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第一話 目覚め

 

 この世界には、魔物と呼ばれる存在がいる。

 主に人間に害をなす生物をまとめてそう呼んでおり、その強さや種類はまさに千差万別だ。


 本来ならば、魔物と人間は永遠に相反する仲だっただろう。

 しかし、そんな魔物と心を通わせる才能を持った人達がいた。彼等のおかげで、魔物あらためモンスターとは共存できる関係になり、同時にモンスターを導く存在をモンスターテイマーと呼ぶようになった。


 俺ことアレンも例に漏れずモンスターテイマーで、相棒のモンスターと共に過ごしている。

 しかし、そんな日常を退屈に感じるようになってきてしまう。


 元々、俺は他のモンスターテイマーと戦うのが好きだったのだが、以前世界大会で優勝してから誰も俺に挑まなくなっていた。


 モンスターと共に修行し、強敵を打倒する達成感。

 勝てなかった敵の弱点を分析して、次こそは勝つとガムシャラに進む毎日。

 そんな充実した日常が、名実共に最強になってしまったせいで、なくなってしまったのだ。


 刺激がないまま、相棒と送る死んだような日々。

 このまま生きる屍として朽ち果てるのか、と漠然に考えていたが、ある日唐突に閃く。

 俺が望む強敵がいないのならば、いる時代まで行けばいいじゃないか。


 考えが決まったのなら、話は早い。

 一流のモンスターテイマーだけが使える、モンスターとの同化。

 それの発展系とも言えるのが、モンスターの能力のみを自分に宿す能力。

 世界でも俺しか使えなかったそれを行使し、自分の身体は一時的にモンスターの力を得る。


 全身で感じる全能感を抑えつつ、俺は自身の別荘があるとある山脈の半ばに腰を下ろす。

 そして、モンスターになった影響で増えた膨大な魔力を、繊細に制御して自分に封印魔法をかける。


「よし……ふぁぁ」


 これは対象を深い眠りに誘って封印する魔法で、同時に封印されている間は対象の時間も止まるのだ。

 訪れる抗えない眠気に、俺は別荘のベッドで横になって目を瞑る。


 俺の封印が解けた時の年代では、新たな強者が台頭しているだろう。

 願わくば、強いモンスターテイマーがいることを。


 最後に心の中で祈った俺は、意識を深い底へと沈めるのだった。



 ♦♦♦



「──んぅ……?」


 寝ぼけ眼のまま、起き上がる。

 頭を掻きながら周囲を見回し、ここが自分の別荘だという事を確認。

 同時に、何故俺がここで眠っていたのかを思い出す。


「そうだ。未来に行くために、自分を封印していたんだっけか」


 ベッドから降りた俺は、洗面所に向かって顔を洗う。

 備え付けられていた鏡を見てみると、いつも通り二十代前半の茶髪青眼の自分の顔が映る。


 どうやら、無事に成功したみたいだ。

 眠りにつく前と同じ年齢のままで、特に老けたといった様子はない。


「同化も解けてるみたいだな」


 俺が能力を使っている時は、髪の色が白くなっている。

 しかし、今は俺自身が持つ茶髪だ。


「外はどうなってるかなっと」


 別荘を抜け出た俺は、空を見ていつも通りの抜けるような青さに頷く。

 時代が変わっても、この辺の変化はないらしい。


 周囲を見てみると、封印前と草花の種類が変わっているような気がする。

 付近には俺が適当に植えた木々があるのだが、見覚えがない物があるような。


「まあ、いいか……ん?」


 空の方から、一つの影が近づいてきていた。

 覚えのあるシルエットに、思わず笑みが浮かぶ。


「そんなに急がなくても逃げないってのに」


 封印時に力を借りた、俺の最初の仲間にして長年の相棒。

 陽の光を反射する美しい白い鱗に覆われているそれは、モンスターテイマーの間でもっとも人気がある存在──


「おはよう、ロコ」


 目の前に着地した巨大なドラゴン──ロコは、俺の挨拶に高めの唸り声を返した。

 同時に、俺との間に繋がっているパスから、嬉しそうな念が送られてくる。


「わかったわかった! お前が喜んでるのは伝わってるから!」


 顔を寄せて舐めてこようとするのだが、せっかく顔を洗ったばかりなのだ。

 ドラゴンの涎まみれになるのは、勘弁したい。


 擦り寄るロコの頭を撫でながら、俺は相棒の状態をざっと確認する。


 身体に外傷はなし。パスを通じて身体の中も調べるが、特にこれといった問題はない。

 まさに健康体そのもので、俺がいない間も体調には気をつけていたらしい。


「よし。まずロコに聞きたいんだが、俺がいない間変わったことはあったか?」


 具体的には、強いモンスターテイマーとか。

 そんな期待を込めて尋ねると、ロコから山に篭っていたからわからない、といった思念が返ってくる。


