。彼らには大きく二つの役割が備えられていた。一つは世界を管理し、正しく導く《指導者》として役割。もう一つが世界が辿るべき道を誤った時に、その時代の文明や生命を滅ぼし星そのものが毒されるのを防ぐ《終末装置》としての役割。アディスってのは、その終末装置としてのシステムの名として付けられたものなんだ」

「神の、別側面……」


 クリスの口から語られる言葉は余りにも突飛で、簡単に信じられる物ではない。

 出会ってからずっとそうだ。

 信じ難い言葉ばかりが紡がれる。

 だが、それを語るクリスの表情は常に真剣では無いが、本気だった。

 今とてそうだ。

 黒化した森を見据えながらアディスの正体を語るこの人型からは、虚偽や欺瞞の気配が欠片程も感じられない。


「………つまり、あれは比喩では無く神その物って事?」

「いや、その物って訳じゃあ無い。より正確に言うと、あれはとある神が自ら切り離した《半身》なんだ。指導者として人に世を託すと決めたその神は、終末装置としての力は不要と判断し、己が内から取り除いて封じたんだ」

  

 何処か昔を思い返すかの様に薄く笑いながら、クリスは怪物の正体を語る。


「人を信じ、人を滅ぼす必要は無いとして、世界を人の手に委ねようとした決断と信頼の証左さ。無論、全ての神がそう考えてた訳じゃ無い。お陰で神々の間にも軋轢が生まれてしまったよ。あの獣は対立の末に主を幽閉され、自立型に改造されて人間を監視する兵器に転用されたアディスの成れの果てさ」


 まるで実際にその様を見ていたかの様な口振りで、白黒の魔女はそう語る。

 ―――――――否、まるで、では無いか。

 原初の魔女、魔法則第一始祖………。

 魔法と魔術を創り出したが故に、自身にはそう言った二つ名が与えられたとクリスは言った。

 恐らくこの魔女は、外見と遥か乖離した時を生きている存在なのだろう。

 

「さてと、御伽噺の説明はこれ位にして。そろそろ森を元に戻そうか。詩音君、頼むよ」

 

 詩音の考察など知る由もないクリスが、そう声を上げる。

 

「頼むよって、僕にどうしろと………」

「この黒化はアディスの生存戦略だ。君が戦いの中で切り飛ばしたあれの肉片がこの森全体の生命を贄として復活しようとしている」

「つまり、このままだとあの化物がまた再生するって事?」

「うん。まぁ、復活すると言っても早くても数十年、場合によっては数百年程度の時間を有するだろうけどね」


 そう言いながらクリスは軽く指を鳴らした。

 すると、先刻の椅子と同じ様に何処からとも無く大振りな杖と一冊の書物が現れた。

 クリスの右手に握られたそれは、彼女の身の丈程もあり、先端には金属製の刃と紅い宝珠の様な物が埋め込まれている。

 対して左手に現れた書物は革の様な素材の表紙を金属で補強した分厚く古ぼけた見るからに魔導書と言った外見の物。


「とは言え、だ。今は(ぼく)が掛けた認識阻害と人避けの魔術で外からはただの森に見えてるし、人も踏み行っては来ないだろうけど。これだけの異変、このまま放置って訳にもいかないでしょ?」

「そんな物仕込んでたんだ」

「アディスが復活した時からね。見られて騒ぎになると君が嫌がると思って」


 得意げな顔で杖を肩に担ぎながらクリスは続ける。


「それだけじゃ無いよ。崩落した遺跡は修復したし、何かアディスの中に混じってた騎士二人だって直して街に返したんだから」

「カドニエルとウルタースを? でもあの二人は」

 

 アディスの封印を直接的に解いた二人の騎士。

 彼らは詩音の手によって殺した筈だ。

 結局止める事は叶わなかったが、あれは外部から操られていたからであって、間違いなく生命活動は停止させた筈だ。


「うん、確かに死んでた。ただ死んでるだけなら生き返らせればいいだけなんだけど、何せあの二人は君の手で殺されてたからね。復活は無理だったよ。だから死体を復元して、魔術で再現した疑似人格をインストールして送り返したんだ。いやぁ、我ながらいい仕事したよ」

