ゼリリン、やっぱり強い
ユウキの試合が終わったあと、ちょっとした準備を終えた俺は決勝戦に備えて精神統一していた。
7戦目と8戦目を勝利した時点で、俺は今大会のベスト2位までは確定しており、残るはタクマと俺の最終試合となっている。
だからそう、決して試合に疲れて寝ているのではない。
これは精神を統一し、自然と一体化する修行をしているだけだ。
こころを鎮め、無の境地へ。
それこそがゼリリン流なのだ……
なのだ……
「…………」
「セリル、あとちょっとで出番みたいだよ。……って、また寝てるや。ははっ、さすがに7歳にはこの連戦は応えたのかな」
うむ、なぜか大事な事を忘れているような気がするが、まあ気持ちいいのでこのまま横になっておこう。
たしか今日は様々な試合を重ね、疲れて、それから……
それから、なんだっけ?
……あ、そうだ決勝までいったんだった。
そう、決勝である。
「ハッ!? 次、決勝じゃん!!」
「あ、おはようセリル。気持ちよさそうに寝てたね」
寝てないよ、精神統一してただけ。
「寝てないよ。でも、そろそろ決勝だから、ちょっと準備してくるね」
「え? 何か用意するものがあるのかい? いままで武器をあまり使ってなかったみたいだし、てっきりそういうスタイルなのかと思ったよ」
「まあ、いろいろあるんだよ」
「ははっ! 君が言うのならそうなんだろう、期待しておくよ。……でも、タクマさんは強いよ、想像以上にね」
知ってる。
それ故の準備であり作戦だ、抜かりはない。
そんなこんなで、俺がごそごそと準備の最終調整をしていると、ついに出番が回ってきたようだ。
少しクールタイムとか挟むのかと思ったけど、結構早かったな。
「……えー。それでは、本日の個人戦、その最終決戦を行います」
『うぉぉおおっ! 待ってたぜぇええっ! イェエエァっ!!』
イェエエイッ!!
「決勝の試合はもちろん、あらゆる敵を圧倒的な力でねじ伏せてきた我らが魔王、タクマと、なぜか分からないけど勝ち進んできたスーパー児童、セリルの対決でございます。それでは両者、前へ」
『セリルッ! セリルッ!』
『タクマッ! タクマッ!』
呼ばれたようだ。
さっそく俺は、準備していた装備と共にリングへと上がった。
「よぉセリル、やっぱお前が最後の相手か。あんときスカウトしといてよかったぜ」
「よいしょ…… よいしょ……」
試合前なので、リングの上で装備を調整しているが、これが結構難しい。
忙しいのでタクマが何か言っても反応できない、すまぬ。
……ここをこうして、巻き付けてっと。
よし、できた。
「……ん? おい、なんだそのヘンテコな装備は。なにかのギャグか?」
「ぜりっ(笑)」
「ぜりっ(笑) じゃねぇよっ! てめぇそんなんで俺と戦う気かっ!?」
まあこの装備の性能を知らないタクマからすれば、当然の反応だろう。
なにせ今の俺は軽剣トベルーワに両足を乗せ、ロープによって雁字搦めに固定しているのだから。
気分はそう、魔剣による空飛ぶサーフボードだ。
軽剣トベルーワの剣幅が広いとはいえ、俺の体が小さいからこそできる芸当である。
俺はこの装備で、奴に勝つ。
たぶんね。
「……えー。それでは両者準備ができたようなので、試合を開始します。……最終試合、はじめっ!」
『うぉおおおっ!!!』
「何を考えているか知らないが、ニヤニヤしやがって、これで不甲斐なかったら承知しねぇからな。そんじゃ、いくぞっ!! 【ヘイスト】【限界突破】【二刀流】っ!!」
あいつも俺に作戦があるのは分かっているようで、何かをさせる前に全力で潰す作戦のようだ。
すでに奴の持つ最大の力で向かってきている。
……ふっ、だが無駄だ。
なにせどんなにパワーアップしようとも、お前の攻撃は俺に届かない。
「さぁ、飛べ俺のボードよっ! ゼリラァァアアアッ!!」
ぶぅうん、という音と共にサーフボードが宙を舞った。
少しコントロールするのが難しいが、なんとか自在に操れるようだ。
俺は今、風になるっ!
