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Tale:Dragon,tears    作者: 黒餡
三章 聖魔闘争都市《クロンヴァレン》〜囚われのフィーム・シュヴァリエ〜
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99話 最古の神獣

 ―――――――――吹雪の中に一人立っている。


 視界の全ては真白に染まり、あらゆる音は暴音に消し潰される。

 吹き荒ぶ砕氷、純白の雪が詩音の全てを呑み込む。


「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――」


 凍る、凍る―――――――自分が凍る。

 吹き付ける雪風は巨大な壁その物。

 風圧に身体が圧し潰され、冷気が精神、魂までをも凍らせる。


「―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――」


 指一つ動かせない。  

 動かせばその瞬間に、凍った身体が精神諸共砕け散る。

 それは駄目だ。  

 ここで砕ける訳にはいかない。

 砕けてしまえばもう守れない。


 ――――――――――――何を?


 思考が凍る。

 暴風の音に鼓膜を破かれた。


 思考が止まる。

 何も解らなくなる。

 

 何を守ろうとしていたのか―――――――

 

 止まるな


 何の為に存在していたのか―――――――


 止まるな


 何の為に守るのか――――――


 前ヘ進め

 

 一体自分に何ができるのか――――――


 前ヘ、進め


 意識が徐々に消え入る。  

 吹雪はより強く、より重く、死んだ身体を殺しに来る。

 その中で


 消えない視界、潰えない視覚に映る人影を視た。


――――――――――――――――――――――――――ッ


 押し寄せる雪と風の障壁。

 存在の根底から消し飛ばすそれの向こうに、立っている。

 風に背を向け、それは詩音の方を見つめていた。


―――――――――ああ………そうだ…………


 忘れる所だった。

 一歩、脚を踏み出す。

 身体が軋み、亀裂が走る音がする。


―――――そうだった


 何を守るかなんて決まっている。

 元より今の詩音はそれ以外の物を持ち合わせていない。

 何が出来るも何の為も関係無い。

 この身体は、「守るもの」では無く「殺すもの」。 

 ならば、何も深く考える必要は無い。

 最初から詩音に出来る事など一つしかないのだから。


 彼女らと共に過ごす時間を尊い物だと感じた。

 彼らの屈託の無い笑顔を愛おしいと感じた。

 それだけだ。

 理由はそれだけでいい。

 ただそれだけで、残ってしまったこの命さえも投げ打つだけの意味がある。


 拳を握る。

 身体は一切の熱を失った。

 けれど、そんな事はどうでもいい。

 やるべき事が解ったのなら、最早立ち尽くす理由は無い。


―――――行くのか?


 先を目指す詩音を前に、それは小さく笑みを浮かべていた。

 求める様に、拒む様に。

 詩音の到達を待ち焦がれていた。


―――――うん


 そうだ。

 もう、嫌なんだ。

 どんな罪咎を背負う事になろうとも。

 例え、全てを殺す事になろうとも。

 僕は―――――――――――――――――――


「――――そうか。なら、行って来い」


 最後の言葉に背を押されるように脚を踏み出す。


 そうして――――――――――――詩音は目前の(吹雪)を踏破した。


 吹雪を越えた先に、雪原の王は居た。

 白銀の翼を広げ、詩音を迎え入れる様に存在している。


 

 ■

 

 ―――――――――――――死弾が迫る。

 黒く燃え盛る炎の塊は空間ごと大気を焼き尽くしながら迫りくる。

 既に此方は満身創痍。

 回避も防御も間に合わない。

 否、元よりあの黒炎はそれを赦さない。 

 あらゆる守り、あらゆる逃走を圧倒的破壊を以て捻じ伏せる。

 一切否定のしようがない死の確信にクレハは両目を閉ざし、刹那の後に来るであろう業火に身を固めた。


「―――――神権(トリガー) 解放(・オン)


 不意に、声が聞こえた。

 

「――――――《儚くも枯れぬ(ロス・ア)六花の極光(イギス)》」


 確かな意思を宿す、凛とした声。

 クレハは閉ざしていた瞼を上げ、その光景を眼にした。

 

 衝突する破壊の光。

 衝撃と熱風を残骸として巻き上げる、世界を焼き払う死の炎。

 それが停止した。

 

