表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
言霊神  作者: 88
2/7

教え主様

富士山近郊のとある村。大型バスが次々と駐車場に入ってくる。30〜40人乗りのバスが20台以上だろうか、所狭しと並んでいる。暑くも寒もくない、心地よいとしか思えない日差しの中、ぞろぞろとバスから降りた団体は目的地へ向って歩いていく。5分ほども空気の澄んだ道を歩いただろうか、一体、何十億円使ったのか、かなり設備の行き届いた、大きな白い外観の建築物が建っている。門には金のメッキがこれでもかと施され、ともするとケバくさえ感じられる。 


(宗教ってなぁ、こんなもんなのかな・・・。)


集団の中に埋没しているので、あからさまにイヤな顔もできず、ひっそりと尚宏は思う。


(みんな幸せそうな顔して歩いてるけど、ひょっとして騙されてるんとちゃうんか・・・?)


尚宏の懐疑心をよそに、幸せそうな人々の群れは建物の中のメインホールへと連なって行く。


正座の姿勢から頭を下げて、神社で正月に日本人がするように、拍手(かしわで)をする事からその大祭ははじまった。幹部役員らしき人達が、代表でみんなの前に出て、祭壇らしきモノの前で順番に頭を下げて行く。2〜3人が拝礼したあと、厳粛な音楽と共に、


(おし)(ぬし)様ご入場!!」


とスピーカーから厳格な声が聞こえる。500〜600人もの群集が一斉に微妙な緊張感の中に放りこまれる。 右の舞台袖から、金色の着物を着た初老の男性が入って来たようなのだが、あまりの人の多さで尚宏にはよく見えない。まぁ、それほど興味も無いし、半ば疑ってるところも無きにしもあらずなので、わざわざ見ようとはしなかった。


「ガクビジッソウゲンゲンシカイ・・・・・・・・・タカアマハラニカムツマリマス・・・・・。」


例の東京の支部でもおこなわれていた浄霊の際の「ノリト」。

教え主様の素敵な金色のお着物の胸元に装着されたマイクが声を拾い、場内に響き渡らせる。

教え主様が頭を神殿に向って下げるたびに600人の「群れ」も同時に頭を下げる。少しだけ下げた感を見せながら、周りの様子をうかがう尚宏。あまり反抗的な態度をとって、由美さんや、さっきの時山氏の反感を買うのは避けたいとは思うのだが、群れがそろった行動をとると、どうもそれとは違う事をしてみたくなる性癖が、子供の頃からあった。小さい頃から父親から


「まわりと違う事をするな!」とよく注意された。


(あの教え主様とやらが、この600人が頭を下げるほど尊敬に値するような大人物、本当に「神」と通じるような超人だとしたら、今俺が後ろから後頭部をたたいて「ぱーん!!」と、ゆわそーとしても、当然未然に防ぐんだろうな、そんなんもよけれんかったら、たいした教祖じゃないな・・・。)


などと思いつつ、退屈な時の早く通り過ぎるのを尚宏は祈り始めた。周囲の人は教え主様と祭壇の中の大神(おおがみ)さまに人類の幸せを引き続き祈っている・・・・・・。


教えぬし様の訓辞(?)、お話、合唱団による「神さま賛歌」合掌、の後、昼食、懇親会をへて閉会式となった。


お色直しも麗しく、銀色のお着物で再び舞台左袖から入場する教えぬし様。


「ガクビジッソウゲンゲンシカイ・・・・・・・」


閉会式も無事終わり、一同解散してバスに乗りこむ。帰りのバスの中で、先ほどの時山氏とまた一緒になった。


「うーん。宗教ってこんな感じなんですかね?なんかどうしても騙されてる感があるのは気のせいでしょうか?」


数時間の煮詰まった時間の中で、少したまった疑問を尚宏は時山にストレートにぶつけて見た。


「まぁ、あんなもんじゃないですか。僕達はもともと、学べるところだけをもらいに来てるつもりだから、宗教ボケと呼ばれるほどまでにはのぼせ上がらないようにしてるつもりですけどね。霊とか、神様とか、憑依・憑霊現象とか、その対処を学びに来てるくらいなもんで。」


