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Tale:Dragon,tears    作者: 黒餡
三章 聖魔闘争都市《クロンヴァレン》〜囚われのフィーム・シュヴァリエ〜
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102話 変わる心

単純(シンプル)に果てしなく気持ち悪いね」


 肉体を再生させたクリスを見下ろしながら詩音は冷たく言い放つ。

 

「うわぁ、蛆虫を見る様な眼だ」

「一緒にしないでよ。蛆に失礼でしょ」

「おおぅ、まさかの蟲以下。………あぁでも、美人に蔑まれて見下されるのも悪く無いかも。………うん、寧ろ良いっ! 興奮してきた!」

「学ばないな。話が進まないけどもう一回風穴開けとく?」

「いや、いやいやいや。反省はしてる。ちょっと本音が零れちゃって。自重します。だから銃を降ろして下さい」


 両の手を上げると共にそう喚くクリス。

 そんな魔法使いを見据えながら、詩音は冷たく言い放つ。

 

「なら、早いとこ答えてもらえる?」

「ああ、はいはい」


 詩音がそう促すとクリスは再び話し始める。


「まぁ、君を呼んだのは本当に(ぼく)の好みどストライクだったからなんだよね。だけど、あっち側の世界からこの世界、(ぼく)ら界隈では《アデス》って呼んでるんだけど。アデスに呼ぶ時にちょっと問題が起きてね」

「問題?」

「うん。肉体と魂をアデス側に引き寄せようとしたんだけど、君の魂は普通の人間のそれに比べて余りにも質量が大き過ぎたんだ。さっき、君は例外的な存在だって言ったでしょ? 本来なら質量()が違い過ぎて一方的に潰される筈の人の魂が、シグリウス()の魂を取り籠めたのはそれが理由さ。君の魂の質量は常人の数百倍は下らない。それが君の異常な精神性から来る物なのか、はたまた生まれ持っての資質なのかは判断しかねるけどね」


 椅子に深く腰掛け、真剣な表情でクリスは語る。

 詩音はそれを見下ろしながら、一言一句聞き漏らしてなるかと言う様な表情で聴いていた。


―――――――そんな訳で、君の魂と身体をそのまま此方側に引き寄せるとなると、その時使ってた外界召喚方術の性能(スペック)的に厳しいなってなったんだ。

 で、急遽術式を変更したり、改造したりして何とか対応したんだ。

 いやぁ、あの時は本当にてんてこ舞いだったよ。もう過労死するかと思った。

 死ねないけど。 

 それで、呼び寄せるとした時に君の魂の質量に耐えられる存在(モノ)をアデスで検索を掛けたら、今君と融合しているシグリウス()が該当品として提出されたんだ。

 流石は竜種の最高峰なだけあって君の魂を余裕で許容したよ、シグリウスは。 


 と、クリスはそこまでを一挙に話し切る。


「―――――随分とまぁ……………………。って事は、あれか。《HAL》システムなんて物を残したのも君か」

「ん、あぁ、あれか。その通りだよ。流石の(ぼく)もあの後はかなり疲れちゃってね。君が目覚めた時に側に居られそうに無かったからね。昔作ろうとして途中で飽きて放ったらかしにしてた人造知性式を説明兼道案内役として置いて行ったんだ」

「………………」


 詩音はそれまで真っ直ぐにクリスを見据えていた瞳を一度休ませる様にそっと瞼を降ろして息を着いた。


「情報量多いな………」

「あらー、ごめんね。これでもかなり纏めたつもりだったんだけど」 

「……………取り敢えず、僕がこの世界に来た原因と、僕の中にシグリウスが居る原因が君だって事は解った。―――――――それと、質問に答える気が欠片も無いって事もね」

「………」


 詩音のその言葉に、クリスは貼り付けた笑みのまま表情を固まらせた。 

 だが、それも一瞬。  

 直ぐに再起して返して来る。


「信じて貰えてないのかな? 今言ったのは、全部本当の話だよ」

「確かに、今話した事は全て事実なのかも知れない。だけど、それは君が僕を()()()()()でしょ」


 再び、クリスは表情を固着させた。

 だが、そんな事に構う事無く詩音は言葉を続ける。


「僕が訊いたのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()だよ。なのに君は意図して回答をズラした。その理由は単純。端っから目的をバラす気が微塵も無いって事でしょ」