 黒炎を阻むは宙に咲き開いた巨大な氷の結晶。

 何処からか出現した六枚の花弁を思わせるそれは迫る炎を拒絶し、そこに在る命を守護していた。

 そして、その花弁の内側で、何時の間にか彼は立っていた。  

 この先には行かせないと言う様に、クレハ達に背を向けて立っていた。

 氷結の花は詩音の手より咲き誇る。

 千切れ、失くした筈の左腕は、既に元の形を取り戻し、掌を花弁へと向けて黒炎を真正面から受け止める。


 炎が弾ける。  

 結晶は黒炎を完全に阻み尽くした。

 黒炎の残留が風に舞う中、クレハは眼前の少年を凝視した。

 欠けた肉体は純白の衣諸共に再生し、確りと大地を踏み締めて眼前の獣を見据えていた。

 

 ■


 欠けた身体を魔力が補完する。

 やるべき事を再認し、思考は冴え切っている。


「―――――シグリウス」


 詩音は己の中に宿る竜へと語り掛けた。


「対価は払う。全部終わったら僕の身体でも何でもくれてやる。だから、」


 身体から魔力が迸る。

 吹雪()は越えた。

 乗り越えた吹雪は行く手を阻む障壁から、詩音を守る城壁へと変わる。

 溢れ出た魔力が物理的圧力を伴って世界を薙ぎ、濁流のようだった暴風は詩音の内部を駆け巡りながら死んだ血骨を躍動させる。


「―――――――僕に寄こせ、お前の力」

      

 瞬間、詩音の肉体は人の形のまま、竜の力を宿す。


「――――――――ぁ」


 視界が割れた。


 映る世界に亀裂が奔る。

 眼球は無事だ。

 ただ、外界を感じ取る精神に罅が入った。

 

 全身に激痛が走る。


 再生したのは戦闘に必要な最低限の器官のみ。

 骨や内臓の大半は未だに凄惨な状態のまま。

 だが、それは関係無い。

 例え五体満足であっても、この痛みは避けられない。

 竜種の力は人の器には大き過ぎる。

 過大な力の奔流は、代償として身体を内側から破壊する。


 だが、その代償すら乗り越えて、詩音は更なる力を呼び起こす。

 構造基礎、存在指名、根源由来、性能内容、内包概念―――――――――

 彼の竜を構成するあらゆる情報を自身へと落し込み、無理矢理に理解する。


「――――っ」


 頭痛がする。

 流れ込んでくる膨大極まりない情報に、炎症を起こした脳が弾けんばかりに悲鳴を上げる。

 土台無理な事だった。

 既に死体と同義のこの身にこれだけの代物を降ろすなど。

 視界に火花が散る。

 尋常ならざる頭痛に最早笑みすら浮かんでくる。

 だが、不意にその痛みが引いた。

 完全に消えた訳では無い。ほんの二、三割マシになった程度だが、確かに負荷が減った。

 そして、脳内で響く声。


『竜体からのフィードバック確認。情報量の一部をシステム()を用いて処理します。これで幾らかはマシになるかと』

―――――――《HAL》…………

『目的遂行を最優先とします。思う存分、やって下さい』

―――――――………………ありがとう


 実体の無いの協力者にそう礼を言って、詩音は竜の内包する全てを引き摺り出す。

 補完されたばかりの肉体が軋む。

 竜性の完全解放。

 肉体と魂への甚大な負荷と引き換えに、


―――――――――最古の神獣が目を覚ます。


       《竜帝(ドラゴニック)憑依(・エンチャント)


  ――――――権能、回帰――――――


       《星竜継承(アンリミテ)・神化統合(ッド・ドラコニス)

 


「⬜■□■■■…………」


 低い唸りが大気を揺らす。

 必滅の炎を防がれ、尚立ちはだかる詩音に対して化物は警戒する気配など欠片も見せずに立ち尽くす。

 当然だ。

 もとより彼のモノは戦ってなどいない。

 戦いになど成りはしない。

 それ程までにあの怪物は絶対的なのだ。

 