「憑霊って、狐つきとか、悪い霊に取り憑かれる、とかいう、つのだ次郎先生のあれですか?」


「そう。つのだ次郎先生のあれです。」


「やっぱり本当に現実に霊とかが、人間に作用して、悪影響を与えるなんてことがあるんですか?」


「あるでしょう。というよりも、影響されてない人間の方がまれでしょうな。」


「取り憑かれたりしない為にはどうしたらいいんですか?」


「日頃の心の持ち方と、自分の縁、因縁、カルマ、業とか呼ばれるものを整理、掃除、浄化して行く事、物理的には血液をなるべく汚さない事かな。霊は血液に宿るとも言われてるから、汚れた血液には汚れた霊、きれいな血液にはきれいな霊が関わりたがるっていうしね。今の日本の様に肉と油と砂糖と酒と、売らんが為の添加物、農薬、擬似化学栄養ビタミン剤とか摂りまくってたら血液はもうドロドロだよね。脳梗塞や、心臓病、ガンも増えるのは必然だよな。過度なストレスや怒り悲しみ、なんかでも血液は瞬時に反応するって言うしね。」


饒舌な時山の話は続く。


「厚生労働省がなぜ、食にもっと目を向けないのか、病人ができてから対処しようとしてるところに絶対的な無理があるよな。無理な仕事でストレスを貯めて、その解消に人々は過食やアルコールに走る。ひどい時には薬物に手を出すものさえいる。僕達は人類の生き方、社会のあり方を根本的に考え直す時期に来てるんじゃないかな。」


「・・・・・・・・・。」


「一番見直すべきは租税制度だ。」


「租税制度ですか?納税は国民の義務と言われてるやつですよね?」


「国の法律で義務にしてるんだけど、ここまで為政者が腐ると、明らかに税金をとる側、税金で飯を食う人達の理屈にしか過ぎない事が分かってくる。皆の為の物にお金が必要だからと言って、集金しておいて、影で豪遊してる、みたいな・・・。カツアゲや、泥棒は犯罪で、つかまれば処罰されるのに、徴税は公然と行なわれている。こんなばかげた話は無い。テレビのニュースでよく脱税して捕まった会社のニュースを報じてるけど、あれも逆に徴税のたびにニュースにした方がスジだよな。今日どこそこで、また、泥棒的、強制徴税行為が国家権力により行なわれましたってね。あんまり言うと反社会的過ぎて、普通の人にはひかれちゃうけど、実際今の徴税のしかたはひどすぎる。そいでもって、その金で、アメリカの債権買いまくってるんだから。アメリカの国益、利益戦争で落とす爆弾の為に、僕らから無理に持っていった税金が使われている。」


「政治家ではなく、悪質商人気質の『政治屋』と呼ばれるゆえんがそのへんにあるわけですね。役人は疫人か、厄人か・・・。」


「おお。尚くん、よくわかってるね。もともと僕は学習塾をやっていたんだけど、子供達の様子を見てたら、食の問題と、健康を考えさせられてね。それで学習塾はやめて、人間、自然塾みたいな方になって来てしまったんだ。20人くらいのメンバー、塾生達と、近距離のところに部屋をいくつか借りて共同生活みたいな事をやりながら、週末は2〜3時間かけて、千葉の山奥の過疎の村に行って、畑を借りて農業をしてるんだ。よければ今度いらっしゃいませ。」


「へぇー。面白そうだなー。是非連れて行って下さい。でもバンドとかやりたいし、時間が取れないかもしれません・・・。」


「食料危機になって、食べ物が無くなるって言う時に、音楽や、バンドどころじゃないでしょう?まず食べ物確保じゃないのかな?現代人はみんな本当に大事な事と、その上に成り立ってるモノとを取り違っちゃってるよね。だから農業する人がいなくなって、銀行、金融、証券、保険とかいった、本当は対して必要でもないものに比重が行っちゃって、こんなおかしな社会になったんだけどな。証券や株なんざ、大昔から嫌われてた、ばくち、賭け事だぜ?銀行なんか悪徳高利貸しだし、保険屋なんざぁなんだありゃ?明日病気になる可能性の為に、今からお金を用意しましょう?宇宙真理や神様的発想から言ったら、まったく真逆の悪魔的発想だよ。」


「ぐぅ・・・・・。反論の余地が見当たりませんが・・・。」


「あっはっはっはっは。ごめんごめん。しょっぱなから言いすぎたな。学生運動上がりなもんで。徹底糾弾や、人を詰めたり自己批判させたりするのがちょっと好きだったりするのよね。」


「先生は結構Sですよね?」


横から塾生の1人と思われる男性が口を挟む。


「そうかもしんない。ひっひっひ。」



日も暮れそうな時間になって、大型バスは出発地点にもどりつつあった。

都会のカラスも公園の木々のねぐらに帰って行く・・・・・・・・・。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