 魔法使いから返答は無く。

 代わりに小さな笑い声が溢れる。

 それは、これまでの無邪気さを含んだ子供じみた笑みとは違った、享楽的な微笑。

 底なしに深い穴の様な眼が詩音を見据える。


「あぁ、良いね。やっぱり君は凄く良い」


 笑みを浮かべた唇から、声を零す。

 己の愉悦を吐露する様に紡がれたそれは、詩音の指摘を肯定する言葉。


「君と話してると退屈しないよ、本当に。これは隠し事しないほうが賢明かな」 

「本気で隠すつもりがあるならもう少し人類(ヒト)ってモノを学びなよ。化物」

「うわっ。手厳しいな。これでも人間は長く見てきた分、詳しいつもりなんだけど」

「笑える冗談だね。魔術師よりも道化師の方が向いてるよ」

「手厳しい〜。まあ、人のフリをするって事なら、君のが遥かに上手いし、言われても何も返せないかなぁ」

「……………」


 笑みを絶やさず明言するクリスを詩音は一切隠しもせずにそう嘲笑する。

 それに対して眼前の魔法使いは憤りや落胆の感情を見せる事は無く、ただただ愉快そうに笑うだけだった。

 

「確かに、君の質問に答えるつもりは無い。だけどそれはただ単に、まだその時では無いと言うだけなんだ」

「つまり、時が来れば話す、と?」

「うん」


 躊躇い無く頷くクリス。

 その様にこれまで同様に欺瞞は見られず。 

 どうやらこの魔法使いは話す以上は嘘をつくつもりは無いらしい。

 それは裏を返せば、話す気の無い部分は何があっても話さないと言う意思表示でもある。

 今はこれ以上、この魔法使いから何かを聞き出そうとしても時間の無駄にしかならないだろう。

 そんな諦観の感情を込め、詩音は何度目かになる溜息を零した直後だった。

 コンコンコンと軽やかなノックの音が耳に入る。

 それは詩音から見て左側、この部屋と外を隔てる扉から発せられていた。

 そして、ノック音に続く声。


「クリス? さっきから騒がしいけど、どうかした?」

 

 それはクレハの物だった。

 扉越しのクレハ言葉に、詩音が声を返そうとしたが、それよりも速くクリスが口を開いた。

 

「あぁ、五月蝿かったかな? ごめんごめん。ちょっと詩音君に現状を説明してて」

「えっ!」


 クリスの言葉に慌てた様子の声を上げると、クレハは少々乱暴に扉を開けた。


「シオン、起きたの!」


 高らかな音を立てて開け放った扉から半ば飛び込む様にして入室するクレハ。


「あぁ………おはよう、クレハ」


 何と言うべきかを測りかね、取り敢えずそう口にする詩音。

 が、それに対しての返答は無く。

 代わりにクレハは半ば飛び付く様な勢いで抱き着いて来た。


「おっとっと…………これはまた、随分と熱烈な挨拶だね」


 黒衣に包まれたその身体を受け止めると、詩音は冗談めかしてそんな事を口にした。

 だが、こちらを見るクレハの顔は泣き出す寸前の様な表情だった。


「えと………クレハ、さん?」

「シオンのバカっ!」

「え、えぇ……?」


 唐突な罵声に困惑する。

 そんな詩音を他所に、クレハは続けた。


「また一人で無茶して…………!」


 固く握った拳を詩音の胸へと叩き付ける。


「あんなにボロボロになって………! 腕とか千切れてるのに………! 今度こそ、死んじゃうって思った………!」


 二度、三度と、抱く感情を乗せた拳で殴打してくる。

 詩音はそれを身動ぎ一つしながら受け止める。


「えっと、ごめんね。でもほら、この通り身体は元通りだから。大丈」

「シオンの「大丈夫」はもう聞き飽きたっ!」

「は、はい! ごめんなさいっ!」


 何時に無く強い口調のクレハ。

 その迫力に詩音は何の言い訳(弁明)も口に出来ず、まるで説教を待つ子供の様に姿勢を正す。

 

「此処は大人しく叱られておきなよ。君が寝込んでる一週間、殆ど付きっ切りだったんだよ、彼女は」


 横合いからそう告げるクリス。

 その言葉を聞けば、眠る詩音の傍らで不安そうな表情を浮かべるクレハの姿が簡単に想像出来た。

 その、恐らく正しいであろう想像と、今現在腕の中で金の瞳に涙を称えたクレハの顔を見てしまえば、詩音はもう完全に弁明を諦めて彼女の叱咤を受けるしか無かった。


 ■


 一通りお叱りの言葉を頂戴し、クレハが落ち着くと詩音は二人の案内で下の階へと降りる事にした。

 部屋と同じく、巨木の内部を刳り貫いて造られた階段を下る。

 