「…………なんて言うか、色々と規格外で何でも有りだね、あんた」

「いやぁ、それ程でも〜」


 したり顔のまま笑うクリスを横目で一瞥し、詩音は森へと視線を戻した。


「……………まぁ、騒ぎにならない様に尽力してくれた事は感謝するよ。それで、僕は何をすればいいの?」

「手伝ってくれるの。いやぁ助かるよ」

「手伝うも何も、話の限りじゃ原因は此方にあるんでしょ。なら僕に出来る事なら何でもするよ」

「ん? 今「何でも」って」


 また巫山戯た事を口走ろうとするクリスの首筋に、詩音は無言で雪姫の刃を突き付けた。


「あ、はい、ごめんなさい。それじゃ、まずこれを返すね」


 そう言ってクリスはまた指を鳴らした。

 現れたのは黒く無骨な外観の長弓。  

 詩音の愛弓《無銘》だ。


「黒化に巻き込まれる前に拾っといたんだ」


 使い慣れた長大な弓を受け取る。


「詩音君にはこれでアディスを引きずり出して欲しい」

「と、言うと?」

「今アディスの破片は、《異層領域》って言う相空間のズレた仮想領域を展開して、その中に隠れたまま森から魔力を吸い上げてる。これが厄介でね。向こうが動いていないと此方側から観測するのは難しいんだよね。そこで君の出番だ」

「出番って言われても………」


 詩音は困惑しながら黒化した森を見遣る。

 停滞した森は酷く寒々しく不気味だが、それ以外に何かがある様には見えない。


「ふふ………」


 そんな詩音を見て悪戯っぽく微笑み、クリスはふわりと詩音の背後に回り込む。

 そして、そっと耳元に唇を寄せた。


「今の君なら異相領域を見破る事が出来る筈だ」

「そうは言っても、これと言って怪しい物は見当たらないんだけど」


 言うと、クリスは柔らかな声音で囁く。


「個体として外界を見ても駄目だよ。君の眼は全てを見通す。けれど人の感覚で処理出来る情報は物質界に属しているモノだけだ。外側から世界を見ようとしないで、世界の側から自分に眼を向ける様に視るんだ」

「世界側………」


 クリスの言葉を復唱し、詩音は取り敢えず両眼を閉じた。

 意味を完全に理解する事は出来なかったが、自身の内を覗くのであれば外界からの情報は取り除くべきだ。

 

――――自身の、内側…………


 閉じた瞳を向けるのは、外では無く己自身。

 自身の内側、構造を見通し、把握し、掌握し。

 全ての状態を認識し尽くす。


 けれど、それ以外のモノは視えない。

 まだ足りないのか。

 内側を更に深く覗き込む。

 クリスの言葉が頭を過る。


『人の感覚で処理できるのは物質界に属するモノだけだ』


 人としての認識では意味が無い。

 人以外の感覚。

 個体では無い視界が必要だ。

 矮小な人間の内側では無く、それこそ世界の内部を視られる様な視覚が。

 もっと深く、もっと遠く、もっと先ヘ。

 小さな器から、雄大な海へと飛び出す様に。

 

 不意に、深く潜らせた意識が人の形から零れ出る様な感覚を覚えた。

 

 把握していた自身の内側が急激に広がった様な不思議な気分になる。

 その感覚を保ったまま、詩音は瞼を起こす。


 視界には世界の全てが映っていた。

  

