ゼリリン、また宣伝をする
キノッピを食べながら吸血鬼プラリネちゃんとタクマの会話を聞いていると、彼女を含む公国の事情が分かってきた。
まず大前提として、公国が自国の権力拡大のために帝国落としをしようとしているのは事実なのだが、転生者たちがなぜそんな公国に協力しているのかというのが問題になっている。
プラリネちゃん曰く、最近公国で多く見られるようになった力ある者たちは、その知識や能力を自国のために尽くそうという傾向が強すぎるように思えるとの事で、あきらかな不自然さを感じるほどだとか。
もちろん自国のために行動する事は不自然な事ではないのだが、話はそう簡単ではないらしい。
俺に挑んできたグラン君にしても、昔はあそこまで過激な行動をする人間ではなく、ほんの4年ほど前までは実に思慮深い人間だったとの事。
ではなぜ、彼が帝国落としなんていう無茶な行動をとり始めたかというと、それはどうも公国の王女の能力が関係しているのだそうだ。
彼女も最初は気づかなかったのだが、4年前にグラン君がその力を買われて、公国の王女と接触してから徐々に変化が訪れたという。
なぜかグランと同年代の王女は彼とよく接触したがるので、惚れているのかなにかだと思ったそうなのだが、どうも様子がおかしい。
王女が会うたびにグラン君の魔力には別の魔力が混じり始め、いつしかそれは全身に回る猛毒のような絡まりかたを見せたのだ。
その魔力の浸食が進むにつれて彼は王女に従順になっていき、ついに他国に侵略をしかける事にすら違和感を覚えなくなっていったらしい。
そしてそれは帝国の巫女や獣人ちゃん、騎士さんにしても同じで、元からグラン君と交友があり一緒にいる事の多かった彼女らにもその魔力は付着していった。
これはアレだな、王女さんが怪しい。
……ぜりっ。
「なるほどな。まだ推測に過ぎないが、だいたい分かった。……そいつは恐らく、王女のスキルかなにかだろ。魅了や精神操作あたりのスキルって線が妥当だな」
「うむ、恐らくそうだの。わらわは魔族である故、精神操作系のスキルは効きにくい事で難を逃れたが、グランの奴は人間だからのぉ。汚染の進行が早く、気づくまでの時間が足りなさ過ぎた」
確かにタクマの言う通りだと思われる。
なぜ王女がそんなスキルを持っているのかは知らないが、これも最近現れた不思議な能力を持つ奴らっていう条件とも一致している。
ようするに王女もチートスキルを持った転生者ってことだ。
抵抗力のある者には効き難いらしいから、勇者であるタクマや魔王の俺なんかは大丈夫だと思うが、リグがちょっと心配だ。
魔法なんかによるものだったら対魔力装備で防げるんだろうけど、おそらくあれは転生特典かなにかのスキルによるものだから、種族が完全に人間なリグには抵抗が難しいだろうと推測される。
王女の魅了は対人間用なのだろう。
「ふんっ、権力なんかに負けて若に襲い掛かってきたとは、身の程しらずな奴ですね。私が居ればその場で切り伏せたものを」
「うん、そうだね。でもリグはちょっと静かにしててね」
「はいっ!」
たぶんリグは会話の3割も理解してないと思われる。
それにそもそも、権力の話はしていないからね。
「だいたい分かったよ。でもその理屈でいくと、すでに公国の中枢は王女の手に落ちているかもしれないね」
「おそらく高確率でその事態になっておるだろう。だがしかし、悪い事ばかりでもない」
「む?」
ちょっとだけプラリネちゃんが嬉しそうな顔をしている。
「グランの奴が正気に戻ったからじゃ。あやつは一度死にかけたせいで魔力を大量に消耗し、絡んでいたおかしな魔力と一緒に疲弊していたからの。そんなとき、お主から貰ったエリクサーをかけられればあら不思議、状態異常はキレイサッパリだったという訳じゃ。さすがは魔王、全て計算済みといったところかの?」
「さすが若っ! すべてお見通しだったという訳ですね!?」
「ぜりっ!?」
なんと、あのエリクサーがきっかけでグラン君一行は正気を取り戻していたらしい。
ぶっちゃけ、エリクサーを渡したのは単なる偶然なんだけど。
偶然でしたって言おうか迷う。
「ああ、当然だ。俺とセリルがあの程度のスキルに気づかない訳がねぇ」
とか思ってたらタクマがハッタリをかましてきた。
お前それ絶対嘘だろ。
嘘はダメだぞ、勇者の風上にもおけないやつだ。
でも楽しそうなので、俺も便乗しとく。
「うむ、まったくもってその通りだ」
「クククッ、だよな」
「ぜりぜりぜり(笑)」
「さすがです若っ!!」
もっと褒めていいんだぞ。
ゼリリンは褒められると伸びるタイプなのだ。
しかし、これはあれだな、対王女用にエリクサーを売り込む大チャンスだ。
さっそくカジノの宣伝をしておこう。
「という訳で、それを予想していた僕の手元にはエリクサーが大量にあるんだけど、どうする?」
「なんとっ、あれほどの秘薬がまだあるとっ!? しかし、タダという訳にもいかないという事だの?」
「うむ、詳しくはこのチラシをどうぞ」
「こ、これは……」
そしてスッと、プラリネちゃんの手にカジノのチラシを数十枚ほど手渡した。
これだけ渡せば、きっと他の人にも配ってくれるだろう。
そうなればエリクサーを入手する人も増えて、プラリネちゃん達の指示のもと回復していく人が増えるはずだ。
それと、他の人たちがエリクサーレベルの高級品を入手できるかも分からないので、万能薬レベルの準エリクサーレベルの商品も入荷しておこうかな。
安いポーションで半分に薄めて作れば、そんな感じのもできあがるだろう、たぶん。
そうなればその後は、王女の洗脳から解けた人たちが勝手に問題解決に向かうと思うし、俺はカジノの宣伝もできて一石二鳥だ。
あとはその後の王女がどう出るかだけど、まあそれは地道にゼリリン城を強化しておけばいい。
たぶんなにかアクションがあるだろう。




