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魔王ゼリリン、異世界を生きる  作者: たまごかけキャンディー
4章 ゼリリンの大迷宮編
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ゼリリン、容赦がない



ゼリリン城のコアルームで、彼ら蒼の旅団たちの活躍を見守ってからしばらく経った。

まだ時間は1時間も経っていないのだが、既に彼らは10階のA級ボスモンスターを倒し、トラップルームへと向かっているようだ。


傷を負った騎士さんや巫女さんはグラン君の持っていたポーションで回復するし、ボスルーム特有の密室空間などなんでもないというように、ありとあらゆる手段を講じて怒涛の快進撃を続けている。


「いやはや、やっぱり彼らは強いね。そう思わないかいタクマくん」

「誰がタクマくんだ、その呼び方は気持ちわりぃからやめろ。……だがそうだな、A級モンスターを真正面から相手して秒殺なんてのは、さすがに全員がS級かそれ以上の奴らというだけはある」

「そうだね、僕もガチンコバトルをせずに済みそうでよかったと思ってるよ」


なにせリーダーのグラン君など、俺と同等の魔力に蒼魔法による魔法強化までやってくるんだ、その火力はいわずもがなだろう。

こちらはダークオーラなんかを駆使して特殊な魔法を作り出せるとはいえ、どちらの威力が高いかと聞かれれば、正直ギリギリの勝負になる。


まあそれでも、一対一の勝負ガチンコ勝負であれば、圧倒的な生命力を誇るゼリリンが負ける事はないんだけどね。

そもそも一対一になる事は無いだろうから、意味のない推測ではあるけども。


ということで、キノッピをおつまみに、しばらく観察を続けよう。


「うむ、うまい」

「……うまいな」


タクマもお気に召したらしい。


────────────────────────


転生者グラン視点。


くそ、くそ、くそっ!

なんでだ、どこで計算を間違えたっ!!

俺たちは仲間の巫女であるレイラの助言通りに、最大限の警戒と準備をして挑んだはずだっ!


本来ならば既に帝国を陥れる事に成功している段階であり、本国へと帰還していてもおかしくはない頃だというのに、それがなぜこんな結末に……。


思えばそう、全ての始まりはいつもとは様子の違うレイラの【神託】からだった。

通常なら彼女の【神託】は1ヶ月に一度、仲間や自分自身への最大脅威である、死をもたらす何かを予知する能力なのだが、今回の彼女の返答には何か不可解な点がいくつかあったのだ。


2ヶ月前までは不確定要素の存在しなかった今回の帝国落としに、つい2週間ほど前に再び行った神託では、結果が予測できなくなっていたというじゃないか。

この結果が予測できないというのが、そもそもおかしい。


本来レイラの能力は神域にいる者たちの力を借りて行う未来予知であり、低確率で外れることはあっても、神の力が及ばずに【予測すらできない】などというのは有り得ないのだ。

たとえばそう、相手が神と対を成す魔族の頂点、魔王でもない限り。


だからこそレイラはこの予測不可能な事態を、帝国に肩入れする魔王の急襲だと判断し、俺たちはそれに向けて対策を練った。

装備や道具類は万全な状態の物を本国から用意してもらい、魔王の文献を調べ上げ、予知で見た姿を基に魔力型魔王と判断した俺たちは、対魔力装備にまで切り替えたのだ。


だが、それが結果的に仇となる。


最初に出会った子供姿の魔王、……確かゼリリンといったか、そのふざけた名前の魔王に一太刀を浴びせたところで、油断してしまったのだ。

やはり身体能力では魔法特化が多い人間型魔王種など、取るに足らないと、パーティで挑めば俺たちが負けるはずがないんだと思い込んでしまった。


そうなればもう、全ては相手の思うつぼ。

その俺たちの油断や驕りといった心の隙間を縫うように、もう一匹の魔王である双剣使いの接近を許してしまう結果となり、物理防御力の薄い装備をしたレイラは一撃で戦闘不能にされてしまったのだ。


いや、レイラだからじゃない。

対魔力に比重を置いたこの装備では、元からあの近接型魔王の不意打ちには誰も太刀打ちできなかった。

知略戦略武力、全てにおいて、完全にしてやられたのである。


……しかしここで諦める訳にはいかない。

このままでは本国からの任務も果たせないし、なにより俺の油断で傷ついたレイラに顔向けができない。


まさかあのチビ魔王が手を出さなければ何もしない、無害な奴であるはずも無いし、ここまでされたら仇を討たなければ気が済まない。

あの魔王共は俺が絶対に殺してみせる。


……そこまで思いに耽ったところで、無茶苦茶にぶちかましていた魔法を止めてあたりを見渡すと、ついに最終階層まで辿り着いたのが確認できた。

いままであった申し訳程度のトラップなんかとは比べ物にもならない、もの凄い悪寒が俺を襲ったのだ。


目の前にはもう階段もない真っ白な部屋のみであることから、あそこがダンジョンコアのある場所なのだろうと推測できる。


いいぜ、最終決戦ってやつをやってやるよ。

覚悟しろ魔王共。


そうして、俺は白い部屋へと一歩足を踏み入れた。


────────────────────────


ふむ、予想より早かったけど、グラン君一行が50階層に足を踏み入れたようだ。

あそこはボス部屋なので全員が入室すれば入口は閉まり、ボスを倒さなければ開かない密室空間となっている。


『こちらゼリリン1号、やつらがそちらの部屋に足を踏み入れた。予定通りに頼む。オーバー』

『こちらゼリリン3号、了解した。作戦を決行する』


そしてコアルームから50階層の様子を見てみると、真っ白な部屋の天井にへばりついていたゼリリン3号が、突如として【ダークチェーン】をグラン君に向かって放ち、一時的に拘束した。


よし、これで転移は封じたな。

あとは彼が抜け出す前に、コアの操作で11階層から50階層の床を消去して、10階層を針地獄の落とし穴に変えるだけだ。


さすがのS級といえども、高さ200メートル近い所から針地獄に落とされれば死ぬしかないだろう。

ゼリリン3号みたいなスライム形態の魔物ならまだしも、人間型には耐えきれない。


あばよグラン君、俺は特に何もしてないけど、楽しいゲームだったぜ。


そして、50階層から11階層までの床がすっぽりと抜け、ダークチェーンで縛られたグラン君一行は為す術もなく落下していったのだった。


……うむ、全員大ダメージだな。


「……こりゃ酷い光景だな、さすがに同情するぜ」

「敵に容赦してはいけない、勝てばいいのだ」

「いや、そうだけどよ」


ぜりっ!



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