 眼下に広がる黒化した森。

 そこに在る全ての情報が認識出来た。

 木々の一本、枝の一枝、草花の一つに至るまで、全てが視える。

 だが、視野の増大や解像度の向上などの魔力による単純な視覚強化では無い。

 遠くにある筈の物が、他に遮られて見えない筈の物が、挙げ句には周囲一帯の空気の流れ、風の動きでさえも。

 距離、配置、数、視野、可視不可視に関わらず、あらゆる要素、条件を無視して周囲の全てが視覚情報として献上される。

 そして、それ等を捉える詩音の瞳は竜性を解放した時と同様に金色(こんじき)へと色彩を変化させていた。

 視えるのはそれだけでは無い。

 黒化した森。その全体から立ち登る淡い光の様な、或いは靄の様な存在と、その中に在るが故に過剰に眼を引く存在。

 それは例えるならば巨大な蓋だ。

 黒く犯された森の真ん中で、外界を拒むかの様に半球状の空間が鎮座している。

 何色かの絵の具を出鱈目に混ぜた様な混沌とした殻。  

 空間を歪に螺子曲げた様なその異質感、異物感が酷く不快だ。

 理由も無く嫌悪感が込み上げてくる。

 何故、これ程までに不快なモノに今の今まで気付かなかったのかが不思議な程だ。

 認識出来るのは外観だけでは無い。

 その殻がどの様な理論、どの様な構造で形成され存在しているのかまでもが視えてしまう。

 それが殊更に気持ち悪い。

 見れば、森全体から立ち登る淡い光は、その全てがあの空間に向かって緩やかに流れている。

 それがまるで、森と言う巨大な生物の命そのものをあの殻が吸い上げている様だった。


――――なんだ、これ? 《HAL》、解説できる?


 余りにも異常な感覚。

 詩音は脳内のシステムに説明を求めた。


『………………』

――――…………?


 しかし、数秒待ってもあの無機質な音声による返答は無く。


――――ああ………そうか


 不思議に思った詩音だったが、直ぐにその無言が意味する事に気付いた。

 

「どうかした? 黙り込んじゃって」


 無言で静止する詩音を不振に思ったか、背後のクリスが声を掛けて来た。


「…………いや、何でも無い。で、何か視界が凄い事になってるんだけど、これ何?」

「えっ!? 本当に視えたの!?」


 視線を向けながら言うと、クリスは心底から驚いた様に声を上げる。


「なにその反応。君が僕なら見えるって言ったんでしょが」

「いやぁ、正直口で言って伝わるモンでも無いと思ってたから。って言うか普通は伝わらないよ。何だかんだ言って君も相当に規格外だね」

「それはどうも。でこれは?」


 再び視線を森に戻しながら訊ね直す。

 世界が酷く複雑に、単純に、雑把に、精緻に。

 普段から視え過ぎる視界が、余計に視え過ぎる。

 解り過ぎる。


「それは星の感覚。この星自身から見た地上の風景だよ」

「星の感覚…………」

「外界では無く内海を眺める。星と言う個体の感覚器官。今、それが君の眼を通して機能している。君だけに見える視覚。君だからこそ見える視界。―――――名付けるならば《世界視の瞳(アストラル・サイト)》。

 この星に属する限り、物質も、魔力も、空間や因果律でさえ、君の眼から逃れる事は出来ない」


 その説明で理解した。

 先程から視界に映る光は、この森が放つ魔力その物であると。  

 ならば、その流動が意味するのは、あの歪な蓋がこの森全体から魔力を吸い上げていると言う事実。


「詩音君。矢を」


 言葉に、詩音は一瞬視線をクリスへと向けた後で、氷剣を形成し、その刃で己の手首を切り裂いた。

 刃が裂き、滴り出た鮮血が氷剣と交じり寄って、螺旋の槍矢を創り出す。

 

「その眼なら《異層領域》の構造が視えてるでしょ。その中身も」


 クリスの言う通り、世界視の瞳(詩音の眼)には森を侵す異物、その構造とその中で蠢くアディスの肉片らしき物がはっきりと映っていた。


「なら、やる事は解るね。認識したなら、君はあれに干渉できる」

 

 そう言い添え、魔女は口を閉ざした。

 

「…………」


 詩音は槍矢を黒弓に番え、歪み淀んだ空間を凝視する。

 星の視覚が捉えるコクーンの構造は三層の空間を重ね練り混ぜた混合領域。


 大きく、弦を引く。


 番えた魔槍が開放の時を待ちわびる様に魔力を滾らせる。  

 閉ざされた氷の中、収束する魔力が臨界を迎えた時、詩音はそれを解き放った。  

 音を遥か。

 解き放たれた魔槍は空間を貫き、竜巻を刻み付けながら領域に向けて飛翔し、そして炸裂する。

 爆光が世界を照らし、烈波が大気を駆け抜ける。

 立ち上る烈火と爆煙。

 膨大な熱と衝撃が領域を破砕する。

 まるで世界に穴が開いたかの様に、風景の一部が崩壊する。

 そして吹き飛ばされた外殻、空に開いた穴の中から巨大な()()が姿を現した。

 体色は黒。

 染め上げられた森と同じ、深く重たい漆黒。

 その外観は、長大だと言う点こそアディスと共通するが、蛇や百足、或いは東洋の龍を連想させられたあちらとは違い、この黒い肉片が思わせるのはただただ巨大な蟲、幼虫の類いだった。