「そうか。お前にとって僕等は 《羽虫》、か」


 そうだ。

 アレにとって詩音は眼前を飛ぶ鬱陶しい虫だ。

 故に、理屈は無く、理性は無く。

 理不尽なまでにただただ殺す。

 道理など関係無い。

 そんな物挟むまでも無く、飛ぶ羽虫は呼気の一つで絶命する。

 ならばそれは戦いでは無く蹂躙だ。

 そこに警戒など不要。

 

「だけど、今なら虫では無く、《僕》としてお前の前に立つ事ができる。だから、言わせて貰おう」


 不意に、空から光が落ちる。

 世界を閉ざす鈍色の雲は既に消え、天空を巨大な極光が覆っていた。


「――――――人類(人間)を、舐めるなよ」


 強く、地面を踏み込む。


       《部分(ディプス・ド)竜化(ラグニティ)


   ―――――権能、回帰―――――


     《竜体片臨・(アンリミテッド)神殻顕現(・クロス)


 焼け落ちた筈の翼は、全ての穢れを跳ね除けて再誕し、より力強く羽撃く。

 竜の身体能力をその身体に宿し、残像を遥か。

 淡金色へと変じた双眼で敵を見据え、蹴った地面を深々と抉らせて詩音は極光降り注ぐ世界を飛翔した。


 

「⬜⬛□□⬛■□■――――――」


 咆哮が響く。

 その叫びは、今までの物とまるで違う。

 それは、これまでただ狩る対象でしか無かった詩音を明確な敵と認識したが故の絶哮。

 怪物は今一度煌々と黒炎を燃え上がらせて詩音を迎え討つ。

 放たれる黒炎の砲弾。

 視界が黒い炎をで埋め尽くされる。

 存在する物を物質、魔力の隔て無く焼き尽くす死の炎。


 しかし、その炎弾は一条の銀閃によって斬り開かれた。


 迫る黒炎を詩音は雪姫の一刀を以て斬り裂いたのだ。

 そして、両断され、左右に割れた黒炎が凍りつく。

 炎と言う、本来凍る筈の無い概念が雪姫から放たれる氷の概念によって凍結し、次いで砕けて細かな氷片へと変じ、霧散する。

 炎弾を両断し、一切勢いを緩める事なく詩音は突き進むと、雪姫の鋒を怪物の額に深々と突き立てた。

 怪物からすれば小針程度の一突き。

 しかし、雪姫の刀身から放たれる膨大な冷気が内部から怪物の身体を凍らせる。

 

「⬛⬛□■■■―――――っ!!!」


 

 これまでに無い、明確な苦痛の咆哮が上がる。

 怪物は盛大に頭部を荒ぶらせ、詩音を振り払おうとする。

 無理に引き剥がされる前に雪姫を抜き、自ら離れる。

 と、アディスの背鰭に光が宿った。

 背鰭全体が白熱化し、そこから無数の光帯が放たれる。

 光帯はその全てが屈折して詩音へと向かう。

 白翼を広げ、無数に迫るそれを詩音は縦横無尽に空を奔りながら回避する。

 だが、あらゆる方向から囲む様に迫ってくる光帯を避け切る事は出来ず、回避出来ない物を詩音は雪姫で斬り弾く。

 それでも、本来ならば街の一つ程度瞬く間に壊滅させる波状攻撃。

 弾丸を上回る速度で迫るそれを全てを捌き切る事は出来ず、三条の光帯が詩音の横腹と左肩を貫く。


「ぐふッ――――――」


 呼気が漏れる。

 潰れた内臓を貫かれ、激痛すら遥か遠い苦痛が詩音を襲う。

 正常な人間ならば容易くショック死する程の痛苦。

 否、それだけでは無い。

 詩音の精神は竜の力を行使する毎に摩耗していく。

 視界には亀裂が走り、思考を砂嵐が覆う。

 死に体は一挙手毎に崩壊する。

 

 しかし、詩音は僅かに怯む事も無く、迫る光帯を斬り払った。


 亀裂の走った世界を見据え、死んだ身体を意思で無理矢理に動かす。

 肉体の破損はどうでも良い。

 壊れた部位は竜の力で強引に修復する。

 

