ゼリリン、ダラける
蒼の旅団との勝負に決着がつき1ヶ月後、俺は特になにをするわけでもなく、魔王ゼリリン城でダラけていた。
ちなみに、学校はゼリリン2号にまかせっきりで、一週間に一度冒険者ギルドに派遣して、学校への報告を行ってもらっている。
そしてゼリリン城に関してだが、元々対旅団のためだけに建設した5階層から50階層までは、すべて宿泊施設や娯楽施設といったテーマパークに姿を変えており、今では観光施設と化してしまった。
だが、これらはすべてカジノへ客を呼び込むための重要な要素であり、もちろん宿泊なんかにもゼリコインはかかるが、最低Eランクの素材からでも受け取り可能なので客足が途絶えることはない。
よって、次から次へと魔物の素材を持ち込む観光客や常連客で賑わう事になり、俺はその持ち込まれた魔物素材をDPに変えて悠々自適に暮らしているという訳である。
まったくもって、ボロい商売だな。
「くるしゅうない」
「……そうですね若、やはり平和が一番です」
今も魔王城の庭付近に新たに設置された娯楽施設、流れるプールに身を任せてプカプカと浮いているところだ。
何もやらなくてもゼリリン城は繁栄しているので、毎日こんな感じである。
「まったくだぜ。何か忘れている気がするが、まあそのうち思い出すだろうよ。クククッ」
「そうですね。悪魔の囁きにしては、今回は的を射ているようです。ふふふっ」
「ぜりぜりぜり(笑)」
「ふふふっ」
「クククッ」
タクマもリグもマット型の浮き輪に乗り込み、流れるプールの波に身を任せている。
平和で何よりだ。
うむ、本日は青天なり。
「ところでよセリル」
「なに?」
「お前、この前のアレどうなったよ。アイゼン帝国と旅団の本国とやらに関係する情報収集」
「……ああ、あれね」
「そうだ、あれだ」
そうそう、そんなこともあったっけ。
いつも平和だからすっかり忘れていたよ。
あれから彼らの姿は見ていないが、元気にしているかな。
してるといいな。
「うむ」
「おう。で、どうなった?」
「……うむ? ……ふむ。……はて?」
うーん、どうなったんだろう。
ま、いいか。
「ってお前、ま、いいか、みてぇな顔してしてんじゃねぇよっ!? 完全に忘れてんんじゃねぇかっ!!」
「あだぁっ!?」
タクマに突然ぶたれた。
せっかく気持ちよく浮かんでたのに、ひどいやつである。
「セリルてめぇ、その盛大な余裕は情報収集が終わったからじゃねえのかよっ!?」
「ぬわーっ!」
なんだなんだっ!?
タクマが急に怒り出したぞ、おちつきたまえぇっ!
あ、お腹ペシペシするのはダメっ、そこはゼリリンボディの繊細なところなんだっ!
「あ、悪魔が若に謀反をっ!? おのれタクマめ、許さんっ!」
「あぁっ!? どう考えてもこいつが悪いだろうがっ、もう一ヶ月も経ってたんだぞっ」
「まつんだ二人とも、喧嘩はよくない。ここは僕の顔に免じて…… ぜりっ!」
「そもそもお前が原因だっ!」
なんと、奴が怒っていたのは俺が原因らしい。
あ、怒ったタクマがついに装備をとりだしてきた。
まて、まつんだ相棒、話せばわかる。
「ま、ままま、マテ、話せばわかる。ただちょっと、ほんのちょっと忘れてただけなんだよ。ちゃんと準備は整っている」
「……本当だろうな」
「うむ」
「……チッ。しゃあねえ、なら話だけでも聞いてやる」
そう、情報収集はまだだが、準備はちゃんと進めてきたのだ。
主に公爵家としての権力を取り戻した酒場のマスターと、その延長線上にあるアイゼン帝国の王様との会談が、本日午後に設けられているのである。
1ヶ月かかった理由は主に、マスターのおっちゃんがアレコレと政権を取り戻すために苦心していた時間だ。
一度失脚してしまったおっちゃんが元に戻るのは、それくらいの月日は必要だったという事である。
いくら王の力添えがあったとしても、そう容易い事ではなかっただろうに、まったくもって凄いおっちゃんだな。
「はぁ、なんだよ真面目にやってんじゃねぇか。そうならそうと先に連絡しとけ」
「すまない、めんどくさかったんだ」
「殴るぞ」
「っていうのは嘘で、単純におっちゃんが成功する確証がなかったから、様子をみていたんだ」
報告してなかった事は申し訳ないが、うまく政権を取り戻せるかわからなかったから様子を見ていたんだよね。
だがこれで準備も整ったことだし、そろそろ着替えてアイゼン帝国へ向かうとしよう。
やれやれ、今日からまた一仕事だな。
それからその後、フル装備のタクマとリグ、悪役マントをつけた俺はアイゼン帝国へと向かっていった。
移動にはA級魔物のわんわん一匹で十分だが、せっかくだしDPのお小遣い稼ぎも兼ねて歩きで向かうことにした。
ここ最近は騎士団長さんなんかが張り切って魔物を退治しているので、魔境の魔物も数を減らしているのかと思ったのだが、そんなことはない。
この広大な森は、たった一人の騎士が奮闘したところで、数を減らすほどやわではないのだ。
出てくるのは主にフレアサーベルタイガーとかイビルグリズリーで、動物型の魔物が多い。
まあ森に住んでるんだし当たり前か。
もちろん彼らの魔石は既にコンプリート済みで、報酬は炎のブーメランと暗黒の鉤爪っていう上級装備だった。
たぶん使うことはないだろうけど、図鑑のグレードアップには必要なので、これからも登録だけはしていこうと思う。
そして魔物を倒しながら散歩すること2時間弱、ついにアイゼン帝国の門が見えてきた。
さて、それじゃあさっそく一仕事といきますかね。