 肉肉しい質感の体表は先の爆炎に焼かれて所々焼け焦げており、最前部には円環上の口と思わしき穴が空いている。

 杭の様な牙に取り囲まれたその穴の中は底なしの暗黒で、まるで奈落の底へと続いているかの様。

 蟲は鎌首を擡げるかの様に頭を起こすと、真っ直ぐに詩音達の方を向いた。

 眼は見当たらないが、確実にこちらの存在を把握している。


「よーし出た出た。こうなれば此方の物だ」


 怪蟲を前にして、陽気な口調でそう言ったクリスは、手にした長大な杖、刃を備えたその先端をアディスの残骸へ。

 対となる魔導書は触れる事無く独りでにその表紙を開き、クリスの手を離れて主の命を待つかの様に宙に留まる。

 次いで唄う様な声。


「―――――――《束縛式:形縛る礎の鎖(ラゴウ)》」


 世界が揺れる。 

 僅かニ節の極短い詠唱。

 だが、その短い言の葉に込められた力は強大極まり無い。

 魔女の身体から迸る魔力は、シグリウスの内包する物と同等か、或いはそれ以上。

 紡がれた言霊は大気を震えさせ、世界の理を瓦解させる。

 蠢く魔蟲の巨体。

 それが、即座に停止した。

 紡がれた真名と共に何処から共なく現れた無数の鎖。

 それは世界ごと拘束する様に魔蟲の身体を縛り封じる。

 体表から拍動は消え、長大な身体の先端から末尾に至るまで、僅かな震えすら残らず、全ての動きが消失した。

 単純な拘束の類いでは無い。

 それは概念その物の付与。

 魔蟲は巻き付く鎖によって、その身体に《停滞》と言う概念その物を付与されていた。 

 あれにどれ程の膂力があろうが関係無い。

 鎖の束縛に際限は無く。

 最早あの魔蟲はただ止まっているだけの存在に成り果てた。

 あの怪物にとっては、何もせず、そこに停止している状態こそが正常であり、前提なのだ。

 そして、既に暴れる事も、吠える事も、呼吸する事すらも出来ない存在に成り果てた魔蟲に向けて、原初の魔女は再び言の葉を紡ぐ。


「《崩滅式:天燃す星の夢火(デューセ)》」

 

 再び、世界が揺さぶられた。

 新たに唱えられた真名。

 それは先の束縛式と同位の力。

 クリスの周囲を取り囲む様に、四つの光が灯る。

 それは光その物を押し固めたかの様な青く輝く巨大な槍だった。

 術者の身の丈を優に超える柱の様なそれ等は、鋭い尖端の全てを束縛された魔蟲へと向け、主の号令を待ち構える。

 

 そして、無言のままに魔女は杖を振り払い、全ての光を解き放った。

 

 奔る光槍。

 詩音の槍矢が竜巻ならば、クリスの槍は閃光だった。

 四槍は一直線に魔蟲へと突き進み、その身体を拘束した鎖諸共に貫いた。

 断末魔は無く。

 ただ眩い爆光が広がり、それと共に魔蟲の肉体は燃やされていく。


 燃え屑すらも残らない。

 そもそも物質が燃えているのではないのだから当然だ。

 魔蟲の身体は炎に包まれているのではない。

 肉体その物が《焔》へと変換されて燃焼されているのだ。

 鎖が《存在》という概念を拘束するのならば、光槍は《存在》という概念其の物を燃やし、《焔》へと返る。

 其処に物理的、魔力的強度など関係無い。

 故に、焔は燃え屑の欠片すらも遺さずに消失する。

 ここに、魔蟲は消滅した。  

 それを成した魔女は静かに杖を下ろし、肉体の残留、存在の欠片すら残らずに消え失せる魔蟲を見送っていた。

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