 故にこれは、意思と肉体の戦いだ。

 詩音の肉体を突き動かす(もの)が尽きるのが先か、眼前の魔獣の命が尽きるのが先かの。


――――――――足りない……………


 光帯を捌いた詩音に向けて、アディスが再び黒炎を撃ち放つ。


―――――――まだ………まだ上がる。もっと寄こせっ


 致死の黒炎が奔る。

 直撃の軌道。

 

 しかし―――――――


 ただの一撃であらゆる加護を燃やし尽くす黒炎。

 それを詩音は左腕一本で受け止めた。

 突き出した掌で黒炎を抑え込む。

 膨大と言う言葉すら霞む量の魔力が周囲に散り、魔炎が霧散する。

 最早、炎が詩音を傷付ける事は無い。

 追撃で迫る光帯を歯牙にも掛けず、詩音はアディスへと突き進み、雪姫の一刀でその支脚の一本を斬り飛ばした。


「⬛⬛⬜■■■■■―――――――!!!!!!」


 ――――――――――そこは、神話の世界だった。

 厄災の魔獣と最古の神獣は双方共にただただ圧倒的だった。

 ただ二つの存在に世界その物が揺らぐかの様。

 人類とは、否、現存するあらゆる生物とは根本的に異なる法則と次元同士の戦い。

 他者の介入なぞ赦さない。 

 

「――――――っ!!」


 不意に怪物の長大な尾が詩音を捉えた。  

 反則じみた質量に物を言わせて、詩音を地面にまで抑え込む。   


「―――――ぐっ!!」


 先端に備えた巨大な二対の衝角で以て、圧殺せんと抑え込んでくる巨尾を雪姫で受けながら詩音は両の脚で地面を踏み締めて耐える。

 荷重で大地が凹む。

 

――――――出し惜しむな


 身体は、アディスの攻撃の有無に関わらず死に向かって行く。

 だが、そんな事はどうでもいい。


――――――こんな物じゃないだろう、シグリウス。お前の力は


 人間の耐えられる限界など、とうに超えている。

 ならば後は、ただ先へ。

 刹那の躊躇いすらかなぐり捨て、ただただ限界の先へ。


―――――――お前の持ってる物、全部寄こせっ!


 四肢に力を込め、眼前の圧倒的質量を弾き飛ばす。

 詩音を遥か上回る自重の化物は、増大した膂力に押し返されて体勢を揺らす。

 自由になった途端に、詩音は《STORAGE》から無銘の長弓を引き出し、左手に巨大な氷矢を形成する。

 惜しみ無く魔力を注いで造り上げた一矢。

 二重螺旋構造の氷に内包されるその総量は、怪物の黒炎にも引けを取らない。

 黒弓に魔剣にすら匹敵すら力を宿した矢を番え、


Eis nimm(大気を揺らせ)dasfener(瓦解の血潮)an――――――――」


 詠唱と共に竜線の弦を引く。


「⬛⬜⬛□■■■」


 迸る魔力を感じたか。

 アディスは急速に己の魔力を収束させ、黒炎の砲弾を顎内に形成する。

 限界まで高められた魔力の炎が撃ち出されるのと同時に、


「――――崩壊魔槍(ヴルドガング)


 大気を震わせる一節と共に魔矢を解き放った。

 銀の軌跡を描く矢は空間を螺旋状に捻じ穿ちながら飛翔し、放たれた黒炎弾と正面から激突する。

 青銀と深黒。二つの魔光が交錯する。

 そして、世界すら抉る魔矢が黒炎の塊を穿ち、大気中に竜巻を刻みつけながらアディスへと直進する。

 刹那、螺旋の矢が怪物の頭部を捉え、次いで世界を染め上げる閃光を伴って炸裂した。

 烈風と共に周辺の空気が残らず燃焼する。

 膨大な魔力は絶大な熱となり、白熱と爆煙が怪物の姿を覆い尽くす。

 しかし――――――


「――――っ!」

  