「なんだ。お前も山から出なかったのか?」


 俺の言葉を聞き、ロコは拗ねた様子で顔を逸らした。

 同時に、パスから俺が別荘で封印していた事に関する抗議の念が伝わってくる。


「あー……そうだな。勝手に決めたのは悪かった。ごめん」


 頭を下げて、謝罪を示す。

 いくら世界に退屈していたとはいえ、ロコに無断で封印をするべきではなかった。


 反省していると、頭上から仕方ないなあといった風な唸り声。

 頭を俺に擦りつけたロコは、翼を畳んで伏せる。


「乗ってほしいのか?」


 俺の言葉に、頷くロコ。

 その金色の瞳は、期待に満ちた色でいっぱいだ。


 昔から、ロコは俺を背中に乗せるのが好きだった。

 ロコが乗り手を守る魔法を発動しているので、俺個人としても快適な空の旅として楽しんでいた。


 適度に風を切る感覚や、瞬く間に変わっていく景色。

 そして、眼下に広がる壮大な光景。

 これはドラゴンを使役しているモンスターテイマーでしか味わえない、魅力的なものだろう。


 思い出していたら、俺も乗りたくなってきた。

 ロコの瞳を見返して、笑みを向ける。


「じゃあ、早速頼む」


 ロコとの遊覧ついでに、空から時代の変化を探すのもよいだろう。

 跳躍してロコの背中に足を乗せ、首元辺りで腰を下ろす。


 俺が座ったのを確認したロコは、額に生えている二本の白い角を輝かせた。

 すると、ロコの全身が光に包まれ、透明な膜で覆われる。


 これは、ロコが使う乗り手を守る魔法だ。

 ロコはドラゴンとしての力はもちろん、魔法の力量も高い種族なのだ。


「とりあえず、右の方に向かってくれ」


 俺の言葉に声を上げると、翼を羽ばたかせて飛び上がったロコ。

 あっという間に別荘が小さくなっていき、眼下に無数の山々が広がる。


 暖かい陽光に照らされながら、俺は目を細めてモンスターとの同化。

 一時的に龍の目となった瞳を巡らせ、辺りの様子を確認していく。


 見たところ、これといった変化はないようだ。

 記憶通りの自然のままで、山の中に新しく街ができたといったような事はない。


「──」


 俺との飛行がよほど楽しいのだろう。

 先ほどから、ロコは機嫌良さげに美声を震わせている。


 ロコはメスのドラゴンで、その歌声はとても澄んだ音色だ。

 一国の王がロコの歌を聴くためだけに、俺を呼び寄せたと言えば、その歌声の凄まじさが理解できる。

 俺個人としても、彼女の歌を聴くのは好きなので、自然とリラックスした体勢でこの気持ちの良い時間を楽しむ。


「ふんふふ〜ん……ん?」


 合わせて鼻歌を奏でていた俺は、木々の隙間で動く影を捉えた。

 目を凝らしてみれば、どうやら盗賊の類いの集団らしい。


 この辺……というか、この山は俺の私有地なのだが、俺が封印されている間でその辺の権利が変わったのだろうか。

 まあ、元々俺が自由に使ってもいいと言っていたので、いる事自体は構わない。


「とはいえ、やっぱり盗賊がいるのは困るな」


 正確には、盗賊らしき集団だが。

 振り向いて表情で尋ねてくるロコに、俺はニヤリと笑みを向ける。


 さて、俺が目覚めてからの初邂逅だ。

 見た限りだと仮称盗賊達はモンスターテイマーではないようだが、それでも否応もなく期待は膨らむ。


「よし。ロコ、標的はあっちだ」

「──」


 改めてロコへと命令すると、彼女は歓喜の雄叫びを上げて進路を変える。

 翼を閉じて風の抵抗を減らし、一本の槍のようになって急降下。

 数瞬後には相手の元にたどり着き、木々をなぎ倒しながら着地。


 ざっと気配を探ってみたところ、この場にいるのは五人。

 粗末な皮鎧に身を包んでおり、お世辞にも強そうには思えない。


「な、ななっ……」

「はぁ。薄々気づいていはいたけど、期待外れだな」


 ロコの姿を見て、全員腰を抜かして失禁をしているし。

 いやまぁ、ロコの高貴なオーラの中から垣間見える、重厚な力の片鱗に威圧されるのはわかる。


 それにしたって、驚きすぎだとは思うが。

 俺以外にも、ドラゴンを使役するモンスターテイマーはいるはずだろうし。


 ともあれ、彼等への興味は薄れたので、情報収集を終えたら別れよう。

 そう考えた俺は、不意に一人が手に持つ麻袋に目がいく。


「……おい、それはなんだ」


 しかし、俺の声は相手に届いていないのか、無言で魚のように口をパクパクしているのみ。

 時間が惜しいので、ロコに頼んで彼等を魔法で拘束させたあと、飛び降りて麻袋を奪う。

 中を開いて見てみれば、小さな鳥かごが入っていた。

 そして、中で羽がある小人──フェアリーが、こちらを驚いた表情で見上げているのだった。






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