「ふふ、ふふふ」

「さっきから何気色悪く笑ってんの?」


 先程から独り笑声を零すクリスに詩音は訊ねた。


「いや、だってさ。(ぼく)が何言っても動揺のどの字も見せなかったのに、クレハが相手になった途端にあの狼狽え様っ、ふふふ」

「…………当然でしょ。あんたの話とクレハの話じゃ重さが全然違う」

「あはは、まあ、確かにね」


 そんなやり取りをしていると、クレハがふと尋ねて来た。


「そう言えば、さっき部屋で結構ドタバタしてたみたいだけど、何してたの?」

「あぁ、近況報告とちょっと雑談してただけだよ」


 事実をそのまま伝えて、余計な混乱を招いてもいけないので適当に誤魔化して応じる。

 それとほぼ同時に下り階段が終わり、三人は下の広間へと出た。

 先程反響定位で確認した通り、そこにはアリス達妖精族の皆とミユが居た。

 何をするでも無く、何を話すでも無く、大き目のテーブルを囲む様に備え付けられたソファに腰掛けている。

 その中で最初に此方に気付いたのは人型の姿を取ったミユだった。

 音か匂いか。

 何らかの気配で詩音等の登場を察して視線を向けて来た。

 

「シオン!」


 視界に入ると同時に、ミユは飛び跳ねる様に立ち上がると全速力で駆け寄り、詩音に飛び付いた。

 魔力で編んだ濃紫の服に身を包んだミユを詩音は両腕で確りと受け止めて抱き抱える。

 他の妖精達も、ミユの反応で詩音の存在に気付き、慌て気味に腰を上げる。

 

「ミユ、元気そうだね。怪我しなかった?」

「うん。したけどもう治った。シオンは? 大丈夫?」

「うん。もうすっかり元気だよ」


 そう言いながら頭を撫でると、ミユは嬉しそうに喉を鳴らして詩音に擦り寄って来る。

 

「皆も、無事で良かった」


 微笑みを浮かべ、素直な気持ちを口にする詩音。

 と、それに対してアリス達は一瞬戸惑う様な表情を浮かべた。

 それは本当に短い、刹那の感情の露出。

 直ぐにそれは消え失せ、各々が口を開いた。


「目が覚めたんだね、シオン君。良かった」

「なぁにが「無事で良かった」、よ。(あたし)達よりもシオンの方が遥かに重症、って言うか死にかけてたっての」

「流石に今回は無茶し過ぎよ。このまま目覚めないんじゃ無いかって、気が気じゃ無かったわ」


 アリス、シャルロット、シーナの女性陣がそう言いながら詩音の元に集い、それに続く様にカインとエリックも歩み寄って来る。


「もう起きて大丈夫なのか?」

「身体はどうだ? 何処か痛んだりしないか?」


 五者五様。 

 各々言葉は違うが、どれからも心底から詩音の事を心配していたのであろう事が伝わって来る。


「うん。随分長く寝てたみたいだけど、そのお陰でもすっかり良くなったよ」


 その返答に一同が安堵の表情を浮かべる。

 だが、それだけでは無い事に詩音は気付いた。

 心配や安堵の他に自身に向けられたモノがある。

 

―――――――不安に、嫌悪に、恐怖、か。なるほどね

 

 恐らくは本人達も自覚していないであろう感情。

 表情や仕草、声音の中に解け雑じったそれを詩音は見逃さなかった。


「皆、心配掛けちゃったね」


 だが、気付いたからと言って詩音は何か反応を示す事は無く。  

 これまでと変わらない態度で妖精達と言葉を交わす。 

 と、会話の間に上手く割って入る声。


「ちょーっと失礼」


 その声に、総員の視線が頭の先から脚の先まで、白黒(モノクロ)の奇抜な配色で揃えた魔女に向けられた。

 

「どうかしたの? クリス」


 アリスが尋ねる。

 躊躇いなく呼び捨てにされる辺り、妖精達と魔女の間である程度自己紹介が済んでいるようだ。

 

「お話の途中で悪いんだけど、少し詩音君を借りるよ」

「え?」


 クレハが声を零す。


「なに、ちょっとした健康診断だよ」

「健康診断?」


 エリックの反芻に頷き、クリスは続けた。


「うん、病み上がりだからね。身体に不調が無いか調べておかないと。皆があんまりにも心配してたから先に顔見せといた方がいいかなって思ったけど、やっぱり不安だからさ」


 その言葉に詩音は怪訝に思いクリスへと視線を向ける。

 と、それを読んでいたのか、視線を迎える様にクリスも詩音の方に目線を向けた。


「あぁ、そうか。確かにそれは調べておいた方がいいな」


 クリスの言い分にエリックがそう頷くと、他の妖精達も同意する。


「って訳で詩音君、行こうか」

「………わかった」


 クリスに連れられる形で詩音は降りて来た時とは正反対の位置にある扉へと向かう。

 

「じゃ、女性陣はカイン達が覗きに来ない様に確り監視しててね」 

「「「「任せて」」」」


 女性陣の唱和にカインとエリックが「覗かねぇよ!」と返す。

 そんな遣り取りを背中越しに聞きながら、詩音とクリスは広間を後にした。

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