ゼリリン、武器を手に入れる
昼ごはんを終えて森へ戻ろうとすると、黙って食事をしていたルー兄ちゃんから待ったがかかった。
「セリル、昨日も外で遊んでいたみたいだけど、外は面白い?」
期待の込められた目で問いかけられたが、どう答えたものか。
ルー兄ちゃんは本が大好きなだけあって知的好奇心旺盛な性格のようで、多少は引っ込み思案の所があるものの、外が気になってしょうがないようだ。
なまじ慎重に物事を考えるので、一人でいきなり出かけようとはしない。
こういう慎重さは俺も見習いたいものだ。
だが、そういうことなら俺も外が素晴らしいことを伝えておこう。
まだ森に出掛けて2日目だけどな。
外に関しては2日だけ先輩なのだ。
とりあえず帰る途中で見つけたセミっぽい虫の抜け殻の話でもしておこう。
ここは地球じゃないので、セミっぽいだけであってセミではないと思うが。
「外は面白いよ。この前は、さなぎの抜け殻を見つけたんだ。茶色くてつるつるしてるしてた」
「そうなんだ、やっぱり外には色んな物がある……」
抜け殻の話をすると、真剣な顔で何かを考え始めてしまった。
まだ絵本でしか知らない外の世界が気になるんだろう、ここはそっとしておくのが吉かな。
「あらあら、やっぱりルーも男の子ねえ。虫の抜け殻で喜ぶなんて」
「うむ、男とはたいがいにしてそういう物だ」
いや、父ちゃん、それは人によると思うぞ。
「もぐもぐ、お外は楽しいよ!私なんてゼルリ…… むぎゅう!!」
「レナ姉ちゃん、食べながらしゃべるのはダメだよ」
あぶない、レナ姉ちゃんがゼリリンの話をしそうになったからとっさに口を塞いでしまった。
食べながらしゃべる云々の言い訳は苦しいとは思うが、この際致し方あるまい。
俺が首を振って合図すると、レナ姉ちゃんも約束を思い出したのか、ニパッと笑いながらまたご飯を食べはじめた。
周りからは行儀を注意したようにみえる事だろう。
「それじゃ、僕はまた遊びにいってくる」
「おう、いってこい。あまり遠くまで行っちゃだめだぞ?」
「はーい」
許可も取ったので、そそくさと森へと出かけた。
遠くへ行くなとは言われたが、俺にはやらなければいけないことがある…
いざ、迷宮へ!
それから森へと歩くこと数分、いつもの場所に辿り着いた。
「DPがどのくらい増えているのか楽しみだな。……収納!」
そしてあの白い空間に辿り着くと、虹色のコアには見慣れない文字がVR表示されていた。
『ダンジョン内部に吸収できる素材があります。吸収しますか?』
『ホーンラビットの魔石(残り2時間14分で自動的に吸収されます):yes/no』
『ホーンラビットの骨(残り2時間14分で自動的に吸収されます):yes/no』
自動吸収されるまでは任意での吸収ができるらしい、便利だ。
おそらくnoを選べば吸収しない素材として認識されるのだろう。
とりあえず魔石は魔物図鑑に登録しない予定なので、DPに変換させておこうと思う。
「魔石はyesっと。…骨はnoだな」
yesを選択した瞬間、VR表示されている土の迷宮に変化があった。
土が蠢き、魔石を飲み込んでいったのだ。
なんかこれ、土が実際に動く所を見ると違和感のある光景だな…
どうやら俺の頭はまだ地球の常識が抜け切れていないらしい。
まあ、今はそんなことより収入の確認だ。
【亜空間迷宮、DP:705】
明細履歴:
ダンジョンモンスターテイム使用(-10)
キノッピ栽培セット購入(-10)
ホーンラビットの魔石(+0.5)×10
どうやら魔石だけだと1ポイント以下になるらしい。
魔物の強さなんかも影響してくるんだろうけど、前回はゴブリン全体で1ポイントだったことを考えると妥当かもしれない。
「まぁ、まだ数時間の狩りだし、最初はこんなものかな」
これを数日間続ければ、自然回復量+10と魔石+5で1日15ポイントは最低でも稼げる。
20日でダンジョンの元が取れるなら、良い収入と言えるだろう。
それじゃ気分もよくなったところで、骨を回収しにいくとするかな。
土の迷宮のコアさん、宜しくお願いします。
茶色い球体に触れ、わんわん達の下に降り立つと全員が俺の前に整列した。
いったいどうしたというのだウルフたちよ。
…まあ何でもいいけどね、俺は骨を集めるだけだ。
攻略本を召喚し、魔物図鑑のページにホーンラビットの骨をかざしていくと、骨が光の粒子になって本に吸収されていった。
なんかこれ面白いな…
気分も乗ってきたし、どんどんいくぞ~。
そして全ての骨を収納し終えると、魔物図鑑から連絡があった。
どうやら新しい機能が拡張されたらしい、詳しくは魔物図鑑ページを参照とのこと。
【魔物図鑑】
ホーンラビット:100%コンプリート
報酬:一角兎のクロスボウ
なんかアイテムが手に入った。
どうやら流れてきた情報によると、魔力で出来た矢をクロスボウで飛ばす武器らしい。
魔力の属性は土で、威力はそこまででもないとかなんとか…よくわからん。
魔力に属性ってあったのか、今知った。
ちなみに出し消しは魔物図鑑のページに手をかざす事でできるらしい。
まあでも、魔力で飛ばせるなら残弾を気にする必要もあまりないし、レアな武器なんだろう。
クロスボウってことは片手で狙えるんだろうし、いろいろと便利だ。
せっかくだし、迷宮を出て少し狩りでもしてみようか。
なんかウルフたちも尻尾を振ってるから、遊んでほしいのだろう。
さあ行くぞわんわん、初陣だ!
……余談だが、1種類ずつ植えたキノッピは、それぞれの色の子供キノッピを誕生させていた。
ダンジョン内部では繁殖力が凄いと聞いていたが、これは予想以上だな。