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言霊神  作者: 88
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週末農業

山の朝は早い。清浄な空気の中、鳥たちの鳴き声で始まる。

まだ薄暗い山小屋の中、「チチ」だの、「ピピ」だの「ギッギッ」だのの音声を聞きながら目が覚める。


昨日の夜10時頃に東京の板橋の「時山塾」を出発して2〜3時間かけて、千葉の山奥へ着いた。最後の電車の駅のあった場所から楽に30分くらい、舗装のされていない砂利道を、中古のジープと、ワゴン車で目的地へ向った。


夜道を自ら運転しながら時山が言う。


「僕達が借りている農場は、今はもう2軒しかない過疎の山奥で、1軒には60代くらいのおばさん夫婦、もう1軒は1人暮らしの70才も過ぎたおばあさんが住んでいて、自給的なほんのちょっとの農地を耕してるようなところで、それももう手が回らなくなってきたから、と言う事で、知人の紹介で借りてるんです。」


「日本中で、同じような、農村部から人がいなくなってしまってる。特に若い人が都市部へ行ったっきり戻らなくなっている。帰るのは盆と正月くらいか。生まれ育ったところで生きていけないと言うのは親も子も、悲しい事だよね。」


日中のバイトでくたくたに疲れていた尚宏は、心地よいジープの振動と、闇夜の対向車の光の程よい明滅のなか、相槌を打つのも忘れ、深い眠りの中へ落ちて行った。



朝の何時だろう、5時か?6時か?ほんのり蒼っぽい光りの中、二度寝の快楽の中に身を委ねる。時の経過と共に鳥のさえずりはやかましくなってくるのだが、それさえBGMに、再びまどろむのに時間はいらなかった・・・。


今回週末農業に参加したのは8人。良美さん、ヒサキ君、タカシ、山ちゃん、平田君、直美さん、尚宏、そして時山氏。借りているという、古い土壁の納屋を改造した休憩小屋で、雑魚寝だった。


どうやら二度寝をきめこんでいたのは尚宏だけでなく全員だったようだ。無理もない。みんなそれぞれ昼間仕事をして、夜中に山に着くのだから。

二回目の朝は寝袋のファスナーを上げ下げする音で目覚めた。


「眠れましたか?」


時山氏が朝から快活な表情で、尋ねてくる。


「はい。おかげさまで。・・・・・でもなんだかいつもの目覚めよりボーっとします。

なんかだるいような気もするし・・・。」


「毒が出てるのかも知れないね。」


「毒?」


「そう。現代人は特に食品にいろんなものが添加されてても、食べないわけにいかないような社会になってしまってる。人類何千年以上の歴史の中で、この50年で、今まで食べなかった化学合成品を大量に取るようになったからね。前も言った、添加物や農薬のたぐいね。本来生命には必要ない、いや、厳密に言うと生命活動を阻害するような物質なんだよな。だから、自然の中の山や、早朝は生命エネルギーが中からも外からも高まってくるから、不要物、不純物は体外に出そうとする力が強まる。自然治癒力って呼ばれてるけどね。」


「ふーん。鼻水が出たりするのもそうなんですか?」


「鼻なんかは脳毒の最たるもんだろう。頭痛とかも脳に行ってしまった不要物を熱で溶かして体外に排出しようとする、実にありがたい機能なんだけど、現代人はすぐ止めようとして、薬を飲んでしまう。緊急時以外に薬品を常用すると、いずれまとまった形でしっぺ返しが襲って来るんだけどな。」


「はぁ。そんなもんですか。」


「そんなもんよ。ヒッヒ。」

と笑う。


喋ってるうちに、山の空気の中においしい味噌汁の香りが立ち込めてきた。


「さぁ、女の子達がご飯作ってくれたから、いただきましょう。」


「おー。すごいですねー。料理得意なんですか?」


「得意ってほどじゃないけど、ここへ来るうちに少しは上手になったかな。」

と「憧れ」の由美さんが答える。


山小屋の外に無造作に置いてある「コンパネ」に、申し訳程度の足をつけた長机のようなモノに、8人が揃い食事になった。


「いっただっきまーす。」


「おお。おいしい。これはうわさの玄米ですか?」


「そうそう。よく噛んで食べないと消化はしづらいからね。」

と時山氏。


「はーい。こんな大人数でご飯を食べるのも初めてのような気がしますね・・・。しかも外で。」


「そうだね。核家族化で、昔みたいな大家族は今はもう珍しいからね。でもこういうのいいでしょ?」


「はい。楽しいですねー。」


朝食ともブランチともとれる楽しい食事時間は笑い声の中で過ぎていく・・・。









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