ゼリリン、会議を始める
吸血鬼プラリネちゃんから情報収集をしてから2日後、俺たちは魔王ゼリリン城へと帰還していた。
あのあとついでに、帰る間際に数十枚のチラシに加えてお試し用のエリクサーを一本渡しておいたので、きっと有効活用してくれると思いたい。
「という訳で、公国で入手した情報を基に作戦会議を行いたいと思います。みんなの忌憚なき意見をよろしく」
「おう、まかせろ」
「はいっ! 任せてください若っ!」
「のじゃーっ! なんでワシも参加しなきゃいけないのじゃっ! もう少しでリベンジャーズ・レッドが倒せそうだったのに!?」
「スラッ」
そんなこんなで、俺はカジノで有用そうなメンバーを集めて対王女作戦会議を開いていた。
メンバーは俺、タクマ、リグ、ルゥルゥとスラタロだ。
わんわんを参加させてもいいのだが、往復4日も重労働な任務についていたので、今は休暇中である。
俺は社員を大切にするゼリリンなのだ、めざせホワイト企業。
それとルゥルゥが何か言っているが、真に受けてはいけない。
ロリ魔女の購入したカラースライムは今のところ勝利した試しがないので、おそらく今回も同じ結果であっただろうと推測される。
なにせあのスーパーミラクルルゥルゥ号(ロリ魔女命名)は、持ち主に似て負けそうになるとすぐに逃げるのだ。
実力の拮抗しているカラースライムたちの接戦において、その逃げ腰は致命的ともいえる。
いま猛進中のリベンジャーズ・レッドとは正反対の性格だな。
「ではまず、この作戦において最重要項目であるカジノ防衛戦について、なにか意見のある人は挙手を」
「はいっ!」
「では、まずはリグ助手から」
そういいつつリグの意見をメモするために紙とペンを取り出す。
「王女が攻めてきたら倒します」
「なるほど、興味深い。具体的にはどうのように?」
「若と私が居れば余裕ですっ!」
「却下で」
「どうしてですかっ!?」
どうしてもなにも、それはそもそも作戦じゃない。
やっぱりリグは脳筋少女のようだ、あまり参考にならない。
「のじゃーっ!」
「ほい、ではルゥルゥ特別顧問」
「罠に嵌めれば良いのじゃ」
「なるほど、悪くない。具体的にはどのように?」
「それを今から考えるのじゃっ!」
「じゃあ考えておいてくれ」
そういうのは考えてから言おう。
ルゥルゥは着眼点は悪くないけど、やっぱりちょっと抜けているようだ。
そしてその後はタクマ、ルゥルゥ、スラタロ、復活したリグと共に意見を交えたが、あまり建設的な意見は出なかった。
残念な結果である。
迷宮はあれから強化されて、地下5階まで充実した内容のダンジョンが出来上がっているのだが、それだけはやはり心許ない。
そもそも俺はなるべくカジノ付近でバトルをしたくないので、できれば損害は少なくしたい今日この頃だ。
なにか、なにかないだろうか。
「のじゃーっ! もう埒が明かんわいっ、いっそのこと正気を取り戻した公国の者たちに守ってもらったらどうじゃ。どうせこれは奴らの問題じゃ、ワシらが頑張ることがそもそもおかしい」
「なるほど」
ルゥルゥがまともな事言いはじめた。
確かに俺たちがどうこうするというよりは、転生者たちに協力してもらった方が効率はいいな。
転生者たちもカジノのバックアップがあれば王女の権力に引けは取らないだろうし、なにより彼ら自身の自己防衛にもつながるだろうし、必死になるはずだ。
うむ、やっぱり最初の想定通り、流れに任せるのが良いかもしれない。
「では、当初の予定通りそれを採用という事で」
「だな、確かに無理に戦う必要もねぇ」
「スララッ!」
「くっ、やりますねロリ魔女」
そうと決まればさっそく準エリクサーの開発だ。
できるだけ効果が維持しつつ、異常状態を取り除ける範囲の能力程度まで落とす作業をしよう。
だがもしもの事を考えて、王女に関連で何かアクシデントがあった時のために、エリクサースラタロ.Jrを準備しておいても良いかもしれない。
スライムの魔力量の関係から、本来のエリクサーレベルの効果は発揮できないだろうけど、状態異常を治す程度なら活躍するはずだ。
「さて、会議も終わったしワシはまたリベンジャーズ・レッドに挑むとするかの。あやつは連戦中じゃろうし、次はきっと勝てると思うのじゃ」
「ハイパールゥルゥ号は逃げ腰だから、そこを直せばある程度は勝機があるよ」
「スーパーミラクルルゥルゥ号じゃぞ」
「どっちでも同じだよ」
ネーミングセンスが壊滅的なので、どっちでもあまり変わらない。
というか基本的にルゥルゥはギャンブルが弱く熱中するタイプなので、ここで勝っても負けてもZCはどのみち消えていくだろう。
健闘を祈る。
「……そんな事より、まずはスラタロを増やさないとね。ゼリリンチャージっ!」
「スララァッ!!」
うむ、1匹増えた。
◇
……そして会議を始めてから1週間後、現在カジノの中は公国の転生者たちで大賑わいを見せていた。
吸血鬼ちゃんが連れてきた人達やチラシを見た人達がこぞってカジノに押し寄せ、魔物の素材を納品後、エリクサースラタロ.Jrのサービスによって正気を取り戻していったようだ。
さらにZCが半分で入手できる準エリクサーの開発にも成功したので、入手難易度が下がったのも原因のひとつだろう。
エリクサースラタロ.Jrも魔力をチャージしないといけないので、常に起動している訳じゃないからね。
ある程度は自力で入手してもらう必要があるのだ。
ちなみに新商品の名前は【万能薬】といい、主に状態異常や病気なんかに対する特効薬として紹介されている。
ただ、洗脳されていた人たちはその間の記憶がないようで、誰にどうされたかっていう肝心な事を思い出せないようだった。
これはちょっと想定外かな、若干予定が狂う。
「まあでも、もう一度洗脳しなおすにはプラリネちゃんが許さないだろうし、反乱はいずれ起きるだろう」
あとは王女の奴が何をしてくるかだけど、さすがにもう気づいている頃かな?
奴がどういう手段に移ってくるかは知らないが、こちらの布陣は正気を取り戻した転生者たちとゼリリン城の警備員だ、負ける道理は無い。
そんな事を考えながら流れるプールで日向ぼっこをしていると、ふいにゼリリン城の外から大声が発せられた。
なんだなんだ、敵襲か。
「出てきなさいカジノ・ゼリリンとやら、あなたに話があるわ!!」
「ぜりっ?」
なんか外に10歳くらいの女の子が、騎士を連れて仁王立ちしている。
誰だろう?
無視しとこ。
「出てきなさいって言ってんのよっ!! あなたが私の計画を台無しにしたことはお見通しなんだからねっ!!」
あ、ちょっと涙目になった。