「ふーんふんふんふーん♪」
「なぁっ!? 飛んだだとっ!? てめぇこら、そんなの反則だぞ!」
地を這うタクマがなにかを言っている。
悔しかったらそっちも飛ぶと良いよ、できないけど。
「ぜりぜりぜり(笑)」
「な、舐めやがってぇ……」
さて、飛んだはいいが、このままでは俺の魔力が切れるまで決着がつかない。
なので、さっそく魔法による遠距離攻撃を開始しようと思う。
俺の魔力と対魔力はSS、魔法戦になれば負ける道理はない。
くらぇ、ゼリリンマジックッ!
「そらっ! ゼリリンビームッ! ゼリリンボムッ! 超ゼリリンビームッ!」
「ぐあぁああっ!? おい、まて、わかったちょっと待て。話し会おう、そうだそれがいい」
「超ゼリリンボムッ!」
「ぐぁああっ!? くそっ、このやろぉっ」
ほら、早くそっちも遠距離攻撃しないと負けちゃうよ。
あんなバケモノ相手に、俺が接近戦なんてする訳ないからね、ずっとこのままだ。
「いいぜっ、やってやるよ。勇者流剣技【彗星・飛剣連斬】っ!」
「ぜりぜりぜり(笑)」
「……ちっ、威力が足りねぇ。やっぱ、この距離じゃあいつの修復速度をこえられねぇってか」
ちょっと飛ぶ斬撃を受けたところがヒリヒリするけど、それだけだ。
すぐに再生する。
それに途中からは攻略本を盾にして、完全に向こうからの攻撃をブロックしているしね。
完全に、ずっと俺のターンだ。
……それからその後、20分に渡り一方的な空中爆撃が続き、ついにタクマの方の体力に限界が見え始めた。
ふむ、ではそろそろ決着をつけようじゃないか。
「そろそろ決着をつけるよタクマ」
「……ぜぇっ、ぜぇっ。くそ、分かっちゃいたが、敵に回すと本当に厄介だなお前は」
「ダークオーラ発動からの、超特大ゼリリンボム(極)っ! あばよタクマ、楽しいゲームだったぜ」
「……チィッ。……さすがにこりゃあ、無理だな。くそったれ」
「そぉれ」
ズガガガガッという音と共に、膨大な魔力が渦巻く極大の魔力球が先代勇者ことタクマを襲った。
会場内はゼリリンボムの余波で嵐のように吹き荒れ、リングは粉々に砕け散る。
まさに兵器のような威力だ。
普通の人間ならこんなのくらったら死ぬだろうけど、相手は仮にも最強の勇者だ。
戦える状態ではないと思うが、降参する体力くらいは残ってるだろう。
そして爆発によって舞った煙が晴れ、向こうの姿が見えてきた。
どうやら、予想通りギリギリの体力しか残っていないようだ。
「……はぁっ、はぁっ。ふー、参った。降参だよ、お前の勝ち」
「……うん、勝った。まあ僕がもっと成長したら、その時はちゃんとバトルしようよ」
宣言したタクマは、これで一仕事終えたぜとでもいうようにドサリと倒れ、気持ちよさそうにリングに転がった。
「ま、魔王様の降参により、えっと…… しょ、勝者、神聖国の勇者セリルっ!!」
『す、すっげぇええええっ!!? チビッ子があのバケモノに勝ちやがったぁああああっ!』
こうして、俺の卑怯極まりない作戦により、午前の部、個人戦は終了したのだった。
「ぜりっ(笑)」