 もうもうと立ち上る爆煙の中から巨大な槍の様な支脚が伸びる。

 煙幕の向こうから不意打ちの様に突き込まれたそれは、鋭く尖った尖端に詩音を捉える。

 魔矢の一撃を受けたアディスの身体は所々欠けていた。

 どす黒い血を全身から流し、周辺に数多の肉片を散らばせる。

 だが、それでも怪物は健在だった。

 身体の各所を失いながらも、未だに生きている。

 そしてそれは―――――――


「―――――この」


 詩音の方も同じだった。

 直撃の軌道で突き込まれた槍脚を、雪姫の刀身と竜の膂力を以て逸し、免れていた。


「危ない、なぁっ!」


 凶暴に咆え、詩音は長弓を投げ捨て、逸した支脚の表面を空いた左手で掴み取る。

 そして、触れた場所から《拍輻魔導(アラドヴァル)》の目も眩む様な青い閃光が奔る。

 直後、全体に亀裂を走らせた支脚は、内部からの膨大な圧力に耐えかねて爆散した。

 

「⬜⬛⬛□□■□⬜――――――!!!!」


 一対の脚を奪い、それでも命までは届かない。

 あれは元より生物と言う枠組みから外れた存在。

 災害その物、言うなれば自然現象の類い。

 生半な方法では滅っし切れない。

 

―――――決め手に欠けるな…………


 そう、内心でぼやいた時だった。

 詩音の呟きに答える様に右手に握る雪姫が淡い光を灯した。

 次いで魔力が刀身へと集約する。

 その総量は先の魔矢のそれとは比較にならない。


――――――――――あぁ、いいね


 迸る魔力。

 それと共に自らの内に流れ込んでくる白竜(シグリウス)の本質を詩音は感じ取る。


――――――これなら、殺せる


 柄を両の手で握り、眼前の怪物を見据える。

 最早何の制約も掛けず、渾身の魔力を雪姫へと叩き込む。

 吹き荒れる風は、軈て絶対零度の嵐へと変じ、周囲の空気が凍結する。

 それを明確な脅威と捉えたか、怪物は幾度目ともなる黒炎を灯す。

 これまで以上の熱量を放つ黒い炎の塊。

 恐らくは、獣が持ち得る全ての魔力を総動員しているのだろう。

 魔光が収束する。

 その輝きは、アディスの炎とは比べ物にならない。

 閃光を湛えた神刀を掲げ、詩音は眼前の獣を真っ直ぐに、その蒼い瞳に捉える。

 

 それは原初の顕現。


 白き竜。

 氷雪を司り、支配する者。

 かつての世界に君臨した星の感覚。

 その神命を受け、悠久なる世界に宿りし水精達は彼の剣の許へと集約する。

 星の光を集めたかの様に輝く其は、万命の原型たる大海を統べ、数多の恵みと破壊をもたらす雫石を隷属する王の威光。

 星剣を掲げ、竜の人は高らかに、その身に宿しし権能を解放する。


「―――――《星海凍結せ(アブソリュ)し竜の息吹(ート・ゼロ)》っ!!」


 知らない筈の詠唱。

 しかしその言葉は確かに詩音の中あった。

 当然の様に自らの内に存在した真名と共に、詩音は神刀を振り下ろす。

 そして、それを迎え撃つかの様に、アディスも全霊の炎を撃ち放った。


 神光が奔る。

 

 それは神代にも揮われた原初の権能。

 解き放たれた竜の魔力は真正面から黒炎と衝突した。

 白銀の閃光は僅かな拮抗すら赦さずに黒炎の塊を両断し、触れる物の如くを氷に閉ざしながら世界を駆け抜ける。

 

「⬜⬛□□■⬛□―――――――!!!!!!」


 闇色の獣。

 その巨体を撃ち、それでも尚光の奔流は勢いを緩めない。

 直進する輝きはアディスの身体を斬り抜け、そのまま天にまで到達して雲を割く。

 銀光と氷雪。

 二重の白が絡み合いながら猛進する白竜の息吹は空間を含む森羅万象、物質概念を問わず凍結させた。

 ――――――――光が獣の肉体、その大半を抉り飛ばした。

 残ったのは獣の形を断片的に残した膨大な氷雪と肉塊。

 閃光は獣の肉体を容易く凍らせ尽くし、圧倒的な魔力の濁流を以て消し飛ばしたのだった。


「――――――――」

  

 世界が、静まり返る。



 音を立てる物すら存在しなかった。

 最早なんの感覚も残らない身体で、詩音は怪物の残骸を見据えていた。

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